第44話:ただの草むしりと、星喰いバクテリウムの完全駆除
第44話:ただの草むしりと、星喰いバクテリウムの完全駆除
アラクネが「専属仕立て屋」としてクランに加入し、黄金の城塞の住人たちが大宇宙の法則で織られた超高級な春服を身に纏うようになった頃。
季節はすっかり春本番を迎え、城塞の裏手に広がる広大な畑(元・混沌魔軍が管理する超優良農地)や、中庭の芝生には、青々とした緑が眩しく茂っていた。
「いやあ、暖かい日が続くと、植物の育ちが違っていいなぁ。温室の野菜も順調だし、世界樹の葉っぱもツヤツヤしてる」
アルドは、新調した漆黒の軽やかなジャケット(※終末の糸製)の袖をまくり上げ、麦わら帽子を被って中庭を見渡した。
「でも、暖かくなると『雑草』も元気に生えてきちゃうんだよね。せっかくの綺麗な芝生や畑が、雑草だらけになったら見栄えが悪いし、野菜の栄養も取られちゃう。よし、今日は徹底的に『草むしり』をしよう!」
アルドは、作業小屋から土いじり用の「草刈り鎌」と、大きな「竹カゴ」、そして厚手の軍手を持ち出してきた。
――当然ながら、これらもただの道具ではない。草刈り鎌は、かつて時空神クロノスが雪だるまに巻き込まれた際に落としていった『時空の鎌クロノス・サイズ(刃先をアルドが研ぎ直したもの)』であり、軍手はアラクネが端切れで作ってくれた『絶対防御の神布手袋』である。
「この辺りからやっていこう。よいしょ、よいしょ」
アルドは、黄金の石畳の隙間や、花壇の隅に生えている雑草を、時空の鎌でサクッ、サクッと刈り取っては、竹カゴに放り込んでいく。時空の鎌で刈られた雑草は、その「生えていたという時間」ごと刈り取られるため、二度と同じ場所から生えてくることはないという、究極の除草作業であった。
アルドが鼻歌交じりに草むしりを楽しんでいた、まさにその時である。
――ズズズズズズズッ……!!
空が突如として淀んだ緑色に染まり、大気圏外から、無数の巨大な「蔓」や「胞子」が、隕石群のように地上に向かって降り注いできたのだ。
それは、ただの植物ではない。
大宇宙の暗黒空間で繁殖し、生命力に満ちた惑星を見つけては寄生し、星の核はおろか、そこに住む全生命体の養分を吸い尽くして枯死させる宇宙最悪の寄生植物――『星喰いバクテリウム』の群れであった。
「な、なんだあの禍々しい巨大な植物は!? 空から降ってくるだと!?」
畑で農作業をしていたアザトス(元・混沌の王)が、持っていたクワを取り落として絶叫した。
「おのれ、星の寿命が延び、マナが異常なほど活性化しているこの日だまり郷の噂を聞きつけて、宇宙の害草が寄生しに来たというわけですか! あの胞子を少しでも吸い込めば、神々ですら養分にされてしまいますわ!」
ティターニア(大精霊女王)が、精霊の池から顔を出して青ざめる。
『ギギギギギ……。コノ星ノ、濃厚ナマナ……全テ我ラノ養分トシテ、吸イ尽クシテクレルワァァァッ!』
星喰いバクテリウムの巨大な主根が、黄金の城塞を包み込もうと、天を覆い尽くすほどの質量で迫り来る。
触手のような蔓が城塞の防壁に絡みつき、猛毒の胞子が雪のように降り注ぐ。星が「緑の地獄」に飲み込まれようとしていた。
しかし。
「おや? なんだか急に、空から大きめの『雑草』がたくさん降ってきたぞ?」
アルドは、空を見上げ、迫り来る宇宙最悪の寄生植物を「ちょっと成長しすぎた、しぶといタイプの雑草(あるいは外来種)」だと完全に誤認した。
「うわぁ、すごい繁殖力だなぁ。放っておいたら、せっかくの庭がジャングルみたいになっちゃうぞ。これは気合を入れて抜かないと!」
アルドは、軍手をはめた両手をパンッと叩き、時空の鎌を右手に握りしめて、降ってくるバクテリウムの巨大な蔓に向かって、軽やかに跳躍した。
「そぉいッ!!」
シュパァァァァァァァァンッ!!!!
アルドが時空の鎌を一閃した瞬間。
城塞を包み込もうとしていた直径数十メートルもあるバクテリウムの主根が、まるで豆腐のように真っ二つに両断された。
アルドの放つ『事象排除』のオーラと、時空の鎌の絶対切断能力の前に、宇宙の寄生植物の強度など「ちょっと硬めのススキ」程度の抵抗感しか持たなかったのである。
『ギァァァァァァァッ!? な、何事ダ!? 我ガ絶対不壊ノ繊維ガ、タダノカマデ切断サレタダト!?』
バクテリウムの群体から、苦悶のテレパシーが響き渡る。
「おおっ、この鎌、すごい切れ味だ! どんな太い草でもサクサク刈れるぞ! よーし、どんどんいくよー!」
アルドは、空中で足場もないのに(事象改変により空間を蹴って)縦横無尽に飛び回り、降り注ぐバクテリウムの蔓や胞子を、シャキーン! シャキーン! と、まるで芸術的な舞のような滑らかさで刈り取りまくった。
『ヒィィィッ!? 逃ゲロ! コノ星ノ農夫ハオカシイ! 我ラヲ「雑草」トシテ処理シテイルゾォォォッ!』
星喰いバクテリウムは、アルドの圧倒的な「草むしりオーラ」に本能的な恐怖を覚え、全速力で宇宙空間へ撤退しようと蔓を引き戻し始めた。
「あっ! 逃げちゃダメだよ! 根っこからしっかり抜かないと、またすぐに生えてくるんだから!」
アルドは、逃げようとするバクテリウムの巨大な主根を、左手の軍手でガシッと鷲掴みにした。
『ギャァァァァァッ!? ハナセ! ハナシテクレェェェッ!』
「よいしょーーーッ!!!!」
ズッゴォォォォォォォォォォォォンッ!!!!
アルドが、腰を落として全力で(草を引っこ抜くフォームで)腕を引いた瞬間。
大気圏外にまで広がっていたバクテリウムの巨大な本体が、アルドの腕力によって宇宙空間から「ズボォォォッ!」という凄まじい音と共に、根こそぎ地上へと引きずり下ろされてしまった。
『ア……ァァ……。我ガ、宇宙ノ寄生植物タル我ガ、根コソギ引ッコ抜カレルナンテ……』
バクテリウムの本体は、アルドの事象圧縮オーラによって、みるみるうちに縮小され、最終的には「竹カゴにすっぽりと収まるサイズの、丸まった緑色の草の塊」へと強制変換されてしまった。
「ふう、大物だったなぁ。でも、根っこから綺麗に抜けてスッキリした!」
アルドは、竹カゴにパンパンに詰まったバクテリウム(の成れの果て)を見て、満足げに汗を拭った。
「さて、この抜いた雑草だけど……捨てるのはもったいないな。そうだ! すごく栄養がありそうだから、裏の畑の『堆肥』にしよう! 発酵させれば、野菜がもっと美味しく育つぞ!」
アルドは、竹カゴを抱え、元・混沌魔軍のアザトスたちが管理する畑へと向かった。
「アザトスさん! これ、すごくいい肥料になりそうだから、コンポスト(堆肥箱)に入れておいてくれないかな?」
『は、はいぃぃぃっ! 創造主様の御心のままにッ!』
アザトスは、宇宙の災厄だったバクテリウムが、ただの「良質な肥料」として押し付けられたことに内心でガクガクと震えながらも、深い敬意と共にそれを受け取った。
数日後。
星喰いバクテリウムの圧倒的な生命力と宇宙のマナを吸収した畑からは、かじっただけで魂が次元上昇を起こすレベルの『究極の神仙キャベツ』や『奇跡のダイコン』が、文字通り山のように収穫されることとなった。
その光景を、城塞のリビングから遠見の魔導具で眺めていたアーキヴァルとゾルタン。
「……終わりましたね。星を喰らう宇宙植物が、キャベツの肥料になりました」
アーキヴァルが、手帳に羽ペンを走らせながら、もはや完全に悟りを開いた仏のような笑顔を浮かべていた。
「ええ。記録完了。『第四十四種・星喰いバクテリウムの完全駆除(ただの草むしり)』。対象:宇宙の寄生植物。結果:アルド様に雑草として根こそぎ引っこ抜かれ、究極の有機肥料へと完全分解」
「……春の農作業の手間が一つ省けた上に、畑の収穫量が爆発的に増えた。アルド殿の行動には、一切の無駄がないな。このダイコンの煮物、宇宙の真理が染み込んでいて美味すぎる」
レイヴンが、箸でダイコンを切り分けながら、しみじみと頷いた。
「おーい! みんな! 取れたての春野菜でサラダと煮物を作ったよー! お腹いっぱい食べてね!」
アルドの明るい声が、すっかり綺麗になった中庭から響き渡る。
最強の便利屋の「ただの草むしり」は、星を滅ぼす宇宙の害草を「最高の堆肥」としてリサイクルし、日だまり郷の食卓をさらに豊かで健康的なものへとアップデートしてしまったのであった。
いかなる宇宙の脅威であろうと、アルドの「完璧な日常」の前では、ただの便利な生活のスパイスに過ぎないのである。
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