38 大地が燃えている
なに!
ものすごいスピードで、迫ってくる黒い集団がある。
セカセッカスキが進路を変えようとするが、と思った瞬間にその集団は、飛空艇を掠めて後方に飛んでいった。
「おおおっ!」
「パリサイド!」
「見ろ!」
セカセッカスキが叫んでいる。
「見えるか!」
乗客の窓からは、後方は見えない構造だ。
「どうなってるんだ!」
「見せてやる!」
「ぎゃっ」
セカセッカスキは、強引に機体を持ち上げた。
「グハッ!」
「我慢しろ!」
機体は垂直に立ち上がったかと思うと、そのまま一気に宙返りを始めた。
「うわああっ! 格好いい!」
アビタットが叫んでいる。
「すごいぞ!」
パリサイドの集団は、飛空艇と戦闘機の間に割って入り、その中間に浮かんでいた。
と、はじけたように広がり、あっという間に巨大なスクリーンになった。
「こいつはいいぞ!」
「やれやれ、パリサイドまでお出ましだ!」
セカセッカスキがうれしそうに吼る。
「これじゃ、やつらも攻撃できないぞ!」
空中のパリサイドは数名。
いずれも戦闘機の方を向き、飛空艇には背を見せている。
空中に立つように飛び、羽根の腕を広げている。
「やつら、どんな飛び方もできるんだな」
立った姿勢で、強烈なスピードで後ろ向きに飛んでいることになる。
「助けてくれようってのか!」
空に黒い幕が広がり、戦闘機はすでに見えない。
「こりゃいいや!」
「おい! これじゃ、俺達もあそこに突っ込んじゃうぞ!」
「ガハハハハ!」
「セカセッカスキ!」
「心配するな! 真っ直ぐ後ろ向きに飛んでるぞ!」
「なっ」
「離陸のときに、陸地を見たいって酔狂な客もいるんでな!」
「それを先に言え!」
「艇体だけが宙返りさ!」
「今のうちに、ロア・サントノーレまで行ってしまおう!」
「だな! というより、もう着いてるぞ!」
と、飛空艇乗りは高度を下げ始め、艇はたちまち雲海に飲み込まれていった。
雲海の中で再び宙返りだ。
「なかなかのもんだろ」
セカセッカスキが始めて自分の飛空艇を自慢する。
「おやっさん! 恐れ入ったぜ!」
アビタットが応えてやる。
「それにしても、パリサイドはなぜ」
「さあな。助けてくれたのかどうか、わからんさ」
セカセッカスキは、上機嫌でモニターを眺めている。
「おっ、パリサイドを前に、軍は尻尾を巻いて逃げ出した!」
「そりゃ、許可もなく、勝手に攻撃できないものね!」
アビタットはわけ知り顔で、ハイテンションだ。
「下界は大雨だな」
黒い雲の塊を突き抜けたときだ。
なんだ!
不気味なほど、空が暗い。
豪雨?
それにしても、真っ暗だ。
「ん? 煙か?」
艇がぐんぐん高度を下げていき、状況が見えてきた。
黒い煙が空を覆っていた。
「見ろ!」
大地が燃えていた。
「うわぁ」
一面が炎の海。
豪雨を突いて、周囲数十キロの範囲に激しい炎が燃え盛っていた。
「街の真上まで行ってみるか」
艇は高度三千メートルまで下げ、ゆっくり飛んだ。
「ここか? 街は?」
「みたいだけど……」
炎が千メートルほども上がっている。
炎と煙の勢いが強すぎて、地上の様子がよくわからない。
飛空艇も気流を受けて、激しく乱高下した。
時に濃い煙に突っ込み、周囲はほとんど何も見えない。
炎は踊るというが、ロア・サントノーレはバーナーの炎のように、莫大なエネルギーを発散させているかのようだった。
地上の温度は、軽く二千度は越えているだろう。
スジーウォンは思い出した。
ニューキーツの荒地で、たった一人のパリサイドが放った強烈な攻撃。
今の、パリサイドの連中が……。