517 私さ、失恋、もう二回もしちゃったし
そのことを、ハワードやライラは、ンドペキらになぜ知らせなかったのか。
言わずもがな。
ただでさえ、歴史を捻じ曲げるという危険を冒している以上、それをさらに増幅させる恐れのあることは何としてでも避けたかったから。
ライラはこう言ったものだ。
「やれやれだよ。肩の荷が下りたよ。それにしてもレイチェルは強い子だねえ。間に合ってよかった」
そんなセオジュンに、もうひとつの葛藤が生まれた。
レイチェルのSPとして生きていくのか、約束どおりチョットマを見守っていくのか、はたまた、もうひとつの約束を果たすのか。
もうひとつの約束。
アンジェリナとの恋。
僕は、いつも君の傍にいるという約束を。
セオジュンは、アンジェリアとの約束を選んだ。
マリーリは言う。
「本当にうれしいことでした。娘をそれほどまでに想ってくれて、傍にいてやってくれているのですから」
ベータディメンジョンの奥深く、誰も行かない禁断の園。
エネルギー渦巻く過酷な装置の中で。
そして、初めて、朗らかな笑顔を見せてくれたのだった。
「私さ、失恋、もう二回もしちゃったし」
チョットマが楽しそうに、舌を出す。
「ンドペキとセオジュン?」
じゃ、スミソとプリブ、どう思う、なんて野暮なことは言わぬが華。
さまざまな経験を潜り抜けてきた君だから。
大人になった君だから。
「この歌、なんだか心に染みるんだな」
などとニヤリとするチョットマ。
そして、さっきの歌をまた口ずさんだ。
Ah
この手のぬくもりはすぐに消えていく
後姿は見ていたくない
Ah
ただ、呟くだけさ
やれやれ、って
そして、ごめん、って
そう。
君の心に染みた出来事の数々。
ニューキーツの街の面影と共に、たちまち思い出となって、君の心の奥底に沈んでいくのだろう。
そしてそれが、君のかわいい顔に素敵な陰影を醸し出すことだろう。
チョットマ。
そんな君を、死ぬまで愛す、という人が現れるよ。
レイチェルにもね。
きっと、そのうち。




