第7話:ただのDIYと、天を穿つ神の柱
第7話:ただのDIYと、天を穿つ神の柱
日だまり郷に、澄み切った秋の空が広がっていた。
アルドは丸太小屋の庭先に立ち、腕を組んで思案顔を浮かべていた。彼の視線の先には、農具や薪が少し乱雑に積まれたスペースがある。
「うーん……最近、道具が増えてきたからな。冬になる前に、ちょっとした物置小屋でも増築しておこうか」
思い立ったら即行動。それが便利屋アルドの信条である。
彼は裏山から切り出してきた丸太を何本か庭に転がし、愛用のノコギリと木槌を取り出した。
「まずは柱を立てないといけないな。この木、ちょっと硬いけど丈夫そうだから柱にぴったりだ」
アルドがポンポンと叩いた丸太は、青みがかった不思議な樹皮に覆われていた。
――読者の皆様にはもうお馴染みかもしれないが、当然ただの木ではない。それは千年に一度しか発芽しないとされ、その枝一本で国家予算が吹き飛ぶ幻の霊木『竜宮樹』である。神話の時代に竜族が巣を作ったとされるほど強靭で、並の刃物では傷一つ付けられない。
しかし、アルドの持つ「ただのノコギリ」は、彼から無意識に流れ出る神話級の剣気(ノコギリ気?)によって、伝説の霊木をまるで発泡スチロールのようにギコギコと容易く切断していく。
「おや、アルド殿。また何か作られるのですか?」
薪割りを終えたレイヴンが、汗を拭いながら近づいてきた。
「うん、物置を作ろうと思ってね。レイヴン、ちょうどいいところに。少し柱を支えていてくれないかな」
「はっ! このレイヴン、アルド殿の柱の支えとなれるのであれば、腕の二、三本引きちぎれようとも決して離しはいたしません!」
「いや、そこまで気合入れなくていいから。ちょっと押さえててくれるだけでいいんだ」
苦笑いするアルドの指示に従い、レイヴンは竜宮樹の丸太を垂直に立てて両手で押さえた。
(……なんだ、この丸太は? 表面から恐ろしいほどの魔力波動を感じる。しかも、信じられないほど重い……!)
かつて大帝国で将軍を務め、巨大な魔獣の突進すら受け止めたレイヴンの筋力をもってしても、その丸太は冷や汗をかくほどの重量と威圧感を放っていた。
「よし、じゃあ基礎に打ち込むよ。指を挟まないように気をつけてね」
アルドは、自作の巨大な木槌を振り上げた。
そして、「よいしょ」という気の抜けた掛け声とともに、丸太の頂点を思い切り叩き下ろした。
――ドゴォォォォォォォォンッ!!!
日だまり郷の、いや、アステリア王国全土の地殻が揺れた。
アルドの木槌が竜宮樹に叩きつけられた瞬間、丸太は大地を貫くように深く突き刺さり、同時に樹皮の隙間から『極大の黄金の魔力』が間欠泉のように噴き出したのだ。
「な、なんだこれはぁぁぁぁッ!?」
レイヴンはあまりの魔力暴風に吹き飛ばされそうになりながらも、必死に柱にしがみついた。
天空に向かって一直線に伸びる黄金の魔力柱は、分厚い秋の雲をドーナツ状に吹き飛ばし、はるか宇宙の彼方まで届かんばかりの威容を誇っていた。竜宮樹がアルドの神撃を受け、大地の地脈と完全にリンクし、『世界樹の疑似苗木』として覚醒した瞬間であった。
「あれ? なんか今、ピカッと光った気がするけど……目が疲れてるのかな。よし、一本目完了!」
アルドは額の汗を拭いながら、完璧に垂直に突き刺さった柱を見て満足げに頷いた。
一方、その頃。
日だまり郷から数キロ離れた森の中に、異様な殺気を放つ四つの影が潜んでいた。
「……見えたぞ。あの薄汚い村が『日だまり郷』か」
彼らは隣国の裏社会を牛耳る暗殺組織が放った、最強の切り札『四天殺』。
これまでに派遣された凄腕の暗殺者や傭兵団がことごとく音信不通になったことを重く見た隣国の要人が、多額の報酬を積んで差し向けた、文字通り「国を滅ぼせる」レベルの超エリート集団だった。
「先遣隊の連中が消えたのは、おそらく強力な古代の防衛魔導具が作動したからだろう。だが、我らが持参したこの『破魔の黒水晶』を使えば、どんな結界も紙くず同然だ」
リーダー格の男が、禍々しい光を放つ黒い水晶を取り出し、邪悪な笑みを浮かべた。
「村の住人は一人残らず拷問にかけ、この地に隠された秘密を全て吐かせる。いいな、お前たち」
「ヒヒッ……久々に血祭りが楽しめそうだな」
「女子供も容赦はせんぞ」
四人が残虐な笑いを交わし、いざ村へ向かって駆け出そうとした、まさにその時。
――ズドォォォォォォォォォォォォンッ!!!!
彼らの目の前、日だまり郷の中心から、突如として天空を穿つ巨大な「黄金の光の柱」が立ち昇った。
「な……ッ!?」
「な、なんだあれは!? まさか、神の裁きの雷か!?」
四天殺の顔から、一瞬にして血の気が引いた。
彼らの鋭敏な魔力感知能力が、その光の柱から放たれる「宇宙の理すら書き換えるほどの絶対的な力」を正確に読み取ってしまったのだ。
『パキッ……ピキキッ……!』
「ああっ!? ば、馬鹿な! 国宝級のマジックアイテムである『破魔の黒水晶』が、光の柱の余波を浴びただけで砕け散っていく……!?」
リーダーの手の中で、どんな結界も破るとされた黒水晶が、まるで安物のガラス玉のように粉々に砕け散った。
圧倒的。理不尽。あまりの次元の違い。
自分たちが挑もうとしていた相手は、人間や魔導具などではない。世界を創造した神そのものではないのか。
「あ、あばばばば……っ!!」
「む、無理だ! あんなものに勝てるわけがないッ! 命が惜しければ逃げろォォォ!!」
数分前までの残虐な勢いはどこへやら。四天殺の暗殺者たちは、武器もプライドも全て放り出し、涙と鼻水を撒き散らしながら、来た道を四つん這いで逃げ帰っていった。
彼らの心には、生涯消えることのない「黄金の柱のトラウマ」が刻み込まれ、二度と裏社会の仕事に復帰することはなかったという。
――そして、数十分後。
日だまり郷の周囲の森をパトロールしていたシノンが、木の上から呆れたような視線を下ろしていた。
「……また、村の結界に触れる前に逃げ出したか。最近、アルド様の放つ威圧に耐えられず、勝手に自滅していくネズミが増えたな」
シノンはため息をつきながら、彼らが落としていった暗殺用の毒薬や武器を回収し、村の肥料にするために袋へ詰めていく。
一方、当のアルドは。
「よし、四本の柱が全部綺麗に立ったぞ! あとは屋根を乗せるだけだね」
庭先に突き刺さった四本の竜宮樹の柱(現在は周囲の魔素を吸い込み、うっすらと神々しい光を放つ絶対聖域の結界発生装置と化している)を見て、アルドは満面の笑みを浮かべていた。
「いやぁ、アルド様。素晴らしい手際です。この『四柱の神座』……いえ、物置小屋は、たとえ隕石が直撃しようとも傷一つ付かないことでしょう」
いつの間にか現れたアーキヴァルが、興奮で鼻息を荒くしながら手帳に猛烈な勢いでスケッチをしている。
「隕石って……アーキヴァルはいつも大げさだなぁ。ただのスコップとか肥料を入れるだけの小屋だよ」
アルドは笑いながら、お茶の準備をするために丸太小屋へと戻っていった。
「ただの肥料……すなわち、生命の源を保管する聖なる宝物庫ということですね。記録しておきましょう」
アーキヴァルはうやうやしく柱に一礼をした。
最強の便利屋アルドの「ただのDIY」は、こうして世界最高峰の暗殺部隊を戦わずして壊滅させ、村の防衛力をさらに理不尽なレベルへと引き上げたのであった。
日だまり郷の平穏は、今日も鉄壁である。
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