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辺境暮らしの便利屋冒険者、伝説のクランのリーダーに祭り上げられる 〜本人曰く「ただの日常」らしいです〜  作者: 盆ちゃん


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第88話:ただの床磨きと、混沌の泥土竜の強制ワックス化(古代狂信教団の浅はかなる復活劇)

第88話:ただの床磨きと、混沌の泥土竜の強制ワックス化(古代狂信教団の浅はかなる復活劇)

 黄金の城塞『日だまり郷』の朝は、大宇宙の理すらも凌駕する究極の平穏と、魂を浄化する極上の甘い香りと共に幕を開ける。

 今日のアルドは、朝からキッチンの調理台に立ち、色鮮やかな『特製・神仙フルーツワッフルと、大精霊のミルクティー』を作り上げていた。

「よし! メインは『極上星屑ベリーと幻獣バターのサクサクワッフル』で、飲み物は心身の疲れを完全にリセットする特製ミルクティーだ!」

 アルドがエプロン姿で次々と皿に盛りつけていくと、その圧倒的な生命力と香りに引き寄せられ、神竜ポチとモフモフの星狼シロがキッチンカウンターの下で尻尾を千切れんばかりに振って待機していた。

 このワッフル、一口齧れば幻獣のバターのコクが全身の細胞を瞬時に活性化させ、星屑ベリーの酸味が致死の猛毒すらも中和する『究極の回復食』である。

「うむ……! この黄金色に焼き上がった生地のサクサク感、見るだけで我が魔界の闘争本能がフニャフニャに溶かされそうになるわい!」

 元・魔界大帝サタナスが、つまみ食い用に用意されたワッフルの切れ端を口に放り込み、あまりの美味さにワナワナと肩を震わせて涙ぐんでいた。

 そんな賑やかなキッチンの喧騒から少し離れた、防音・防諜の魔法結界が幾重にも張られたリビングの長テーブル。

 そこでは、大公レオハルト、情報局長アーキヴァル、元・大賢者ゾルタンの三人が、深刻な顔つきで王都の中心部を指し示す立体地図を広げ、極秘の『戦術会議』を行っていた。

「……大公閣下。先日の『暗黒錬金術ギルド』の壊滅により、国外からの脅威は一時的に排除されました。しかし、我が情報局と、今朝庭の池で泳いでいた海神イルカ殿の『地脈水流感知』により、王都の地下深くで新たな、そして極めて古い魔力反応を確認しました」

 アーキヴァルが、手元の書類を指先で弾きながら冷徹に報告する。

「王都の地下……それも古い魔力だと? まさか、神話の時代に封印されたという狂信教団の残党か」

 大公レオハルトは、忌々しげにその名を口にした。

「はい。古代の邪神を崇拝する狂信教団『深淵の瞳』の生き残りどもです。奴らは数千年の時を経て復活し、王都の地脈の交差点である『王立大劇場』の地下に、禁忌の儀式で『混沌の泥土竜カオス・アースドラゴン』を召喚しようとしています」

 ゾルタンが、魔力測定器に映るドス黒い茶色の波形を指し示す。

「この泥土竜は、大地のマナを喰らって無限に膨張し、周囲の空間を底なしの泥沼へと変える大宇宙の害悪です。奴らの狙いは、大劇場に集まる貴族や王族を泥の底へと引きずり込み、王都の地盤そのものを崩壊させて邪神復活の生贄とすることでしょう」

「芸術と文化を愛する民が集う劇場を、邪神の生贄の祭壇にしようというのか。……どこまでも浅はかで下劣な連中だ」

 大公は怒りで眉間を深く寄せた。

「ええ。ですが、我々が『事前に』その動きを完全に把握している以上、王劇場の床板一枚すら汚させることはありません。敵の悪意が広がる前に、根源から綺麗に磨き上げて差し上げましょう。……床の汚れといえば、アルド様にとって最も得意とする『お掃除』の領域ですからね」

 アーキヴァルは、悪魔のように完璧な微笑みを浮かべ、手帳の真新しいページに『対・狂信教団・請求書』と優雅な筆記体で書き込みながら、一枚の『依頼書』を迅速に作成した。

 ちょうどそこへ、おかわり用のワッフルを切り分けてきたアルドに、アーキヴァルは深々と頭を下げて依頼書を差し出した。

「アルド様、美味しい朝食の最中に申し訳ありません。大公閣下より、急ぎの『床磨きの依頼』が入っております」

「おや、急ぎのお仕事かい? どれどれ……『王立大劇場のエントランスと大ホールの床が、酷い泥汚れとガンコなシミのせいで完全に黒ずんでおり、悪臭のするドロドロのヘドロが湧いている。今夜の公演に間に合うように、至急床の清掃とワックスがけをお願いしたい』……なるほど!」

 アルドは、依頼書を見て真剣な表情でコクリと頷いた。

「劇場の床がヘドロまみれになっちゃうなんて一大事だ! 劇場はみんながオシャレをして楽しむ一番大事な場所だからね。長年の泥汚れとシミが固まって、スライムみたいになっちゃってるんだろう。よーし、今日は僕の特製『事象研磨の魔導ポリッシャー』と、『絶対光沢の神仙ワックス』を持って、大ホールの床を鏡みたいにピカピカに磨き上げてこよう!」

 アルドが意気揚々と作業着(完全防汚のオーバーオール)に着替え、巨大な清掃用具箱を持って部屋を出て行った後。

 リビングの影から、レイヴンとシノンが音もなく立ち上がった。

「主の『床磨き』の邪魔をする、薄汚い狂信者のドブネズミどもは、俺たちが先に処理しておく。……さあ、奴らの教団を完全に解体するための、決定的な証拠集めの始まりだ」

 クランメンバーたちによる、緻密な情報網に裏打ちされた「能動的な悪の事前粉砕」が、音もなく動き出したのである。

 ***

 その頃、王立大劇場の地下深くにある忘れ去られたカタコンベ。

 狂信教団『深淵の瞳』の司祭であるザガンは、水晶球に映る大ホールの床の様子を見つめながら、狂気に満ちた高笑いを上げていた。

「クックック……! 素晴らしいぞ。我が教団の最高傑作『混沌の泥土竜』が、地脈のマナを喰らって凄まじい勢いで床下から浸食している! あの泥土の呪いは、いかなる浄化魔法も受け付けん。今夜の公演が始まる頃には、大劇場の床は底なしの泥沼と化し、愚かな貴族どもは生きたまま邪神への供物となるのだ!」

 ザガンは、傍らに控える黒法衣の信者たちに傲慢な視線を向けた。

「大公の奴らが慌てふためき、我々の邪神の力の前に平伏す姿が目に浮かぶわ。行け、お前たちは大劇場の周囲を見張り、泥土竜が確実に地盤を侵食していく様を記録してこい!」

 自らの完璧な陰謀が進行していると信じて疑わない悪徳司祭の笑い声が、薄暗い地下室に虚しく響き渡っていた。

 ***

「よし、床磨きの準備は完璧だ!」

 アルドは、大劇場の壮麗な大ホールの中心に立ち、手作りの『事象研磨の魔導ポリッシャー』と、大きなボトルに入った『絶対光沢の神仙ワックス』を用意していた。

 ――当然ながら、その素材は常軌を逸している。魔導ポリッシャーは、星の運行を司る歯車を大精霊の風の魔力で超高速回転させる『大宇宙の概念すらも削り平らにする究極の床磨き機』。神仙ワックスは、世界樹の蜜と天界の星屑を練り合わせた、いかなる汚れも永久に寄せ付けず、絶対的な光沢を放つ『究極のコーティング剤』である。

「うわぁ……。大公様が言っていた通り、これはひどいな。大理石の床が、真っ黒でドロドロのヘドロで埋め尽くされてるぞ。おまけに、なんだかツンとする嫌な臭い(強烈な呪いの瘴気)がするし、床下から泥がブクブクと湧き出して『巨大な泥の竜』みたいに蠢いてる」

 アルドは、ポリッシャーの電源を入れながら、プロの清掃業者としてのダメ出しを始めた。

 彼の驚異的な「日常フィルター(事象の誤認)」は、大宇宙の地脈を汚染する泥土竜の本体を、「長年放置されて異常発酵し、あまりの不衛生さで自立稼働し始めた極度にガンコな泥汚れとシミの塊」だと完全に誤認していた。

「よし! こんなにヘドロが溜まっていたら、お客さんが滑って転んじゃう! 一気にポリッシャーで汚れを削り落として、ワックスで鏡みたいに磨き上げてやるぞ!」

 アルドは、ポリッシャーの回転ブラシをギュイィィィン!と超高速で回転させ、致死の瘴気が充満する大ホールの中へと、鼻歌交じりにズンズンと踏み込んでいった。

『……ゴゴゴゴゴ……? ナンダ、コノ矮小ナ人間ハ……? 我ガ絶対沈底ノ泥沼ノ中ヲ、ナゼ足ヲ取ラレズニ歩イテイラレル!?』

 混沌の泥土竜は、触れた瞬間に魂まで泥に沈むはずの沼地の中を、平然とポリッシャーを押して歩いてくるアルドを見て激しく動揺した。アルドの事象改変オーラは、魔竜の放つ絶対の泥沼を「ちょっとワックスがけの前に水拭きが必要な床」程度に強制的に緩和させていたのだ。

『コザカシイ! ナラバ直接、我ガ『混沌ノ大顎カオス・ファング』デ魂ノ底マデ呑ミ込ンデクレルワァァァッ!』

 激怒した泥土竜は、泥で構成された巨大な顎を床下から突き出し、アルドを頭から丸呑みにしようと襲い掛かった。

「うわっ! この泥汚れ、すごくネバネバしててポリッシャーの邪魔だな! でも、この特製・魔導ポリッシャーの回転力なら、どんなガンコな泥でも一発で削り飛ばせるぞ!」

 アルドは、襲い来る泥土竜の巨大な顎に向けて、超高速回転する『事象研磨のブラシ』を力強く押し付けた。

 ――ギュイィィィィィィィンッ!!!!

 アルドが押し付けた『神仙ブラシ』が、泥土竜の放つ猛毒の泥と激突した瞬間。

 星を沈めるはずの強靭な泥のエネルギーは、アルドの「ガンコな床の汚れを削り落としたい」という圧倒的で暴力的なまでの意思の前に、物理的に「キュルルルルッ!」と音を立てて、ただの『水に溶けやすい無害な泥水』へと強制的に削り飛ばされ始めた。

『ギ、ギャァァァァァァァァッ!? な、何ダコノ異常ナ研磨力ハ!? 我ガ全テヲ呑ミ込ム深淵ノ泥ガ、タダノ床磨キ機デ削リ飛バサレテイクゥゥゥッ!?』

「よし、汚れが完全に浮いて平らになってきたぞ! ここで一気に、神仙ワックスで大ホールの床を鏡みたいに磨き上げる!」

 アルドは、ボトルから『絶対光沢の神仙ワックス』を大理石の床と悶絶する泥土竜の本体に向かってドバドバと撒き散らし、再びポリッシャーで「キュッキュッ!」と小気味良い音を立てて激しく磨き始めた。

 ――ピカァァァァァァァァンッ!!!!

 大宇宙の法則が、アルドの「完璧な床磨き」という意思に完全にひれ伏す。

 ワックスが塗り込まれた軌跡から、泥土竜の禍々しい泥の魔力は完全にコーティングされ、代わりにアルドの清掃が持つ『空間を美しく彩る究極の光沢』という概念が、物理的な限界を超えて魔竜の存在そのものを書き換えていった。

『ア……ァァ……。我ノ、大宇宙ノ命ヲ奪ウハズノ泥沼ガ、マルデ都合ノイイ【大理石ノ光沢ヲ保ツ為ノワックス成分】ノヨウニ……!? イヤ、磨カレル度ニ、我ガ呪イノ魔力ガ、異常ナマデニ心地ヨイ【極上ノ音響反射ト快適ナ床暖房】ニ変換サレテイクゥゥゥッ! 私ノ存在ガ、劇場ヲ沈メルノデハナク、コウシテ王都ノ人々ノ芸術ヲ支エル「極上ノ全自動・音響反射&床暖房システム」トシテ機能スルコトガ、コレホドマデニ満タサレルコトダッタトハ……!』

 混沌の泥土竜の凶悪な意思は、アルドの「ポリッシャーとワックスによる清掃」によって完全に浄化され、書き換えられた。

 万物を呑み込む禍々しい泥土は、気がつけば「大ホールの床下に美しく定着し、舞台の音響を最高品質で反響させながら、観客の足元をじんわりと温める、超高性能な『エコ床暖房精霊(見た目は黄金色に輝くスライム)』」へと姿を変えていたのである。

「よしよし! 嫌なヘドロの臭いは完全に消えて、大理石の床が天井のシャンデリアを反射するくらい鏡みたいにピカピカになったぞ! おまけに、足元からすごく心地よい暖かさが伝わってくる。これでみんな、最高の劇を楽しめるね!」

 アルドがポリッシャーの電源を切って額の汗を拭うと、大ホールを覆っていた陰湿な空気は一瞬にして晴れ渡り、床からは、七色に輝く極上のオーラを持った光沢が溢れ出し始めた。

 ***

 一方、その光景から少し離れた大劇場の裏路地。

 狂信教団の司祭ザガンが放った信者たちは、大宇宙の災厄である泥土竜が、たった一つのポリッシャーとワックスで「床暖房付きのピカピカな床」に成り下がった光景に言葉を失い、恐怖と絶望で完全に腰を抜かしていた。

「ば、馬鹿な……。混沌の泥土竜が、ただのワックス扱いだと……!? ザガン様が心血を注いだ邪神復活計画が、ただの『床磨き』で……!」

「た、退却だ! 直ちにこの絶望的な異常事態をザガン様に報告し……」

 信者たちが踵を返そうとした、まさにその時。

「――誰が、帰っていいと言った?」

 路地の影の中から、音もなくシノンの短剣が閃き、信者たちの急所を正確に峰打ちで叩き伏せた。

 退路の先からは、レイヴンが神具の斧を肩に担ぎ、凄まじい威圧感を放ちながら道を完全に塞いでいる。

「主の『床磨き』の邪魔をする害虫どもめ。貴様らが喚び出した変なヘドロのせいで、主がどれだけポリッシャーを押すのに手間をかけたと思っている」

 レイヴンが、冷酷な瞳で見下ろす。

「ヒィッ……! お、お許しを……! 我々は深淵の瞳の……!」

「貴様らは、我らが情報局長への【素晴らしい第一の証拠品】だ。……狂信教団、とやら。いずれ迎える『組織の完全解体』への第一歩、きっちりと踏ませてもらったぞ」

 シノンの冷たい宣告と共に、信者たちは完全に意識を刈り取られ、荷袋へと詰め込まれていった。

 ***

 数日後。日だまり郷の黄金の城塞。

「……終わりましたね。星を沈める宇宙の泥土竜が、アルド様の腕によって見事な床暖房&音響反射システムに成り下がりました」

 記録係のアーキヴァルが、大公から送られてきた莫大な報酬と、王立大劇場から届いた年間VIPパスを確認しながら、手帳の『対・狂信教団・請求書』の第一ページ目に羽ペンを走らせる。

「ええ。記録完了。『第八十八種・混沌の泥土竜の強制ワックス化(ただの床磨き)』。対象:大宇宙の災厄カオス・アースドラゴン、および狂信教団『深淵の瞳』の信者部隊。結果:アルド様の手作りワックスとポリッシャーによって泥土竜は永遠の光沢と暖かさへと概念を書き換えられ、裏で蠢く信者はクランメンバーによって完全捕縛。古代の狂信教団を追い詰めるための【第一の証拠】として回収完了しました」

「アルド殿が掃除したあの大劇場、今では『奇跡の神仙音響ホール』と呼ばれ、その響きの美しさと足元の快適さから、連日満員御礼の超人気スポットになっているそうだな。教団の邪神復活計画など、完全に極上の観劇体験のダシに使われたというわけだ」

 レイヴンが、暖炉の前でシロ(星狼)の毛並みをブラッシングするアルドを眺めながら、不敵に笑う。

「ええ。ですが、これはまだ教団を完全に解体し、真の黒幕を追い詰めるための序の口に過ぎません。奴らが次にどんな汚い手を使ってこようとも……我々の完璧な情報網とアルド様の【究極の家事】が、全てを未然に粉砕します」

 アーキヴァルは、分厚いバインダーを優雅に閉じた。

「奴らが手駒を全て失い、組織が完全に崩壊し、自らの罪の重みに押し潰されるその瞬間まで、我々は淡々と【請求書】の項目を増やし続けるのみです」

 アーキヴァルの眼鏡の奥で、全てを計算し尽くした冷徹な死神の光が煌めいた。

 最強の便利屋の「ただの床磨き」は、王都の崩壊の危機をただの清掃作業として解決し、狂信教団の野望を粉砕するだけでなく、王国に最高の芸術環境をもたらす奇跡の劇場を誕生させてしまったのである。

 城塞の住人たちによる「能動的な悪の粉砕」は、国家を脅かす古代の狂信教団に完全なる破滅の引導を渡すための、完璧な手順で次なる『大掃除』の準備を進めていくのであった。

ここまでお読みいただきありがとうございます!少しでも面白いと感じたら、画面下から【ブックマーク】と【☆☆☆☆☆】の評価をいただけると、執筆の大きなモチベーションになります!

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