42 禁制品
その少し前。
ンドペキはコリネルスやパキトポーク、そしてロクモンと話し合っていた。
「なに! カットラインを!」
「そうだ」
「そんなもの、どこで見つけてきた!」
パキトポークが吼えている。
「俺は反対だ! だいたい、あれは!」
「拙者も反対でござる」
カットライン。
この武器が開発されたのは、数百年ほど前。
不思議な金属を主材料とする、ナノ繊維の一種。
特殊な溶液に反応して、極限にまで密度が高まり、あらゆる物質より硬度がある。
目に見えない細い糸となっても、切ることはできない。
しかも柔軟性を有しており、空間にふわふわと漂わせておくだけでよい。
触れたものは、何が起きたのかわからないうちに、己がすっぱり切れてしまうのだ。
どんな装甲も、カットラインの前では用を成さない。
通り過ぎただけで、体は真っ二つになってしまう。
「あれは禁制品でござる」
珍しく、ロクモンが明確に反対を唱えている。
「しかし、この状況では……」
コリネルスの旗色は悪い。
エリアREFで、そんな大昔の武器が発見されたのだった。
カットラインは、卑劣な戦法という烙印を押されている。
殺傷マシンや兵士のみならず、一般市民の脅威ともなる。
しかも、後始末ができない。
不要になったカットラインを撤収しようにも、できないのだ。
そのため、かなり以前から使用が禁止されていた。
「これ以上、隊員を割くわけにはいかない」
あのゴミ焼き場をさらに調べてみたいというプリブの申し入れを受けて、再度煙突の構造を調べてみたのだった。
その結果、煙突から敵に侵入される恐れがあることを再認識したのだった。
煙突は四本。
出口はビルの屋根の上だが、守りにくい場所だ。
上空から攻められてはお手上げだ。
誰もが見向きもしない街外れの大きなビルの残骸の屋根に、煙突の上端が突き出ている。
屋根は急勾配で、金属で葺かれている。平坦な部分もあるにはあるが、数人が立つのが精一杯の狭さ。
周辺からは格好の標的となり、そこで戦うのはあまりに無防備。
「とはいえ、煙突の中に隊員を配置するには、最低でも八名必要だ」
コリネルスが我慢強く説得しようとしている。
「隊員達をこれ以上、睡眠不足にすることはできないぞ」
それぞれの煙突は、途中で何度か折れ曲がり、水平に近い部分が数箇所ある。
隊員を配置するなら、その場所だが。
誰しも、そこでの警戒任務は尻込みするだろう。
不潔なのだ。しかも、真っ暗で猛烈に暑い。
「ゴミ焼き場内部で警戒する、という手もあるにはあるが」
しかし万一、ここまで進入されたとなると、始末が悪い。
なにしろ、プリブの部屋のあったエリアと分断されてしまうことになる。
今のところ、あの鉄橋以外の通路を発見できていない。
「禁制品であろうがなかろうが、やはりカットラインを使うしか手はないのでは」
コリネルスが懸命に説いている。
「あの場所なら、一般市民が立ち入ることはないだろうし、回収する必要もない」
「無責任でござろう! 未来永劫、あそこに誰も立ち入らないと、誰が言えるのでござる!」
「うーむ」
「ビルを解体しても、あの忌々しい糸をその辺りにばら撒くだけのことになる。そうではござらぬか!」