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辺境暮らしの便利屋冒険者、伝説のクランのリーダーに祭り上げられる 〜本人曰く「ただの日常」らしいです〜  作者: 盆ちゃん


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第35話:ただの煙突掃除と、魔界大帝の肩こり解消

第35話:ただの煙突掃除と、魔界大帝の肩こり解消

 黄金の城塞での日々は、外の世界の常識からすれば狂気そのものだが、アルドにとっては極めて平穏でルーティン化された「日常」であった。

 季節は巡り、木枯らしが吹き始める初冬。アルドは城塞の巨大なリビングにある、見上げるほど大きな暖炉の前に立っていた。

「うーん……。最近、なんだか暖炉の煙の引きが悪い気がするな。火の点きも悪いし、少しすす臭い」

 アルドが首を傾げているその暖炉は、以前彼が『星降る隕鉄』で作り上げた超・魔力融合炉の発展型であり、今では城塞全体の温度管理を担う心臓部となっている。

「本格的な冬が来る前に、煙突掃除をしておかないと。中に鳥が巣でも作ってるのかもしれないな」

 アルドは、長い柄の先にブラシ(※世界樹の強靭な根を束ねたもの)を取り付けた手製の「煙突掃除棒」を準備し、暖炉の奥へと潜り込もうとした。

 ――ちょうどその頃。

 アルドが覗き込もうとしている暖炉の「奥(次元の先)」、すなわち物質界の最下層に位置する『魔界の最深部・ゲヘナ』では、怒りに燃える巨大な影が玉座から立ち上がっていた。

「許さん……! 我が配下である冥界王ハデスを物理的に生き埋めにし、狂乱の魔神を宴会の芸人に堕としめたばかりか、我が魔界の瘴気を吸い上げて自らの城の『暖房』として利用するだと……!?」

 その影の名は、サタナス。

 数億の悪魔を統べ、神々ですら封印を諦めたとされる絶対悪の化身『魔界大帝』である。

 実は、アルドが作成したこの暖炉は、その異常な吸引力(事象圧縮力)によって、魔界から無限に湧き出す「焦熱の業火ヘルファイア」と「瘴気」をダイレクトに吸い上げ、それを浄化して「心地よい床暖房の熱」へと変換するという、悪魔からすれば屈辱極まりないシステムとして機能していたのだ。

「もはや我慢ならんッ! 我が自ら次元の壁を焼き尽くし、あの小生意気な城塞の主を、永遠の業火に焼かれる責め苦に処してやるわッ!」

 魔界大帝サタナスは、全身から世界を灰塵に帰すほどの漆黒の地獄炎を噴き上がらせ、アルドの暖炉と繋がっている『次元の煙突』を通って、猛スピードで地上へと侵攻を開始した。

 ズゴゴゴゴゴゴゴォォォォッ!!!!

 暖炉の中から、地鳴りのような轟音と共に、禍々しい漆黒の炎が吹き出そうとした。

「おっ? なんだか奥からすごい音がするぞ。やっぱり何か詰まってるのかな?」

 アルドは、吹き出してくる地獄の炎を「煙突に詰まった煤が燃えているだけ」だと勘違いし、手に持った煙突掃除棒を、暖炉の奥深くへと勢いよく突っ込んだ。

「そぉいッ!! しっかり擦って、汚れを落とさないとね!」

 ガリガリガリッ! ゴシゴシゴシッ!!

『ガァァァァァァァァァッ!?!?』

 次元の煙突を高速で上昇していた魔界大帝サタナスの顔面に、アルドが突っ込んだ『世界樹の根のブラシ』が、容赦なく、そして物理法則を完全に無視した神威の軌道でクリーンヒットした。

 ブラシに込められたアルドの「汚れを落とす」という絶対的な事象改変の意思により、サタナスが纏っていた漆黒の地獄炎(魔界の誇り)は、「ただの厄介な煤汚れ」として認識され、ゴシゴシと強制的に削り落とされてしまったのだ。

『な、何事ダァァッ!? 我ガ顔面ヲ、何カガ激シク擦ッテ……痛ッ!? アデッ!? 目ニ入ル! 煤ガ目ニ入ルゥゥゥッ!』

 魔界大帝は、無抵抗のままブラシで顔面をタワシがけにされ、涙目で煙突の中を転げ回りながら、ついに暖炉の口からリビングへとボッシュートされるように転がり出た。

 ドサァッ!!

「うわっ!?」

 アルドは、暖炉から真っ黒な煤まみれの「巨大な人影」が転がり出してきたのを見て、驚いて一歩後ずさった。

 床に倒れ伏しているのは、山羊の角を生やし、コウモリのような翼を持つ、絵に描いたような巨大な悪魔――サタナスである。

「き、貴様ァ……! よくも我が魔界の炎を……! このサタナスの真の恐ろしさを、その身に刻んで……ゴホッ! ケホッ!」

 サタナスは立ち上がり、威厳ある声でアルドを呪い殺そうとしたが、顔中にこびりついた煤(自分が吐き出そうとした地獄炎の残骸)を吸い込んでしまい、情けなく咳き込んだ。

 その姿を見たアルドは、ポンッと手を打って納得した顔をした。

「あ! もしかして、町から来てくれた『煙突掃除の業者さん』ですか!?」

「……ハ?」

「いやぁ、わざわざ煙突の上から入って掃除してくれたんですね! お疲れ様です! でも、そんなに真っ黒になるまで頑張らなくてもよかったのに……」

 アルドは、魔界大帝の禍々しい姿を、「仕事熱心すぎて煤まみれになった煙突掃除のおじさん」だと完全に誤認した。

「ほらほら、そんな顔が真っ黒じゃ前も見えないでしょう。ちょっと待っててくださいね」

 アルドは、近くのテーブルにあった手ぬぐい(※国宝・白き聖女の神布)を、精霊の池から汲んできた水(純度100%のマナの結晶水)で濡らし、温かく絞っておしぼりを作った。

「はい、これで顔を拭いてください。温かくて気持ちいいですよ」

 アルドは、咳き込んでいるサタナスの顔に、その神聖なおしぼりを「バサッ」と無造作に被せ、ゴシゴシと顔を拭き始めた。

『ギァァァァァァァァァッ!?!?』

 サタナスの体内に、聖女の神布と精霊水が生み出す『究極の絶対浄化』のエネルギーが、容赦なく叩き込まれた。

 悪魔の王としての邪念、全人類への憎悪、そして魔界を統べる者としてのドロドロとした怨念が、アルドの「汚れを落とす」という優しい行為によって、文字通り毛穴から絞り出され、真っ白に漂白されていく。

『ア……ァァ……。浄化サレル……。我ノ、数万年ノ悪意ガ……綺麗サッパリト……』

 サタナスの凶悪だった瞳が、みるみるうちに澄み切り、まるで生まれたての小鹿のような、純粋でつぶらな瞳へと変わってしまった。

「うんうん、綺麗になりましたね。おじさん、角まで生やして、すごく凝った衣装で仕事してるんですね」

 アルドは、真っ白になったサタナスの顔を見て満足げに頷いた。

「でも、なんだかすごく肩が張ってるみたいですよ。煙突の中で無理な体勢をしてたから、コリが溜まっちゃったんですね。どれどれ、僕が少し揉んであげましょう」

 アルドは、すっかり毒気を抜かれて座り込んでいるサタナスの背後に回り、その巨大な肩(悪魔の剛体)に両手を乗せた。

「ここですね。いきますよー。えいっ!」

 アルドの親指が、サタナスの肩甲骨の隙間にグッと入り込む。

 ――その瞬間。アルドの『事象改変の指圧』が、サタナスの肉体のみならず、彼の「魂の因果律の歪み(カルマ)」そのものに直接アクセスし、それを強引に正常な位置へとバキボキッと矯正し始めたのだ。

『ホギャァァァァァァッ!?!?』

 かつてない未知の衝撃に、魔界大帝が奇声を上げる。

「あ、ちょっと痛かったですか? でも、ここをほぐさないと疲れが取れませんよ。右、左……よし、最後に背骨を伸ばしますね!」

 アルドは、サタナスの背中を膝で押し、両肩を持ってググッと後ろへ反らせた。

 バキィィィィィィィィンッ!!!!

 宇宙の悪の根源たる魔界のカルマが、アルドの整体によって完全に破壊(矯正)された音が、リビングに鳴り響いた。

『…………アッ。』

 サタナスの口から、間の抜けた声が漏れた。

 同時に、彼の全身を縛り付けていた「魔界大帝としての重責」や「宇宙の悪役を演じなければならないという呪縛」が、嘘のようにスッと消え去り、羽が生えたように体が軽くなったのだ。

『なんという……ことだ……。肩が……いや、魂が軽い……。私の心の中にあった、冷たい闇が……ぽかぽかと温かい……』

 魔界大帝サタナスは、両手で顔を覆い、子供のように声を上げて泣きじゃくり始めた。

『あぁ……。私は、本当はずっと……誰かに優しく肩を揉んで欲しかっただけなのかもしれない……。こんなにも、温かい手が……うぅぅっ……』

「うんうん、よっぽど疲れてたんですね。毎日煙突掃除、ご苦労様です。お茶を淹れるので、ゆっくり休んでいってくださいね」

 アルドは、号泣する巨大な悪魔の背中を、優しくポンポンと叩いた。

 その光景を、リビングの入り口からそっと覗き見ていたクランの面々。

「……終わりましたね」

 アーキヴァルが、遠い目をしながら手帳を閉じた。

「ええ。記録するまでもありません。対象:魔界大帝。結果:煙突掃除の業者として顔を拭かれ、整体で魂のカルマを砕かれて完全更生……と」

 ゾルタンが、震える声で補足する。

「天界の戦乙女が屋根の上の風見鶏になり、冥界王が生き埋めにされ、ついに魔界大帝までもが肩こりをほぐされて号泣している。……これで、この宇宙に存在するすべての次元のトップが、アルド殿の『常識』の前に屈服したことになるな」

 レイヴンが、もはや何の感情も浮かばない顔でお茶を啜った。

「偉大なる御主人様……!!」

 サタナスは、完全に生まれ変わった爽やかな笑顔(角と翼はそのまま)で、アルドに平伏した。

「私めは、これより心を入れ替え、貴方様の『専属・床暖房およびボイラー管理責任者』として、この城塞の温度管理に命を懸けることを誓いますッ!」

「えっ? いや、そこまでしなくても……でも、火の扱いは上手そうだし、冬の間はお手伝いしてくれると助かるかな。よろしくね、ボイラーのおじさん!」

「はいぃぃぃッ!! 魔界の炎の全てを、貴方様の快適な暮らしのために捧げますッ!!」

 最強の便利屋の「ただの煙突掃除と肩もみ」は、魔界の侵略を文字通り「汚れと一緒に洗い落とし」、宇宙最大の悪の化身をただの『ボイラー室の気のいいおじさん』へと転職させてしまったのである。

 日だまり郷――黄金の城塞の平穏は、こうして全次元を巻き込みながら、今日も完璧なまでに守られ続けていくのだった。

ここまでお読みいただきありがとうございます!少しでも面白いと感じたら、画面下から【ブックマーク】と【☆☆☆☆☆】の評価をいただけると、執筆の大きなモチベーションになります!尚、現在新作「辺境暮らしの便利屋冒険者、伝説のクランのリーダーに祭り上げられる 〜本人曰く「ただの日常」らしいです〜」を鋭意執筆中です。こちらが終わり次第投稿予定のない為、アドレスは載せられませんが気にかけてくれると幸いです。

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