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辺境暮らしの便利屋冒険者、伝説のクランのリーダーに祭り上げられる 〜本人曰く「ただの日常」らしいです〜  作者: 盆ちゃん


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第58話:ただのキノコ狩りと、猛毒の菌糸神の強制松茸化

第58話:ただのキノコ狩りと、猛毒の菌糸神の強制松茸化

 黄金の城塞を包む空は、どこまでも高く澄み渡り、心地よい秋の冷気が木々の葉を鮮やかな赤や黄色へと染め上げていた。

 日だまり郷における秋は、大宇宙の脅威たちを次々と「風流な季節の飾り」や「便利な調理器具」へと変貌させたことで、かつてないほど豊饒で穏やかな時間を迎えている。

 縁側の『三方』の上には、星を激突させる月天の支配神ルナティック・ゴッドが「極上の満月オーナメント」として淡く美しい銀光を放ち、その傍らでは、暴食の星獣グラトニオンから変異した『究極の石焼き窯』が、いつでも秋の味覚を焼き上げるべくチロチロと優しい種火を揺らしている。

 世界樹ユグドラシルの落ち葉を掃き集めるアザトス率いる元・混沌魔軍たちも、すっかり土の匂いが染み付いた立派な農夫の顔になり、秋の収穫の喜びに満ち溢れていた。

 そんな秋深まるある日の午前中。

 アルドは、厚手の長袖シャツに身を包み、腰に小さな竹カゴを結びつけ、そして手には一本の小刀を握りしめて、城塞の裏山へと続く道を歩いていた。

「ふぅ、秋風が気持ちいいなぁ。サツマイモの大豊作も最高だったけど、秋の山の恵みといえば、やっぱり『キノコ』を見逃すわけにはいかないよね」

 アルドは、足元の落ち葉を踏むサクサクという音を楽しみながら、豊饒な森の奥へと足を踏み入れていく。

 ――当然ながら、彼が「キノコ狩り用の小刀」として無造作に持ち歩いているのは、かつて天界の戦乙女が邪神の概念を切り裂くために用いた『神裂きの短剣(アラクネが鞘を編み直したもの)』である。

「この裏山は、世界樹の根が張っているおかげで土壌がふかふかだから、きっと美味しいキノコがたくさん生えているはずだ。お吸い物や炊き込みご飯にしたら、絶対に美味しいだろうなぁ」

 アルドが呑気に鼻歌を歌いながら、落ち葉の陰に隠れた秋の味覚を探していた、まさにその時である。

 ――ズズズズズズズズッ……!!!!

 黄金の城塞の裏山のさらに奥、静寂に包まれていた森の空間が、突如として毒々しい紫と緑の斑模様に歪み始めた。

 大気中のマナが急速に腐敗し、周囲の木々が一瞬にしてドロドロの粘液と不気味な菌糸に覆われていく。そして、次元の壁を溶かして這い出してきたのは、一つの惑星はおろか、星系全体を腐海へと変貌させるほどの猛毒を内包した、巨大な菌類のバケモノであった。

『……見つけたぞ。我が胞子を根付かせるに相応しい、異常なまでに純度の高いマナの集積地。そして、大宇宙の理を狂わせる忌まわしき特異点よ』

 その存在の名は、マイコトキシン・ロード。

 星の海に胞子を撒き散らし、無数の生命を腐敗させて自らの菌糸の苗床にしてきた『猛毒の菌糸神』である。

 彼の肉体は、触れただけで神々の肉体すら溶け落ちる絶対致死の毒胞子で構成されており、その巨大な傘の下からは、何万本もの触手のような菌糸がうごめいている。

 菌糸神は、日だまり郷に蓄積された常軌を逸した生命力(世界樹や神々の存在)を極上の腐葉土として嗅ぎつけ、このアステリアの全生命を腐敗の海に沈めるために降臨したのである。

「な、なんだあの禍々しい毒の霧は!? 森が……森の木々が一瞬でドロドロの腐海に変わっているぞ!?」

 裏山の入り口で落ち葉を掃いていた元・大賢者ゾルタンが、竹箒を落として絶叫した。

「あれは……神話にすら記されていない、星海を腐敗させる『猛毒の菌糸神』! あのような致死の胞子が直接撒き散らされれば、この星の生態系は完全に崩壊し、全てが猛毒の泥に変わってしまいますわ!」

 屋根の上で風見鶏をしていたレギンレイヴが、遠くから漂ってくる死の匂いにむせ返りながら悲鳴を上げる。

『腐れ! 溶け落ちろ! 大宇宙のバグよ! 我が「絶望の死胞子デッドリー・スポア」によって、貴様のそのちっぽけな城塞ごと、我が菌糸の苗床として朽ち果てさせてくれるわァァァッ!』

 猛毒の菌糸神が、大陸を腐敗させるほどの高濃度の毒霧を放ち、無数の触手をアルドめがけて伸ばしてきた。

 大気が悲鳴を上げ、足元の土が毒に侵されて黒く変色していく。誰もが生命の終わり、いや「腐敗していく絶望」を直感し、目を閉じた。

 しかし。

 ただ一人、アルドだけは、その大宇宙の絶対的絶望を、全く別のベクトルからロックオンしていた。

「おっ! なんか森の奥に、すごく立派で傘が大きな『巨大キノコ』が生えてるぞ! しかも、周りに不思議な霧が出てて、いかにも高級そうな香りがする!」

 アルドの驚異的な「日常フィルター(事象の誤認)」は、星を腐敗させる絶対致死の毒胞子と、全てを溶かす菌糸のバケモノを、「キノコ狩りの大目玉となる、信じられないくらい肉厚で芳醇な香りを放つ最高の『超巨大マツタケ』」だと完全に勘違いした。

「すごい! あのサイズなら、城塞のみんなでお腹いっぱいキノコご飯が食べられるぞ! しかも、わざわざこんな見つけやすい場所に生えててくれるなんて!」

 アルドの秋の味覚をハンティングする気概が、大宇宙の腐敗神を置き去りにして臨界点を突破した。

『溶けて我が養分となれェェェッ! 地上の塵どもォォォッ!!』

 マイコトキシン・ロードが、アルドを溶かすべく猛毒の触手を四方八方から突き刺してくる。

「よーし! 傘が傷つく前に、根元から綺麗に刈り取るぞ!」

 アルドは、腰に提げた竹カゴを背負い直すと、手に持った『神裂きの短剣』を構え、猛毒の霧の中へと軽やかに飛び込んだ。

 彼の事象改変オーラにより、菌糸神の放つ絶対致死の毒胞子は、アルドにとって「キノコの芳醇な香り(マツタケの匂い)」程度に強制的に緩和され、彼は全くむせることもなく、バケモノの巨大な石突(根元)の真正面へと躍り出た。

『…………は?』

 猛毒の菌糸神は、己の全存在を懸けた死の胞子の中で、人間が「ヨダレを垂らしながら」自ら飛び込んできた光景を見て、思考が完全にフリーズした。

『ば、馬鹿な……!? 我の絶対致死圏内で、なぜ平然と呼吸をしている!? き、貴様、自ら腐肉になりに来たのかァァァッ!』

「ごめんね! ちょーっと大きすぎるから、食べやすいサイズにカットさせてもらうよ!」

 アルドは、巨大な菌糸神の根元に狙いを定めると、『神裂きの短剣』を横一文字に全力で振り抜いた。

「根元に土を残さないように……そぉいッ!!」

 ――サクゥゥゥゥゥゥゥッ!!!!

 アルドが短剣を振り抜き、「スッ」と事象改変の力を込めた瞬間。

 大宇宙を腐海に沈める猛毒と菌糸の法則が、アルドの「絶対に美味しいキノコご飯を作りたい」という圧倒的で暴力的なまでの意思によって、完全に上書きされた。

 星を溶かすはずの毒胞子は「食欲をそそる極上のマツタケの香り」へと概念を書き換えられ、全てを絡め取る触手は「シャキシャキとした絶妙な歯ごたえの繊維」へと強制的に変換されたのだ。

『ギ、ギィィィッ!? な、なんだこれは!? 我の肉体が……星を腐らせるはずの菌糸が、ただの人間用の食材として【最高の旨味成分】に書き換えられているだとォォォッ!?』

「いい手応えだ! 繊維がしっかりしてて、これは絶対に美味しいぞ!」

 アルドの短剣の一閃により、巨大なマイコトキシン・ロードの本体は、痛みではなく「収穫される秋の味覚として最適化される」という概念の書き換えを受け、シュルシュルシュルッ! と音を立てて猛スピードで圧縮された。

 そして次の瞬間、星を滅ぼすはずだった菌糸神は、文字通り「アルドの両手にすっぽりと収まるサイズの、見事な傘と極太の柄を持つ、極上の超巨大マツタケ」へと強制的に成形されてしまったのである。

『ア……ァァ……? ワ、我ガ肉体ガ……ただの美味しそうなキノコに……』

 マイコトキシン・ロード(マツタケ状態)は、完全に自我を残したまま、アルドの竹カゴの中へと優しく放り込まれた。

「よし! 大物ゲットだ! これ一つで今日の夕食は超豪華になるぞ!」

 アルドは、芳醇な香りを放つ竹カゴを背負い、ご機嫌な足取りで黄金の城塞へと戻っていった。

 数十分後、城塞のキッチン。

 アルドの手際の良い包丁さばきによって、猛毒の菌糸神は、食べやすい薄切りへと次々にスライスされていく。

『ヒィィィッ!? や、やめろ! 我を包丁で切るな! 我は星の命を腐らせる……』

「まずは、お吸い物用に少し取り分けて……残りは全部、炊き込みご飯にしよう!」

 アルドは、土鍋に世界樹の精米と、深淵の海神の極上出汁を張り、その上にスライスしたマイコトキシン・ロードをたっぷりと乗せて火にかけた。

 グツグツと煮立つ土鍋の中で、菌糸神の体内に、かつて経験したことのない異常な事態が発生した。

 彼の「全てを腐敗させる」という猛毒成分が、アルドのオーラと出汁の力によって完璧に分解・再構築され、信じられないほど濃厚な「究極の旨味成分(アミノ酸)」へと昇華されていったのだ。

 その瞬間、大宇宙の真理を凝縮したようなキノコの極上の香りが、菌糸神の体内(というか存在の根源)に暴力的かつ優しく叩き込まれた。

『ア……ッ!? な、なんだこの香りは……!?』

 土鍋の中から湯気と共に立ち上る極上の匂いを嗅ぐたび、マイコトキシン・ロードの体内に数万年蓄積されていた「何でもいいから腐らせたい」というドス黒い衝動が、圧倒的な幸福感と「極上の料理の一部となった達成感」によって完全に洗い流され、漂白されていくのを感じたのだ。

『香ばしくて……なんて深い旨味の匂いなんだ……。私の菌糸が、ただ無機質に星を腐らせるのではなく、こんなにも素晴らしく、人々を笑顔にする「究極の出汁」を生み出している……。命を奪い、腐肉をすするだけの虚しい生よりも、こうして自らの身を刻まれ、誰かに「美味しい」と喜んでもらうことが、これほどまでに心を満たすことだったとは……!』

 猛毒の菌糸神の凶悪な意思は、アルドの「秋の味覚への情熱」によって完全に浄化され、書き換えられた。

 いや、彼自身が「大宇宙で一番美味しく、香り高い『究極のキノコ(神仙マツタケ)』」として、人々の舌と心を満たすという生き方に、至上の喜びを見出してしまったのだ。

「よし! 炊き上がったみたいだ! 土鍋の蓋、オープン!」

 アルドが蓋を開けると、黄金色に輝くお米の上に、ツヤツヤとしたキノコがたっぷりと乗った、極上の『秋の神仙キノコご飯』が完成していた。

「みんな! できたよ! すっごくいい匂いのキノコご飯とお吸い物だ! 冷めないうちに食べよう!」

 アルドは、お茶碗に山盛りにしたキノコご飯をかき込み、ホクホクと頬張った。

「うん! 最高! 歯ごたえがシャキシャキで、噛むたびに旨味が口いっぱいに広がるよ! 自分で採ってきたキノコは格別だね!」

『お任せください、マスター……!』

 お茶碗の中のキノコのスライス(マイコトキシン・ロード)から、感動の涙のように温かく優しい旨味の雫がキラリと光った。

『このマイコトキシン、貴方様と皆様に、大宇宙で最も芳醇で、心を芯から満たす「極上の旨味と香り」を提供することをお誓いいたしますッ! お吸い物でも、炊き込みご飯でも、ホイル焼きでも、私が最高のダシを出してみせましょう!』

「あはは! なんかキノコがピカピカ光って嬉しそうにしてるね! よーし、残った石突(根元)は裏山の原木に植え付けて、毎日美味しいキノコを育てよう!」

 アルドの明るい声が、秋の涼やかな風に乗って、ダイニングに響き渡る。

 その一部始終を、ダイニングの端でキノコご飯をハフハフしながら見守っていたアーキヴァルとゾルタン。

「……終わりましたね。星を腐海に沈める宇宙の猛毒神が、究極の秋の味覚(マツタケご飯)に成り下がりました」

 記録係のアーキヴァルが、もはや何の感情も浮かばない、完全に解脱した笑顔で手帳に羽ペンを走らせる。

「ええ。記録完了。『第五十八種・猛毒の菌糸神の強制松茸化(ただのキノコ狩り)』。対象:星海を腐らせるマイコトキシン・ロード。結果:アルド様の手によって短剣で刈り取られ、土鍋で完璧に炊き上げられたことで【料理の一部となり、人々の舌を満たす喜び】に目覚め、永久の専属高級食材兼・栽培キットへと強制就職」

「……俺はもう、この城塞の秋の味覚のスケールがどこまでインフレするのか考えるのをやめた。猛毒の菌糸神をスライスして食うなど、神々ですら腰を抜かすレベルの美食だぞ。……おい、ゾルタン。このキノコご飯を一口食っただけで、体内の魔力耐性が宇宙の毒素を完全に無効化できるレベルに進化した気がする」

 レイヴンが、黄金色のお米を咀嚼しながら、乾いた笑いを漏らした。

「……ええ、先輩。それに、このキノコの石突を裏山に植えたら、毎日このレベルの神仙食材が無限に採れることになりますよ。私たちの胃袋が持つかどうか心配です」

 元・大賢者ゾルタンも、完全に感覚が麻痺した笑顔で、二杯目のキノコご飯とお吸い物のおかわりに立ち上がった。

「いやぁ、最高の秋だね! 美味しいものがいっぱいあって、毎日が楽しいや!」

 アルドの無邪気な笑顔が、キノコご飯の温かな湯気の向こうでキラキラと輝いている。

 最強の便利屋の「ただのキノコ狩り」は、星を滅ぼす巨大な猛毒の菌糸神を「最高に美味しい秋の味覚」として土鍋で炊き上げ、黄金の城塞の秋を、文字通り【いかなる宇宙の絶望も極上の美食に変換する絶対的パラダイス】へと進化させてしまったのであった。

 アルドの追い求める「平凡な日常」の前では、大宇宙の猛毒すらも、ただの「季節の食卓を彩る美味しい食材」に過ぎないのである。

ここまでお読みいただきありがとうございます!少しでも面白いと感じたら、画面下から【ブックマーク】と【☆☆☆☆☆】の評価をいただけると、執筆の大きなモチベーションになります!

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