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辺境暮らしの便利屋冒険者、伝説のクランのリーダーに祭り上げられる 〜本人曰く「ただの日常」らしいです〜  作者: 盆ちゃん


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第8話:ただの冬支度と、常識を焼き尽くす魔力炉

第8話:ただの冬支度と、常識を焼き尽くす魔力炉

 日だまり郷に、冬の足音が近づいていた。

 朝晩の冷え込みが厳しくなり、吐く息も白く染まる季節。アルドは丸太小屋の中で、少し身震いしながら腕をさすった。

「うーん、さすがに冷えるね。そろそろ本格的な冬支度をしないと。みんなが風邪を引いたら大変だ」

 アルドはそう呟くと、小屋の隅にあった石材の山から、手頃な大きさの石をいくつか見繕い始めた。先日、裏山の川原で「耐熱性が高そうだから」という理由で拾い集めてきたものだ。

 彼は泥と藁を混ぜた即席の漆喰を使い、手際よく石を積み上げていく。目指すは、小屋の中をじんわりと暖めるお手製の暖炉、あるいは薪ストーブである。

 ――当然ながら、アルドが「川原で拾った耐熱性の高い石」と呼ぶそれは、ただの石ではない。

 神話の時代、神々が星を鍛造した際に使用したとされる絶対不壊の神造鉱石『星降る隕鉄アストラル・オリハルコン』である。本来ならば火山の火口に投げ込んでも溶けず、加工には国宝級の魔導具と数十人の高位魔導士が必要な代物だ。

 しかし、アルドの「みんなを暖めたい」という純粋な願いと、彼の指先から無意識に放出される『神域の事象改変能力』によって、隕鉄はまるで粘土のように柔らかく形を変え、完璧な気密性と排煙構造を持つ「超・魔力融合炉」へと姿を変えていった。

「よし、できた。あとは試しに火を点けてみよう」

 アルドは、レイヴンが割ってくれた薪(かつて世界を支えた世界樹の枝)を数本くべ、火打ち石でカチッと火をつけた。

 ぼわっ、と温かなオレンジ色の炎が上がり、隕鉄の炉壁に反射して小屋全体を優しい熱で包み込み始める。

「うんうん、いい感じだ。これなら厳しい冬も暖かく越せそうだね」

 アルドは満足げに頷き、暖炉の前に置いた椅子に深く腰掛けた。

 その頃。

 日だまり郷の入り口に、一人の男が立っていた。

 最高級のビロードのローブに身を包み、手には魔力を帯びた宝杖を握っている。彼の名はルシウス。フェンリス大公が直々に雇い入れた『特級魔導士』であり、数々の魔獣討伐や迷宮踏破の功績を持つ、当代きっての天才魔導士であった。

(……徴税官のガルドスが発狂して逃げ帰ったという「日だまり郷」。なるほど、確かに異常な魔力場が形成されている)

 ルシウスは、村を覆う薄い結界を『真理の魔眼』で観察し、ふんと鼻で笑った。

(だが、恐れるに足らず。どうせ古代の遺物か何かが偶然作動しているだけだろう。この私の『絶空の魔法』をもってすれば、このような田舎の結界など紙くず同然)

 ルシウスは自信満々に宝杖を掲げ、結界を破るための呪文を詠唱しようとした。

 ――しかし、彼が杖を振るう前に、スッと結界の一部が「開いた」。

「ほう? 私の圧倒的な魔力を恐れ、結界が自ら道を開けたか。賢明な判断だ」

 ルシウスは傲慢な笑みを浮かべ、堂々と村の中へと足を踏み入れた。

 (※注:結界が開いたのは、アルドが「暖炉の火を点けたから、少し換気をしておこう」と思って、小屋の窓と村の入り口の空間座標を一時的につなげて『風通し』を良くしただけである)

 村の中心、煙突からうっすらと煙を上げている丸太小屋を見つけ、ルシウスは迷わずそこへ向かった。

「この小屋から、最も濃密な魔力を感じる。ここに『資源』が隠されているに違いない」

 ドンッ!

 ルシウスは魔力で扉を強引に押し開け、小屋の中へと踏み込んだ。

「ここか! フェンリス大公の命により、特級魔導士ルシウスが査察に参った! この村の隠し財産を全て……」

 高圧的に宣言しようとしたルシウスの言葉は、最後まで続かなかった。

 小屋に入った瞬間、彼の全身を「暴力的なまでの心地よさ」が包み込んだのだ。

「な……ッ!?」

 ルシウスの目は、アルドが作った「ただの暖炉」に釘付けになった。

 特級魔導士である彼の眼には、その暖炉の真の姿がハッキリと見えてしまっていたのだ。

 石材として使われているのは、伝説の『星降る隕鉄』。

 くべられている薪は、無限の生命力を放つ『世界樹の枝』。

 そして、そこで燃えている炎は――ただの火ではない。火の精霊の最上位存在である『原始の精霊王』が、自ら喜んで這いつくばり、アルドの部屋を暖めるためだけにその身を燃やしている姿だった。

「ひ、ひぃぃ……ッ! な、なんだこれは!? 原始の精霊王が、ただの暖房代わりに使われているだと!? しかも、この炉から放射される熱……ただの熱波ではない! 魔力の根源そのものが、私の魔術回路を強制的に焼き尽くそうとして……!」

 アルドにとっては「じんわり温かい」程度の熱だが、常人とは比べ物にならないほど魔力感度が高いルシウスにとっては、それは太陽の中心に素っ裸で放り込まれたに等しい絶対的な魔力の暴風雨であった。

「あぁぁぁぁぁッ!! 私の、私の長年鍛え上げた魔術回路が、ショートする……ッ!!」

 ルシウスは宝杖を取り落とし、床をのたうち回りながら絶叫した。彼のプライドも、特級魔導士としての常識も、アルドの「冬支度」の前に完全に燃えカスとなって消え去っていく。

「あれっ!? お客さん!? どうしたんですか、突然転げ回って!」

 アルドは驚いて椅子から立ち上がり、ルシウスに駆け寄った。

「外が寒すぎて、急に暖かい部屋に入ったから体がびっくりしちゃったのかな? 大丈夫ですか? 今、温かいお茶を淹れますからね!」

 アルドがルシウスの背中をさすろうと手を伸ばした瞬間。

 ルシウスの脳内に、アルドから放たれる『神域の波動』が直接流れ込んだ。

「あ……あぁ……。なんという、美しさ……。私の信じていた魔法など、ただの子供の泥遊びに過ぎなかった……。これが、真理。これが、神の炎……」

 ルシウスは恍惚とした表情を浮かべ、両目から滝のように涙を流しながら、アルドの足元にひれ伏した。

「あぁ、偉大なる御方よ……! どうか、どうかこの愚かなルシウスを、貴方様の薪の端くれとしてお使いください! この身を燃やし尽くし、貴方様を暖めることこそが、私の生涯の目的です……!!」

「えっ? いや、薪の端くれって……人間は燃やしちゃダメだよ? 君、ちょっと疲れてるみたいだね。少し横になった方がいい」

 アルドはドン引きしながら、ルシウスを宥めようとした。

 その時、小屋の奥から賢者エルミナが姿を現した。彼女の目は、かつての同僚であるルシウスを氷のように冷たく見下ろしている。

「……随分と騒々しいと思えば。王都の『特級魔導士』殿ではありませんか。アルド様の平穏な冬支度を邪魔するとは、万死に値しますよ」

「エ、エルミナ様……!? なぜ、貴女ほどの御方がこのような辺境に……いや、そうか! 貴女も、この真理の炎に導かれたのですね!?」

「静かに。アルド様が困惑しておられます」

 エルミナは指先を弾き、ルシウスの声を魔術で封じた。

「アルド様。この者は、寒さでおかしくなってしまった哀れな迷い人のようです。私がお引き取りいただきましょう」

「あ、うん。お願いしていいかな? なんだか、薪になりたいって泣いてたから、火傷しないように気をつけてあげてね」

「承知いたしました」

 エルミナはルシウスの襟首を掴み、ズルズルと外へ引きずり出していく。

 そして、村の外れで記録係のアーキヴァルと合流した。

「……やれやれ。また一人、アルド様の圧倒的な力に精神を破壊された哀れな信者が増えましたね」

 アーキヴァルは手帳にサラサラとペンを走らせる。

「ええ。ですが、こいつは特級魔導士。そのまま帰せば王都で騒ぎになります。アーキヴァル、記憶の処理を」

「お任せを」

 アーキヴァルはルシウスの脳に直接干渉し、彼が「日だまり郷で見た光景」を全て『あまりにも美しい景色を見て、魔導士としての限界を悟り、引退を決意した』という記憶にすり替えた。

 数日後。

 王都のフェンリス大公の元に、「特級魔導士ルシウス、突然の引退と出家」の報が届き、大公が恐怖のあまり寝込むことになるのだが、それはまた別の話である。

 一方、当の日だまり郷では。

「うんうん、やっぱり冬はこれだね」

 アルドは、新設した暖炉(神造魔力炉)の前で、クランメンバーたちと一緒に特製のお茶を飲みながら、ほっこりと微笑んでいた。

「アルド様のお作りになったこの暖炉、本当に……心の底まで温まります」

 エルミナが、神聖な熱波に魂を浄化されながらうっとりと呟く。

 最強の便利屋の「ただの冬支度」は、特級魔導士の常識を焼き尽くし、クランメンバーの忠誠心をさらに強固なものへと変えたのであった。

ここまでお読みいただきありがとうございます!少しでも面白いと感じたら、画面下から【ブックマーク】と【☆☆☆☆☆】の評価をいただけると、執筆の大きなモチベーションになります!

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