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辺境暮らしの便利屋冒険者、伝説のクランのリーダーに祭り上げられる 〜本人曰く「ただの日常」らしいです〜  作者: 盆ちゃん


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第47話:ただの雨漏り修理と、次元創世龍の屋根瓦化

第47話:ただの雨漏り修理と、次元創世龍の屋根瓦化

 大宇宙の法則を根底から書き換え、ありとあらゆる次元の覇者や神々をご近所さん(あるいは家事手伝い)として取り込んでしまった日だまり郷――『黄金の城塞』。

 この究極のユートピアに、柔らかな春の終わりと、少し湿り気を帯びた初夏の気配が漂い始めていた。

 城塞の中庭では、大宇宙の終焉を司るアラクネが編み上げた極上の夏服を身に纏った住人たちが、思い思いの「完璧な日常」を謳歌している。

 元・魔界大帝サタナスは「そろそろ冷房の準備も必要ですな!」と嬉々として地下ボイラー室の配管を磨き、大精霊女王ティターニアは、精霊の池で神竜ポチと海神リヴァイアサン(イルカさん)に「水鉄砲の正しい撃ち方」をレクチャーしている。温室では元・太陽神アポロンが最高の光量調整で初夏の神仙トマトを真っ赤に実らせ、時空神クロノスは……相変わらず雪だるま(現在は溶けないように氷の魔女グレイシアの特製クーラーボックス内に安置されている)の中で深い安眠を貪っていた。

 もはや、大宇宙のどこを探しても、これほどまでに狂気と奇跡が絶妙なバランスで調和した平穏な空間は存在しないだろう。

 しかし、どれほど完璧な城塞であっても、「建物」である以上、定期的なメンテナンスは必要不可欠である。

 ある日の午後。アルドは、城塞の西側にある長い回廊を掃除している最中、ふと床に水たまりができていることに気がついた。

「おや? こんなところに水が……」

 アルドが天井を見上げると、オリハルコンでできた強固な天井のほんのわずかな隙間から、ポタリ、ポタリと透明な雫が落ちてきていた。

「うーん。オリハルコンの屋根でも、継ぎ目の部分から雨水が染み込んでくることがあるんだな。もうすぐ梅雨の季節だし、これじゃあ廊下がカビだらけになっちゃう。早めに屋根の修理をしておかないと」

 アルドは、顎に手を当ててウンウンと唸った。

 ――しかし、彼が「ただの雨漏り」と認識しているその現象は、決して外の雨水などではなかった。

 実は、アルドが先日「ただの風景画」を描いた際に新たな並行宇宙を創造してしまった影響で、黄金の城塞の上空の次元座標が微細な歪みを起こしていたのだ。天井からポタポタと落ちてきているのは、高次元の空間から漏れ出た『時空の亀裂から滴る次元の雫』であり、一滴でも常人が触れれば存在が多次元に分散して消滅してしまうほどの猛毒であった。

 だが、アルドの「事象改変オーラ」と「究極の日常フィルター」を通せば、次元の猛毒も「ちょっと床を濡らす厄介な雨水」程度の意味しか持たない。彼はすぐさま作業小屋へ向かい、修繕道具を物色し始めた。

「屋根の隙間を埋めるなら、水弾きが良くて、絶対に腐らない『瓦』みたいな素材が必要だな。何かちょうどいいものはないかな……」

 アルドが手作りのハシゴ(※世界樹の枝製)を担いで、城塞の屋根の上へと登った、まさにその時である。

 ――バキバキバキバキィィィィンッ!!!!

 黄金の城塞の遥か上空、雲一つない初夏の青空が、まるで薄いガラスが砕け散るように無惨にひび割れ、そこからどす黒い「宇宙の深淵」が直接口を開けた。

 そして、その次元の亀裂から、一つの星よりも巨大な、七色に輝く幾何学的な鱗を持った超絶次元生命体が、ゆっくりと、そして圧倒的な威圧感を伴って這い出してきたのだ。

『……見つけたぞ。我が生み出した無数の並行宇宙を、ただ一枚の「絵画」に押し込め、マルチバースの理を根底から書き換えた大罪人よ』

 その存在の名は、ウロボロス・プライム。

 時空神や創世神よりもさらに古く、大宇宙そのものが誕生する前から「次元の枠組み」を創造し、そして破壊し続けてきた『次元創世龍』である。

 彼は、アルドの行動によってマルチバースが「完璧な平和」という単一の結末に収束しつつあることに激怒していた。無限の可能性と混沌こそが次元の美しさであると信じる彼にとって、アルドの作り出す「誰もが仲良くお茶を飲む世界」は、あまりにも退屈で許しがたいバグであったのだ。

『貴様のそのふざけた城塞ごと、全ての次元の果てにある「絶対無ゼロ」の空間へと叩き落としてくれる! 跡形もなく消え去るがいい!!』

 ウロボロス・プライムが、星をも飲み込む巨大な顎を開き、次元そのものを消滅させる『特異点崩壊ブレス』を放とうと、極大のエネルギーをチャージし始めた。

 その光景に、城塞の住人たちは一斉に顔面を蒼白にした。

「な、なんだあの化け物は!? 空の次元が完全に裏返っているぞ!?」

 庭で大根を洗っていた元・大賢者ゾルタンが、大根を落として絶叫した。

「あ、あれは……伝説の次元創世龍! マルチバースの管理者アイオーン殿の上司にあたる、次元の創造と破壊の化身ですわ! あのような規格外の存在が直接降臨するなんて、世界が完全に終了しますッ!」

 屋根の上で風見鶏をしていたレギンレイヴが、風見鶏のポールにしがみつきながらガタガタと震えている。

 宇宙の終わり。次元の消滅。

 誰もが絶望に沈む中、ただ一人、屋根に登ってきたアルドだけは、全く別の認識で空を見上げていた。

「おっ! なんか空から、すごく綺麗な七色の鱗を持った生き物が顔を出してるぞ! しかも、すっごく大きくて、表面がツルツルしてる!」

 アルドは、世界を滅ぼそうと顎を開いている次元創世龍を、「突然空から現れた、巨大で水弾きの良さそうな謎の飛行生物」だと完全に勘違いした。

「あのウロコ、すごく丈夫そうだし、水を完全に弾く素材に違いない! あれを屋根の雨漏りしてる部分に被せたら、絶対に水が漏れない最高の『防水シート兼・屋根瓦』になるぞ!!」

 アルドの驚異的なDIY精神(という名の狂気)は、大宇宙の理を司る究極の龍すらも、ただの「便利な建築資材」としてロックオンしてしまった。

『滅びよ! 忌まわしき特異点! 【次元崩壊・オメガブラスター】ッ!!』

 ウロボロス・プライムの巨大な顎から、あらゆる物理法則と概念を真っ白に消し飛ばす極大の閃光が、黄金の城塞めがけて放たれた。

 光の速度を超越したそのブレスは、コンマ一秒でアルドの頭上に迫る。

「うわっ! 急に強い風と光が! 今日は本当に天気が不安定だなぁ!」

 アルドは、腰のポケットから、先日アラクネが「端切れで作りました」と渡してくれた漆黒のハンカチ(※終末の糸を編み込んだ絶対防壁の布)をスッと取り出し、それを頭上でパラリと広げた。

 ――シュオォォォォォォォォッ!!!!

 次元を消滅させるはずの特異点崩壊ブレスが、アルドの広げた「ただのハンカチ」に触れた瞬間、まるで霧吹きでかけられた水が傘に弾かれるように、シュゥゥ……と音を立てて完全に無効化され、大気中へと四散してしまった。

『…………は?』

 ウロボロス・プライムは、己の全存在を懸けた必殺の一撃が、人間が片手で持った小さな布切れに完全に防がれた光景を見て、思考が完全に停止した。

『ば、馬鹿な……!? 我の次元崩壊ブレスが、ただの布に……弾かれただと!? き、貴様、一体何をしたァァァッ!』

「よし! 今のうちだ! あのウロコをゲットするぞ!」

 アルドは、龍の驚愕を完全に無視し、屋根を強く蹴り上げた。

 彼の「事象改変オーラ」によって、空中の次元が物理的な足場へと強制的に変換され、アルドはまるで透明な階段を駆け上がるように、一瞬にしてウロボロス・プライムの巨大な鼻先へと到達した。

『な、空間を歩いて……!? 近づくな! 貴様のようなバグは、我が直接喰い殺して……ガッ!?』

「ごめんね! ちょーっとだけ、君のウロコを貸してほしいんだ!」

 アルドは、満面の笑顔で、次元創世龍の「巨大な上の牙」と「下の牙」を、両手でそれぞれガシッと鷲掴みにした。

 その瞬間、ウロボロス・プライムの体内に、かつて経験したことのない異常なエネルギーが叩き込まれた。

『ギ、ギィィィッ!? な、なんだこの万力のような力は!? 次元を創る我がパワーが、完全に押さえ込まれている!? 腕力が、次元の概念を凌駕しているだとォォォッ!?』

「それじゃあ、ちょっと小さくなってもらうよ! よいしょーっ!」

 アルドが「ギュルルン!」と両手に力を込めた瞬間。

 大宇宙の法則が、アルドの「屋根瓦にちょうどいいサイズにしたい」という強烈な意思の前に完全に屈服した。

 星を飲み込むほど巨大だった次元創世龍の肉体は、空間そのものが圧縮されるすさまじい音と共に、シュルシュルシュルッ! と猛スピードで縮み始め、ものの数秒で「長さ一メートルほどの、七色に輝く少しカーブした石板のような形(つまり、完全に屋根瓦の形)」へと強制的に成形されてしまったのである。

『ア……ァァ……? ワ、我ガ肉体ガ……ただの薄っぺらい板に……』

 ウロボロス・プライム(瓦サイズ)は、完全に自我を残したまま、アルドの小脇にヒョイッと抱えられた。

「よし! ナイスサイズ! これなら雨漏りしてる隙間にピッタリだぞ!」

 アルドは、七色に輝く「次元創世龍の瓦」を小脇に抱えたまま、軽やかに屋根の上へと着地した。

 そして、先ほど雨漏り(次元の雫)が落ちていたオリハルコンの屋根の隙間に、その瓦をスポッと嵌め込んだ。

『ヒィィィッ!? や、やめろ! 我を建材にするな! 我はマルチバースの創造……』

「ここをしっかり固定しないとね。風で飛ばされたら困るし」

 アルドは、作業ベルトから愛用の木槌(※世界創造の神槌)を取り出し、瓦(龍)の端っこに向かって、躊躇なく力いっぱい振り下ろした。

「そぉいッ!!」

 ――ガァァァァァァァァァァンッ!!!!

 神槌の一撃が、ウロボロス・プライムの鱗にクリーンヒットした。

 その瞬間、龍の意識に叩き込まれたのは、痛覚ではなく、アルドの「雨漏りを防いで、みんなの快適な暮らしを守る」という、圧倒的に純粋で、暴力的なまでの『日常への祈り』であった。

『ガ……ァァ……ッ!!!!』

 次元を創り、壊すことだけが己の存在意義だと思っていたウロボロス・プライムの魂に、雷のような衝撃が走った。

『な、なんだこれは……。我が体を通じて、この城塞全体を雨(次元の歪み)から守護しているという、この異常なまでの【安心感】と【達成感】は……! 私は今まで、無限の宇宙を創っては壊してきたが……これほどまでに「自分の役割が誰かの役に立っている」という充実感を得たことは、一度もなかった……!』

 次元創世龍の凶悪な意思は、アルドの木槌の一振りによって完全に書き換えられた。

 いや、彼自身が「雨漏りを防ぐ最高の屋根瓦」としての生き方に、至上の喜びを見出してしまったのだ。

「トントン、トントン! よし、これで完璧に固定されたぞ!」

 アルドが満足げに瓦を叩いて確認すると、ウロボロス・プライムから、キラキラとした七色の光が放たれ、屋根の隙間を完璧な次元結界で塞ぎ切った。

『お任せください、我が創造主マスターよ……! このウロボロス・プライム、貴方様の城塞に一滴の雨水(次元の歪み)たりとも漏らさぬ、最強の防水瓦として永遠に君臨することをお誓いいたしますッ!』

 瓦の表面に浮かび上がった龍の顔が、感動の涙を流しながら、屋根に同化していく。

「あはは! なんか光ってるし、顔みたいな模様が浮かんでるけど、すっごく水弾きが良さそうだ! これで今年の梅雨は安心だね!」

 アルドは、ニコニコと笑いながら額の汗を拭った。

 その一部始終を、少し離れた屋根の上(安全地帯)から見守っていたクランの面々。

「……終わりましたね。マルチバースの最高神が、雨漏り修理の防水瓦に成り下がりました」

 記録係のアーキヴァルが、もはや何の感情も浮かばない、悟りきった澄み切った瞳で手帳に羽ペンを走らせる。

「ええ。記録完了。『第四十七種・次元創世龍の屋根瓦化(ただの雨漏り修理)』。対象:マルチバースの創造主ウロボロス・プライム。結果:アルド様の手によって瓦サイズに圧縮され、屋根に釘打たれたことで【家を守る喜び】に目覚め、永久防水素材へと強制就職」

「……俺はもう、この城塞の防御力がいかほどなのか計算するのをやめた。空から降ってくるあらゆる脅威が、自動的にこの家の建材や家電に変換されていくのだからな。……おい、ゾルタン。あの瓦、七色に光っていて夜はイルミネーション代わりになりそうだな」

 レイヴンが、屋根に埋め込まれた龍の顔を見下ろしながら、乾いた笑いを漏らした。

「……ええ、先輩。それに、あの瓦の周りだけ、次元の濃度が異常に高まっていて、屋根の上で昼寝をしたら寿命が数万年延びそうですよ」

 元・大賢者ゾルタンも、完全に感覚が麻痺した笑顔で頷く。

「おーい! みんな! 屋根の修理終わったよー! これでいつ雨が降っても大丈夫だから、安心して過ごしてね!」

 アルドの明るい声が、初夏の青空にこだまする。

 最強の便利屋の「ただの雨漏り修理」は、大宇宙の次元そのものを創造する最高神を「最高の防水瓦」として屋根に埋め込み、黄金の城塞を文字通り【いかなる次元の崩壊すらも弾き返す絶対安全圏】へと進化させてしまったのであった。

 アルドの追い求める「平凡な日常」の前では、大宇宙の理すらも、ただの「快適な住環境を整えるための便利な素材」に過ぎないのである。

ここまでお読みいただきありがとうございます!少しでも面白いと感じたら、画面下から【ブックマーク】と【☆☆☆☆☆】の評価をいただけると、執筆の大きなモチベーションになります!

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