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辺境暮らしの便利屋冒険者、伝説のクランのリーダーに祭り上げられる 〜本人曰く「ただの日常」らしいです〜  作者: 盆ちゃん


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第83話:ただのシロアリ駆除と、暴食の魔界蟲の強制地下街化(悪徳貴族の絶望的な最終計画)

第83話:ただのシロアリ駆除と、暴食の魔界蟲の強制地下街化(悪徳貴族の絶望的な最終計画)

 黄金の城塞『日だまり郷』の朝は、大宇宙の理すら凌駕する究極の平穏と、食欲をそそる極上の匂いに包まれて幕を開ける。

 今日の朝食は、アルドが腕によりをかけた『特製・冷製ヴィシソワーズと、神仙卵の厚焼きサンドイッチ』であった。ひんやりと冷やされたジャガイモのスープは、口に含んだ瞬間に大地の豊かな滋味が広がり、分厚く焼かれた神仙卵のサンドイッチは、噛むほどに生命力が爆発的に活性化する絶品である。

「うむ……! このスープ、ただ冷たいだけでなく、内臓の隅々まで浄化されるような清涼感があるぞ! 主殿の料理は、もはや一つの宇宙を創世するに等しい奇跡だな!」

 元・魔界大帝サタナスが、スプーンを持つ手を震わせながら感涙に咽いでいた。

「キューッ!(おかわり! サンドイッチもっとおかわり!)」

 足元では、神竜ポチとモフモフの星狼シロが、顔中をパンくずだらけにしながらお皿を舐め回している。

「あはは、いっぱいあるからゆっくり食べてね。夏バテしないように、しっかり栄養をつけないと」

 アルドはエプロン姿でニコニコと笑いながら、次々と新しいサンドイッチを切り分けていた。

 そんな賑やかなダイニングの片隅、一枚の防音結界が張られた長テーブルでは、大公レオハルト、情報局長アーキヴァル、元・大賢者ゾルタンによる、極秘の『朝の作戦会議』が進行していた。

「……大公閣下。ヴァンダル侯爵の奴め、いよいよ後がなくなったようですな。我々の情報網と、結界に触れた僅かな振動から、奴が王都の地下深くで禁忌の術式を展開したことを確認しました」

 ゾルタンが、魔力測定器の禍々しい赤黒い波形と、地殻変動のデータが記された羊皮紙を大公の前に差し出した。

「侯爵が召喚したのは、古代の封印指定生物である『暴食の魔界蟲グラトニー・ワーム』です。この魔蟲は、あらゆる土砂や岩盤、魔法の結界すらも喰らい尽くし、無限に増殖する最悪の害虫。奴の狙いは、王城の真下を空洞化させ、王家ごと城を物理的に崩落させることでしょう」

「飢餓計画も大干ばつ計画も防がれた挙句、ついに王城の直接破壊に出たか。……己の権力欲のために、国の中枢を沈めようとは、もはや狂気の沙汰だな」

 大公レオハルトが、怒りで拳を強く握りしめ、テーブルを軋ませた。

「ええ、全く以て許しがたい外道です。ですが、我々が事前にその兆候を察知した以上、王城のレンガ一つすら崩れ落とすことは許しません。敵の悪意が牙を剥く前に、根こそぎ刈り取って差し上げましょう。……ちょうど、アルド様にうってつけの『お掃除』の口実があります」

 アーキヴァルは、手帳の真新しいページに『対・ヴァンダル侯爵・請求書』と優雅な筆記体で書き込みながら、ニッコリと完璧な笑みを浮かべ、ペンを滑らせて一枚の『依頼書』を迅速に作成した。

 ちょうどそこへ、出来立てのサンドイッチを運んできたアルドに、アーキヴァルは深々と頭を下げて依頼書を差し出した。

「アルド様、美味しい朝食の最中に申し訳ありません。実は大公閣下より、急ぎの『駆除と補修の依頼』が入っております」

「おや、急ぎのお仕事かい? どれどれ……『王城の地下深くにある古い基礎部分に、巨大なシロアリが発生して柱を囓っている。お城が傾く前に、至急シロアリの駆除と、囓られた穴の補修をお願いしたい』……なるほど!」

 アルドは、依頼書を見て真剣な表情でコクリと頷いた。

「シロアリは家の大敵だ! ましてやお城の基礎を囓るなんて、放っておいたら大惨事になっちゃう。見えないところに巣を作るから、普通の駆除剤じゃダメなんだよね。よーし、今日は僕の特製『一撃必殺・害虫駆除スモーク』と、絶対に崩れない『超硬質パテ』を持って、王城の地下を完璧に補強してこよう!」

 アルドが意気揚々と作業着に着替え、巨大な工具箱を持って部屋を出て行った後。

 リビングの影から、レイヴンとシノンが音もなく立ち上がった。

「主の『シロアリ退治』の邪魔をする、薄汚いネズミ(侯爵の密偵)どもは、俺たちが先に処理しておく。……これで、侯爵を追い詰める決定的な証拠が全て揃うというわけだ」

 クランメンバーたちによる、緻密な情報網に裏打ちされた「能動的な悪の粉砕」が、静かに、そして確実に動き出したのである。

 ***

 その頃、王城から少し離れた貴族街の地下水路。

 ヴァンダル侯爵は、カモフラージュされた隠し通路の奥で、水晶球に映る王城の地下の様子を見つめながら、狂ったような高笑いを上げていた。

「ガハハハハ! 見ろ、この圧倒的な暴食を! 『暴食の魔界蟲』が、王城の強固な魔法障壁すらも紙屑のように喰らい破っていくぞ!」

 水晶球の中では、体長数十メートルにも及ぶ巨大なミミズのような魔蟲が、鋭い牙の並んだ円形の口で王城の基礎岩盤を凄まじい勢いで削り取っていた。

「これで大公も国王も、城もろとも深い地の底へ真っ逆さまだ! 混乱に乗じて私が実権を握り、この国を我が物としてくれるわ!」

 侯爵が勝利を確信して叫んだその時、監視役の密偵が血相を変えて飛び込んできた。

「ほ、侯爵閣下! 魔界蟲のいる地下空洞に、麦わら帽子を被り、腰にスプレー缶とバケツをぶら下げた青年が降りてきました! なぜか魔界蟲の放つ強酸性の消化液を浴びても、服の裾すら溶けておらず……!」

「なんだと!? ええい、またあの忌まわしい便利屋か! なぜ私が動く先々に湧いて出るのだ! 構わん、魔界蟲の『空間捕食』で、奴を次元ごと丸飲みにしてしまえ!」

 ***

「よし、シロアリ駆除とパテ埋めの準備は完璧だ!」

 アルドは、王城の地下深く、巨大な空洞が広がる基礎部分に立ち、手作りの『事象殺虫の駆除スモーク』と、バケツに入った『概念凝固の超硬質パテ』を用意していた。

 ――当然ながら、その素材は常軌を逸している。駆除スモークは、猛毒のヒュドラの毒素を大精霊の清めの火で精製し、対象の存在概念のみを麻痺させる『絶対鎮静の燻煙』。そして超硬質パテは、大地の竜の鱗を粉末にし、世界樹の樹脂で練り上げた、大宇宙の崩壊すらも食い止める『究極の免震・補強材』である。

「うわぁ……。大公様が言っていた通り、これはひどいな。お城の基礎の柱がボロボロに囓られてるし、なんか『すっごくデカいシロアリの親玉』みたいなのが、ドロドロのヨダレを垂らしながら暴れ回ってるぞ。おまけに、トンネルが穴だらけでいつ崩れてもおかしくない」

 アルドは、首に巻いたタオルで汗を拭いながら、プロの便利屋としてのダメ出しを始めた。

 彼の驚異的な「日常フィルター(事象の誤認)」は、大宇宙の岩盤を喰らう魔界蟲の本体を、「長年放置されて異常繁殖し、巨大化してしまった極度に危険なシロアリの女王」だと完全に誤認していた。

「よし! こんなに囓られてたら、本当にお城が倒れちゃう! 一気にスモークでシロアリの動きを止めて、パテで穴をガッチリ埋めてやるぞ!」

 アルドは、腰から『事象殺虫の駆除スモーク』を取り出し、強酸の雨が降り注ぐ中を、鼻歌交じりにズンズンと魔界蟲に近づいていった。

『……ギギギギ……? ナンダ、コノ矮小ナ人間ハ……? 我ガ絶対溶解ノ酸ノ中ヲ、ナゼ微塵モ溶ケズニ歩イテイラレル!?』

 暴食の魔界蟲は、触れた瞬間に細胞が溶けるはずの消化液の中を、平然と歩いてくるアルドを見て激しく動揺した。アルドの事象改変オーラは、魔蟲の放つ絶対の酸を「ちょっとカビ臭い泥水が跳ねたな」程度に強制的に緩和させていたのだ。

『コザカシイ! ナラバ直接、我ガ『虚空ノ暴食牙』デ魂ノ底マデ喰イ破ッテクレルワァァァッ!』

 激怒した魔界蟲は、口を限界まで開き、アルドを空間ごと飲み込もうと襲い掛かった。

「うわっ! このシロアリ、すごく活きがいいな! でも、この特製スモークなら一発で大人しくなるぞ!」

 アルドは、襲い来る巨大な口に向けて、駆除スモークのピンを抜き、思い切り放り投げた。

 ――プシュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!!!

 アルドが放り投げたスモークから、『絶対鎮静の燻煙』が爆発的に噴き出し、魔界蟲の巨体を包み込んだ瞬間。

 星を喰らい尽くすはずの強靭な暴食の呪いは、アルドの「害虫の動きを止めて駆除したい」という圧倒的で暴力的なまでの意思の前に、物理的に「ピタッ!」と、まるで殺虫剤を浴びた虫のように、一瞬にして完全に硬直・麻痺してしまった。

『ギ、ギャガァァァァァァァッ!? な、何ダコノ絶対的ナ麻痺効果ハ!? 我ガ全テヲ喰ラウ身体ガ、タダノ煙デ強制的ニ動キヲ止メラレテイクゥゥゥッ!?』

「よし、動きが完全に止まったぞ! でもまだ穴だらけで危ないから、この『超硬質パテ』をシロアリの通り道ごと全部埋めて、お城の基礎を補強してあげよう!」

 アルドは、巨大なコテを取り出し、硬直した魔界蟲(シロアリの親玉)の上から、『概念凝固の超硬質パテ』をバシャバシャと豪快に塗りたくり始めた。

 ――ペタァァァァァァァァンッ!!!!

 大宇宙の法則が、アルドの「完璧な穴埋めと基礎補強」という意思に完全にひれ伏す。

 パテが塗り込まれた瞬間、魔界蟲が撒き散らしていた禍々しい破壊の魔力は完全に遮断・調律され、代わりにアルドのパテが持つ『絶対に崩れない究極の免震構造』の概念が、物理的な限界を超えて周囲の空間そのものを書き換えていった。

『ア……ァァ……。我ノ、大宇宙ヲ喰ラウハズノ牙ガ、マルデ都合ノイイ【地下空間ヲ掘削シテ補強スル為ノシールドマシン】ノヨウニ……!? イヤ、パテヲ塗ラレル度ニ、我ガ呪イノ魔力ガ、異常ナマデニ心地ヨイ【地下街ヲ支エル堅牢ナ柱】ニ変換サレテイクゥゥゥッ! 私ノ存在ガ、城ヲ崩スノデハナク、コウシテ王都ノ地下ニ完璧ナ防災空間ヲ創リ出ス「極上ノ全自動・地下鉄&免震ドローン」トシテ機能スルコトガ、コレホドマデニ満タサレルコトダッタトハ……!』

 暴食の魔界蟲の凶悪な意思は、アルドの「スモーク駆除とパテ埋め」によって完全に浄化され、書き換えられた。

 万物を喰らう禍々しい蟲は、気がつけば「王都の地下に無数の美しいトンネルを掘りながら、同時に絶対不壊のコーティングを施していく、超高性能な『全自動・地下街構築システム(見た目は可愛いモグラ型のゴーレム)』」へと姿を変えていたのである。

「よしよし! パテもしっかり固まって、お城の基礎は前よりずっと頑丈になったぞ! おまけに、シロアリが掘った穴が綺麗にコーティングされて、なんだか便利そうな地下通路みたいになったね!」

 アルドが額の汗を拭って立ち上がると、崩落の危機にあった王城の地下は一瞬にして輝きを取り戻し、いかなる地震や魔法攻撃すらも完全に吸収する『奇跡の絶対免震地下空間』へと進化を遂げていた。

「よかったよかった! これでお城の人たちも、安心して眠れるね!」

 アルドは、腰に手を当てて満足げに頷いた。

 一方、その光景から少し離れた地下水路の隠し通路。

 ヴァンダル侯爵が放った密偵たちは、大宇宙の災厄である魔界蟲が、たった一つの煙玉とパテで「可愛いモグラの地下鉄職人」に成り下がった光景に言葉を失い、恐怖と絶望で完全に腰を抜かしていた。

「ば、馬鹿な……。暴食の魔界蟲が、ただの穴埋め材扱いだと……!? 侯爵閣下の王城崩落計画が、全て、全てあの便利屋の『ただのシロアリ駆除』で潰されたというのか……!」

「た、退却だ! 直ちにこの異常事態を……」

 密偵たちが踵を返そうとした、まさにその時。

「――誰が、逃げていいと言った?」

 水路の影の中から、音もなくシノンの短剣が閃き、密偵たちの急所を正確に峰打ちで叩き伏せた。

 退路の先からは、レイヴンが凄まじい威圧感を放ちながら道を完全に塞いでいる。

「主の『駆除作業』の邪魔をする害虫どもめ。貴様らが喚び出した変な虫のせいで、主がどれだけパテを塗るのに手間をかけたと思っている」

 レイヴンが、斧を肩に担いだまま冷酷に見下ろす。

「ヒィッ……! お、お許しを……! 我々はヴァンダル侯爵閣下の……!」

「貴様らは、我らが情報局長への【最後の決定的な証拠品】だ。……ヴァンダル侯爵。これにて、貴様を追い詰めるための材料は、全て揃ったぞ」

 シノンの冷たい宣告と共に、侯爵の密偵たちは完全に意識を刈り取られ、通信用の魔導具ごと荷袋へと詰め込まれていった。

 ***

 数日後。日だまり郷の黄金の城塞。

「……終わりましたね。星を喰らう宇宙の魔界蟲が、アルド様の腕によって見事な地下街構築システムに成り下がりました」

 記録係のアーキヴァルが、大公から送られてきた莫大な報酬と、王都の建築ギルドからの涙ながらの感謝状を確認しながら、手帳の『対・ヴァンダル侯爵・請求書』の最後のページに羽ペンを走らせる。

「ええ。記録完了。『第八十三種・暴食の魔界蟲の強制地下街化(ただのシロアリ駆除とパテ埋め)』。対象:大宇宙の災厄グラトニー・ワーム、およびヴァンダル侯爵の密偵部隊。結果:アルド様の手作りスモークとパテによって魔界蟲は永遠の免震構造へと概念を書き換えられ、裏で蠢く工作員はクランメンバーによって完全捕縛。悪徳貴族を追い詰めるための【最後の証拠】として回収完了しました」

「アルド殿が直したあの王城の地下、今では『奇跡の地下大回廊』と呼ばれ、いかなる災害からも民を守る巨大なシェルター兼地下街として大発展しているそうだな。侯爵の崩落計画など、完全に王都のインフラ整備の手伝いをさせられたというわけだ」

 レイヴンが、暖炉の前でシロ(星狼)にブラッシングをしてやるアルドを眺めながら、不敵に笑う。

「ええ。これにて、侯爵の絶望的な足掻きも完全に手詰まりとなりました。我々の情報網とアルド様の家事スキルが、奴の野望を全て未然に打ち砕いたのです。大公閣下と国王陛下の承認も降り、我々の手元には、奴の悪逆非道を証明する完璧な『証拠の束』が完成しています」

 アーキヴァルは、分厚くなったバインダーをドンッと机に置いた。

「いよいよ次回。自らの罪の重さを知らぬ愚か者に、【完全なる破滅の請求書】を直接叩きつける時間がやってまいりました」

 アーキヴァルの眼鏡の奥で、全てを計算し尽くした冷徹な死神の光が煌めいた。

 最強の便利屋の「ただのシロアリ駆除」は、王城崩落の危機をただの基礎補修として解決し、悪徳貴族の野望を粉砕するだけでなく、王国に無敵の地下空間を誕生させてしまったのである。

 城塞の住人たちによる「能動的な悪の粉砕」は、国家を裏で操る真の黒幕に完全なる破滅の引導を渡すための、完璧な包囲網を完成させたのであった。

ここまでお読みいただきありがとうございます!少しでも面白いと感じたら、画面下から【ブックマーク】と【☆☆☆☆☆】の評価をいただけると、執筆の大きなモチベーションになります!

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