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辺境暮らしの便利屋冒険者、伝説のクランのリーダーに祭り上げられる 〜本人曰く「ただの日常」らしいです〜  作者: 盆ちゃん


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第64話:ただの害虫駆除と、次元喰らいの魔蟲の強制燻煙化(新たなる悪意の胎動)

### 第64話:ただの害虫駆除と、次元喰らいの魔蟲の強制燻煙化(新たなる悪意の胎動)

 黄金の城塞『日だまり郷』に、少しずつ冬の足音が近づいていた。

 秋の味覚を大いに楽しんだ住人たちは、本格的な寒さに備えて冬支度を始めている。地下ボイラー室では元・魔界大帝サタナスが「これからの季節、床暖房の真価が問われますぞ!」と地獄の業火を絶妙にコントロールして全館空調を整え、氷の魔女グレイシアは収穫した野菜や果物を保存するための巨大な氷室の温度管理に余念がない。

 専属仕立て屋の終末の織手アラクネは、宇宙を終わらせる『終末の糸』を使って、モコモコで絶対に冷気を通さない極上の冬用セーターを編み上げ、住人たちに配って回っていた。

 かつて大宇宙を恐怖に陥れた神々や覇者たちが、ただ「暖かく快適な冬を過ごす」ためだけに全知全能の力を振るうこの城塞は、もはやマルチバースのどこを探しても存在し得ない、狂気と奇跡が調和した究極のユートピアであった。

 そんなある日の午前中。

 アルドは、城塞のリビングで、レオハルト大公から届いたばかりの新たな依頼書を読みながら、嬉しそうに腕を捲り上げていた。

「いやぁ、大公様から前の出張清掃(地下水路と井戸掘り)のボーナスをたっぷりもらったおかげで、冬越しの備蓄も完璧だ! 王都での便利屋の評判もすごく良くなってるみたいだし、仕事が順調で嬉しいな。……えーっと、今回の依頼は『王都の巨大穀物庫で、原因不明の害虫が大量発生した。国中の冬を越すための大切な食糧が食い荒らされているので、至急駆除してほしい』か」

 アルドは、手作りの工具箱の横に、様々なハーブや薬品の瓶を並べ始めた。

「冬前のこの時期、ネズミや虫が暖かい倉庫に集まってくるのはよくあることだよね。でも、大切な食べ物を食い荒らす害虫は許しておけない! よーし、今回は煙の力で隅々まで虫を退治する『特製燻煙剤くんえんざい』を作って、倉庫をピカピカにしてあげよう!」

 アルドがニコニコと作業小屋へ調合に向かった後。

 リビングの端で依頼書の詳細を確認していたアーキヴァルとゾルタンは、静かに顔を見合わせた。

「……先輩。アルド様は『ただの害虫』と仰っていますが、この依頼、尋常ではありません。王都の大穀物庫に発生したのは、空間そのものを咀嚼して虚無に還す大宇宙の害虫――『次元喰らいの魔蟲ディメンション・イーター』の群れです」

 ゾルタンが、魔法の眼鏡を光らせながら報告する。

「ええ、把握しています。アステリア王国の隣国、ガレリア帝国の仕業ですね」

 アーキヴァルは、手帳に羽ペンを走らせながら冷徹に呟いた。

「先日、我々がバルバロス侯爵派を壊滅させたことで、王都の裏社会には一時的な権力の空白が生まれました。ガレリア帝国の特級魔術ギルド長『ザンデ』は、その隙を突いてアステリア王国を食糧難に陥れ、内乱を誘発させるため、禁術を用いて次元の狭間から魔蟲を召喚し、王都の穀物庫に放ったのです。……我々『黄昏の守護者』の名声も耳にしているはずですが、奴は『所詮は大公に飼われている田舎の便利屋』と侮っているのでしょう」

「アルド様ごと、魔蟲に食い殺させる気ですね。……なんという愚かな」

「ええ。アルド様には、このまま『ただの害虫駆除』として気持ちよくお仕事をしていただきましょう。我々はアルド様の煙に巻き込まれないよう注意しつつ、裏でガレリア帝国の工作員たちを拘束し、証拠を徹底的に集めます。……この愚行のツケは、いずれザンデ本人にきっちりと払わせるための『布石』となります」

 アーキヴァルの眼鏡の奥で、次なる『完全なるざまぁ』に向けた冷酷な光が煌めいた。

 ***

 その頃、隣国ガレリア帝国の魔術ギルド本部。

 薄暗い儀式の間で、ギルド長ザンデは水晶球に映るアステリア王都の穀物庫の映像を見下ろし、歪な笑いを漏らしていた。

「クックック……! 素晴らしい。我が禁術で召喚した『次元喰らいの魔蟲』どもが、アステリアの穀物を空間ごと貪り食っているわ。いかなる物理攻撃も魔法も通じぬ次元の捕食者。あれが数日も暴れれば、王都の食糧は完全に消滅し、国は飢餓で崩壊する!」

 ザンデは、ワイングラスを揺らしながら取り巻きの魔術師たちに傲慢な視線を向けた。

「レオハルト大公の取り巻きだという『黄昏の守護者』とやらが駆除に向かったそうだが、笑止千万! 次元の顎を持つ魔蟲の群れに、ただの冒険者風情が勝てるわけがなかろう。奴らもろとも、穀物庫のチリにしてくれるわ!」

 ザンデの高笑いが、儀式の間に響き渡った。

 ***

「よし、特製燻煙剤の完成だ!」

 アルドは、城塞の中庭で、ソフトボールほどの大きさの『真っ黒な球体』をいくつも作り上げていた。

 ――当然ながら、その成分は常軌を逸している。ベースとなるのは、超新星爆発の化身イグニス・ノヴァが放出した『絶対燃焼の星灰』。そこに、猛毒の菌糸神から採取した『概念浄化の胞子殻』を混ぜ込み、世界樹の樹液で固めた、大宇宙の理すらも燻り出す究極の化学兵器(アルドにとってはただの市販のバルサン感覚)であった。

「煙が隅々まで行き渡るように、倉庫のあちこちに仕掛けよう。レイヴンさん、シノンさん、出張の荷物持ちと護衛をお願いできるかな?」

「承知した。虫除けの準備はできている」

 レイヴンが、斧を肩に担いで頷く。彼らはすでに、アーキヴァルからの指示で「ガレリア帝国の工作員の排除」という裏任務を帯びていた。

 かくして、アルド率いる便利屋一行は、大公が手配した特急の馬車で王都の巨大穀物庫へと向かった。

 ***

 王都の大穀物庫は、地獄のような惨状を呈していた。

 巨大な石造りの倉庫内は、無数の黒い影がうごめき、空間そのものが「ガリガリ、バリバリ」と不気味な音を立てて削り取られている。小麦やトウモロコシの袋は、袋の周囲の次元ごと虚無の穴に飲み込まれ、警備の兵士たちは魔蟲の放つ次元の歪みに当てられて次々と昏倒していた。

『キリキリキリキリッ……! 食ウ、全テノ空間ト質量ヲ、我ラノ餌トセヨ……!』

 次元喰らいの魔蟲たちは、新たな獲物アルドたちの気配を察知し、おぞましい無数の複眼をギラつかせた。

「うわぁ……。これはひどいな。倉庫の中が虫だらけだ。しかも、すごく大きなゴキブリやシロアリみたいで、動きも素早いし気持ち悪い……」

 アルドは、倉庫の入り口から中を覗き込み、顔をしかめた。

 彼の驚異的な「日常フィルター(事象の誤認)」は、大宇宙の次元を食い破る魔蟲の群れを、「長年放置された倉庫に湧いた、ちょっと大きくて凶暴な害虫の群れ」だと完全に誤認していた。

「よし! 中の食べ物にこれ以上被害が出る前に、一気に燻り出そう! みんな、煙を吸い込まないように扉の外にいてね!」

 アルドは、リュックから『特製燻煙剤』を取り出し、倉庫の中央に向かって力いっぱい投げ込んだ。

「害虫退治スタート! そぉいッ!」

 コロコロ……と転がった真っ黒な球体が、魔蟲たちの中心で止まる。

『キリッ? ナンダコノ小石ハ……我ラノ強靭ナ次元ノ顎デ、コレモ食イ破ッテ……』

 魔蟲の一匹が、燻煙剤をかじろうとした瞬間。

 ――プシュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!!!!!

 アルドが指を鳴らして事象改変の着火サインを送ると、特製燻煙剤から、星の核を焼き尽くすほどの超絶高圧な「真っ白な煙」が、爆発的な勢いで噴き上がり始めた。

 その煙は、単なる物理的な煙ではない。アルドの「倉庫の隅々まで害虫を退治して、清潔に保ちたい」という圧倒的で暴力的なまでの意思が込められた『概念漂白の煙』である。

『ギ、ギャァァァァァァァァッ!?!?』

 煙に触れた次元喰らいの魔蟲たちは、かつて経験したことのない激痛と異常事態に、次元の狭間へ逃げ込もうとした。

 しかし、煙は次元の壁すらも透過して隅々まで充満していく。

『イ、息ガ……! 次元ヲ食ウ力ガ、コノ白い煙ニヨッテドロドロニ溶カサレテイク!? やめろ! 我ラノ存在概念ガ、【防虫成分】ニ書キ換エラレテイクゥゥゥッ!!』

 魔蟲たちの絶末魔が倉庫内に響き渡る。

 アルドの放つ浄化の煙は、星を食らう魔蟲たちを物理的に殺すのではなく、その存在自体を「穀物を害虫やカビから守り、さらに美味しさを引き出すための極上の天然防虫・熟成香」へと強制的に上書き・変質させていったのだ。

「よしよし、煙がしっかり回ってるね! 換気も兼ねて少し待てば、悪い虫は一匹残らず退治できてるはずだ!」

 アルドは、扉の外で満足げに腕を組んで頷いた。

 数十分後、煙が晴れた倉庫の中。

 そこには、一匹の魔蟲の姿もなかった。

 代わりに、倉庫内の穀物には、仄かに甘く香ばしい「極上の熟成香(元・魔蟲)」がコーティングされており、小麦もトウモロコシも、以前より数段上の輝きと品質を放つ『神仙穀物』へと進化を遂げていた。

『ア……ァァ……。我ラノ次元捕食能力ガ……ただの、穀物を美味しくする防虫バリアに……』

 完全に防虫バリアの概念へと成り下がった魔蟲たちの意識が、穀物の表面でキラキラと輝きながら、アルドへの絶対服従を誓っていた。

「ふう、綺麗になった! これで冬の間の食糧も安心だね。なんだか倉庫の中がすごくいい匂いになってるし、お仕事大成功だ!」

 アルドは、額の汗を拭いながら満面の笑顔を浮かべた。

 一方、その光景から少し離れた王都の暗がり。

 ガレリア帝国の工作員たちは、魔蟲がたった数十分の煙で全滅(益虫化)した光景に言葉を失い、ガタガタと震えていた。

「ば、馬鹿な……。次元喰らいの魔蟲が、ただの燻煙剤で……!? こ、こんな化物がいる国を相手にするなど……!」

「退却だ! ギルド長に、直ちにこの異常事態を報告しろ!」

 工作員たちが逃げ出そうとした、まさにその時。

「――誰が、逃がすと言った?」

 暗闇の中から、影に溶け込んだシノンの短剣が閃き、工作員たちの急所を正確に峰打ちで叩き伏せた。

 背後からは、レイヴンが凄まじい威圧感を放ちながら退路を塞いでいる。

「主の『大掃除』の邪魔をするネズミどもめ。貴様らが持ち込んだ害虫のせいで、主がどれだけ手間をかけたと思っている」

 レイヴンが、斧を肩に担いだまま冷酷に見下ろす。

「ヒィッ……! お、お許しを……!」

「貴様らは、大公閣下への良い『手土産』だ。……ガレリア帝国のザンデとやらには、いずれ我々から直接、この手間の【請求書】を届けに行くとしよう」

 シノンの冷たい声に、工作員たちは完全に意識を刈り取られ、荷袋へと詰め込まれていった。

 ***

 数日後。日だまり郷の黄金の城塞。

「……終わりましたね。次元を食らう宇宙の害虫が、穀物の防虫コーティングに成り下がりました」

 記録係のアーキヴァルが、大公から送られてきた莫大な報酬(アルドは「バルサンを焚いただけなのに、またボーナスが!」と大喜びしていた)を確認しながら、手帳に羽ペンを走らせる。

「ええ。記録完了。『第六十四種・次元喰らいの魔蟲の強制燻煙化(ただの害虫駆除)』。対象:大宇宙の魔蟲ディメンション・イーター、およびガレリア帝国の工作員。結果:アルド様の手作り燻煙剤によって魔蟲は防虫バリアへと概念を書き換えられ、裏で蠢く工作員はクランメンバーによって完全捕縛、次なる反撃の証拠として回収完了」

「アルド殿が燻煙した小麦で作ったパン、今日の朝食で出たが、信じられないほど甘くて力が湧いてきたな。次元の力が熟成に使われるとは恐れ入る」

 レイヴンが、熱いコーヒーを啜りながら呟く。

「ええ。ガレリア帝国のザンデ……奴は今回の失敗を『何かの間違いだ』と信じたくないはずです。必ず次の一手を打ってくるでしょう。その時こそ、彼らの『完全な破滅ざまぁ』の舞台が整うというものです」

 アーキヴァルの眼鏡の奥で、冷徹な光が煌めいた。

 最強の便利屋の「ただの害虫駆除」は、国家の飢餓の危機をただの衛生管理として解決し、敵国の野望を粉砕するだけでなく、穀物の品質すらも限界突破させてしまったのである。

 忍び寄る隣国の悪意すらも、アルドの「平凡な日常」を彩るための、ただの『次なる大掃除の準備』に過ぎないのだ。


ここまでお読みいただきありがとうございます!少しでも面白いと感じたら、画面下から【ブックマーク】と【☆☆☆☆☆】の評価をいただけると、執筆の大きなモチベーションになります!

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