第87話:ただの害虫駆除と、虚無の捕食蝗害の強制益虫化(暗黒錬金術ギルドの完全なる破滅)
第87話:ただの害虫駆除と、虚無の捕食蝗害の強制益虫化(暗黒錬金術ギルドの完全なる破滅)
黄金の城塞『日だまり郷』の朝は、大宇宙の理すらも凌駕する究極の平穏と、魂を浄化する極上の甘い香りと共に幕を開ける。
今日のアルドは、朝からキッチンの調理台に立ち、色鮮やかな『特製・神仙フルーツサンドと、世界樹のハーブティー』を作り上げていた。
「よし! メインは『極上星屑イチゴと幻獣生クリームのふわふわサンド』で、飲み物は心身の疲れを完全にリセットする特製ブレンドティーだ!」
アルドがエプロン姿で次々と皿に盛りつけていくと、その圧倒的な生命力と香りに引き寄せられ、神竜ポチとモフモフの星狼シロがキッチンカウンターの下で尻尾を千切れんばかりに振って待機していた。
このフルーツサンド、一口齧れば幻獣のミルクから作られた生クリームの甘さが全身の細胞を瞬時に活性化させ、星屑イチゴのビタミンが致死の猛毒すらも中和する『究極の回復食』である。
「うむ……! この白く輝くクリームの滑らかさ、見るだけで我が魔界の闘争本能がフニャフニャに溶かされそうになるわい!」
元・魔界大帝サタナスが、つまみ食い用に用意されたサンドイッチの切れ端を口に放り込み、あまりの美味さにワナワナと肩を震わせて涙ぐんでいた。
そんな賑やかなキッチンの喧騒から少し離れた、防音・防諜の魔法結界が幾重にも張られたリビングの長テーブル。
そこでは、大公レオハルト、情報局長アーキヴァル、元・大賢者ゾルタンの三人が、深刻な顔つきで王都の中心部を指し示す立体地図を広げ、極秘の『戦術会議』を行っていた。
「……大公閣下。先日の『猛毒の粘液獣』、そして『鋼喰いの魔界蔦』によるテロ計画を我々に(極上の入浴剤と橋の補強材として)悉く粉砕された暗黒錬金術ギルド『黒き蓮』ですが、奴らはいよいよ全ての資産を投げ打ち、最後の切り札を切ってきました」
アーキヴァルが、手元の書類を指先で弾きながら冷徹に報告する。
「我が情報局の感知網と、今朝庭の植物に水をやっていた大精霊女王ティターニア殿の『精霊の悲鳴感知』により、王城の隣にある『王立大植物園』に異常な魔力反応を確認しました」
ゾルタンが、魔力測定器の不吉な漆黒の波形を指差した。
「ギルドのトップであるゼロスが放ったのは、古代の禁忌錬金術で生み出された『虚無の捕食蝗害』です。この魔蟲の群れは、あらゆる有機物と魔力を喰らい尽くし、無限に増殖する最悪の害虫。奴の狙いは、王都の食糧庫と緑を全て食い荒らし、その吸収したエネルギーを自身の『賢者の石』へと還元して、王都全域を吹き飛ばす極大魔術を放つことでしょう」
「水と物流を絶てなかった腹いせに、今度は全てを喰らい尽くして吹き飛ばそうというのか。……どこまでも短絡的で救いようのない外道だな」
大公レオハルトは、怒りで眉間を深く寄せた。
「ええ。ですが、我々が『事前に』その動きを完全に把握している以上、王立植物園の葉っぱ一枚すら喰わせることはありません。敵の悪意が広がる前に、根こそぎ駆除して差し上げましょう。……しかも今回は、魔蟲と術者であるゼロスが『魔力供給のパス』で直接繋がっているようです。アルド様の『お掃除』の余波が、ダイレクトに敵の本拠地に届くことになりますね」
アーキヴァルは、悪魔のように完璧な微笑みを浮かべ、手帳のページに『対・暗黒錬金術ギルド・ご請求書(最終版)』と優雅な筆記体で書き込みながら、一枚の『依頼書』を迅速に作成した。
ちょうどそこへ、出来立てのフルーツサンドとハーブティーを運んできたアルドに、アーキヴァルは深々と頭を下げて依頼書を差し出した。
「アルド様、美味しい朝食の最中に申し訳ありません。大公閣下より、急ぎの『害虫駆除の依頼』が入っております」
「おや、急ぎのお仕事かい? どれどれ……『王立大植物園に、異常な速度で増殖する新種のバッタが大量発生し、貴重な花や木を食い荒らしている。植物が全滅する前に、至急バッタの駆除と防虫対策をお願いしたい』……なるほど!」
アルドは、依頼書を見て真剣な表情でコクリと頷いた。
「植物園にバッタの大量発生なんて一大事だ! 貴重なお花が全部食べられちゃうよ。よーし、今日は僕の特製『事象中和のオーガニック殺虫スプレー』と、『絶対防虫の保護ネット』を持って、植物園をピカピカの安全状態にしてこよう!」
アルドが意気揚々と作業着に着替え、巨大なスプレーボトルと工具箱を持って部屋を出て行った後。
リビングの影から、レイヴンとシノンが音もなく立ち上がった。
「主の『害虫駆除』の邪魔をする、薄汚い錬金術師のドブネズミどもは、俺たちが直接本拠地に乗り込んで処理しておく。……さあ、奴らの組織を完全に解体するための、集金の時間だ」
クランメンバーたちによる、緻密な情報網に裏打ちされた「能動的な悪の事前粉砕」が、最終局面へと突入したのである。
***
その頃、王都の地下深くに広がる、暗黒錬金術ギルド『黒き蓮』の巨大な本拠地。
ギルドの長であるゼロスは、中央に鎮座する禍々しい『賢者の石』に魔力がドクドクと注ぎ込まれる様子を見つめながら、下劣な高笑いを上げていた。
「クックック……! 素晴らしいぞ。我がギルドの最終兵器『虚無の捕食蝗害』が、王立植物園の魔力と植物を順調に喰らい尽くしている! あのバッタが喰らったエネルギーは、空間を越えてこの賢者の石に蓄積されるのだ!」
ゼロスは、傍らに控える錬金術師の部下たちに傲慢な視線を向けた。
「水脈計画も物流破壊も失敗したが、全てはこの究極の一撃のための布石に過ぎなかったということよ! 賢者の石の充填率が百パーセントに達した瞬間、王城もろとも王都は消し飛ぶ! 大公の犬どもがどれだけ足掻こうと、この無数の蟲の群れを止めることなどできまい!」
自らの完璧な陰謀が進行していると信じて疑わない悪徳錬金術師の笑い声が、薄暗い地下要塞に虚しく響き渡っていた。
***
「よし、害虫駆除の準備は完璧だ!」
アルドは、王立大植物園の巨大なガラスドームの前に立ち、手作りの『事象中和のオーガニック殺虫スプレー』と、巨大な『絶対防虫の保護ネット』を用意していた。
――当然ながら、その素材は常軌を逸している。殺虫スプレーの液体は、星の浄化灰と大精霊の涙を調合し、世界樹の葉から抽出した『大宇宙の邪悪な概念のみを無害化する究極の除菌・防虫液』。保護ネットは、次元の狭間を織り上げる蜘蛛の神獣の糸で作られた、いかなる概念的侵入も完全に遮断する『絶対防御の天幕』である。
「うわぁ……。大公様が言っていた通り、これはひどいな。ガラスドームの中に、真っ黒で禍々しいバッタがびっしり張り付いてるぞ。おまけに、バッタが空中の魔力までムシャムシャ食べてるみたいで、空気がすごく淀んでる」
アルドは、スプレーボトルのポンプをシュコシュコと加圧しながら、プロの便利屋(庭師)としてのダメ出しを始めた。
彼の驚異的な「日常フィルター(事象の誤認)」は、大宇宙の全てを喰らう虚無の魔蟲の群れを、「長年の換気不足で異常繁殖し、景観と植物を損なっている極度にガンコで厄介なイナゴの群れ」だと完全に誤認していた。
「よし! こんなにバッタがいたら、お花が全部丸裸になっちゃう! 一気にスプレーで駆除して、二度と虫が寄ってこないようにネットを張ってやるぞ!」
アルドは、スプレーのノズルを構え、致死の虚無エネルギーが渦巻く植物園の中へと、鼻歌交じりにズンズンと足を踏み入れた。
『……ギギギギギギ……? ナンダ、コノ矮小ナ人間ハ……? 我ガ絶対捕食ノ領域ノ中ヲ、ナゼ魔力ヲ吸ワレズニ歩イテイラレル!?』
虚無の捕食蝗害は、触れた瞬間に生命力まで吸い尽くされるはずの魔の空間を、平然と歩いてくるアルドを見て激しく動揺した。アルドの事象改変オーラは、魔蟲の放つ絶対の捕食を「ちょっと虫が多くて鬱陶しいな」程度に強制的に緩和させていたのだ。
『コザカシイ! ナラバ直接、我ガ『虚無ノ大顎』デ魂ノ底マデ喰イ尽クシテクレルワァァァッ!』
激怒した魔蟲の群れは、一斉に巨大な漆黒の竜巻となってアルドに襲い掛かった。
「うわっ! このバッタ、すごい数で飛んできて危ないな! でも、この特製・殺虫スプレーのミストなら、どんなに数がいようと一網打尽だ!」
アルドは、襲い来る魔蟲の竜巻に向けて、スプレーのトリガーを限界まで押し込んだ。
――プシュワァァァァァァァァァァッ!!!!
アルドが噴射した『神仙防虫ミスト』が、魔蟲の群れと激突した瞬間。
星の全てを喰らい尽くすはずの強靭な魔界の昆虫たちは、アルドの「邪魔な害虫を安全な薬で駆除したい」という圧倒的で暴力的なまでの意思の前に、物理的に「シュワワワッ!」と音を立てて、まるで朝霧に溶けるようにその禍々しい姿を変質させ始めた。
『ギ、ギャァァァァァァァァッ!? な、何ダコノ異常ナ中和力ハ!? 我ガ全テヲ喰ラウ虚無ノ身体ガ、タダノ園芸用ノ薬デ浄化サレテイクゥゥゥッ!?』
「よし、薬が効いてきたぞ! このオーガニックスプレーは、悪い虫を駆除するだけじゃなくて、植物に栄養を与える成分も入ってるんだ!」
アルドがさらにスプレーを撒き散らすと、大宇宙の法則が完全にひれ伏した。
ミストを浴びた魔蟲たちの禍々しい虚無の魔力は完全に漂白され、代わりにアルドのスプレーが持つ『植物を豊かに育む』という概念が、物理的な限界を超えて魔蟲の存在そのものを書き換えていった。
『ア……ァァ……。我ノ、大宇宙ヲ喰ラウハズノ牙ガ、マルデ都合ノイイ【花ノ受粉ヲ手伝ウ為ノミツバチ】ノヨウニ……!? イヤ、ミストヲ浴ビル度ニ、我ガ呪イノ魔力ガ、異常ナマデニ心地ヨイ【絶対的ナ豊穣ト生命力】ニ変換サレテイクゥゥゥッ! 私ノ存在ガ、植物園ヲ枯ラスノデハナク、コウシテ王都ノ花々ヲ永遠ニ咲カセ続ケル「極上ノ全自動・黄金ノ益虫」トシテ機能スルコトガ、コレホドマデニ満タサレルコトダッタトハ……!』
虚無の捕食蝗害の凶悪な意思は、アルドの「オーガニック殺虫スプレー」によって完全に浄化され、書き換えられた。
万物を喰らう禍々しい魔蟲の群れは、気がつけば「ガラスドームの中を優雅に飛び回り、花々の受粉を手伝いながら極上の栄養を振りまく、超高性能な『永久・エコ神仙蝶(見た目は美しい黄金の蝶)』」へと姿を変えていたのである。
「よしよし! 嫌なバッタが全部綺麗な蝶々になって、なんだかすごくメルヘンな植物園になったぞ! 念のために『絶対防虫の保護ネット』をドームの隙間に張っておこう。これでみんな、安心してお花見ができるね!」
アルドがスプレーを片付けて額の汗を拭うと、植物園を覆っていた陰湿な空気は一瞬にして晴れ渡り、太陽の光を反射してキラキラと輝く『奇跡の神仙フラワーガーデン』へと進化を遂げていた。
***
一方その頃、王都の地下深くに広がる『黒き蓮』の本拠地では、阿鼻叫喚の地獄絵図が展開されていた。
「な、なんだこれはァァァッ!?」
ゼロスが絶叫する。
彼が魔蟲からエネルギーを吸い上げるために繋いでいた『魔力供給のパス』。そこから逆流してきたのは、魔蟲が喰らったエネルギーではなく、アルドが散布した『事象中和の神仙防虫ミスト(の概念)』だった。
パスを通じて地下要塞全体に【完全なる浄化と漂白】のエネルギーが充満していく。
「ヒィィッ! 賢者の石が……賢者の石がただの『巨大な石鹸の塊』に変わっていくゥゥッ!?」
「ゼロス様! 我々の作成した猛毒のポーションが、全て『極上のハーブティー』に書き換えられています! 呪いの魔導書も、ただの『家庭用ガーデニング雑誌』にッ!」
アルドの「害虫の発生源から綺麗に清掃する」という無自覚な意思は、魔蟲の親玉であるゼロスたちを「害虫の巣」と認識し、基地内のあらゆる悪意と闇のアイテムを強制的に【無害で清潔な日用品】へと書き換えてしまったのだ。
「ば、馬鹿な……。我がギルドの数百年の叡智が、ただの『大掃除』で消し飛ぶだと……!? どんなバケモノが相手だというのだ……!」
ゼロスがへたり込み、絶望の涙を流したその時。
「――ご苦労だったな、薄汚いドブネズミども。随分と『風通しのいい綺麗な部屋』になったじゃないか」
浄化された地下室の扉が静かに開き、音もなくシノンの短剣が閃いた。
扉の奥からは、レイヴンが神具の斧を肩に担ぎ、凄まじい威圧感を放ちながら現れる。そしてその後ろには、冷徹な執事服に身を包んだアーキヴァルと、大公レオハルトの姿があった。
「主の『害虫駆除』のおかげで、貴様らの薄汚いアジトの除菌は済んだようだな」
レイヴンが、冷酷な瞳で見下ろす。
「ヒィッ……! お、お許しを……! 我々は……!」
「証拠は十分に揃いましたよ、ゼロス殿。これにて、暗黒錬金術ギルド『黒き蓮』は完全解体です」
アーキヴァルが、分厚いバインダーから【完全なる破滅の請求書】を取り出し、ゼロスの目の前にドンッと突きつけた。
「さあ、この莫大な『事象漂白の手数料』、貴様らの身と魂を労働力に変えて、永遠に支払ってもらいましょうか」
シノンの冷たい宣告と共に、ゼロスと錬金術師たちは完全に意識を刈り取られ、荷袋へと詰め込まれていった。
***
数日後。日だまり郷の黄金の城塞。
「……終わりましたね。星を喰らう宇宙の魔蟲が、アルド様の腕によって見事な神仙の蝶々に成り下がりました。そして、逆流した浄化の波により、暗黒錬金術ギルドは文字通り『綺麗に清掃(壊滅)』されました」
記録係のアーキヴァルが、大公から送られてきた莫大な報酬と、植物園から届いた美しい神仙花のブーケを確認しながら、手帳の『対・暗黒錬金術ギルド・請求書』の最後のページに羽ペンを走らせ、ついに『完済(破滅)』のスタンプを押した。
「アルド殿が駆除したあの植物園、今では『奇跡の黄金蝶の楽園』と呼ばれ、その景観の美しさと癒やしの力から、世界中から観光客が押し寄せる名所になっているそうだな。ギルドの爆破計画など、完全に極上の庭造りの手伝いにされたというわけだ」
レイヴンが、暖炉の前でシロ(星狼)の背中を撫でながら、不敵に笑う。
「ええ。これにて、他国の暗躍組織も完全に根絶やしにしました。我々の情報網とアルド様の家事スキルが、奴らの野望を全て未然に打ち砕いたのです。奴らは今頃、城塞の地下でサタナス殿の指導のもと、一生分の『洗濯と掃除の強制労働』に励んでいることでしょう」
アーキヴァルの眼鏡の奥で、全てを計算し尽くした冷徹な死神の光が煌めいた。
最強の便利屋の「ただの害虫駆除」は、王都の消滅の危機をただの庭のメンテナンスとして解決し、悪徳ギルドの野望を粉砕するだけでなく、王国に最高の景観をもたらす奇跡の植物園を誕生させてしまったのである。
城塞の住人たちによる「能動的な悪の粉砕」は、国家を脅かす他国の暗躍組織に完全なる破滅の引導を渡し、また一つ、アルドの平穏な日常を守り抜いたのであった。
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