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辺境暮らしの便利屋冒険者、伝説のクランのリーダーに祭り上げられる 〜本人曰く「ただの日常」らしいです〜  作者: 盆ちゃん


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第62話:ただの井戸掘りと、乾渇の冥砂神の強制湧き水化(裏で蠢く地脈の罠)

第62話:ただの井戸掘りと、乾渇の冥砂神の強制湧き水化(裏で蠢く地脈の罠)

 黄金の城塞『日だまり郷』に、心地よい秋の静寂が満ちていた。

 先日、アルドが「ただの草刈り」として迷宮神の箱庭をロードローラーで平坦に整地した結果、王都と隣街を繋ぐ主要街道は、驚くほど見通しの良い一本の『極上ハイウェイ』へと生まれ変わっていた。道路の脇にポツンと立つ道案内の石碑(元・迷宮神デダロス)は、今日も「隣街まであと二十キロピョン!」と、夜間でも七色に発光しながら行商人たちを親切に案内している。

 その圧倒的な利便性により、便利屋『黄昏の守護者』の名声は、王国全土の商業ギルドや平民たちの間で「どんな難題でも一瞬で解決する奇跡の便利屋」として、爆発的に広まりつつあった。

 そんなある日の午後、アルドは城塞のテラスで、レオハルト大公の使者が届けてくれた新しい依頼書を嬉しそうに眺めていた。

「いやぁ、街道が綺麗になってから、遠くの村からもたくさんの依頼が来るようになったね。今回は……『王都の郊外にある開拓村で、井戸の水が完全に枯れてしまって困っている。新しく深い水源を掘り当ててほしい』か!」

 アルドは、手編みの麦わら帽子を被り直し、愛用の工具箱をポンと叩いて満面の笑顔を浮かべた。

「水まわりのトラブル解決や、新しい水源の確保は便利屋の華だからね。水が出なくて困っている村の人たちのために、とびっきり素晴らしい、枯れることのない特大の井戸を掘ってあげよう!」

 アルドがニコニコと作業小屋へ道具の選定に向かった後、リビングの机でその依頼書の写しを見ていた情報局長のアーキヴァルと、後輩のゾルタン(元・大賢者)は、冷徹な目で書類の裏に隠された因果を読み解いていた。

「……先輩。この開拓村、ただの干ばつで水が枯れたわけではありませんね。地脈の捻じれ方が異常です」

 ゾルタンが、魔力を込めた眼鏡を光らせながら呟いた。

「ええ。バルバロス侯爵派の新たな動きです。彼らは、前回の地下水路と街道の件で我々に煮え湯を飲まされたことで、完全に正気を失いつつある」

 アーキヴァルは、手帳に羽ペンを走らせながら冷酷に微笑んだ。

「あの開拓村の地下深部には、触れたあらゆる液体を不毛の砂へと変える大宇宙の災厄――『乾渇の冥砂神アストラル・サンドゴッド』が眠る禁忌の地脈が流れています。侯爵は、お抱えの凄腕の地脈呪術師を現地に派遣し、アルド様が井戸を掘るタイミングに合わせて神の封印を解放し、アルド様たちを地下の砂地獄へ生き埋めにする算段でしょう。……実に、浅はかで下劣な計画です」

「生き埋め……! では、すぐにアルド様にお伝えして、警戒を高めなければ!」

「必要ありませんよ、ゾルタン。大宇宙の砂の神など、アルド様の『日常の営み』の前には、ただの【水はけの悪いパサパサの土】に過ぎません。我々はただ、アルド様が掘り起こした土砂の片付けと、裏でコソコソと罠を仕掛けているネズミの捕獲に向かえば良いのです」

 ***

 その頃、王都郊外の枯れ果てた開拓村。

 ひび割れた大地のさらに地下数百メートル、日の光が決して届かない暗黒の空洞にて、一人の男が禍々しいドス黒い魔力を放つ杖を地面に突き立て、狂気的な笑みを浮かべていた。

 彼の名はネザード。バルバロス侯爵が莫大な報酬で雇った、王国内でも悪名高い『地脈の呪術師』である。

「クックック……。大公の犬どもめ、商人ギルドからの『井戸掘り』という甘い餌に釣られて、ノコノコとやってくるが良い。この地下深部には、かつて創世の時代に封印された、万物を不毛の砂漠に変える冥砂神アヌビス・サンドの眠る地層があるのだ」

 ネザードは、杖から地脈へと呪いの波動を流し込み、徐々に神の封印を弛めさせていた。空洞の壁からは、すでにパラパラと、触れた水分を一瞬で蒸発させる不気味な紫色の砂が零れ落ち始めている。

「奴らが地上から井戸を掘り、この地層に達した瞬間、神の呪いが解放され、地脈の水は全て砂と化し、奴らは地下数千メートルの流砂の底へと永遠に沈む! いかに常識外れの力を持つクランであろと、大宇宙の渇きの概念の前には無力よ! バルバロス侯爵閣下を怒らせた代償、その身で支払うがいい!」

 呪術師は、自らの完璧な罠の成功を確信し、暗闇の中で下劣な高笑いを響かせていた。

 ***

「よし、今回の井戸掘り用の機材はこれで行こう!」

 現地に到着したアルドは、馬車の荷台から、手作りの『超巨大型・全自動掘削ドリル』を中庭(村の広場)へと下ろした。

 それは、世界樹ユグドラシルの太い幹をくり抜いて作った超頑丈な本体に、元・魔界大帝サタナスが「最高の硬度でお鍛えしました!」と地獄の業火で錬成した『絶対不壊の黒鉄の螺旋刃ドリル』を取り付け、さらに動力源として「星喰いバクテリウムの堆肥」から発生する超高濃度のバイオマスマナガスを循環させる、アルドお手製の超常掘削マシンであった。

「この村の広場の真ん中が、一番水脈に近そうだね。よし、さっそく掘り始めるぞ! レイヴンさん、エンジンのバルブを開けてもらえる?」

「ああ、任せろ。いつでもいけるぞ」

 レイヴンが、麦わら帽子を被りながら、エンジンのレバーを力強く倒した。

 ――ズゴゴゴゴゴゴゴォォォォォォォォッ!!!!!

 バクテリウムのマナガスを燃料とするエンジンが、星の核を揺るがすほどの凄まじい重低音を響かせ、黒鉄の螺旋刃が目にも留まらぬ超高速で回転を始めた。ドリルの先端からは、摩擦熱すらも事象圧縮する圧倒的なオーラが放たれている。

「そぉいッ!!」

 アルドがマシンのレバーをグッと押し下げ、ドリルの先端を枯れ果てた大地面へと突き立てた。

 ――シュパァァァァァァァァンッ!!!!

 普通の井戸掘りといえば、何日もかけて少しずつ泥を掻き出していくものだが、アルドのドリルはその常識を微塵も寄せ付けない。

 アステリアの強固な岩盤が、まるで柔らかい生クリームか、あるいは温められたバターのように、あっさりとザクザクに削り取られていく。アルドの「早く綺麗な水を出してあげたい」という絶対的な意思(事象改変)を纏ったドリルは、音速を遥かに超えるスピードで、垂直に地下深部へと掘り進んでいった。

 ***

 その頃、地下数百メートルの暗黒空洞。

「……ん? なんだ、この地鳴りは……?」

 罠を仕掛けて待ち構えていた地脈の呪術師ネザードは、突如として頭上の岩盤から響いてきた、天地を崩壊させるような凄まじい爆音に顔を引きつらせた。

 ――ドゴォォォォォォォォォォォォォンッ!!!!!

 岩盤が物理的に粉砕され、上空から「空間そのものを削り取りながら」猛烈なスピードで回転する超巨大な黒鉄のドリルが、信じられない質量を伴って降ってきたのだ。

「な、何事だァァァッ!? 井戸掘りだと!? なぜ地上から数秒で、地下数百メートルの我が拠点が物理的に踏み荒らされているのだァァァッ!?」

 ネザードが腰を抜かして後ずさりした直後、ドリルの風圧によって空洞の奥にあった『乾渇の冥砂神アヌビス・サンド』の古代の封印が、物理的に衝撃で「パリンッ!」と完全に破壊された。

『……ギギギギギ……。我が長き眠りを妨げる不届き者め……。この世の全ての生命の水分を吸い尽くし、不毛の砂地獄へと還してやろう……!』

 封印から目覚めた冥砂神が、全高百メートルを超える巨大な紫色の砂の魔神となって姿を現した。神が放つ「渇き」の絶対権能により、地下のわずかな湿気が一瞬で完全な砂へと変換され、空洞全体が、底なしの流砂の渦へと変わり始める。

「ク、クックック! 封印が解けたぞ! これで貴様らも、神の流砂の底へ……ッ!」

 ネザードが狂ったように叫んだが、ドリルからひょっこりと顔を出したエプロン姿の青年アルドは、激怒する砂の神と流砂の渦を見て、ただ少し困ったように眉をひそめた。

「うわぁ……。やっぱり地下深くまで来ると、すごく水はけが悪くて、パサパサした『砂混じりの質の悪い粘土層』があるなぁ。これじゃあ、どれだけ深く掘っても、水が砂で濁っちゃって美味しい井戸水にならないぞ」

 アルドの驚異的な「日常フィルター」は、大宇宙の渇きを司る冥砂神を、「井戸の水を濁らせる、非常に厄介な不純物の多い砂利の層」だと完全に勘違いした。

「よし! それなら、このパサパサの砂利たちを綺麗に洗浄して、逆に水を美味しくするための『天然のろ過フィルター(麦飯石のような砂の層)』に作り替えてしまおう!」

 アルドのDIY精神と、美味しい水へのこだわりが臨界点を突破した。

『滅びよ! 地上の虫ケラども! 【乾渇の砂嵐アストラル・デス・サンド】ッ!!』

 冥砂神が、触れた物質を全て砂に変える絶対死の砂嵐を、アルドめがけて放った。

「こういうガンコな砂利の層には、特製の『パイプクリーナー(精霊水&アロマブレンド)』をたっぷり撒いて、海神の吸盤でしっかり加圧するのが一番だね!」

 アルドは、ドリルを停止させると、リュックから巨大なバケツを取り出し、その中に溜まっていた翡翠色の極上液体を、襲い来る砂嵐に向かって豪快にブチ撒けた。

 ――ジュボォォォォォォォォォッ!!!!!

 大精霊女王ティターニアの清水と、瘴気神の浄化精油が混ざり合った究極の洗浄液が、神の砂嵐に触れた瞬間、マルチバースの因果が完全に崩壊した。

 触れたものを砂に変えるはずの神の魔力は、アルドの「砂を綺麗に洗ってろ過器にしたい」という圧倒的な意思の前に、ただの『水に溶けやすい泥汚れ』として処理され、シュゥゥゥッと音を立てて完全に中和・漂白されていったのだ。

『ギ、ギィィィッ!? 我が、我が絶対の渇きの権能が……ただの洗浄液で、サラサラと洗い流されていく!? 痛い! 浄化の力が、我が砂の結晶を【最高品質のろ過鉱石】へと強制的に組み替えていくゥゥゥッ!?』

「よしよし、汚れが落ちて綺麗な砂利になってきたぞ! 仕上げに、海神の吸盤ろ過器をここにセットして、しっかり圧密あつみつするよ! そぉいッ!」

 アルドは、深淵の海神リヴァイアサンの吸盤で作られた『絶対事象吸引ろ過器』を、悶絶して縮小していく冥砂神の本体(核)に向かって、上からドスンと力強く押し当てた。

 ――バチィィィィィィィィンッ!!!!!

 アルドがろ過器を押し当て、事象改変の圧力を込めた瞬間。

 全高百メートルあった紫色の砂の魔神は、物理的な破壊を伴うことなく、「水を最高に美しく磨き上げるための、極上の天然砂利フィルター」としての概念へと完全に上書きされ、シュルシュルシュルッ! と音を立てて、手のひらサイズの『綺麗なガラスの筒に入った砂時計型のフィルターユニット』へと強制成形されてしまったのである。

『ア……ァァ……。我が、星海を枯らす渇きの神が……ただの、不純物を取り除くための便利グッズに……』

 冥砂神アヌビス・サンド(フィルター状態)は、完全に自我を残したまま、井戸の最深部の配管の継ぎ目に、スポッと完璧に組み込まれた。

 その瞬間、フィルターが組み込まれた地下の岩盤の奥底から、星のマナ・コアと直結した、どこまでも透き通った奇跡の『大精霊の湧き水』が、轟音と共にもの凄い勢いで噴き上がり始めたのだ。

「おっ! 湧き出してきたぞ! しかも、さっきのフィルターのおかげで、一滴の濁りもない、クリスタルのように綺麗な水だ!」

 アルドは、大喜びでドリルの運転席に戻ると、レバーを逆回転させて、噴き上がる湧き水と共に、一瞬で地上へと舞い戻っていった。

 ***

 地上では、枯れ果てていた開拓村の古井戸から、天を衝くほどの高純度な『光の湧き水』が、ドッパーーーーンッ!! と大噴出した。

 その水が周囲の大地に染み込むたび、ひび割れていた土壌が一瞬で青々とした肥沃な大地へと蘇り、枯れていた花々が次々と大輪の美しさを咲かせていく。その水は、飲むだけで全ての病や呪いが完治するという、大宇宙最高の『神仙霊水』であった。

「わあぁぁぁ……! 水だ! どこまでも綺麗で、甘くて美味しい水が湧き出てきたぞ!」

 村人たちが、涙を流しながら湧き水をバケツですくい、大歓声を上げて喜び合っている。

「アルド様、今回も素晴らしいお仕事でしたね」

 エルミナが、タオルを片手に、戻ってきたアルドの泥を優しく拭った。

 一方、地下の空洞に一人取り残されていた地脈の呪術師ネザードは、目の前で神がフィルターにされ、地獄の流砂が極上の湧き水に変えられたあまりの現実(ゲシュタルト崩壊)に耐えきれず、完全に白目を剥いて泡を吹き、その場にバタリと失神していた。

 その哀れな男の襟首を、暗闇から現れたレイヴンが、ゴミでも拾うかのように片手でガシッと掴み上げた。

「やれやれ。バルバロス侯爵とやらの放つ刺客は、毎度毎度、主の家事の材料にされるためにやってくるな。……おい、シノン。この抜け殻、大公閣下への良い『手土産(証拠)』になるだろう」

「……ええ。侯爵の差し出した悪意の証拠として、大公閣下に裏から徹底的に詰め回してもらいましょう」

 シノンが、影の中から冷たい眼光を光らせて頷く。

 彼らは、気絶したネザードを縛り上げると、アルドに気づかれないよう、静かに馬車の荷台の奥深くへと放り込んだのであった。

 ***

 その日の夕方、日だまり郷の黄金の城塞。

「……終わりましたね。星の海を枯らす渇きの絶対神が、井戸のろ過フィルターに就職なさいました」

 記録係のアーキヴァルが、開拓村のギルドから届けられた莫大な報酬と感謝状を机に並べながら、手帳に静かに羽ペンを走らせる。

「ええ。記録完了。『第六十二種・乾渇の冥砂神の強制湧き水化と地脈の呪詛(ただの井戸掘り)』。対象:冥砂神アヌビス・サンド、および侯爵派の呪術師ネザード。結果:アルド様の特製ドスロドロ洗浄液によって神の概念をフィルターへと組み替えられ、裏で蠢く呪術師はクランメンバーによって完全捕縛、大公閣下への政治的反撃の駒として回収完了」

「アルド殿の掘った井戸水、城塞にも少し持ち帰ってきたが、これで淹れたお茶は本当に美味いな。魔力回路が常に新緑のように活性化していくのがわかる」

 レイヴンが、縁側で湯呑みを傾けながら、深く満足げに息を吐き出した。

「おーい! みんな! 今日は採れたての湧き水を使って、特製の湯豆腐と秋野菜の鍋を作ったよー! 身体が芯から温まるから、たくさん食べてね!」

 アルドの明るく無邪気な声が、夕暮れの黄金の城塞に温かく響き渡る。

 最強の便利屋の「ただの井戸掘り」は、大宇宙の渇きを司る絶対神を「最高のろ過器」として地底に埋め込み、不毛の村を世界最高の霊水が湧き出る絶対聖域へと進化させると同時に、背後から忍び寄る侯爵派の悪意を、大公への強力な反撃のカードとして完璧に処理してしまったのであった。

 バルバロス侯爵が放つ如何なる策略も、アルドの「平凡で快適な日常」をさらに美味しく、豊かにするための、ただの『生活の肥やし』に過ぎないのである。

ここまでお読みいただきありがとうございます!少しでも面白いと感じたら、画面下から【ブックマーク】と【☆☆☆☆☆】の評価をいただけると、執筆の大きなモチベーションになります!

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