40 簡単に答を出せるものじゃない
「さてと、家族水入らずの晩飯、といきたいところだが」
このところ、イコマとユウとアヤの三人は、毎日のように顔を合わせている。
「アヤちゃん、そう言ったからって、気にしないで」
場所は、エリアREFにあてがわれたアヤの部屋。
フライングアイは、ユウとアヤの食事を眺めているだけだ。
「おじさん、そんなこと言うと、ますます申し訳なくなるよ」
「ごめんごめん」
アギの身を、これほど恨めしく思ったことはなかった。
いつかは三人で元のように暮らしたい。そう念じて六百年を生きてきたが、いざそれが叶うと、己の身が悲しかった。
「それはそうと……」
イコマはアヤの顔を見つめた。
目を伏せ気味にして、食事を摂っている。
笑い声がはじけるような食卓風景ではない。
なにしろ、エリアREFは連日、攻撃に晒されている。
そして、彼女にとって、気の重い課題もあった。
「またにするか?」
話題はさまざまにある。
ロア・サントノーレに向かったスジーウォン達のこと。
今もセオジュンの行方に気を揉んでいるチョットマのこと。
エリアREFでの出来事や、街の噂。
あるいは、将来の家族としての夢、というような話題ならいいのだが。
この課題がある限り、いや、それが課題だと思っている限り、本当の幸せな食卓はやってこないような気もする。
「簡単に答を出せるものじゃないしね」
アヤが顔を上げた。
いつものように、微妙な笑みを作って。
「私……」
箸を置き、ドリンクに手を伸ばした。
「なんだか……」
イコマは言葉を待った。
きっと辛かろう。
JP01がユウだったんだよ、と話したのは十日ほど前。
アヤは、やっとユウお姉さんにも会えた! と飛び上がって喜んだ。
おじさんをやっと見つけた! ごめんなさい! と抱きついてきたあの日のように。
もう、コンピュータに聞かせる言葉を選ぶ必要はない。
今すぐ会いに行きたい! と。
イコマの心の中にも、再び喜びが広がった。
そしてまた、アヤはむせび泣いた。
その後、四人の関係も話して聞かせた。
ユウが、自分のクローンを作っていたこと。それがスゥ。
そして今二人は、記憶も意識もすべて共有していること。
ユウが、イコマのクローンも作っていたこと。それがンドペキ。
そしてこちらも今、記憶を共有し意識は同期していること。
意識を共有しているといっても、イコマはイコマとして、ンドペキはンドペキとして考えている。
ユウはもちろん、スゥもスゥとしての意識が強い。
それらのことを。
すぐに理解はできないかもしれない。
どんな反応をするだろう、と微かな不安を抱きながら。
しかし、それは杞憂だった。
理解できるや否や、アヤはまた大喜びだった。
ただ、予想していたほど、驚かなかった。
むしろ、ほっとした表情を見せたのだった。
理由を問うと、ンドペキ隊長は、なんとなくおじさんと同じような匂いがしてるから。
だって、私は聞き耳頭巾の使い手だから、と笑ったのだった。