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辺境暮らしの便利屋冒険者、伝説のクランのリーダーに祭り上げられる 〜本人曰く「ただの日常」らしいです〜  作者: 盆ちゃん


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第36話:ただの雪だるま作りと、時空神の強制冬眠

第36話:ただの雪だるま作りと、時空神の強制冬眠

 魔界大帝サタナスが「ボイラー室の気のいいおじさん」として黄金の城塞の暖房設備を完璧に管理するようになってから、さらに季節は巡った。

 日だまり郷は、外の世界とは完全に隔絶された独自の気候を持っていたが、アルドの「そろそろ冬の景色が見たいな」という何気ない呟き(という名の大宇宙への無意識の命令)によって、一夜にして城塞の中庭には美しい純白の雪が降り積もっていた。

 もちろん、サタナスの管理する床暖房と、世界樹ユグドラシルの放つ温かな生命力のおかげで、外気は「冷たくて心地よい」程度の絶妙な温度に保たれている。

「いやあ、見事な雪景色だ! これだけ積もっていると、なんだかワクワクしてくるな」

 アルドは、手編みのマフラーを首に巻き、エプロン姿のままフカフカの雪が積もる中庭へと足を踏み出した。

 ――当然ながら、この雪はただの凍った水分ではない。絶氷の神竜ポチが放つ神話級の冷気と、大精霊女王ティターニアが管理する純度百パーセントの精霊水が、大気中で極限まで圧縮されて結晶化した『事象凍結の神雪』である。一つまみで灼熱の火山を永遠の氷河に変えるほどの威力を秘めているが、アルドにとっては「よく固まる上質な雪」に過ぎない。

「よし! 童心に帰って、とびっきり大きな『雪だるま』を作ろう!」

 アルドは雪を両手でギュッと丸め、小さな雪玉を作ると、それをコロコロと黄金の石畳の上で転がし始めた。

 ギュッ、ギュッ、ゴロゴロゴロ……。

 アルドが雪玉を転がすたびに、彼の腕から放たれる『事象圧縮オーラ』が雪玉に注ぎ込まれていく。

 それはもはや「雪を固める」という物理現象ではなく、「周囲の空間と時間を雪玉の中心(特異点)に向かって強制的に巻き込んでいく」という、ブラックホール生成にも似た宇宙創世の儀式であった。雪玉が大きくなるにつれて、城塞の周囲の重力場が歪み、空間そのものがギシギシと悲鳴を上げ始める。

 ――その異常事態を、大宇宙の果て、全ての時間が交差する『永遠の次元』から驚愕の目で見つめている存在があった。

 時間を司る最高神、時空神クロノスである。

(な、なんだこれは……ッ!? 私が管理している大宇宙の歴史タイムラインが、一つの辺境の惑星に向けて、まるで毛糸玉のようにグルグルと巻き取られていっているだと!?)

 クロノスは、時間を映し出す神鏡の前で青ざめていた。

 過去、現在、未来。大宇宙に存在するあらゆる事象の因果律が、アルドが転がす雪玉の中に「絶対的な停滞(平和)」として強制的に圧縮され、歴史の進行そのものがバグを起こして停止しかけているのだ。

(このままでは、宇宙の時間が完全に凍結してしまう! ええい、天界の戦乙女も、魔界の王も、誰もあのバグを止められなかったというのか! ならば、この時空神である私が自ら赴き、あの存在を『時間の彼方』へと消し去ってくれるわッ!)

 クロノスは、時の概念を切り裂く神造の鎌『クロノス・サイズ』を手に取り、自らの肉体を「絶対停止空間」で包み込むと、アルドのいる黄金の城塞の中庭へと直接、空間跳躍テレポートを実行した。

 ピタッ……。

 クロノスが地上に降り立った瞬間、世界から一切の「動き」と「音」が消失した。

 時空神の絶対権能『時間凍結タイム・フリーズ』。風に舞う雪の結晶も、瞬きをする武僧たちも、果ては神竜や世界樹のマナの流動すらも、完璧に停止する。クロノス自身を除く、全ての因果が「静止画像」へと変換されたのだ。

「フン。いかに規格外の存在であろうと、時間そのものを止められてしまえばただの石像に過ぎん。さて、宇宙の歴史を乱す元凶よ。貴様には、歴史が始まる前の『虚無の時代』へと永遠の逆行を……」

 クロノスが、絶対の自信を持ってアルドの方へと向き直り、死の宣告を下そうとした。

 ――しかし。

「よーいしょ、よーいしょ! おっ、だんだん重くなってきたぞ! いい感じだ!」

 ギュッ、ギュッ、ゴロゴロゴロ……。

「……は?」

 クロノスは、己の目を疑った。

 時間が完全に停止しているはずのモノクロームの世界の中で、ただ一人、麦わら帽子を被ったエプロン姿の青年だけが、鼻歌交じりに「巨大な雪玉」を転がし続けていたのである。

(ば、馬鹿な!? 私の時間凍結は、神々ですら抗えない大宇宙の絶対法則だぞ!? なぜ動いている!? しかも、あの雪玉……私の『止まった時間』すらも巻き込んで、さらに質量を増しているだと!?)

 実は、アルドが作っていた雪玉は、すでに「時間と空間の概念を極限まで圧縮した絶対特異点」と化していたため、クロノスの時間停止魔法すらも「雪玉をコーティングするための便利な接着剤(のような事象)」として、周囲からズルズルと吸い込んでしまっていたのだ。

「あれ? 急に風が止んだな。雪も空中で止まってるみたいだ。……おや?」

 アルドは、雪玉を転がす手を止め、目の前に立っている豪奢なローブを着た老人クロノスに気がついた。

「こんにちは! すごく立派な時計のついた杖を持ってますね。もしかして、時計修理の職人さんですか? こんな雪の中で立ち止まってたら、凍えちゃいますよ!」

 アルドは、時空神クロノスを「道に迷った時計屋のおじいさん」だと完全に誤認した。

「き、貴様ァァァッ! 創造主たる私を愚弄するか! 消え去れ! 『神罰・歴史抹消タイム・イレイス』ッ!!」

 クロノスは恐怖と屈辱で顔を真っ赤にし、時空の鎌を振り上げ、アルドの存在そのものを「生まれなかったこと」にする究極の消滅光線を放った。

 あらゆる次元を貫通し、対象の時間をゼロへと還す絶対の凶閃。それが、アルドの真っ向から迫る。

「うわっ!? すごい! 杖からキラキラした光が出た!」

 アルドは、迫り来る消滅光線を「雪だるまを綺麗に飾り付けるためのイルミネーション」だと勘違いし、目の前にあった超巨大な雪玉(胴体部分)を、クロノスに向かって勢いよくゴロンッと転がした。

「そぉいッ!!」

 ズドゴォォォォォォォォォンッ!!!!

 クロノスが放った『歴史抹消の光線』は、雪玉に激突した瞬間、その中に圧縮されていた「アルドの平和な日常の因果律」に完全に飲み込まれ、ただの「雪玉をキラキラ光らせる電飾」へと強制変換されてしまった。

 そして、止まることを知らない超質量の雪玉は、そのままの勢いでクロノスの肉体を轢き潰し……時空神を、雪玉の内部へと「ズボッ!」と物理的に取り込んでしまったのである。

『ガ……ァァァァァッ!? な、中が……雪玉の、中がァァァッ!?』

 雪玉の中に閉じ込められたクロノスは、そこで大宇宙の真理すら超越する「究極の停滞」を味わっていた。

 雪玉の内部は、アルドの放つ絶対的な「平和オーラ」と、精霊の神雪の冷気によって、ありとあらゆる苦痛、悩み、そして「時間を管理しなければならないという強迫観念」が、完全にフリーズ(凍結)する究極のヒーリング空間と化していたのだ。

『あ……ぁぁ……。なんて、静かなんだ……。過去の失敗も、未来の不安も、ここでは何も考えなくていい……。ただ、冷たくて、気持ちのいい、永遠の平穏が……。私は、もう……何十億年も働き続けたんだ。少し、休んでもいいよな……』

 時空神クロノスの意識は、雪玉の圧倒的な優しさに包まれ、赤子のように安らかな寝息を立てて、永遠にも等しい「強制冬眠」へと入っていった。

「よしよし! 綺麗な丸になったぞ!」

 アルドは、時空神を巻き込んで完成した巨大な胴体の上に、もう一つの雪玉(頭)をドスンと乗せた。

「あとは仕上げだね。ちょうどいいところに、職人さんが落としていった時計の杖があるから、これを腕の代わりに挿して……頭には、バケツを被せてあげよう!」

 数分後。

 中庭に完成したのは、内部で時空神がスヤスヤと眠り、腕の代わりには時空の鎌がぶっ刺さり、七色に発光する超常の『絶対神・雪だるま』であった。

 その光景を、城塞の窓から見守っていた記録係アーキヴァルと元・大賢者ゾルタンが、カタカタと震えながらお茶を飲んでいた。

「……先輩。今、世界から『時間の概念』が一瞬消失し、その後、とてつもなくマイルドで平和な時間軸に固定されたような気がするのですが」

 ゾルタンが、遠い目をしながら尋ねた。

「ええ。あなたの感覚は正常です。記録完了。『第三十六種・時空神の強制冬眠(ただの雪だるま作り)』。アルド様の雪だるまの中に時空神が取り込まれた結果、大宇宙の歴史はアルド様の『のんびりとしたペース』に完全に同調してしまいました」

 アーキヴァルは、手帳に新たな歴史の真理を刻み込む。

「これで、我々は文字通り『永遠の日常』を手に入れたわけです。何せ、時間を進める神本人が、あの雪だるまの中で冬眠を満喫しているのですから」

「……春になって雪が溶けたら、あの神はどうなるんでしょうね?」

「その時は、アルド様が『冷蔵庫グレイシアの隣』にでも配置してくださるでしょう。心配無用です」

「おーい! みんな! すごく立派な雪だるまができたよ! 記念撮影しよう!」

 アルドの無邪気な声が、黄金の中庭に響き渡る。

 最強の便利屋の「ただの雪だるま作り」は、大宇宙の時間を司る最高神を物理的に巻き込み、世界から「時間の焦り」という概念を永遠に消し去ることで、究極の平穏を完成させてしまったのであった。

ここまでお読みいただきありがとうございます!少しでも面白いと感じたら、画面下から【ブックマーク】と【☆☆☆☆☆】の評価をいただけると、執筆の大きなモチベーションになります!

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