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辺境暮らしの便利屋冒険者、伝説のクランのリーダーに祭り上げられる 〜本人曰く「ただの日常」らしいです〜  作者: 盆ちゃん


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第66話:ただのボイラー修理と、星融の灼竜の強制給湯器化(沸騰する帝国の悪意)

第66話:ただのボイラー修理と、星融の灼竜の強制給湯器化(沸騰する帝国の悪意)

 黄金の城塞『日だまり郷』は、外にどれほどの吹雪が吹き荒れようとも、絶対的な平穏と暖かさに包まれていた。

 前回の出張任務「雪かき(絶対零度の星狼の迎撃)」でアルドが連れ帰った真っ白で巨大なサモエド犬(元・大宇宙の災厄グレイシャル・フェンリル)は、『シロ』という安直極まりない名前を与えられ、今や神竜ポチや海神イルカさんと並ぶ城塞の愛らしいマスコットとして、暖炉の前で幸せそうに腹を出して眠っている。

 そんな冬真っ盛りのある日の午前。

 アルドは、リビングのテーブルに広げた羊皮紙の依頼書を読みながら、熱いハーブティーを啜ってホゥと息を吐き出した。

「いやぁ、大公様からの依頼はいつも報酬(お駄賃)が良くて助かるね! おかげでシロのご飯代も余裕で賄えるよ。さて、今回の便利屋のお仕事は……『王都近郊にある王家直轄の温泉保養地で、お湯が急に冷たくなり、代わりに地鳴りが続いている。ボイラーや源泉の配管トラブルと思われるため、修理をお願いしたい』か」

 アルドは、愛用の工具箱から巨大なパイプレンチや耐熱テープを取り出しながら、ウンウンと頷いた。

「寒い冬には、やっぱり温泉が一番だよね! せっかくの保養地でお湯が出ないなんて、お客さんたちもガッカリしちゃう。地鳴りがするってことは、地下の配管が詰まって圧力が異常に高まってる証拠だ。よーし、今回は地下の源泉ボイラーをしっかりメンテナンスして、最高に気持ちいい温泉を復活させよう!」

 アルドがニコニコと作業着に着替えるため部屋を出て行った後。

 リビングの奥で控えていた情報局長アーキヴァルと、元・大賢者ゾルタンは、重々しい空気を纏って顔を見合わせた。

「……先輩。アルド様は『配管の詰まりと圧力異常』と仰っていますが、地鳴りの波形が物理法則を無視しています。王都近郊の地下で、空間そのものをドロドロに溶かす超高密度の熱源が膨張を始めています」

 ゾルタンが、魔力測定器の針が振り切れているのを見て額に冷や汗を浮かべた。

「ええ。隣国ガレリア帝国の特級魔術ギルド長『ザンデ』の、最後にして最大の悪あがきですね」

 アーキヴァルは、手帳に羽ペンを走らせながら冷徹に呟いた。

「魔蟲による食糧強奪も、星狼による物流の凍結も失敗に終わったザンデは、ついに自らの寿命の大半を代償として、アステリア王国全土をマグマの海に沈める禁忌中の禁忌に手を出しました。奴が王都の地下水脈(温泉源)に喚び覚ましたのは、星の核に潜み、大陸をまるごと溶岩へと変える災厄――『星融の灼竜メルト・ドラグーン』です」

「大陸を溶かす灼竜……! それが噴火すれば、王都どころかアステリア王国そのものが地図から消滅しますよ!」

「ええ、本来ならば。ですが、我々にはアルド様がいらっしゃいます」

 アーキヴァルは、微塵の焦りも見せずに眼鏡を押し上げた。

「アルド様には、このまま『ただのボイラー修理』として楽しくお仕事をしていただきましょう。そして我々は……裏でザンデが放った観測部隊を全て捕らえ、これまでの妨害工作の証拠を『完璧な請求書』としてまとめ上げます。いよいよ次回、身の程知らずのギルド長に【完全なる破滅】をお届けする準備が整います」

 アーキヴァルの瞳の奥で、間近に迫った『ざまぁ』の総仕上げに向けた、冷酷無比な光が煌めいた。

 ***

 その頃、隣国ガレリア帝国の魔術ギルド本部。

 地下の最深部にある儀式の間で、ギルド長ザンデはゲッソリと頬をこけさせながらも、狂気に満ちた哄笑を上げていた。

 星融の灼竜を召喚するための代償として、彼の生命力と魔力はもはや限界を迎えつつあったが、その瞳には暗い歓喜の炎が宿っている。

「ゼェ……ハァ……! クックック、アハハハハハ!! 見ろ、あの忌まわしいアステリアの地底で、灼竜が目覚めの産声を上げているぞ!」

 水晶球には、王都近郊の温泉地の地下深くで、マグマの海を泳ぐ巨大な竜の姿が映し出されていた。

「あの『黄昏の守護者』とかいう便利屋が、またしゃしゃり出てきたようだな。だが今度こそ終わりだ! いかに規格外の冒険者であろうと、噴火する超巨大火山そのものである灼竜をどうにかできるわけがない! 奴らは王都の連中もろとも、数千度のマグマに飲み込まれてドロドロに溶け去るのだァァァッ!」

 ザンデの血を吐くような絶叫が、ギルドの地下に虚しく響き渡っていた。

 ***

「よし、修理の準備は完璧だ!」

 アルドは、城塞の中庭で、手作りの『絶対密閉のパイプレンチ』と『冷却パテ』を用意していた。

 ――当然ながら、その素材は常軌を逸している。パイプレンチは、次元創世龍ウロボロス・プライムの牙を削り出し、世界樹の樹脂でコーティングした『事象固定の神具』。そして冷却パテは、氷の魔女グレイシアが絶対零度の魔力で練り上げた『大宇宙の熱狂すら鎮める究極の冷却材』であった。

「地下のボイラー室(源泉)はすごく熱くて危険だからね。レイヴンさん、シノンさん、今回も出張の護衛をお願いできるかな?」

「承知した。地下に潜む鬱陶しいネズミどもは、俺たちが先に『掃除』しておこう」

 レイヴンが、肩に担いだ斧をポンと叩いて不敵に笑う。彼らもまた、アーキヴァルの指示により、ガレリア帝国の工作員を捕縛する裏任務を帯びていた。

 かくして、アルド率いる便利屋一行は、大公の手配した馬車に乗り、地鳴りが続く王都近郊の温泉保養地へと向かった。

 ***

 温泉保養地の地下深く、源泉が湧き出るはずの巨大な地底湖は、文字通りの「マグマの地獄」と化していた。

 岩肌は超高温でドロドロに溶け落ち、有毒な火山ガスが充満している。そしてそのマグマの海の中央で、体長数百メートルに及ぶ、全身が燃え盛る溶岩で構成された巨大な竜――『星融の灼竜メルト・ドラグーン』が、今まさに地上に向けて極大の噴火を引き起こそうと咆哮を上げていた。

『グオォォォォォォォォォォッ……!! 溶ケロ……全テノ大地ヲ灼キ尽クシ、星ヲ我ガマグマノ海ト変エヨォォォッ!』

「うわぁ……。これは想像以上にひどいな。地下のボイラーが完全にオーバーヒートして、配管が破裂しちゃってるぞ。おまけに、剥き出しになった太いパイプが、熱でグニャグニャにのたうち回ってる」

 アルドは、地底湖の入り口に立ち、首に巻いたタオルで汗を拭いながら顔をしかめた。

 彼の驚異的な「日常フィルター(事象の誤認)」は、大陸を溶かす超巨大な灼竜を、「熱暴走を起こして圧力が限界突破し、暴れ回っている太い給湯パイプ(ボイラーの管)」だと完全に誤認していた。

「よし! このままじゃボイラーが大爆発して保養地が吹き飛んじゃう! 一気にバルブを締めて、圧力を調整するぞ!」

 アルドは、自身の事象改変オーラにより、数千度のマグマの熱を「ちょっとサウナみたいで息苦しい」程度に強制的に緩和させながら、燃え盛るマグマの海へと軽やかに飛び石を伝って駆け出した。

『……ム? ナンダ、アノ矮小ナ有機物ハ……? 我ガ絶対ノ熱量ノ前ニ、ナゼ瞬時ニ蒸発シナイ!?』

 灼竜は、マグマの海の上を鼻歌交じりに跳び跳ねてくるアルドを見て、驚愕に瞳孔を収縮させた。

『コザカシイ! ナラバ直接、我ガ業火ノ息吹デ原子レベルマデ灼キ尽クシテクレルワァァァッ!』

 激怒した灼竜は、巨大な顎を大きく開き、大陸を貫通する極大の『星融の熱線メルトダウン・レイ』をアルドめがけて放った。

 空間が赤黒く染まり、絶対的な死の超高温がアルドを包み込もうとする。

「うわっ! 蒸気がすごい勢いで噴き出してきた! 早くバルブ(口)を締めないと!」

 アルドは、両手で持った『絶対密閉のパイプレンチ(ウロボロスの牙)』を、熱線に向けて大きく振りかぶった。

「そぉいッ!!」

 ――ガキィィィィィィンッ!!!!

 アルドがパイプレンチを灼竜の巨大なバルブに引っ掛け、強引に「捻った」瞬間。

 星を溶かすはずの超高温の熱線は、アルドの「蒸気の漏れを止めたい」という圧倒的で暴力的なまでの意思の前に、物理的に「キュッ!」と栓をされたように喉の奥へと押し戻された。

『…………は?』

 星融の灼竜は、己の全魔力を込めた必殺の熱線が、人間が振るった工具によって「物理的なバルブ」として強制的に締め上げられた光景に、思考が完全にフリーズした。

『バ、馬鹿ナ……!? 我ガ絶対ノ噴火ガ……タダノ鉄ノ道具デ、ネジ込マレテ止メラレタ……!? キ、貴様、何者ダァァァッ!』

「ごめんね! 圧力がかかりすぎてるから、ちゃんと適温になるようにパイプの形を調整するよ!」

 アルドは、レンチを引っ掛けたまま、灼竜の巨大な溶岩の身体を「グググッ!」と強引に捻り、曲げ始めた。

 大宇宙の法則が、アルドの「効率の良い給湯システムを作りたい」という意思に完全にひれ伏す。大陸を溶かす灼竜の身体は、痛みではなく「極上のボイラー配管として最適化される」という概念の書き換えを受け、シュルシュルシュルッ! と音を立てて猛スピードでとぐろを巻き始めた。

『ギ、ギィィィッ!? ナ、ナンダコレハ!? 我ノ、大陸ヲ溶カスハズノ身体ガ、マルデ都合ノイイ給湯器ノコイルノヨウニ……!? イヤ、熱暴走シテヂタ我ガ魔力ガ、コノ異常ナマデニ完璧ナ循環システムニヨッテ、最高ノ効率デ制御サレテイク……!』

 灼竜の全身を覆っていた破壊的な熱量は、「温泉を適温に保つための熱源」という概念へと強制的に上書きされ、暴走がピタリと収まった。

「よし! パイプの形はバッチリだ! 仕上げに、この冷却パテで漏れを完全に防ぐぞ!」

 アルドは、グレイシア特製の『冷却パテ』を、灼竜の顎(バルブの接合部)にペタペタと塗りたくった。

 ――その瞬間。

 灼竜の体内に、かつて経験したことのない異常な感覚が叩き込まれた。

 パテから伝わる極上の冷気と、アルドが作り上げた完璧な熱循環システムによって、彼の体内に数万年蓄積されていた「全てを焼き尽くしたい」という破壊衝動が、圧倒的な安定感と「誰かに極上の温もりを提供することの至福」によって完全に洗い流され、漂白されていくのを感じたのだ。

『安定シテイル……。ソレニ、コノ完璧ナ熱循環ノ、ナンテ心地ヨイコト……。私ノ熱量ガ、周リヲ破壊スルノデハナク、コウシテ人々ノ疲レヲ癒ヤス「極上ノ温泉」トシテ制御サレルコトガ、コレホドマデニ満タサレルコトダッタトハ……!』

 星融の灼竜の凶悪な意思は、アルドの「ボイラー修理の配管工事」によって完全に浄化され、書き換えられた。

 巨大だった溶岩の肉体は、物理的に圧縮され、気がつけば「地下水脈のド真ん中に鎮座する、超高効率・全自動温度調整機能付きの『エコ・ボイラー竜(巨大な金属製の蛇口付きタンクのようにも見える)』」へと姿を変えていたのである。

「よしよし! 漏れも完璧に直ったし、お湯の温度も最高に気持ちいい適温になったぞ! これで保養地の温泉も復活だ!」

 アルドは、パテを塗り終えて満足げに額の汗を拭った。

『シュゥゥゥ……♪(オ任セクダサイ、マスター! コノ身体、貴方様ト皆様ノタメニ、大宇宙デ最モ癒ヤサレル『究極ノ神仙湯』ヲ、生涯適温デ沸カシ続ケマス!)』

 エコ・ボイラーメルト・ドラグーンは、完全に毒気を抜かれた様子で、嬉しそうに心地よい湯気を噴き出した。

 アルドが修理を終えた直後、地底湖から湧き上がった温泉は、ただのお湯ではなくなっていた。

 灼竜の膨大なマナと、大精霊の地下水脈が奇跡の融合を果たしたそのお湯は、一晩浸かるだけで不老不死に近い生命力を得られ、魔力回路が限界突破するという、宇宙最強の『星融神仙湯』へと進化を遂げていたのである。

 一方、その光景から少し離れた地底湖の岩陰。

 ガレリア帝国の観測工作員たちは、大陸を溶かす灼竜がたった一本のレンチとパテで「超優秀な給湯器」に成り下がった光景に言葉を失い、恐怖でガタガタと震えていた。

「ば、馬鹿な……。大宇宙の災厄が、ただのボイラーのパイプ扱いだと……!? こ、こんな化物がいる国を相手にするなど……!」

「退却だ! ザンデ様に、直ちにこの絶望的な異常事態を報告しろ!」

 工作員たちが逃げ出そうとした、まさにその時。

「――誰が、逃がすと言った?」

 蒸気の中から、影に溶け込んだシノンの短剣が閃き、工作員たちの急所を正確に峰打ちで叩き伏せた。

 背後からは、レイヴンが凄まじい威圧感を放ちながら退路を塞いでいる。

「主の『配管工事』の邪魔をするネズミどもめ。貴様らが持ち込んだ熱暴走のせいで、主がどれだけ汗をかいたと思っている」

 レイヴンが、斧を肩に担いだまま冷酷に見下ろす。

「ヒィッ……! お、お許しを……!」

「貴様らは、大公閣下への最後の『手土産』だ。……ガレリア帝国のザンデとやら。これまでの数々の非礼に対する【特大の請求書】を、いよいよ次回、直接叩きつけに行くとしよう」

 シノンの冷たい声に、工作員たちは完全に意識を刈り取られ、荷袋へと詰め込まれていった。

 ***

 数日後。日だまり郷の黄金の城塞。

「……終わりましたね。大陸を溶かす宇宙の灼竜が、アルド様の給湯器に成り下がりました」

 記録係のアーキヴァルが、大公から送られてきた莫大な報酬(アルドは「ちょっと配管を直しただけなのに、また特別ボーナスが!」と大喜びしていた)を確認しながら、手帳に羽ペンを走らせる。

「ええ。記録完了。『第六十六種・星融の灼竜の強制給湯器化(ただのボイラー修理)』。対象:大宇宙の災厄メルト・ドラグーン、およびガレリア帝国の工作員。結果:アルド様の手作りレンチとパテによって灼竜は全自動エコ・ボイラーへと概念を書き換えられ、裏で蠢く工作員はクランメンバーによって完全捕縛。これにて、敵国ガレリア帝国への反撃の全証拠が揃いました」

「アルド殿が直したあの保養地の温泉、王都の貴族たちがこぞって入りに行き、長年の持病が一瞬で完治したと大騒ぎになっているな。……俺たちも今度、ゆっくり湯治に行かせてもらおう」

 レイヴンが、窓の外の雪景色を眺めながらコーヒーを啜る。

「ええ。ですがその前に……」

 アーキヴァルは、分厚く束ねられた『ガレリア帝国およびザンデへの請求書(罪状の数々)』をドンッと机に置いた。

「身の程知らずの特級魔術ギルド長に、『完全なる破滅』をプレゼントする時間がやってまいりました」

 アーキヴァルの眼鏡の奥で、全てを計算し尽くした冷徹な光が煌めいた。

 最強の便利屋の「ただのボイラー修理」は、国家の崩壊危機をただの配管工事として解決し、敵国の野望を粉砕するだけでなく、王国に最高の癒やしをもたらす神仙温泉を誕生させてしまったのである。

 忍び寄る隣国の悪意の全ては、次なる『圧倒的ざまぁ』の舞台を完璧に整えるための、ただの「前座」に過ぎなかったのだ。

ここまでお読みいただきありがとうございます!少しでも面白いと感じたら、画面下から【ブックマーク】と【☆☆☆☆☆】の評価をいただけると、執筆の大きなモチベーションになります!

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