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辺境暮らしの便利屋冒険者、伝説のクランのリーダーに祭り上げられる 〜本人曰く「ただの日常」らしいです〜  作者: 盆ちゃん


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第75話:ただの水質改善と、灰燼の猛毒蛇の強制浄水器化(悪徳商会の愚行、第三の手)

第75話:ただの水質改善と、灰燼の猛毒蛇の強制浄水器化(悪徳商会の愚行、第三の手)

 黄金の城塞『日だまり郷』の朝は、清冽な空気と温かな日差しに包まれていた。

 庭先では、かつて絶対零度の星狼であったサモエド犬のシロが、神竜ポチや海神イルカさんと共に、アルドが作った特製のスプリンクラーから飛び出す水を追いかけて無邪気に跳ね回っている。

 アルドは、そんな平和な光景を縁側で微笑ましく眺めながら、手作りの清掃用具の点検に精を出していた。

「水回りのお掃除道具は、こまめなメンテナンスが命だからね。おっ、ちょうど大公様から新しい依頼書が届いたみたいだ」

 アルドは、伝書鳩が運んできた羊皮紙を開き、真剣な表情で読み上げ始めた。

「えーっと、『王都の生活用水を賄う大貯水池の水質が急激に悪化し、ヘドロのような悪臭と灰色の濁りが発生している。市民の飲料水が枯渇する危機に瀕しているため、至急、貯水池の清掃と濾過ろかフィルターの点検をお願いしたい』……なるほど」

 アルドは、ウンウンと頷きながら腕を捲り上げた。

「飲み水が濁っちゃうなんて大問題だ! 水は料理にも洗濯にも、生きていく上で一番大事なものだからね。貯水池の底に藻やゴミが溜まって、フィルターが完全に詰まっちゃったんだろう。よーし、今日は超強力な重曹クリーナーと、特大のメラミンスポンジを持って、貯水池をピカピカの天然水にしてこよう!」

 アルドが意気揚々と作業着に着替えるため部屋を出て行った後。

 リビングの奥で、その依頼書の裏に隠された真実を読み解いていた情報局長アーキヴァルと、元・大賢者ゾルタンは、氷のように冷ややかで、深い軽蔑を込めた視線を交わした。

「……先輩。アルド様は『藻やゴミの詰まり』と仰っていますが、大貯水池を満たしている魔力波形は最悪の部類です。触れたあらゆる液体を猛毒の灰に変える大宇宙の災厄――『灰燼の猛毒蛇アッシュ・ヒュドラ』が水源に放たれています」

 ゾルタンが、魔力測定器の針がドス黒い灰色に染まり、警告音を発しているのを見て顔をしかめた。

「ええ、把握しています。『黄金の天秤商会』の会頭、ギャリックの悪あがきもいよいよ最終段階ですね」

 アーキヴァルは、手帳の『対商会・請求書』のページを開き、万年筆のペン先を鋭く走らせた。

「『常闇の影魔獣』による光の独占、『腐朽の錆海竜』による海運の破壊……その両方をアルド様に(ただの清掃作業として)潰されたギャリックは、ついに王都の『生命線(水)』を人質に取りました。無料の公共インフラである貯水池を猛毒で潰し、自らの商会が溜め込んでいる『安全な水』を百倍の値段で売りつける。水がなければ人は数日で死にますから、どんな法外な値段でも買わざるを得なくなる……という、実に短絡的で吐き気を催す貧困ビジネスです」

「命の源を自身の金儲けのためだけに汚染するなど……もはや人間の業ではありませんね」

「その通りです。ですが、大宇宙の猛毒など、アルド様の『水回りのお掃除』の前では、ただの水垢やカビに過ぎません。アルド様には気持ちよく大貯水池の洗浄を楽しんでいただきましょう。我々は裏に潜む商会の工作員たちを最後の一匹まで狩り尽くします。いよいよ次回、あの欲ボケした悪徳商人に【完全なる破滅の請求書】を叩きつける時です」

 アーキヴァルの眼鏡の奥で、全てを計算し尽くした死神のような冷徹な光が煌めいた。

 ***

 その頃、王都の一等地に構える『黄金の天秤商会』の本部。

 執務室の巨大な窓から王都を見下ろしながら、会頭のギャリックは山のように積まれた金貨の束に頬ずりをし、狂ったような高笑いを上げていた。

「ガハハハハ! 見ろ、王都の愚民どもが、一杯の水を求めて我が商会の前に長蛇の列を作っておるわ! 金貨一枚でコップ一杯の水! 払えない奴は渇きに苦しんで死ぬがいい! 『灰燼の猛毒蛇』の放つ致死の灰毒は、いかなる聖水でも浄化できんからな!」

 ギャリックは、取り巻きの商人たちに傲慢な視線を向けた。

「聞けば、またあの大公の犬である『黄昏の守護者』とかいう便利屋が貯水池の清掃に向かったそうだが、笑止千万! あの毒蛇は触れた者から水分を奪い、一瞬で灰に変える化け物だ。ただの掃除屋が近づけば、自身の肉体ごとパサパサの灰と化して風に舞うわ! 奴らが無惨に消滅する様を、しかと見届けてまいれ!」

 金と権力に完全に狂った悪徳商人の高笑いが、豪華な部屋に虚しく響き渡っていた。

 ***

「よし、水回りのお掃除セットの準備は完璧だ!」

 アルドは、城塞の中庭で、手作りの『特製・重曹クエン酸クリーナー』と、巨大な『事象研磨のメラミンスポンジ』を用意していた。

 ――当然ながら、その素材は常軌を逸している。クリーナーは、星を浄化する聖なる灰と世界樹の樹液、そして大精霊の涙をブレンドした『概念中和の神水』。そしてメラミンスポンジは、天上界の神雲を極限まで圧縮して成形した、大宇宙の穢れすらも物理的に削り落とす『絶対払拭の白雲』である。

「水場は滑りやすいから、足元に気をつけないとね。レイヴンさん、シノンさん、今日も出張の荷物持ちと護衛をお願いできるかな?」

「承知した。泥水の中でコソコソと這い回るドブネズミどもは、俺たちが先に『掃除』しておこう」

 レイヴンが、肩に担いだ神具の斧をポンと叩いて不敵に笑う。

 かくして、アルド率いる便利屋一行は、王都の命綱である大貯水池へと向かった。

 ***

 王都の大貯水池は、凄惨な「灰燼の領域」と化していた。

 満々と湛えられていたはずの澄んだ水は、ドス黒い灰色のヘドロに変わり、ブクブクと致死の毒ガスを放つ気泡を立てている。水面に近づいた鳥や虫は、一瞬にして干からびて灰となり、周囲の草木も完全に枯れ果てていた。

『シュルルルル……!! 枯レロ……全テノ潤イヲ奪イ、我ガ死ノ灰ヘト還セ……!』

 貯水池の中央から、九つの巨大な蛇の首をもたげた『灰燼の猛毒蛇』が、新たな獲物アルドたちの接近を感知し、そのドス黒い瞳孔を収縮させた。

「うわぁ……。これは想像以上にひどいな。水が完全に灰色に濁ってドロドロになってるし、なんだかヘドロと水垢が固まって『たくさんの蛇みたいな形』になっちゃってるぞ。おまけに、ツンとする嫌な臭い(毒ガス)がする」

 アルドは、貯水池の縁に立ち、腕を組んでプロの便利屋としてのダメ出しを始めた。

 彼の驚異的な「日常フィルター(事象の誤認)」は、大宇宙の万物を灰に変える九頭の猛毒蛇を、「長年のメンテナンス不足で異常発生した、極度に巨大で悪臭を放つヘドロとカビの塊」だと完全に誤認していた。

「よし! みんなが早く美味しいお水を飲めるように、一気にヘドロを分解して、スポンジで磨き上げるぞ!」

 アルドは、腰から『特製・重曹クエン酸クリーナー』のスプレーボトルを取り出し、ヒュドラの巨大な顔の真正面へと、鼻歌交じりに軽やかな足取りで近づいていった。

『……ア? ナンダ、コノ矮小ナ人間ハ……? 我ガ絶対灰燼ノ毒ガスノ中デ、ナゼ肉体ガ崩壊セズニ立ッテイラレル!?』

 猛毒蛇は、触れた瞬間に細胞が灰になるはずの毒の沼地を、長靴を履いて平然とチャプチャプ歩いてくるアルドを見て激しく動揺した。アルドの事象改変オーラは、魔蛇の放つ絶対毒を「ちょっと塩素の匂いが強いかな」程度に強制的に緩和させていたのだ。

『コザカシイ! ナラバ直接、我ガ『死の灰毒アッシュ・ヴェノム』デ魂ノ底マデ溶カシテクレルワァァァッ!』

 激怒したヒュドラは、九つの口を大きく開き、極大の猛毒ブレスをアルドめがけて吐き出そうとした。

「うわっ! このカビの塊、厄介な汚れを撒き散らそうとしてるな! でも、この特製クリーナーの化学反応(中和)なら一発だ!」

 アルドは、襲い来るヒュドラの顔(カビの塊)に向けて、スプレーのトリガーを容赦なく引いた。

 ――プシュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!!!

 アルドが吹きかけた『概念中和の神水』が、ヒュドラの放つ毒ブレスと鱗に触れた瞬間。

 星を滅ぼすはずの強烈な猛毒は、アルドの「ガンコな水垢を中和してピカピカにしたい」という圧倒的で暴力的なまでの意思の前に、化学反応を起こしたかのように「シュワシュワシュワッ!」と音を立てて、ただの『無害な炭酸の泡』へと強制的に分解・中和されてしまった。

『ギ、ギャァァァァァァァァッ!? な、何ダコノ異常ナ泡ハ!? 我ガ全テヲ溶カス絶対ノ猛毒ガ、タダノ重曹デ中和サレテイクゥゥゥッ!?』

「よし、汚れが浮いてシュワシュワしてきたぞ! ここで一気に特大スポンジで磨き上げる!」

 アルドは、天上界の雲で作られた『絶対払拭のメラミンスポンジ』を両手で構え、悶絶するヒュドラの九つの首に向かって「キュキュッ! キュキュキュッ!」と小気味良い音を立てて激しく擦り始めた。

 ――キュピィィィィィィィンッ!!!!

 大宇宙の法則が、アルドの「完璧な水回り掃除」という意思に完全にひれ伏す。

 スポンジが擦られた軌跡から、ヒュドラの禍々しい猛毒の魔力は完全に拭き取られ、代わりにアルドの清掃が持つ『極上の浄化』の概念が、物理的な限界を超えて魔蛇の存在そのものを書き換えていった。

『ア……ァァ……。我ノ、大宇宙ヲ灰ニ変エルハズノ力ガ、マルデ都合ノイイ【水ヲ綺麗ニスル為ノ浄水フィルター】ノヨウニ……!? イヤ、磨カレル度ニ、我ガ呪イノ魔力ガ、異常ナマデニ心地ヨイ【極上ノミネラル成分ト微炭酸】ニ変換サレテイクゥゥゥッ! 私ノ存在ガ、水ヲ汚染スルノデハナク、コウシテ街ノ人々ニ最高ノ喉越シヲ提供スル「極上ノ炭酸ミネラルウォーター・サーバー」トシテ機能スルコトガ、コレホドマデニ満タサレルコトダッタトハ……!』

 灰燼の猛毒蛇の凶悪な意思は、アルドの「水回りの大掃除」によって完全に浄化され、書き換えられた。

 万物を灰に変える禍々しい九頭蛇は、気がつけば「貯水池の中央に鎮座し、泥水を一瞬で濾過して極上の微炭酸ミネラルウォーターをこんこんと湧き出させる、超高性能な『全自動・神仙浄水サーバー』」へと姿を変えていたのである。

「よしよし! ヘドロは完全に落ちたし、お水も透き通ってピカピカだ! ちょっとシュワシュワしてるけど、すごく美味しそうなお水になったぞ!」

 アルドがスポンジを洗って立ち上がると、貯水池を満たしていた灰色の泥水は一瞬にして輝きを取り戻し、太陽の光を反射してキラキラと輝く『神仙の微炭酸水』へと進化を遂げていた。

 一口飲めばあらゆる疲労と病が吹き飛び、魔力が限界突破する極上の水である。

 水汲みに来ていた市民たちは、貯水池が奇跡のように美しく澄み渡り、そこから湧き出る水が信じられないほど美味しいことに気づき、歓喜の声を上げて水を飲み始めた。

「よかったよかった! これで今日からまた、みんな美味しいお水が飲めるね!」

 アルドは、濡れた手をタオルで拭きながら、満足げに頷いた。

 一方、その光景から少し離れた貯水池の管理小屋の裏。

 天秤商会のギャリック会頭が放った工作員たちは、大宇宙の災厄である猛毒蛇が、たった一本の洗剤とスポンジで「炭酸水のサーバー」に成り下がった光景に言葉を失い、恐怖でガタガタと震えていた。

「ば、馬鹿な……。灰燼のヒュドラが、ただの浄水器扱いだと……!? 会頭の計画が、またしてもただの掃除で……!」

「退却だ! 直ちにこの絶望的な異常事態を報告し、溜め込んだ水を売り逃げしなければ!」

 工作員たちが踵を返そうとした、まさにその時。

「――誰が、帰っていいと言った?」

 小屋の影の中から、音もなくシノンの短剣が閃き、工作員たちの急所を正確に峰打ちで叩き伏せた。

 退路の先からは、レイヴンが凄まじい威圧感を放ちながら道を完全に塞いでいる。

「主の『水回り清掃』の邪魔をする害虫どもめ。貴様らが持ち込んだ変なカビのせいで、主がどれだけスポンジで擦るのに手間をかけたと思っている」

 レイヴンが、斧を肩に担いだまま冷酷に見下ろす。

「ヒィッ……! お、お許しを……!」

「貴様らは、我らが情報局長への良い『証拠品』だ。……黄金の天秤商会とやら。いよいよ迎える【完全なる破滅】への最後の布石、きっちりと拘束させてもらうぞ」

 シノンの冷たい宣告と共に、工作員たちは完全に意識を刈り取られ、荷袋へと詰め込まれていった。

 ***

 数日後。日だまり郷の黄金の城塞。

「……終わりましたね。星を灰に変える宇宙の魔蛇が、アルド様の腕によって見事な微炭酸ミネラルウォーター・サーバーに成り下がりました」

 記録係のアーキヴァルが、大公から送られてきた莫大な報酬と、王都の市民たちからの感謝の寄せ書きを確認しながら、手帳の『対商会・請求書』の最後のページに羽ペンを走らせる。

「ええ。記録完了。『第七十五種・灰燼の猛毒蛇の強制浄水器化(ただの貯水池清掃)』。対象:大宇宙の災厄アッシュ・ヒュドラ、および黄金の天秤商会の工作員。結果:アルド様の手作り洗剤によって魔蛇は永遠の浄化フィルターへと概念を書き換えられ、裏で蠢く工作員はクランメンバーによって完全捕縛。悪徳会頭を追い詰めるための【第三の証拠(決定打)】として回収完了しました」

「アルド殿が綺麗にしたあの大貯水池、今では『奇跡の神仙泉』と呼ばれ、王都中の人々が健康のために毎日炭酸水を飲んでいるそうだな。ギャリックとやらが高値で売りつけようとしていた普通の水など、完全にゴミクズ扱いだろう」

 レイヴンが、暖炉の前でシロ(星狼)にブラッシングをしてやるアルドを眺めながら、不敵に笑う。

「ええ。強欲な商人の足掻きもここまでです。我々は全ての証拠を束ね、国王陛下と大公閣下の承認を得ました」

 アーキヴァルは、分厚くなったバインダーをドンッと机に置いた。

「いよいよ次回。自らの罪と強欲の重さを知らぬ愚か者に、【完全なる破滅の請求書】を直接叩きつける時間がやってまいりました」

 アーキヴァルの眼鏡の奥で、全てを計算し尽くした冷徹な死神の光が煌めいた。

 最強の便利屋の「ただの水回り清掃」は、王都の水資源の危機をただの掃除として解決し、悪徳商会の野望を粉砕するだけでなく、王国に最高の健康をもたらす奇跡の炭酸泉を誕生させてしまったのである。

 忍び寄る商人の悪意の全ては、次回訪れる『圧倒的ざまぁ』の舞台を完璧に整えるための、ただの「前座の汚れ仕事」として処理され尽くしたのであった。

ここまでお読みいただきありがとうございます!少しでも面白いと感じたら、画面下から【ブックマーク】と【☆☆☆☆☆】の評価をいただけると、執筆の大きなモチベーションになります!

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