44 浮かび上がる疑念
「ヌヌロッチとユージンに、政府内の最新情報を聞こう」
ンドペキの提案に、パキトポークがげんなりした顔を見せた。
「何度も言うが、俺はあいつらを信用できん」
「わかっている。しかし、貴重な情報源だ」
「あのハワードのやつも、雲隠れしてしまったじゃないか」
パキトポークの言うとおりである。
あれほど親密にしていたハワードの姿が、ここ数日、見えなくなっていた。
ハワード以外のレイチェルSP達は、これまで同様、さまざまな情報をもたらしてくれる。
しかし、安易に信じ込んでいいものかどうか、という気分が生まれつつあるのも事実だった。
「まあ、そう言うな」
と応えるしかないが、ンドペキ自身、心に引っかかるものを拭いきれないでいた。
ハワード。
裏切ったのか。
あるいは、これまでのことはすべて、仕組まれた芝居だったのか。
そう考えてしまう一方、他方では彼の身に何か起きているのでは、とも思うのだった。
「そもそも、ハワードの行き先について、やつら誰も知らないと言いやがる。そんなはずがあるか!」
今、隊に出入しているSPは、マリーリ、ヒカリの二名のみ。
従来どおり、ヌヌロッチは食料省の幹部として、ユージンはエネルギー省の幹部として、政府内にとどまっている。
防衛軍事務員であるスーザクは、エリアREFにいても、自分は役に立てないからと、職場に戻っていった。
そして、アンジェリナの行方は未だに知れない。
「あいつらのことはどうでもいい。早く実行日を決めようぜ!」
パキトポークが急かすが、ここは慎重に決めたいところ。
ロクモンが言うように、本来はレイチェル騎士団との連携作戦だったはずである。
建物内の勝手もわからない自分達には、一方的に不利な戦いになる。
バーチャルな罠にまんまと引っかかるやもしれないのだ。
「スキャンエリアの詳細は、大体掴めたぞ」
これが最大のネックだったが、その無効化の方法について、コリネルスとヒカリが練ってあるという。
「奴は科学省職員だ。位置及び運用情報は、治安省職員のハワード情報だがな」
作戦決行の障壁はもうないと言ってよかった。
後は、タイミングだけ。
「あいつらに、案内を任せるのか?」
建物内への侵攻に当たって、SP達にも一役買ってもらうつもりだった。
「レイチェルはもう死んだんだ。俺達に協力する義理はないんじゃないのか」
スパイじゃないのかとまでは口にしなかったが、パキトポークにしてみれば、どこに連れて行かれるか知れたものじゃないというのだ。
この点は、ンドペキも不安を感じていた。
ハワードがいる間は、そんな不安など感じたことはなかったが、いざ姿が見えなくなると、疑念が浮かび上がってくるのだった。
「コリネルス」
ンドペキは直近のテーマに話題を変えた。
「焼却場、どうやって調べなおす?」
プリブが言うように、一旦、火を消す。
そして、ごみをどこかに移し、焼却場の底を調べつくす。
同時に、煙突内部と煙突の外、つまり屋根を再度調べる。
そんな案が出された。
「なんだか、パッとしないんだがな」
「ところで、住民にはまだ知られていないか?」
ンドペキ隊は、シェルタを探していることを秘密にしていた。
レイチェルを擁しているなら、辻褄が合わない。
それにもし、レイチェル騎士団とシェルタの存在がアンドロ軍の知るところとなれば、不都合が多いと考えたからだった。
「それが、どうも漏れているようだな」
「そうか」
仕方のないことだった。
おおぴらに聞いて回ったりはしなかったが、焼却場ではかなり大掛かりな調査もしたのだから。
「逆に、情報提供などは?」
「ないな」
「うむ。じゃ、すぐに取り掛かろう」
「今からか?」
「そうだ。非番の隊員を招集する」
ンドペキが号令を掛けようとしたときだった。
「ンドペキ!」
脇に置いたヘッダーの通信装置から聞こえてきたのは、チョットマの叫び声だった。
「どうした!」
「クシが! でも、でも!」
「なんだ! 無事か! どうした!」
「それが!」
「ちゃんと話せ!」
「ううっ! ハクシュウが!」
「なに!」
「ハクシュウが死んだ!」
「なに言ってるんだ! 今、どこにいる!」