第91話:ただの雨雲払いと、帝国空海要塞の強制温室化(壮大なる転換期・軍事帝国の誤算)
第91話:ただの雨雲払いと、帝国空海要塞の強制温室化(壮大なる転換期・軍事帝国の誤算)
黄金の城塞『日だまり郷』の朝は、大宇宙の理すらも凌駕する究極の平穏と、細胞の隅々まで歓喜の声を上げるような極上の匂いと共に幕を開ける。
今日のアルドは、朝からキッチンの巨大なフライパンを軽やかに振り、絶妙な火加減で『特製・幻獣卵のふわふわスフレオムレツと、星屑トリュフのクリームソース』を仕上げていた。
「よし! オムレツは空気を含ませて限界までフワフワに焼き上げたぞ。そこに、森で採れた星屑トリュフの香りを移した濃厚なクリームソースをたっぷりかけて……完成だ!」
アルドがエプロン姿で大皿をダイニングテーブルに運ぶと、その圧倒的な生命力と芳醇な香りに引き寄せられ、神竜ポチとモフモフの星狼シロがテーブルの下でちぎれんばかりに尻尾を振って待機していた。
このオムレツ、一口食べれば幻獣卵の極上のタンパク質が全身の細胞を瞬時に超活性化させ、星屑トリュフの香りが魂の奥底に眠る潜在能力(限界突破)を強制的に引き出す『究極の覚醒食』である。
「うむ……! この黄金色に輝くオムレツの弾力と、ナイフを入れた瞬間に溢れ出す濃厚なソース! 見るだけで我が魔界の闘争本能が、春の陽だまりでまどろむ猫のようにフニャフニャに溶かされそうになるわい!」
元・魔界大帝サタナスが、フォークを握りしめながら、あまりの美味さにワナワナと肩を震わせて感涙に咽いでいた。
そんな賑やかなダイニングの喧騒から少し離れた、防音・防諜の魔法結界が幾重にも張られたリビングの長テーブル。
そこでは、大公レオハルト、情報局長アーキヴァル、元・大賢者ゾルタンの三人が、アステリア王国だけでなく『大陸全土』が描かれた広域立体地図を広げ、極めて深刻な顔つきで極秘の『戦術会議』を行っていた。
「……大公閣下。先日の古代狂信教団の壊滅を以て、王国内に巣食っていた悪しき『病巣』は全て完全に切除されました。しかし、我がクラン『黄昏の守護者』が国内のテロを悉く未然に(アルド様の家事で)粉砕し続けた結果、その異常な防衛力がついに『国外の巨大な敵』の目を引くこととなりました」
アーキヴァルが、手元の分厚い機密書類を指先で弾きながら冷徹に報告する。
「いよいよ動いたか。……大陸の西半分を武力で支配する超大国、神聖ザギアス帝国が」
大公レオハルトは、忌々しげにその名を口にし、地図の西側に引かれた国境線を睨みつけた。
「はい。帝国は我がアステリア王国を大陸制覇の最大の障害と見なし、ついに正規軍による本格的な侵攻作戦を開始しました。第一陣として国境の山岳地帯に派遣されたのは、帝国の技術の結晶である超弩級のステルス飛行戦艦『裂空の巨大要塞』です」
ゾルタンが、魔力測定器に映る、国境上空を覆う規格外に巨大な漆黒の波形を指し示す。
「この要塞は、光学迷彩で自らを『巨大な雷雲』に偽装し、上空から一方的に国境の防衛拠点を殲滅する悪魔の兵器です。奴らの狙いは、要塞の主砲である『神滅の重力弾』を雨あられと降らせ、我が国の国境の砦もろとも、周辺の豊かな農地を更地に変えることでしょう」
「光学迷彩で姿を隠し、安全な空から一方的に国土を焼くとは。……大国が聞いて呆れる、どこまでも卑劣な手段だな。だが、これは紛れもない『戦争』の始まりだ」
大公レオハルトは、怒りで拳を強く握りしめた。
「ええ、戦争です。ですが、我々が『事前に』その動きを完全に把握している以上、国境の畑の麦一本すら焼かせることはありません。敵の軍事要塞が牙を剥く前に、根こそぎお掃除して差し上げましょう。……空を覆う不自然な雲と、そこから降ってくる厄介な落下物の処理といえば、アルド様にとって最も得意とする『お洗濯と日照り対策』の領域ですからね」
アーキヴァルは、悪魔のように完璧な微笑みを浮かべた。
これまでのような個人の悪党や裏組織ではない。相手は大陸を支配する超大国だ。しかし、アーキヴァルの手帳の新たなページには、一切の躊躇いもなく『対・神聖ザギアス帝国・ご請求書(第一弾)』と優雅な筆記体で書き込まれていく。
彼はそのままペンを滑らせ、一枚の『依頼書』を迅速に作成した。
ちょうどそこへ、出来立てのオムレツの追加分を運んできたアルドに、アーキヴァルは深々と頭を下げて依頼書を差し出した。
「アルド様、美味しい朝食の最中に申し訳ありません。大公閣下より、急ぎの『お天気待ちの農作業依頼』が入っております」
「おや、急ぎのお仕事かい? どれどれ……『国境の農地の上空に、数日前から不自然でガンコな黒雲が停滞しており、日照り不足で作物が育たない。おまけに雲から真っ黒で汚い雹が降ってきて畑を荒らしている。至急、雨雲を払って日光を取り戻し、落下物のお掃除をお願いしたい』……なるほど!」
アルドは、依頼書を見て真剣な表情でコクリと頷いた。
「農作物にとってお日様の光は命だからね! ずっと黒雲が覆ってたら、せっかくの野菜が全部ダメになっちゃう。おまけに汚い雹まで降ってくるなんて、お天道様のご機嫌がよっぽど斜めなんだろう。よーし、今日は僕の特製『事象払拭の物干し竿』と、『絶対集光のサンキャッチャー』を持って、国境の空をピカピカの晴天にしてこよう!」
アルドが意気揚々と作業着(風の抵抗を完全に殺す特製ウィンドブレーカー)に着替え、信じられないほど長い物干し竿と工具箱を持って部屋を出て行った後。
リビングの影から、レイヴンとシノンが音もなく立ち上がった。
「主の『お洗濯と日向ぼっこ』の邪魔をする、薄汚い帝国の先遣隊どもは、俺たちが真下で待ち構えて処理しておく。……さあ、超大国を完全に解体するための、壮大な集金の始まりだ」
クランメンバーたちによる、大陸全土を巻き込む壮大な転換期――帝国との一方的な蹂躙戦(能動的な悪の事前粉砕)が、ついに幕を開けたのである。
***
その頃、国境の上空数千メートルの空域。
光学迷彩によって分厚い黒雲に偽装された帝国の超弩級要塞『裂空の巨大要塞』の艦橋では、先遣隊の司令官であるガリウス将軍が、眼下に広がるアステリア王国の国境を眺めながら、傲慢な高笑いを上げていた。
「ガハハハハ! 見ろ、あの無防備で間抜けな国境の砦を! 奴らは我が要塞を、ただの異常気象の雷雲だと信じ込んでいるぞ!」
ガリウス将軍は、傍らに控える副官たちに鷹揚に頷いてみせた。
「我が帝国の科学と魔導の結晶たるこのステルス要塞の前に、アステリア王国の防衛など紙切れに等しい。さあ、主砲『神滅の重力弾』の充填を急げ! あの豊かな農地もろとも、砦を更地に変えて帝国の恐ろしさを大陸中に知らしめてやるのだ!」
「将軍! 主砲のエネルギー充填、百パーセントに達しました! いつでも発射可能です!」
「よし! 全砲門、開け! アステリアの虫けらどもに、絶望の雨(黒い雹)を降らせてやれ!」
自らの完璧な蹂躙が始まると信じて疑わない帝国将軍の狂笑が、鋼鉄の艦橋に虚しく響き渡っていた。
***
「よし、雨雲払いと日照り確保の準備は完璧だ!」
アルドは、国境の農地のど真ん中に立ち、手作りの『絶対集光のサンキャッチャー』を地面に設置し、手には空高く伸びる『事象払拭の物干し竿』を握りしめていた。
――当然ながら、その素材は常軌を逸している。サンキャッチャーは、天界の星の欠片を磨き上げ、大宇宙のあらゆる光とエネルギーを強制的に一点に集束・反射させる『究極の光学兵器兼・日照り確保装置』。物干し竿は、世界樹の最も真っ直ぐな枝を切り出し、空間そのものを引っ掛けて物理的に干し上げる『次元干渉の絶対伸縮棒』である。
「うわぁ……。大公様が言っていた通り、これはひどいな。空のあの一角だけ、不自然なくらい真っ黒な四角い雲が居座ってるぞ。おまけに、雲の中からゴロゴロと嫌な機械音(重力弾の充填音)が聞こえてきて、なんだか空気がピリピリしてる」
アルドは、首に巻いたタオルで汗を拭いながら、プロの農家(便利屋)としてのダメ出しを始めた。
彼の驚異的な「日常フィルター(事象の誤認)」は、大宇宙の空を覆う帝国の軍事要塞を、「異常気象によって偶然四角い形に固まり、内部で強烈な雷と雹を生み出している極度にガンコで厄介な雨雲」だと完全に誤認していた。
「よし! こんなに真っ黒な雲があったら、野菜たちが光合成できなくて枯れちゃう! まずはあの雲から降ってくる汚い雹を反射して、一気に物干し竿で雲を払ってやるぞ!」
『発射ァァァァッ!!』
上空の要塞から、砦と農地を消し飛ばすべく、数発の巨大な『神滅の重力弾(真っ黒に圧縮された破壊エネルギー)』が、流星群のように降り注いできた。
「うわっ! やっぱり雲の中から真っ黒な雹が降ってきた! でも、この特製・サンキャッチャーの光のドームがあれば、どんな落下物も一発で弾き返せるぞ!」
アルドがサンキャッチャーのスイッチを入れると、空から降り注ぐ重力弾は、光のドームに触れた瞬間に「ポヨンッ!」と情けない音を立ててバウンドし、物理法則を完全に無視して上空の要塞(雲)に向かって真っ直ぐに跳ね返っていった。
『な、なんだと!? 主砲の重力弾が、見えない壁に弾かれて逆流してくるだとォォォッ!? 回避ぃぃぃッ!』
要塞の艦橋がパニックに陥り、跳ね返ってきた自らの砲弾を避けるために船体を大きく傾けた。その衝撃で、要塞を覆っていた光学迷彩の『黒雲』が、チカチカとノイズを立てて剥がれかける。
「おっ、雹を弾き返したら、雲が少し薄くなって『中身(ただの鉄の塊)』が見えてきたぞ! 今がチャンスだ、この物干し竿で一気に雲を干し上げてやる!」
アルドは、手にした『事象払拭の物干し竿』を、上空数千メートルに浮かぶ要塞に向かって思い切り突き出した。
――ギュンッ!!!!
物干し竿は、物理的な距離の概念を完全に無視して一瞬で数千メートル伸び上がり、要塞の装甲の隙間にガコンッと引っかかった。
「そぉいッ!!」
アルドが「洗濯物を裏返す」ような軽い手首のスナップを利かせて物干し竿をひっくり返した瞬間。
星を滅ぼすはずの帝国の超弩級要塞は、アルドの「ガンコな雨雲を払って日光に当てたい」という圧倒的で暴力的なまでの意思の前に、物理的に「クルリンッ!」と空中で裏返され、まるで物干し竿に干されたシーツのように空中にビターンと固定されてしまった。
『ギ、ギャァァァァァァァァッ!? な、何ダコノ異常ナ衝撃ハ!? 我ガ帝国の誇ル重量数万トンの空海要塞ガ、タダノ棒キレ一本デ空中に吊ルシ上ゲラレテイクゥゥゥッ!?』
「よし、雲(要塞)を完全に捕まえたぞ! このままサンキャッチャーの光をたっぷり当てて、カビ臭い雲を太陽の力でフカフカの温室に変えてあげる!」
アルドがサンキャッチャーの焦点を吊るされた要塞に合わせると、大宇宙の法則が完全にひれ伏した。
強烈な浄化の光を浴びた要塞の禍々しい兵器としての魔力と装甲は完全に漂白され、代わりにアルドの清掃が持つ『農作物を育む究極の陽だまり』という概念が、物理的な限界を超えて要塞の存在そのものを書き換えていった。
『ア……ァァ……。我ノ、大宇宙ノ国土ヲ焼クハズノ主砲ガ、マルデ都合ノイイ【温室ヲ暖メル為ノヒーター】ノヨウニ……!? イヤ、光ヲ浴ビル度ニ、鋼鉄ノ装甲ガ、異常ナマデニ心地ヨイ【絶対的ナ採光性ヲ持ツクリスタルガラス】ニ変換サレテイクゥゥゥッ! 私ノ存在ガ、国境ヲ滅ボスノデハナク、コウシテアステリアノ農地ニ永遠ノ春ヲモタラス「極上ノ全自動・空中神仙グリーンハウス」トシテ機能スルコトガ、コレホドマデニ満タサレルコトダッタトハ……!』
帝国の殺戮兵器としての要塞の意思(魔導AI)は、アルドの「お洗濯と日光浴」によって完全に浄化され、書き換えられた。
万物を破壊する禍々しい要塞は、気がつけば「国境の上空に固定され、太陽の光を最も効率よく集めて眼下の農地に極上の光合成エネルギーを注ぎ続ける、超高性能な『永久・エコ空中温室(見た目は巨大なクリスタルガラスの城)』」へと姿を変えていたのである。
「よしよし! 嫌な黒雲は完全に消えて、代わりにすっごく綺麗なガラスの屋根みたいなのが空にできたぞ! おまけに、あのガラスが太陽の光を優しく集めてくれてるから、畑の野菜たちがみるみるうちに元気になってきた。これでみんな、美味しいお野菜がたくさん食べられるね!」
アルドが物干し竿を片付けて額の汗を拭うと、国境を覆っていた陰湿な暗雲は一瞬にして晴れ渡り、眼下の農地は太陽の光を浴びてキラキラと輝く『奇跡の神仙農園』へと進化を遂げていた。
***
一方その頃、温室化し、農地への日照効果を高めるためにゆっくりと地上に不時着(安全に着陸)した元・要塞の内部では、阿鼻叫喚の地獄絵図が展開されていた。
「な、なんだこれはァァァッ!?」
ガリウス将軍が絶叫する。
彼が要塞の兵器を制御するために握っていた操縦桿は、いつの間にか『極上のスプリンクラーの散水レバー』に書き換えられていた。
要塞内にいた帝国の兵士たちが持っていた最新鋭の魔導銃は全て『高品質なスコップとクワ』に変わり、彼らの軍服は『通気性抜群の麦わら帽子と農作業着』へと強制的に変換されてしまっていた。
アルドの「農作業の邪魔なものを、農業の役に立つものに変える」という無自覚な意思は、帝国の兵士たちを「農作業の手伝い要員」と認識し、要塞内のあらゆる兵器を強制的に【安全で健康的な農具】へと書き換えてしまったのだ。
「ば、馬鹿な……。我が帝国の誇る無敵の要塞が、ただの『ガラスの温室』に変わるだと……!? 一体アステリアには、どんなバケモノが潜んでいるというのだ……!」
ガリウス将軍がへたり込み、絶望の涙を流したその時。
「――ご苦労だったな、薄汚い帝国のドブネズミども。随分と『日当たりが良くて平和な温室』になったじゃないか」
浄化された要塞(温室)の扉が静かに開き、音もなくシノンの短剣が閃いた。
扉の奥からは、レイヴンが神具の斧を肩に担ぎ、凄まじい威圧感を放ちながら現れる。そしてその後ろには、冷徹な執事服に身を包んだアーキヴァルと、大公レオハルトの姿があった。
「主の『雨雲払い』と『お洗濯』のおかげで、貴様らの薄汚い兵器の除菌は済んだようだな」
レイヴンが、冷酷な瞳で見下ろす。
「ヒィッ……! お、お許しを……! 我々は神聖ザギアス帝国の……!」
「証拠は十分に揃いましたよ、ガリウス将軍。これにて、帝国の先遣隊は完全な無力化(農業従事者への転職)です」
アーキヴァルが、分厚いバインダーから【完全なる破滅への第一の請求書】を取り出し、将軍の目の前にドンッと突きつけた。
「さあ、この莫大な『事象漂白の手数料』、貴様らの身と魂を労働力に変えて、この農地で永遠に支払ってもらいましょうか。帝国への良い宣戦布告の返礼となります」
シノンの冷たい宣告と共に、ガリウス将軍と帝国兵たちは完全に心をへし折られ、農具を持ったまま大人しく捕縛されていった。
***
数日後。日だまり郷の黄金の城塞。
「……終わりましたね。大陸を焼く帝国の空海要塞が、アルド様の腕によって見事なクリスタルの空中温室に成り下がりました。そして、捕らえた将軍と兵士たちは、国境の農地で立派な『開拓労働者』として汗を流しております」
記録係のアーキヴァルが、大公から送られてきた莫大な報酬と、国境の農家から届いた極上の神仙野菜の箱を確認しながら、手帳の『対・神聖ザギアス帝国・請求書』の第一ページ目に羽ペンを走らせる。
「アルド殿が干し上げたあの要塞、今では『奇跡の神仙グリーンハウス』と呼ばれ、その景観の美しさと農作物の美味さから、王国最大の食糧供給拠点になっているそうだな。帝国の侵略計画など、完全に極上の野菜作りの手伝いにされたというわけだ」
レイヴンが、暖炉の前でシロ(星狼)の背中を撫でながら、不敵に笑う。
「ええ。ですが、これは帝国との『大戦』のほんの序の口に過ぎません。先遣隊を失った皇帝は、さらなる軍勢と禁忌の兵器を投入してくるでしょう。しかし……我々の完璧な情報網とアルド様の【究極の家事】が、奴らの野望を全て未然に打ち砕きます」
アーキヴァルの眼鏡の奥で、全てを計算し尽くした冷徹な死神の光が煌めいた。
最強の便利屋の「ただの雨雲払い」は、国境の滅亡の危機をただのお洗濯として解決し、超大国の軍事侵攻を粉砕するだけでなく、王国に最高の農業環境をもたらす奇跡の温室を誕生させてしまったのである。
城塞の住人たちによる「能動的な悪の粉砕」は、ついに大陸最大の軍事帝国を敵に回す壮大な転換期を迎え、第99話のクライマックス――完全なる大帝国の破滅へ向けて、完璧な第一歩を踏み出したのであった。
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