31 ロア・サントノーレは立ち入り禁止区域
宿の主人、サブリナが話題をリードしていく。
「なぜ、ロア・サントノーレが立ち入り禁止区域に指定されたか、知ってる?」
「いや」
知っているなら聞いておきたかったが、彼女も、
「大変なことが起きてるみたいなんだけど」
と言うのみ。
「うまく着陸できれば、それはそれでよし。でも、帰りはどうする?」
サブリナは、その足でニューキーツに向かいたいという。
「あなた方の用件がすぐに済むものなら、待っててもいいんだけど……」
セカセッカスキは、ニューキーツまで飛ぶとは言っていない。
ニュアンスとしては、ロア・サントノーレ止まりだ。
「飛空艇乗りが、待つことを了解してくれたらの話だけど」
サブリナにどんな確信があるのか、二、三時間なら、といった。
「後のことは、お構いなく」
ほんの数時間で任務が完了するとはとても思えない。
探すべきものが、どこにあるのかわからない上に、住民のいわば宝を奪うのだ。
抵抗があることは承知の上で、わずか二人で乗り込んできているのだ。
「僕の方も、そういうことで」
アビタットも、そう言ってサブリナと一線を引こうとした。
「わかった」
サブリナは意に介する様子もない。
「じゃ、もしもよ。ロア・サントノーレに行き着けないとしたら、あなたたち、どうする?」
つまり、カイラルーシまで戻るのか、あるいはその足でニューキーツまで戻るのか。
「考えたこと、ないな」
「でしょうね。でも」
言いたいことはよくわかる。
カイラルーシまで戻られたくはないのだ。
飛空艇は一機しかない。
「今言えることは、すぐすごニューキーツに引き返すほど、どうでもいい任務じゃないってことだ」
スジーウォンは、言ってしまってから、堅苦しい言い方だったかな、と思ったが、
「僕もだ」
と、アビタットもオウム返しに言う。
「でしょうね」
サブリナが、脇に置いたヘッダーにチラリと目をやった。
「言いにくいことなんだけど、カイラルーシ軍と戦う用意はある?」
考えないわけではなかった。
ロア・サントノーレへの飛行が軍に阻止される。ありえないことではない。
何と応えるべきか。
「そのときに考えるかな」
と言うしかないが、それが本心でもあった。
実際、そんな事態は容易に想定できる。
サブリナも、このことを一番に話し合っておきたかったのだろう。
「そのときか……」
笑みとも苦虫ともつかぬ、微妙な表情をみせた。
彼女にしてみれば、ロア・サントノーレ行きなど、寄り道でしかない。
面倒を引き寄せるだけの、余計な行程である。
ただ、現実問題として、空も飛べない自分達が、空中戦など演じようがない。
地上に降ろしてもらうしかないが、相手はそんな時間の余裕を与えてくれるものだろうか。