第85話:ただの浴場掃除と、猛毒の粘液獣の強制入浴剤化(暗黒錬金術ギルドの浅はかなる陰謀)
これまでの悪徳侯爵編が完結し、今回からは**「クランの情報網が新たな敵(他国の暗躍組織)の陰謀を事前に察知し、アルドの家事を利用して計画を未然に粉砕していく新章(3話構成のざまぁ編の第1話)」**となる【第85話】を執筆いたします。
メタ的な表現を完全に排除し、作中の世界観のまま、3000文字以上の特大ボリュームと緻密なディテールでお届けします。
第85話:ただの浴場掃除と、猛毒の粘液獣の強制入浴剤化(暗黒錬金術ギルドの浅はかなる陰謀)
黄金の城塞『日だまり郷』の朝は、いつにも増して清々しい空気に満ちていた。
城塞の中庭では、かつて絶対零度の星狼であったサモエド犬のシロと、神竜ポチが、アルドの作った手作りのフリスビーを追いかけて元気に駆け回っている。その傍らでは、大精霊女王ティターニアが朝露を集め、極上のハーブティーの準備を手伝っていた。
「みんなー! 朝ごはんができたよ! 今日は王都で買ってきた焼きたてのバゲットに、特製の『神仙ガーリックバター』と、森で採れたキノコたっぷりのクリームシチューだよ!」
エプロン姿のアルドが、湯気を立てる大鍋をダイニングテーブルに運んでくると、居候の大宇宙の覇者たちから歓声が上がった。
アルドが何気なく調合したガーリックバターは、一口かじるだけで体内のマナ回路が爆発的に拡張され、致死の呪いすらも浄化する『究極の霊薬バター』と化している。シチューの濃厚な香りが、城塞中を満たしていた。
そんな平和極まりない食卓の片隅で。
防音と防諜の魔法結界が幾重にも張られた長テーブルの端では、大公レオハルト、情報局長アーキヴァル、元・大賢者ゾルタンによる、極秘の『朝の戦術会議』が静かに進行していた。
「……大公閣下。先日の侯爵の失脚により、国内の腐敗貴族は一掃されました。しかし、我が情報局と、庭でうたた寝をしていた海神イルカ殿の『水脈感知』により、王都の地下水脈に新たな異常が確認されました」
アーキヴァルが、熱いハーブティーを口に運びながら、冷徹な瞳で報告書を大公に差し出した。
「国外の組織だな。……隣国の影に潜む、暗黒錬金術ギルド『黒き蓮』か」
大公レオハルトは、忌々しげにその名を口にした。
「はい。奴らはアステリア王国の弱体化を狙い、王都の魔力水脈の中心である『国営大公衆浴場』の源泉に、禁忌の錬金生物『猛毒の粘液獣』を放ちました」
ゾルタンが、魔力測定器に映るドス黒い緑色の波形を指し示す。
「この粘液獣は、触れたあらゆる液体を猛毒の酸に変え、さらに無限に増殖して水脈全体を汚染する大宇宙の害悪です。奴らの狙いは、王都の水を全て致死の毒に変え、国全体をパニックに陥れた上で、自らが製造した『高価な解毒薬』を売りつけて王国を経済的に支配することでしょう」
「人の命を天秤にかけ、水というインフラを汚染するとは。……どこまでも浅はかで下劣な連中だ」
大公は怒りで眉間を深く寄せた。
「ええ。ですが、我々が『事前に』その動きを完全に把握している以上、王都の水一滴すら汚させることはありません。敵の悪意が広がる前に、根源から綺麗に洗い流して差し上げましょう。……水回りの汚れといえば、アルド様にとって最も得意とする『お掃除』の領域ですからね」
アーキヴァルは、悪魔のように完璧な微笑みを浮かべ、手帳の真新しいページに『対・暗黒錬金術ギルド・請求書』と優雅な筆記体で書き込みながら、一枚の『依頼書』を迅速に作成した。
ちょうどそこへ、おかわり用のバゲットを切り分けてきたアルドに、アーキヴァルは深々と頭を下げて依頼書を差し出した。
「アルド様、美味しい朝食の最中に申し訳ありません。大公閣下より、急ぎの『水回り清掃の依頼』が入っております」
「おや、急ぎのお仕事かい? どれどれ……『王都の国営大公衆浴場の源泉パイプが、酷い湯垢とガンコなカビのせいで完全に詰まっており、悪臭のするドロドロのヘドロが湧いている。お湯が使えなくなる前に、至急源泉の清掃と配管の貫通をお願いしたい』……なるほど!」
アルドは、依頼書を見て真剣な表情でコクリと頷いた。
「お風呂の源泉がヘドロまみれになっちゃうなんて一大事だ! お風呂はみんなの疲れを癒やす一番大事な場所だからね。長年の湯垢とカビが固まって、スライムみたいになっちゃってるんだろう。よーし、今日は僕の特製『超強力・重曹バスクリーナー』と、『事象研磨のデッキブラシ』を持って、源泉から浴槽までピカピカに磨き上げてこよう!」
アルドが意気揚々と作業着(完全防水のオーバーオール)に着替え、巨大な清掃用具箱を持って部屋を出て行った後。
リビングの影から、レイヴンとシノンが音もなく立ち上がった。
「主の『お風呂掃除』の邪魔をする、薄汚い錬金術師のドブネズミどもは、俺たちが先に処理しておく。……さあ、奴らの組織を完全に解体するための、決定的な証拠集めの始まりだ」
クランメンバーたちによる、緻密な情報網に裏打ちされた「能動的な悪の事前粉砕」が、音もなく動き出したのである。
***
その頃、王都の大公衆浴場から少し離れた地下下水道の隠し部屋。
暗黒錬金術ギルド『黒き蓮』の幹部であるゼロスは、水晶球に映る源泉の様子を見つめながら、下劣な高笑いを上げていた。
「クックック……! 素晴らしいぞ。我がギルドの最高傑作『猛毒の粘液獣』が、源泉の魔力を喰らって凄まじい勢いで増殖している! あの強酸性のヘドロは、いかなる浄化魔法も受け付けん。数時間後には、王都のすべての井戸と浴場から、骨まで溶かす毒水が噴き出すことだろう!」
ゼロスは、傍らに控える錬金術師の部下たちに傲慢な視線を向けた。
「大公の奴らが慌てふためき、我々に解毒薬を求めて土下座する姿が目に浮かぶわ。行け、お前たちは源泉の周囲を見張り、粘液獣が確実に水脈を侵食していく様を記録してこい!」
自らの完璧な陰謀が進行していると信じて疑わない悪徳錬金術師の笑い声が、薄暗い地下室に虚しく響き渡っていた。
***
「よし、お風呂掃除の準備は完璧だ!」
アルドは、大公衆浴場の地下深くにある、源泉が湧き出す巨大な貯水槽の前に立ち、手作りの『事象中和の重曹バスクリーナー』と、柄の長い『概念払拭のデッキブラシ』を用意していた。
――当然ながら、その素材は常軌を逸している。バスクリーナーは、星の浄化灰と大精霊の涙を限界まで濃縮した『大宇宙のあらゆる毒素を中和する神仙洗剤』。デッキブラシは、世界樹の太い根を束ねて作った、次元の歪みや概念的汚染すらも物理的に削り落とす『究極の研磨具』である。
「うわぁ……。大公様が言っていた通り、これはひどいな。源泉の池が、真っ黒でドロドロのヘドロで埋め尽くされてるぞ。おまけに、なんだかツンとする嫌な臭い(強烈な酸の有毒ガス)がするし、ヘドロがブクブクと泡立って『巨大なナメクジのバケモノ』みたいに蠢いてる」
アルドは、ゴム手袋をはめながら、プロの清掃業者としてのダメ出しを始めた。
彼の驚異的な「日常フィルター(事象の誤認)」は、大宇宙の水脈を汚染する粘液獣の本体を、「長年放置されて異常発酵し、あまりの不衛生さで自立稼働し始めた極度にガンコな湯垢とカビの塊」だと完全に誤認していた。
「よし! こんなにヘドロが溜まっていたら、お湯が全部台無しになっちゃう! 一気に特製クリーナーで汚れを分解して、デッキブラシで源泉の底まで磨き上げてやるぞ!」
アルドは、腰から巨大なスプレーボトルを取り出し、致死の毒ガスが充満する貯水槽の中へと、鼻歌交じりに長靴でズンズンと踏み込んでいった。
『……ブクブクブク……? ナンダ、コノ矮小ナ人間ハ……? 我ガ絶対溶解ノ酸ノ沼地ノ中ヲ、ナゼ長靴ガ溶ケズニ歩イテイラレル!?』
猛毒の粘液獣は、触れた瞬間に骨まで溶けるはずの毒の沼の中を、平然とチャプチャプ歩いてくるアルドを見て激しく動揺した。アルドの事象改変オーラは、魔獣の放つ絶対の強酸を「ちょっと塩素の匂いがキツいお風呂のお湯」程度に強制的に緩和させていたのだ。
『コザカシイ! ナラバ直接、我ガ『万物溶解の粘液』デ魂ノ底マデ溶カシテクレルワァァァッ!』
激怒した粘液獣は、ヘドロで構成された巨大な触手を何本も突き出し、アルドを頭から丸呑みにしようと襲い掛かった。
「うわっ! この湯垢、すごくネバネバしてて服に付きそうだな! でも、この特製・重曹クリーナーの泡なら、どんなガンコな汚れも一発で分解できるぞ!」
アルドは、襲い来る粘液獣の巨大な本体に向けて、事象中和のバスクリーナーのトリガーを限界まで引き絞った。
――プシュワァァァァァァァァァァッ!!!!
アルドが噴射した『神仙洗剤の泡』が、粘液獣の放つ猛毒の触手と激突した瞬間。
星を腐海に変えるはずの強靭な毒のエネルギーは、アルドの「ガンコなお風呂の汚れを中和して落としたい」という圧倒的で暴力的なまでの意思の前に、化学反応を起こしたかのように「シュワワワワッ!」と音を立てて、ただの『水に溶けやすい無害な石鹸水』へと強制的に分解・中和され始めた。
『ギ、ギャァァァァァァァァッ!? な、何ダコノ異常ナ中和力ハ!? 我ガ全テヲ溶カス深淵ノ粘液ガ、タダノお風呂用洗剤デ泡ダラケニサレテ中和サレテイクゥゥゥッ!?』
「よし、汚れが完全に浮いてサラサラになってきたぞ! ここで一気に、デッキブラシで源泉の底まで磨き上げる!」
アルドは、世界樹の根で作られた『概念払拭のデッキブラシ』を両手で構え、泡だらけになって悶絶する粘液獣の本体に向かって、「ゴシゴシッ! キュッキュッ!」と小気味良い音を立てて激しく擦り始めた。
――キュピィィィィィィィンッ!!!!
大宇宙の法則が、アルドの「完璧なお風呂掃除」という意思に完全にひれ伏す。
デッキブラシが擦られた軌跡から、粘液獣の禍々しい猛毒の魔力は完全に拭き取られ、代わりにアルドの清掃が持つ『心身を癒やす究極の清潔感』という概念が、物理的な限界を超えて魔獣の存在そのものを書き換えていった。
『ア……ァァ……。我ノ、大宇宙ノ命ヲ奪ウハズノ猛毒ガ、マルデ都合ノイイ【お風呂ノお湯ヲ綺麗ニスル為ノ入浴剤】ノヨウニ……!? イヤ、磨カレル度ニ、我ガ呪イノ魔力ガ、異常ナマデニ心地ヨイ【極上ノリラックス効果ト美肌成分】ニ変換サレテイクゥゥゥッ! 私ノ存在ガ、水脈ヲ汚染スルノデハナク、コウシテ王都ノ人々ノ疲労ヲ癒ヤス「極上ノ全自動・アロマバススライム」トシテ機能スルコトガ、コレホドマデニ満タサレルコトダッタトハ……!』
猛毒の粘液獣の凶悪な意思は、アルドの「バスクリーナーとデッキブラシによる清掃」によって完全に浄化され、書き換えられた。
万物を溶かす禍々しい粘液は、気がつけば「源泉の底にペッタリと張り付き、湧き出すお湯を瞬時に濾過して、万病を癒やし肌を真珠のように輝かせる『奇跡の神仙アロマ成分』を絶え間なく溶かし込み続ける、超高性能な『エコ入浴剤精霊(見た目はピンク色でフローラルな香りのする可愛いスライム)』」へと姿を変えていたのである。
「よしよし! 嫌なヘドロの臭いは完全に消えて、なんだか高級なバラの花みたいないい香りがしてきたぞ! お湯も透き通ってキラキラしてるし、これでみんな、最高のお風呂に入れるね!」
アルドがデッキブラシを置いて額の汗を拭うと、貯水槽を覆っていた陰湿な空気は一瞬にして晴れ渡り、湧き出す源泉からは、七色に輝く極上のオーラを持ったお湯が溢れ出し始めた。
***
一方、その光景から少し離れた地下下水道の通路。
暗黒錬金術ギルドの幹部ゼロスが放った密偵たちは、大宇宙の災厄である粘液獣が、たった一つのスプレーとブラシで「可愛いピンク色の入浴剤スライム」に成り下がった光景に言葉を失い、恐怖と絶望で完全に腰を抜かしていた。
「ば、馬鹿な……。猛毒の粘液獣が、ただのお風呂の入浴剤扱いだと……!? ゼロス様が心血を注いだ王都汚染計画が、ただの『お風呂掃除』で……!」
「た、退却だ! 直ちにこの絶望的な異常事態をゼロス様に報告し……」
密偵たちが踵を返そうとした、まさにその時。
「――誰が、帰っていいと言った?」
下水道の影の中から、音もなくシノンの短剣が閃き、密偵たちの急所を正確に峰打ちで叩き伏せた。
退路の先からは、レイヴンが神具の斧を肩に担ぎ、凄まじい威圧感を放ちながら道を完全に塞いでいる。
「主の『お風呂掃除』の邪魔をする害虫どもめ。貴様らが喚び出した変なヘドロのせいで、主がどれだけブラシで擦るのに手間をかけたと思っている」
レイヴンが、冷酷な瞳で見下ろす。
「ヒィッ……! お、お許しを……! 我々は暗黒錬金術ギルドの……!」
「貴様らは、我らが情報局長への【素晴らしい第一の証拠品】だ。……黒き蓮、とやら。いずれ迎える『組織の完全解体』への第一歩、きっちりと踏ませてもらったぞ」
シノンの冷たい宣告と共に、密偵たちは完全に意識を刈り取られ、荷袋へと詰め込まれていった。
***
数日後。日だまり郷の黄金の城塞。
「……終わりましたね。星を溶かす宇宙の粘液獣が、アルド様の腕によって見事な美肌アロマ入浴剤スライムに成り下がりました」
記録係のアーキヴァルが、大公から送られてきた莫大な報酬と、王都の公衆浴場ギルドから山のように届いた感謝の寄せ書きを確認しながら、手帳の『対・暗黒錬金術ギルド・請求書』の第一ページ目に羽ペンを走らせる。
「ええ。記録完了。『第八十五種・猛毒の粘液獣の強制入浴剤化(ただのお風呂掃除)』。対象:大宇宙の災厄ヴェノム・ウーズ・ベヒーモス、および暗黒錬金術ギルドの密偵部隊。結果:アルド様の手作り洗剤とブラシによって粘液獣は永遠の癒やし成分へと概念を書き換えられ、裏で蠢く密偵はクランメンバーによって完全捕縛。他国の悪徳ギルドを追い詰めるための【第一の証拠】として回収完了しました」
「アルド殿が掃除したあの大公衆浴場、今では『奇跡の神仙美肌の湯』と呼ばれ、一度浸かれば十歳若返ると大評判になって、隣国からも貴族がお忍びで通ってくるほどになっているそうだな。ギルドの毒水計画など、完全に極上のバスタイムのダシに使われたというわけだ」
レイヴンが、暖炉の前でシロ(星狼)の毛並みをブラッシングするアルドを眺めながら、不敵に笑う。
「ええ。ですが、これはまだギルドを完全に解体し、真の黒幕を追い詰めるための序の口に過ぎません。奴らが次にどんな汚い手を使ってこようとも……我々の完璧な情報網とアルド様の【究極の家事】が、全てを未然に粉砕します」
アーキヴァルは、分厚いバインダーを優雅に閉じた。
「奴らが手駒を全て失い、組織が完全に崩壊し、自らの罪の重みに押し潰されるその瞬間まで、我々は淡々と【請求書】の項目を増やし続けるのみです」
アーキヴァルの眼鏡の奥で、全てを計算し尽くした冷徹な死神の光が煌めいた。
最強の便利屋の「ただのお風呂掃除」は、王都の毒物汚染の危機をただの水回り清掃として解決し、悪徳ギルドの野望を粉砕するだけでなく、王国に最高の癒やしをもたらす奇跡の温泉を誕生させてしまったのである。
城塞の住人たちによる「能動的な悪の粉砕」は、国家を脅かす他国の暗躍組織に完全なる破滅の引導を渡すための、完璧な手順で次なる『大掃除』の準備を進めていくのであった。
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