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辺境暮らしの便利屋冒険者、伝説のクランのリーダーに祭り上げられる 〜本人曰く「ただの日常」らしいです〜  作者: 盆ちゃん


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第70話:ただの窓拭きと、深淵の邪眼の強制ステンドグラス化(聖職者の企み、第二の手)

第70話:ただの窓拭きと、深淵の邪眼の強制ステンドグラス化(聖職者の企み、第二の手)

 黄金の城塞『日だまり郷』の冬は、どこまでも暖かく平和であった。

 庭の雪原では、モフモフのサモエド犬に成り下がった絶対零度の星狼『シロ』が、神竜ポチとじゃれ合いながら雪煙を上げて駆け回っている。その光景を温かいリビングの窓越しに眺めながら、アルドは手作りのモップやガラスワイパーの点検に余念がなかった。

「いやぁ、前の庭木剪定のお仕事、綺麗に丸くカットできですごく喜んでもらえたなぁ。おかげで特別ボーナスも弾んでもらえたし、今日のシチューはお肉増量だ」

 アルドがニコニコと笑いながら、大公から送られてきた新たな依頼書を広げる。

「えーっと、今日の便利屋のお仕事は……『王都の下層区にある古い礼拝堂のメンテナンス。ステンドグラスの汚れが酷くて光が入らず、鐘楼の鐘もひどい錆で嫌な音が鳴るため、窓拭きと鐘の修理をお願いしたい』か」

 アルドは、ウンウンと頷きながら腕を捲り上げた。

「教会や礼拝堂は、みんなの心の拠り所だからね。窓が汚れて暗かったり、鐘の音が変だったりしたら、お祈りに来る人たちも暗い気持ちになっちゃう。よーし、今日はピカピカに窓を磨き上げて、綺麗な鐘の音を響かせてこよう!」

 アルドが意気揚々と作業着に着替えに行った後。

 リビングのテーブルでその依頼書の写しを眺めていた情報局長アーキヴァルと、元・大賢者ゾルタンは、氷のように冷徹な眼差しを交わした。

「……先輩。この下層区の礼拝堂の件、やはりヴェイン枢機卿の仕業ですね。ステンドグラスの汚れではなく、そこに嵌め込まれているのは、神話の時代に封印された『深淵の邪眼アビス・アイ』。そして鐘楼に吊るされているのは、聞いた者の精神を破壊する『狂気の叫び鐘』です」

 ゾルタンが、魔力測定器の禍々しい数値を見て顔をしかめた。

「ええ。貴族街での『死邪樹』の計画をアルド様に(ただの剪定として)潰された枢機卿は、今度は下層区の貧しい民たちを標的にしたのです。邪眼が放つ絶望の光と、狂気の鐘の音で下層区一帯を精神汚染し、自我を失った暴徒と化すことで王都を大混乱に陥れる。そして、教会が『奇跡の浄化』と称して介入し、救世主としての権力を完全に掌握する……実に吐き気を催すマッチポンプです」

 アーキヴァルは、手帳の『対教団・請求書』のページを開き、羽ペンを走らせた。

「人々の信仰と魂を弄ぶ外道。……ですが、大宇宙の邪眼など、アルド様の『窓拭き』の前にはただの油汚れに等しい。アルド様には気持ちよく大掃除をしていただきましょう。我々は裏に潜む教団の監視役たちを狩り、枢機卿の首を絞める【第二の証拠】を回収するのみです」

 二人の瞳の奥で、いずれ訪れる『完全なる破滅』を敵に叩きつけるための、残酷なまでの知の光が煌めいた。

 ***

 その頃、王都の大聖堂。

 黄金の法衣に身を包んだヴェイン枢機卿は、苛立ちを隠せない様子で神殿の床を歩き回っていた。

「忌まわしい大公の犬どもめ……! 我がクリフォトの死邪樹を、あろうことか『丸型のトピアリー』に変えて無力化するとは……!」

 ヴェインはギリッと歯を軋ませたが、すぐに持ち前の傲慢な笑みを取り戻した。

「だが、今度こそ終わりだ。下層区の礼拝堂に仕掛けた『深淵の邪眼』は、視界に入れた者の脳髄を恐怖で焼き尽くす精神干渉の極致。物理的な刃(剪定バサミ)では決して切ることはできん! あの便利屋どもが礼拝堂に入った瞬間、邪眼の光と狂気の鐘の音を浴びて、発狂して同士討ちを始めるだろう。その無惨な姿を、しかと見届けてまいれ!」

 ヴェインの命令に、背後に控えていた黒衣の異端審問官たちが、音もなく頭を下げて闇に溶けていった。

 ***

「よし、お掃除セットの準備は完璧だ!」

 アルドは、城塞の中庭で、手作りの『特製ガラスクリーナー』と『窓拭き用スクイージー』、そして『防錆潤滑油』を用意していた。

 ――当然ながら、その素材は常軌を逸している。ガラスクリーナーは、大精霊女王の清水と瘴気神の浄化精油を完璧な比率でブレンドした『概念漂白の聖水』。スクイージーのゴム部分は、深淵の海神リヴァイアサンの極薄の鱗を加工した『絶対事象払拭ブレード』。そして潤滑油は、星喰いスライムの粘液をベースにした『摩擦係数ゼロの宇宙潤滑剤』である。

「高いところの作業もあるから、安全第一でいこう! レイヴンさん、シノンさん、今日も出張のお供をお願いできるかな?」

「承知した。礼拝堂の周りをウロつくドブネズミどもは、俺たちが先に『掃除』しておこう」

 レイヴンが、肩に担いだ斧をポンと叩いて不敵に笑う。

 かくして、アルド率いる便利屋一行は、陰鬱な空気に包まれた王都の下層区へと向かった。

 ***

 下層区の古い礼拝堂の周囲は、凄惨な「狂気の領域」と化していた。

 礼拝堂の巨大な丸窓には、ドス黒い紫色の魔力を放つ巨大な目玉(深淵の邪眼)がギョロギョロと蠢いており、上空の鐘楼からは、耳を塞ぎたくなるような不協和音(狂気の叫び鐘)が鳴り響いている。周囲の住人たちは、頭を抱えてうずくまり、絶望の幻覚に苛まれてうわ言を呟いていた。

『ギョロリ……。見ルガイイ……大宇宙ノ深淵ヲ……。全テノ希望ヲ捨テ、永遠ノ狂気ニ沈メ……!』

 礼拝堂に組み込まれた深淵の邪眼は、新たな獲物アルドたちの接近を感知し、その瞳孔を不気味に収縮させた。

「うわぁ……。これは想像以上にひどいな。ステンドグラスがドロドロの油汚れと水垢で真っ黒になっちゃってて、なんだか『大きな目玉』みたいな不気味な模様に見えるぞ。おまけに、鐘の錆びる音もキーキー言ってて耳障りだ」

 アルドは、礼拝堂の前に立ち、首に巻いたタオルで口元を覆いながらプロの清掃業者としてのダメ出しを始めた。

 彼の驚異的な「日常フィルター(事象の誤認)」は、大宇宙の狂気を撒き散らす邪眼と呪いの鐘を、「長年放置されて得体の知れないカビや油汚れがこびりついた窓ガラスと、錆び付ききった古い鐘」だと完全に誤認していた。

「よし! 住人のみんながこれ以上不快な思いをしないように、一気に窓を磨いて、鐘に油を差すぞ!」

 アルドは、腰から『特製ガラスクリーナー』のスプレーボトルを取り出し、邪眼が睨みつける丸窓の真正面へと、軽やかな足取りでハシゴを登っていった。

『……ア? ナンダ、コノ矮小ナ人間ハ……? 我ガ絶対狂気ノ視線ノ真正面ニ立ッテ、ナゼ正気ヲ保ッテイラレル!?』

 邪眼は、発狂するはずの人間が鼻歌交じりに近づいてくるのを見て、激しく動揺した。アルドの事象改変オーラは、邪眼の放つ狂気の精神干渉を「ちょっとホコリっぽくて目がチカチカする」程度に強制的に緩和させていたのだ。

『コザカシイ! ナラバ直接、我ガ呪イノ視線デ脳髄ヲ溶カシテクレルワァァァッ!』

 激怒した邪眼は、瞳に極大の呪詛を集中させ、アルドめがけて放とうとした。

「うわっ! 汚れがこびりついててガンコそうだな! でも、この特製クリーナーなら一発だ!」

 アルドは、邪眼のど真ん中に向けて、スプレーのトリガーを容赦なく引いた。

 ――プシュッ! プシュシュシュシュッ!!!!

 アルドが吹きかけた『概念漂白の聖水』が、邪眼の表面に付着した瞬間。

 星の精神を破壊するはずの呪詛の塊は、アルドの「窓の汚れをピカピカに落としたい」という圧倒的で暴力的なまでの意思の前に、シュゥゥゥッと音を立てて、ただの『水に溶けやすい泥汚れ』として強制的に分解され始めた。

『ギ、ギャァァァァァァァァッ!? な、何ダコノ液体ハ!? 我ガ全テヲ狂ワセル深淵ノ瞳ガ、タダノ洗剤デ泡ダラケニサレテイクゥゥゥッ!?』

「よし、汚れが浮いてきたぞ! ここで一気にスクイージーで拭き取る!」

 アルドは、リヴァイアサンの鱗で作られた『絶対事象払拭ブレード』を窓の上部に当て、下に向かって「キュキュッ!」と小気味良い音を立てて引き下ろした。

 ――キュピィィィィィィィンッ!!!!

 大宇宙の法則が、アルドの「完璧な窓拭き」という意思に完全にひれ伏す。

 ブレードが通過した軌跡から、深淵の邪眼の禍々しい紫色の魔力は完全に拭き取られ、代わりに「七色の聖なる光を放つ、極上のモザイク・ステンドグラス」へと概念が強制的に書き換えられてしまった。

『ア……ァァ……。我ノ、大宇宙ノ絶望ヲ司ルハズノ瞳ガ、マルデ都合ノイイ光ノ反射板ノヨウニ……!? イヤ、拭キ取ラレル度ニ、我ガ呪イノ魔力ガ、異常ナマデニ心地ヨイ【希望ノ光】ニ変換サレテイクゥゥゥッ! 私ノ存在ガ、人々ヲ狂ワセルノデハナク、コウシテ人々ノ心ヲ癒ヤス「極上ノ芸術作品」トシテ輝クコトガ、コレホドマデニ満タサレルコトダッタトハ……!』

 邪眼の凶悪な意思は、アルドの「窓拭き」によって完全に浄化され、書き換えられた。

 不気味な巨大目玉は、気がつけば「太陽の光を浴びて神々しい天使の姿を映し出す、奇跡のステンドグラス」へと姿を変え、礼拝堂の中に暖かく優しい光を降り注ぎ始めたのである。

「よしよし! 窓は新品みたいにピカピカだ! 次はあのうるさい鐘の錆取りだね!」

 アルドはハシゴをスルスルと登り、鐘楼へとたどり着いた。

 そこには、亡者の顔が刻まれた禍々しい『狂気の叫び鐘』が、キーキーと絶望の音を立てていた。

「この可動部のサビが原因だな。防錆潤滑油をたっぷり注して……よし、鳴らしてみよう!」

 アルドが『摩擦係数ゼロの宇宙潤滑剤』を注し、鐘の紐を力強く引っ張った瞬間。

 ――カーーーン……! ゴォォォォォン……!!

 狂気の不協和音は、アルドの「綺麗な音色を響かせたい」という意思と潤滑油の効果により、完全に浄化された。

 鳴り響いたのは、聞いた者の魂を震わせ、全ての病や精神的疲労を一瞬で吹き飛ばす『大天使の祝福のエンジェリック・チャイム』の音色であった。

 ステンドグラスの七色の光と、奇跡の鐘の音が下層区一帯に広がった瞬間、頭を抱えていた住人たちは一斉に正気を取り戻し、長年の持病まで治ってしまったことに気づき、歓喜の涙を流して礼拝堂を拝み始めた。

「よし! 窓も綺麗になったし、鐘の音もすっごく澄んでて気持ちいい! これで下層区のみんなも、毎日清々しい朝を迎えられるね!」

 アルドは、腰に手を当てて満足げに頷いた。

 一方、その光景から少し離れた路地裏。

 枢機卿ヴェインが放った黒衣の異端審問官たちは、大宇宙の災厄である邪眼と鐘が、たった一本の洗剤と潤滑油で「奇跡の聖遺物」に成り下がった光景に言葉を失い、恐怖でガタガタと震えていた。

「ば、馬鹿な……。深淵の邪眼が、ただのステンドグラス扱いだと……!? 枢機卿閣下の計画が、またしてもただの掃除で……!」

「退却だ! 直ちにこの絶望的な異常事態を報告しろ!」

 異端審問官たちが踵を返そうとした、まさにその時。

「――誰が、帰っていいと言った?」

 影の中から、音もなくシノンの短剣が閃き、審問官たちの急所を正確に峰打ちで叩き伏せた。

 路地の出口からは、レイヴンが凄まじい威圧感を放ちながら退路を完全に塞いでいる。

「主の『大掃除』の邪魔をする害虫どもめ。貴様らが持ち込んだ変なガラスのせいで、主がどれだけ拭き掃除に手間をかけたと思っている」

 レイヴンが、斧を肩に担いだまま冷酷に見下ろす。

「ヒィッ……! お、お許しを……!」

「貴様らは、我らが情報局長への良い『証拠品』だ。……教団の枢機卿とやら。いずれ迎える【完全なる破滅】への第二の布石、きっちりと拘束させてもらうぞ」

 シノンの冷たい宣告と共に、審問官たちは完全に意識を刈り取られ、荷袋へと詰め込まれていった。

 ***

 数日後。日だまり郷の黄金の城塞。

「……終わりましたね。星の精神を狂わせる宇宙の邪眼が、アルド様の腕によって見事なステンドグラスに成り下がりました」

 記録係のアーキヴァルが、大公から送られてきた莫大な報酬と、下層区の住人からの感謝の寄せ書きを確認しながら、手帳の『対教団・請求書』のページに羽ペンを走らせる。

「ええ。記録完了。『第七十種・深淵の邪眼ガラスの強制ステンドグラス化(ただの窓拭きと鐘の修理)』。対象:大宇宙の災厄アビス・アイ、および聖サンクトゥス教団の異端審問官。結果:アルド様の手作り洗剤によって邪眼は希望の光へと概念を書き換えられ、裏で蠢く工作員はクランメンバーによって完全捕縛。枢機卿を追い詰めるための【第二の証拠】として回収完了しました」

「アルド殿が掃除したあの礼拝堂、今では王都中で『真の奇跡が宿る聖堂』と呼ばれ、教団の本部よりも多くの巡礼者が押し寄せているそうだな。枢機卿とやらは、自らの首を絞めたことに気づいて発狂している頃だろう」

 レイヴンが、暖炉の前でシロ(星狼)を撫でるアルドを眺めながらコーヒーを啜る。

「ええ。ですが、愚かな権力者の足掻きはまだ続きます。我々は裏で全ての証拠を集め、奴が自らの罪の重さに押し潰されるその時まで、淡々と【請求書】の項目を増やしていくのみです」

 アーキヴァルの眼鏡の奥で、全てを計算し尽くした冷徹な光が煌めいた。

 最強の便利屋の「ただの窓拭き」は、下層区の呪いをただの清掃作業として解決し、教団の野望を粉砕するだけでなく、王国に最高の希望をもたらす奇跡の礼拝堂を誕生させてしまったのである。

 忍び寄る聖職者の悪意の全ては、いずれ訪れる『圧倒的ざまぁ』の舞台を完璧に整えるための、ただの「汚れ仕事」として処理され続けていくのであった。

ここまでお読みいただきありがとうございます!少しでも面白いと感じたら、画面下から【ブックマーク】と【☆☆☆☆☆】の評価をいただけると、執筆の大きなモチベーションになります!

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