表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
辺境暮らしの便利屋冒険者、伝説のクランのリーダーに祭り上げられる 〜本人曰く「ただの日常」らしいです〜  作者: 盆ちゃん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
71/250

第71話:ただの煙突掃除と、怨嗟の氷獄魔神の強制床暖房化(聖職者の企み、第三の手)

第71話:ただの煙突掃除と、怨嗟の氷獄魔神の強制床暖房化(聖職者の企み、第三の手)

 黄金の城塞『日だまり郷』は、深い雪に包まれる冬の季節にあっても、春爛漫のような暖かさと活気に満ちていた。

 庭先に積もった雪は、氷の魔女グレイシアが「アルド様が滑って転ばないように」と完璧な摩擦係数に調整した極上のパウダースノーであり、そこでサモエド犬のシロ(元・絶対零度の星狼)が、子供のように雪にダイブして遊んでいる。

 アルドは、そんな平和な光景を縁側から眺めながら、熱々のココアを啜ってホゥと息を吐き出した。

「いやぁ、今年の冬は特別寒い気がするけど、この城塞は本当に快適だなぁ。さて、大公様から届いた今日の便利屋のお仕事は……っと」

 アルドは、傍らに置いた羊皮紙の依頼書を手に取った。

「えー、『王都の外れにある王立孤児院にて、冬の寒波で暖炉の煙突が完全に詰まってしまい、煙が逆流して火が焚けない。さらに地下の井戸水も凍結して濁ってしまったため、至急修理をお願いしたい』……なるほど」

 アルドは、真剣な表情でココアのマグカップを置いた。

「孤児院の子供たちが、こんな寒い日に暖炉も使えず、綺麗な水も飲めないなんて可哀想すぎる! 煙突の詰まりと水道管の凍結は、冬のトラブルの代表格だからね。よーし、今日は超強力なスチームクリーナーと特製の煙突ブラシを持って、孤児院をぽかぽかにしてあげよう!」

 アルドが急いで作業小屋へ駆け出していった後。

 リビングの奥で、その依頼書の裏に隠された真実を読み解いていた情報局長アーキヴァルと、元・大賢者ゾルタンは、静かな、しかし確かな怒りを孕んだ視線を交わした。

「……先輩。この孤児院の件、やはりヴェイン枢機卿の仕業ですね。単なる寒波や煙突の詰まりではありません。孤児院の地下深く、星の地脈に『怨嗟の氷獄魔神コキュートス・デーモン』を封じた呪符が打ち込まれています」

 ゾルタンが、魔力測定器の針が振り切れるほどの絶対零度と怨念の波形を見て、ギリッと歯を食いしばった。

「ええ。貴族街の『死邪樹』、下層区の『深淵の邪眼』と立て続けに我々(アルド様)に潰された枢機卿は、ついに最も抵抗力のない弱者……孤児院の子供たちを標的にしました」

 アーキヴァルは、手帳の『対教団・請求書』のページに、これまでで最も強く羽ペンを押し当てた。

「魔神が放つ怨念の冷気で子供たちを極限まで衰弱させ、濁った毒の水を飲ませて絶望させた後、教会の『奇跡』として救済を演出し、王室から莫大な寄付金と権力をせしめる……。もはや、同情の余地すら一ミリもない外道の極みです」

「罪のない子供たちを自身の権力闘争の道具にするなど……断じて許されません」

「その通りです。ですが、大宇宙の魔神が放つ冷気など、アルド様の『大掃除』の前ではただの隙間風に等しい。アルド様には孤児院を完璧にリフォームしていただきましょう。そして我々は……裏で監視している異端審問官を最後の一匹まで狩り尽くします。いよいよ次回、あの腐りきった枢機卿に【完全なる破滅】を宣告する時です」

 アーキヴァルの眼鏡の奥で、冷酷無比な処刑人の光が煌めいた。

 ***

 その頃、王都の大聖堂。

 ヴェイン枢機卿は、豪華な朝食を楽しみながら、窓の外の雪景色を見て傲慢な笑みを浮かべていた。

「フフフ……。孤児院のガキどもは、今頃『氷獄魔神』の放つ怨念の冷気で凍え、毒水に苦しんでいることだろう。あの魔神の冷気は物理的な温度ではなく、魂を直接凍らせる呪い。いかなる魔術の炎でも温めることはできん」

 ヴェインは、取り巻きの神官たちに命じた。

「頃合いを見て、私が直々に『神の奇跡』をもたらしに行こう。そして、あの大公の息の掛かった『黄昏の守護者』が向かっているそうだが、今度こそ終わりだ。怨嗟の冷気に触れ、魂を凍らせて砕け散る無惨な姿を、しかと見届けてまいれ!」

 己の絶対の勝利を確信する枢機卿の高笑いが、神聖なる大聖堂を汚していた。

 ***

「よし、修理道具の準備は完璧だ!」

 アルドは、城塞の中庭で、手作りの『高圧スチームクリーナー』と『事象払拭の煙突ブラシ』を用意していた。

 ――当然ながら、その素材は常軌を逸している。スチームクリーナーのボイラー部分には、超新星爆発の化身イグニス・ノヴァの『絶対燃焼の星炎』が封じ込められ、噴射される蒸気は大精霊女王の浄化水。煙突ブラシは、世界樹の枝に『次元創世龍ウロボロス・プライムの髭』を巻きつけた、空間の歪みすらも削り落とす究極の掃除道具である。

「孤児院の子供たちを早く温めてあげなきゃ! レイヴンさん、シノンさん、今日も出張の荷物持ちと護衛をお願いできるかな?」

「承知した。孤児院の周りに群がる薄汚い害虫どもは、俺たちが先に『掃除』しておこう」

 レイヴンが、肩に担いだ神具の斧をポンと叩いて不敵に笑う。

 かくして、アルド率いる便利屋一行は、特急の馬車で王都の外れにある孤児院へと向かった。

 ***

 王立孤児院は、凄惨な「氷獄の領域」と化していた。

 建物の外壁はドス黒い怨念の氷で覆われ、窓ガラスは凍りついて真っ白になっている。煙突からは不気味な黒い冷気が逆流し、地下の井戸からは猛毒の瘴気を孕んだ泥水が湧き出していた。子供たちは薄い毛布に包まり、ガタガタと震えながら泣き声を上げている。

『ルルォォォォォォォォッ……!! 凍レ……全テノ希望ヲ奪イ、永遠ノ絶望ニ沈メ……!』

 地下に陣取る怨嗟の氷獄魔神は、新たな獲物アルドたちの接近を感知し、さらに強烈な魂の凍結呪縛を放ち始めた。

「うわぁ……。これは想像以上にひどいな。建物全体がカチンコチンに凍ってるし、煙突の詰まりが酷すぎて、隙間風のレベルじゃない冷気が吹き込んでるぞ。おまけに、配管が凍破して地下の水が泥だらけだ」

 アルドは、孤児院の扉を開け、子供たちの惨状を見て顔をしかめた。

 彼の驚異的な「日常フィルター(事象の誤認)」は、大宇宙の絶望を撒き散らす魔神と呪いの氷を、「長年のメンテナンス不足で煙突が完全に詰まり、配管が破裂してしまった、非常に劣悪な住環境」だと完全に誤認していた。

「みんな、もう大丈夫だよ! すぐにお部屋をぽかぽかにして、綺麗な水が飲めるようにするからね!」

 アルドは、子供たちに優しく微笑みかけると、背負っていた『高圧スチームクリーナー』のノズルを構え、地下へと通じる配管の入り口に向かってトリガーを引いた。

「まずは配管の解氷と泥抜きだ! そぉいッ!」

 ――プシュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!!!

 アルドが噴射した『絶対燃焼の浄化スチーム』が、氷獄魔神の呪いの氷に触れた瞬間。

 魂を凍らせるはずの大宇宙の絶望は、アルドの「子供たちを温めてあげたい」という圧倒的で暴力的なまでの優しさと意思の前に、シュゥゥゥッと音を立てて、ただの『水垢と霜』として強制的に溶かされ、漂白され始めた。

『ギ、ギャァァァァァァァァッ!? な、何ダコノ異常ナ熱量ハ!? 我ガ全テヲ凍ラセル怨念ノ氷獄ガ、タダノ高圧洗浄機デ溶カサレテイクゥゥゥッ!?』

 地下から魔神の絶末魔が響き渡るが、アルドには「氷が溶けて配管が通る音」にしか聞こえていない。

「よし、配管の氷は溶けたぞ! 次は煙突の詰まりを一気に貫通させる!」

 アルドは、暖炉の前に立ち、『事象払拭の煙突ブラシ』を勢いよく煙突の中へと突き入れた。

「ガンコなスス汚れめ! これでどうだ!」

 アルドがブラシを上下に「ゴシゴシッ!」と擦るたび、大宇宙の法則が完全にひれ伏す。

 煙突の中に巣食っていた魔神の怨念の本体は、次元を削るブラシによって物理的に「ただの邪魔なスス汚れ」として削り落とされ、浄化されていく。

『ア……ァァ……。我ノ、大宇宙ノ絶望ヲ司ルハズノ怨嗟ガ、マルデ都合ノイイ煙突ノススノヨウニ払イ落トサレテイク……!? イヤ、削ラレル度ニ、我ガ呪イノ魔力ガ、異常ナマデニ心地ヨイ【ぽかぽかトシタ温もり】ニ変換サレテイクゥゥゥッ! 私ノ存在ガ、人々ヲ凍ラセルノデハナク、コウシテ子供タチヲ温メル「極上ノ床暖房システム」トシテ循環スルコトガ、コレホドマデニ満タサレルコトダッタトハ……!』

 氷獄魔神の凶悪な意思は、アルドの「大掃除」によって完全に浄化され、書き換えられた。

 地下に封じられていた魔神の本体は、気がつけば「孤児院全体を足元から優しく包み込み、同時に井戸水を最高品質のミネラルウォーターへとろ過する、超高性能・全自動エコ床暖房&浄水システム」へと姿を変えていたのである。

「よしよし! 煙突はスッキリ通ったし、配管の泥も抜けた! 暖炉に火を入れるよ!」

 アルドが暖炉に薪をくべると、パチパチと心地よい音を立てて炎が燃え上がり、同時に床下から魔神(床暖房)の極上の温もりが部屋全体に広がっていった。

 凍えていた子供たちの頬に赤みが戻り、彼らは温かい床に寝転がって「あったか〜い!」と歓声を上げ始めた。さらに、アルドがキッチンで出した水は、大精霊の加護を受けた甘くて美味しい奇跡の湧き水へと変わっていた。

「よかったよかった! これで今年の冬は風邪を引かずに過ごせるね!」

 アルドは、腰に手を当てて満足げに頷き、子供たちにホットミルクを振る舞い始めた。

 一方、その光景から少し離れた孤児院の裏路地。

 枢機卿ヴェインが放った黒衣の異端審問官たちは、大宇宙の災厄である氷獄魔神が、たった一本のスチームクリーナーとブラシで「床暖房」に成り下がった光景に言葉を失い、恐怖で腰を抜かしていた。

「ば、馬鹿な……。怨嗟の魔神が、ただの暖房器具扱いだと……!? 枢機卿閣下の計画が、またしてもただの掃除で……!」

「退却だ! 直ちにこの絶望的な異常事態を報告し、枢機卿閣下をお止めしなければ!」

 異端審問官たちが逃げ出そうとした、まさにその時。

「――誰が、帰っていいと言った?」

 雪の降る路地の影の中から、音もなくシノンの短剣が閃き、審問官たちの急所を正確に峰打ちで叩き伏せた。

 路地の出口からは、レイヴンが凄まじい威圧感を放ちながら退路を完全に塞いでいる。

「主の『配管修理』の邪魔をする害虫どもめ。貴様らが持ち込んだ変な氷のせいで、主がどれだけ掃除に手間をかけたと思っている」

 レイヴンが、斧を肩に担いだまま冷酷に見下ろす。

「ヒィッ……! お、お許しを……!」

「貴様らは、我らが情報局長への良い『証拠品』だ。……教団の枢機卿とやら。いよいよ迎える【完全なる破滅】への最後の布石、きっちりと拘束させてもらうぞ」

 シノンの冷たい宣告と共に、審問官たちは完全に意識を刈り取られ、荷袋へと詰め込まれていった。

 ***

 数日後。日だまり郷の黄金の城塞。

「……終わりましたね。星の魂を凍らせる宇宙の魔神が、アルド様の腕によって見事な床暖房システムに成り下がりました」

 記録係のアーキヴァルが、孤児院の院長からの涙ながらの感謝状を確認しながら、手帳の『対教団・請求書』の最後のページに羽ペンを走らせる。

「ええ。記録完了。『第七十一種・怨嗟の氷獄魔神の強制床暖房化(ただの煙突掃除と配管修理)』。対象:大宇宙の災厄コキュートス・デーモン、および聖サンクトゥス教団の異端審問官。結果:アルド様の手作りクリーナーによって魔神は極上の温もりへと概念を書き換えられ、裏で蠢く工作員はクランメンバーによって完全捕縛。枢機卿を追い詰めるための【第三の証拠(決定打)】として回収完了しました」

「アルド殿が直したあの孤児院、今では『大天使の加護を受けた奇跡の家』と呼ばれ、大公閣下の支援もあって子供たちは毎日お腹いっぱい食べているそうだな。枢機卿とやらは、自らの計画が全て裏目に出たことに激怒し、自ら動かざるを得ない状況に追い込まれているだろう」

 レイヴンが、暖炉の前でシロ(星狼)にホットミルクを与えるアルドを眺めながら、不敵に笑う。

「ええ。愚かな権力者の足掻きもここまでです。我々は全ての証拠を束ね、国王陛下と大公閣下の承認を得ました」

 アーキヴァルは、分厚くなったバインダーをドンッと机に置いた。

「いよいよ次回。自らの罪の重さを知らぬ腐れ外道に、【完全なる破滅の請求書】を叩きつける時間がやってまいりました」

 アーキヴァルの眼鏡の奥で、全てを計算し尽くした冷徹な死神の光が煌めいた。

 最強の便利屋の「ただの煙突掃除」は、孤児院の呪いをただの冬のトラブル修理として解決し、教団の野望を粉砕するだけでなく、子供たちに最高の温もりをもたらす奇跡の空間を誕生させてしまったのである。

 忍び寄る聖職者の悪意の全ては、次回訪れる『圧倒的ざまぁ』の舞台を完璧に整えるための、ただの「前座の汚れ仕事」として処理され尽くしたのであった。

ここまでお読みいただきありがとうございます!少しでも面白いと感じたら、画面下から【ブックマーク】と【☆☆☆☆☆】の評価をいただけると、執筆の大きなモチベーションになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ