第92話:ただの道路舗装と、超弩級陸上戦艦の強制ハイウェイ化(大帝国の第二次侵攻と大地の悲鳴)
第92話:ただの道路舗装と、超弩級陸上戦艦の強制ハイウェイ化(大帝国の第二次侵攻と大地の悲鳴)
黄金の城塞『日だまり郷』の朝は、迫り来る超大国の脅威など微塵も感じさせない、大宇宙の理すらも凌駕する究極の平穏と、細胞が歓喜に震える極上の匂いと共に幕を開ける。
今日のアルドは、朝からキッチンの巨大な寸胴鍋に向かい、木べらを使ってじっくりと『特製・幻獣大蛤の濃厚チャウダーと、焼きたて神仙クロワッサン』を仕上げていた。
「よし! メインは深海で採れた特大ハマグリの旨味を限界まで引き出したクラムチャウダーだ。大精霊のミルクをたっぷり使って、トロトロに煮込んであるよ!」
アルドがエプロン姿で熱々のスープボウルと、バターの香りが弾けるクロワッサンをダイニングテーブルに運ぶと、その圧倒的な生命力に引き寄せられ、神竜ポチとモフモフの星狼シロがテーブルの下でちぎれんばかりに尻尾を振って待機していた。
このチャウダー、一口飲めば幻獣大蛤の極上のエキスが全身の魔力回路を瞬時に拡張し、大精霊のミルクが致死の疲労すらも完全に癒やし、魂の底から尽きることのない活力を湧き上がらせる『究極の防壁付与食』である。
「うむ……! この白く輝くスープの濃厚さと、クロワッサンのサクサクとした響き! 見るだけで我が魔界の闘争本能が、温かい毛布に包まれた赤子のようにフニャフニャに溶かされそうになるわい!」
元・魔界大帝サタナスが、スプーンを握りしめながら、あまりの美味さにワナワナと肩を震わせて感涙に咽いでいた。
そんな賑やかなダイニングの喧騒から少し離れた、防音・防諜の魔法結界が幾重にも張られたリビングの長テーブル。
そこでは、大公レオハルト、情報局長アーキヴァル、元・大賢者ゾルタンの三人が、アステリア王国の広域立体地図を広げ、極めて深刻な顔つきで極秘の『戦術会議』を行っていた。
「……大公閣下。先日の『裂空の巨大要塞』を我々に(極上の空中温室として)無力化された神聖ザギアス帝国ですが、奴らは先遣隊の壊滅を『未知の気象災害』と誤認しているようです。そして、いよいよメンツをかけて第二次侵攻部隊を差し向けてきました」
アーキヴァルが、手元の分厚い機密書類を指先で弾きながら冷徹に報告する。
「空が駄目なら陸から来るか。……次は一体、どんなふざけたオモチャを持ち出してきたのだ」
大公レオハルトは、忌々しげに地図の西側の国境線、山岳地帯のルートを睨みつけた。
「はい。帝国第二軍を率いるドラクル将軍が投入したのは、帝国の狂気的な科学と魔導の融合たる、超弩級掘削陸上戦艦『グランド・イーター』です」
ゾルタンが、魔力測定器に映る、大地を削り取るような巨大な赤黒い波形を指し示す。
「この陸上戦艦は、前方に備えた超高温のプラズマドリルで、山脈だろうが防壁だろうが全てを粉砕し、大地をマグマの流れる不毛の荒野に変えながら進軍する悪魔の蹂躙兵器です。奴らの狙いは、我が国の交易の要である西の街道を物理的に消滅させ、そのまま王都まで一直線に『死の道』を切り開くことでしょう」
「豊かな国土をマグマの海に変えながら進軍するとは。……大国が聞いて呆れる、どこまでも破壊的な手段だな。まさに狂気の沙汰だ」
大公レオハルトは、怒りで拳を強く握りしめた。
「ええ、許しがたい暴挙です。ですが、我々が『事前に』その動きを完全に把握している以上、西の街道の石ころ一つすら溶かさせることはありません。敵の陸上戦艦が牙を剥く前に、根こそぎ平らに均して差し上げましょう。……荒れた地面の整備と舗装といえば、アルド様にとって最も得意とする『土木工事』の領域ですからね」
アーキヴァルは、悪魔のように完璧な微笑みを浮かべた。
相手は大陸を支配する超大国の主力兵器。しかし、アーキヴァルの手帳の新たなページには、一切の躊躇いもなく『対・神聖ザギアス帝国・ご請求書(第二弾)』と優雅な筆記体で書き込まれていく。
彼はそのままペンを滑らせ、一枚の『依頼書』を迅速に作成した。
ちょうどそこへ、おかわり用のクロワッサンを運んできたアルドに、アーキヴァルは深々と頭を下げて依頼書を差し出した。
「アルド様、美味しい朝食の最中に申し訳ありません。大公閣下より、急ぎの『道路整備の依頼』が入っております」
「おや、急ぎのお仕事かい? どれどれ……『西の街道に、異常に巨大な凶暴モグラが出現し、地面をボコボコに掘り返して交通が麻痺している。モグラの体温で地面が焼け焦げて危ないので、至急モグラの対処と、道路の舗装工事をお願いしたい』……なるほど!」
アルドは、依頼書を見て真剣な表情でコクリと頷いた。
「街道がボコボコになっちゃうなんて一大事だ! 馬車が通れなくなったら、みんなの生活物資が届かなくなっちゃう。モグラも発情期か何かで、よっぽど気が立って熱を出してるんだろう。よーし、今日は僕の特製『事象平滑のロードローラー』と、『絶対凝固の神仙アスファルト』を持って、西の街道を真っ平らに舗装してこよう!」
アルドが意気揚々と作業着(耐熱仕様の丈夫なツナギ)に着替え、巨大な工事車両(手作りの魔導ロードローラー)を引いて部屋を出て行った後。
リビングの影から、レイヴンとシノンが音もなく立ち上がった。
「主の『道路工事』の邪魔をする、薄汚い帝国の兵隊どもは、俺たちが真横で待ち構えて処理しておく。……さあ、超大国の軍資金を絞り上げるための、第二の集金の始まりだ」
クランメンバーたちによる、大陸全土を巻き込む壮大な大戦――能動的な悪の事前粉砕が、さらに激しさを増して動き出したのである。
***
その頃、アステリア王国西部の国境、岩山が連なる山岳地帯。
超高温のプラズマドリルで山を削りながら進む、帝国の超弩級掘削陸上戦艦『グランド・イーター』の艦橋では、第二軍司令官であるドラクル将軍が、眼下に広がる破壊の跡を眺めながら、傲慢な高笑いを上げていた。
「ガハハハハ! 見ろ、この圧倒的な破壊力を! 我がグランド・イーターのドリルの前には、アステリアの岩山など豆腐も同然だ!」
ドラクル将軍は、傍らに控える副官たちに鷹揚に頷いてみせた。
「先遣隊のガリウスは異常気象ごときに敗れた無能だが、私は違う! この陸上戦艦は大地そのものをマグマに変え、敵の防衛線に到達する前に全てを焦土と化す! さあ、ドリルの出力を最大にしろ! アステリアの街道をドロドロに溶かし、我々の為の『帝国の道』を造り上げるのだ!」
「将軍! プラズマドリルの出力、限界突破に達しました! 目前のアステリア西街道を、完全にマグマの海へと変貌させます!」
「よし! そのまま突き進め! アステリアの虫けらどもに、大地の悲鳴を聞かせてやれ!」
自らの完璧な蹂躙が始まると信じて疑わない帝国将軍の狂笑が、轟音を立てる鋼鉄の艦橋に虚しく響き渡っていた。
***
「よし、道路工事と舗装の準備は完璧だ!」
アルドは、ドロドロに溶けかけた西の街道のど真ん中に立ち、巨大な重機『事象平滑のロードローラー』のエンジンをふかし、背後には大容量のタンクを積んだ『絶対凝固の神仙アスファルト』を用意していた。
――当然ながら、その素材は常軌を逸している。ロードローラーの巨大な鉄輪は、重力魔法の極致を物理的に圧縮し、大宇宙のいかなる次元の歪みや質量すらも強制的に『平ら』に押し潰す『究極の圧延機』。神仙アスファルトは、世界樹の樹脂と大地の精霊の核を練り合わせた、いかなる超高温や衝撃も永久に吸収し、絶対にひび割れない『究極の舗装材』である。
「うわぁ……。大公様が言っていた通り、これはひどいな。街道が完全に掘り返されて、マグマみたいにドロドロに溶けてるぞ。おまけに、土煙の奥から『山みたいにデカい鉄のモグラ』みたいなのが、ものすごい熱を出しながら突進してくる」
アルドは、首に巻いたタオルで汗を拭いながら、プロの土木作業員(便利屋)としてのダメ出しを始めた。
彼の驚異的な「日常フィルター(事象の誤認)」は、大宇宙の地殻を削る帝国の陸上戦艦を、「異常な発情期と突然変異によって巨大化し、鋼鉄のような皮膚と超高熱を持ったまま暴走している極度に危険で迷惑なモグラ」だと完全に誤認していた。
「よし! あんなに暴れ回るモグラを放っておいたら、街道が永遠に直らない! 一気にローラーで地面ごとモグラを平らに均して、アスファルトで綺麗に固めてやるぞ!」
『粉砕セヨォォォッ!!』
土煙を突き破り、数万トンの質量と超高温のプラズマドリルを構えた陸上戦艦が、アルドの乗るロードローラーに向かって一直線に突撃してきた。
「うわっ! このモグラ、すごく血の気が多くて突進してきた! でも、この特製・事象平滑のロードローラーの重力プレスの前には、どんなデコボコも一発でペチャンコだ!」
アルドがロードローラーのアクセルを全開にしてギアを入れると、重力魔法の極致を圧縮した巨大な鉄輪が、空間そのものをミシミシと歪ませながら回転し始めた。
『な、なんだと!? 前方に謎の小型重機!? 構わん、ドリルでチリも残さず消し飛ばせェェェッ!』
要塞の艦橋でドラクル将軍が叫んだ直後。
超弩級陸上戦艦のプラズマドリルと、アルドの乗る手作りのロードローラーが真っ向から激突した。
――ガギィィィィィィィンッ!!!!
星の地殻を削るはずの帝国のドリルは、アルドの「暴れるモグラを地面ごと真っ平らに均したい」という圧倒的で暴力的なまでの意思の前に、物理的に「ベシャァァァッ!」と情けない音を立てて、まるで空き缶が踏み潰されるように、一瞬にしてペチャンコに圧縮されてしまった。
『ギ、ギャァァァァァァァァッ!? な、何ダコノ異常ナ圧力ハ!? 我ガ帝国の誇ル数万トンの陸上戦艦ガ、タダノ工事車両ニ真正面カラ紙ペラノヨウニ押シ潰サレテイクゥゥゥッ!?』
「よし、暴れるモグラを完全に平らにプレスしたぞ! まだモグラが熱を持ってるから、このまま『絶対凝固の神仙アスファルト』を上からたっぷりかけて、安全で綺麗な道路に舗装してあげる!」
アルドがロードローラーの後部タンクのバルブを開くと、大宇宙の法則が完全にひれ伏した。
ドロドロに溶けていたマグマの街道と、ペチャンコにされた陸上戦艦の上に、漆黒で滑らかな『神仙アスファルト』が流し込まれていく。
強烈な浄化と凝固の力を浴びた戦艦の禍々しいプラズマエネルギーは完全に調律され、代わりにアルドの舗装が持つ『永遠の安全と快適な交通』という概念が、物理的な限界を超えて戦艦の存在そのものを書き換えていった。
『ア……ァァ……。我ノ、大宇宙ノ大地ヲ焦ガスハズノ動力炉ガ、マルデ都合ノイイ【道路ノ雪ヲ溶カス為ノロードヒーティング】ノヨウニ……!? イヤ、アスファルトデ固メラレル度ニ、鋼鉄ノ装甲ガ、異常ナマデニ心地ヨイ【絶対的ナ平滑性ヲ持ツクッション舗装】ニ変換サレテイクゥゥゥッ! 私ノ存在ガ、街道ヲ破壊スルノデハナク、コウシテアステリアノ物流ヲ永遠ニ支エル「極上ノ全自動・融雪&自己修復ハイウェイ」トシテ機能スルコトガ、コレホドマデニ満タサレルコトダッタトハ……!』
帝国の殺戮兵器としての戦艦の意思(魔導AI)は、アルドの「道路舗装工事」によって完全に浄化され、書き換えられた。
万物を破壊する禍々しい戦艦は、気がつけば「西の街道の地盤として美しく平らに定着し、馬車の車輪への負担をゼロにしつつ、冬場はプラズマの余熱で雪を完全に溶かす、超高性能な『永久・エコ神仙ハイウェイ(見た目はピカピカに黒光りする極上の道路)』」へと姿を変えていたのである。
「よしよし! 嫌なデコボコは完全に消えて、代わりにすっごく滑らかで走りやすい道路が完成したぞ! おまけに、あのモグラの熱がちょうどいい床暖房みたいになってるから、これなら冬に雪が降っても凍結しないね。これでみんな、安全に馬車で移動できるよ!」
アルドがロードローラーのエンジンを切って額の汗を拭うと、国境を覆っていた土煙とマグマの熱気は一瞬にして晴れ渡り、眼下の街道は太陽の光を反射して美しく伸びる『奇跡の神仙ハイウェイ』へと進化を遂げていた。
***
一方その頃、ペチャンコにされて道路の地盤(料金所とメンテナンスルーム)に改造された元・陸上戦艦の内部では、阿鼻叫喚の地獄絵図が展開されていた。
「な、なんだこれはァァァッ!?」
ドラクル将軍が絶叫する。
彼が戦艦の兵器を制御するために握っていた操縦桿は、いつの間にか『道路の通行証を発行するレジスター』に書き換えられていた。
戦艦内にいた帝国の兵士たちが着ていた重厚な軍装は全て『反射材のついた安全ベストとヘルメット』に変わり、彼らの手には『交通誘導の赤い光る棒と、道路清掃用のホウキ』が強制的に握らされてしまっていた。
アルドの「道路を管理する人たちが必要だ」という無自覚な意思は、帝国の兵士たちを「優秀な道路維持管理スタッフ(および料金所の徴収員)」と認識し、戦艦内のあらゆる設備を強制的に【安全で快適な交通インフラ施設】へと書き換えてしまったのだ。
「ば、馬鹿な……。我が帝国の誇る無敵の陸上戦艦が、ただの『道路と料金所』に変わるだと……!? 一体アステリアには、どんなバケモノが潜んでいるというのだ……!」
ドラクル将軍がへたり込み、絶望の涙を流したその時。
「――ご苦労だったな、薄汚い帝国のドブネズミども。随分と『走りやすくて快適な道路』になったじゃないか」
浄化された戦艦(料金所のスタッフルーム)の扉が静かに開き、音もなくシノンの短剣が閃いた。
扉の奥からは、レイヴンが神具の斧を肩に担ぎ、凄まじい威圧感を放ちながら現れる。そしてその後ろには、冷徹な執事服に身を包んだアーキヴァルと、大公レオハルトの姿があった。
「主の『道路工事』のおかげで、貴様らの薄汚い兵器のプレス加工は済んだようだな」
レイヴンが、冷酷な瞳で見下ろす。
「ヒィッ……! お、お許しを……! 我々は神聖ザギアス帝国の……!」
「証拠は十分に揃いましたよ、ドラクル将軍。これにて、帝国第二軍は完全な無力化(道路公団への就職)です」
アーキヴァルが、分厚いバインダーから【完全なる破滅への第二の請求書】を取り出し、将軍の目の前にドンッと突きつけた。
「さあ、この莫大な『事象平滑の手数料』、貴様らの身と魂を労働力に変えて、この料金所で永遠に通行料を徴収し続けてもらいましょうか。帝国への良い宣戦布告の返礼となります」
シノンの冷たい宣告と共に、ドラクル将軍と帝国兵たちは完全に心をへし折られ、誘導棒を持ったまま大人しく交通整理の業務へと就かされていった。
***
数日後。日だまり郷の黄金の城塞。
「……終わりましたね。大地を削る帝国の陸上戦艦が、アルド様の腕によって見事なロードヒーティング付きハイウェイに成り下がりました。そして、捕らえた将軍と兵士たちは、西の街道で立派な『交通整理と料金徴収員』として汗を流しております」
記録係のアーキヴァルが、大公から送られてきた莫大な報酬と、行商人ギルドから届いた感謝の特産品の山を確認しながら、手帳の『対・神聖ザギアス帝国・請求書』の第二ページ目に羽ペンを走らせる。
「アルド殿が舗装したあの街道、今では『奇跡の神仙ハイウェイ』と呼ばれ、馬車のスピードが通常の三倍に跳ね上がり、王国の経済をかつてないほど回しているそうだな。帝国の侵略計画など、完全に極上のインフラ整備の手伝いにされたというわけだ」
レイヴンが、暖炉の前でシロ(星狼)にブラッシングをしてやるアルドを眺めながら、不敵に笑う。
「ええ。ですが、これで帝国も完全に後には引けなくなったはずです。陸と空の超兵器を失った皇帝は、いよいよ国家の存亡をかけて全軍を動かしてくるでしょう。しかし……我々の完璧な情報網とアルド様の【究極の家事】が、奴らの野望を全て未然に打ち砕き、最後には皇帝の玉座すらもチリトリで掃除して差し上げます」
アーキヴァルの眼鏡の奥で、全てを計算し尽くした冷徹な死神の光が煌めいた。
最強の便利屋の「ただの道路舗装」は、国土分断の危機をただの土木工事として解決し、超大国の軍事侵攻を粉砕するだけでなく、王国に最高の物流環境をもたらす奇跡のハイウェイを誕生させてしまったのである。
城塞の住人たちによる「能動的な悪の粉砕」は、大陸最大の軍事帝国を敵に回す大戦において、完璧な第二歩を踏み出し、次なる絶望の舞台へと着実に駒を進めるのであった。
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