第30話:ただの引っ越し祝いと、世界会議の強制開催
第30話:ただの引っ越し祝いと、世界会議の強制開催
日だまり郷に突然出現した『黄金の城塞』。
その存在は、文字通り世界中を震撼させた。
「あ、あの辺境の地に、一夜にして王都の十倍の規模を誇る黄金の城が出現しただと……!?」
「間違いない! 先日の『絶対回勅(回覧板)』を下した神が、ついに地上に降臨し、自らの玉座を築き上げたのだ!!」
アステリア王国の国王、西の大帝国の皇帝、聖都の教皇、そして周辺諸国のトップたちは、全員が顔面を蒼白にしていた。
彼らは「回覧板」のルールを破れば国が滅ぶと理解していたが、あの黄金の城の出現は「神が本気を出した」という明確な意思表示(だと彼らは勝手に解釈した)に他ならなかった。
「すぐに貢物を用意しろ! 国庫を空にしてでも、最高級の品を集めるのだ! あの城の主にご挨拶(引っ越し祝い)に行かなければ、我が国は明日にでも灰にされるぞ!!」
世界中の権力者たちが、我先にと馬車を連ね、莫大な貢物を抱えて日だまり郷(黄金城塞)へと向けて大移動を開始した。
――数日後。
黄金の城塞の「広いリビング(大聖堂レベルの超広間)」にて。
「いやあ、新居が完成してすぐにお客さんがたくさん来てくれるなんて、嬉しいなぁ!」
アルドは、エプロン姿のまま、満面の笑顔で広間の中心に立っていた。
広間のテーブルには、アルドが腕によりをかけて作った「引っ越し祝いのご馳走(神仙料理のフルコース)」が山のように並べられている。
そして、その広間に通された「お客さん」たち――世界各国の王族や皇帝、教皇たちは、全員がアルドの放つ絶対的な神威と、城塞内部のあまりにも濃密なマナに当てられ、床に額を擦り付けてガタガタと震えていた。
「い、偉大なる創造主よ……! わ、我がアステリア王国より、国宝の『星屑のティアラ』と、金貨百万枚をお持ちいたしました……! ど、どうか我が国に平穏を……!」
「て、帝国からは、『炎竜の逆鱗』と領地の半分を割譲いたします! どうか、どうかお許しを……!」
彼らは、アルドの「引っ越し祝いのパーティー」を、「自分たちの生殺与奪の権を握る神の裁判」だと完全に思い込んでいた。
「えっ? いやいや、そんな気を使わなくてもいいのに! ご近所さんなんだから、手ぶらでよかったんですよ!」
アルドは困ったように笑いながら、国王たちの頭を優しく撫でた。
「ひぃぃぃっ! 神の御手がッ!?」
アルドに撫でられた瞬間、国王たちの体内の病や疲労が完全に浄化され、彼らはその圧倒的な奇跡に「神の洗礼を受けた!」と泣き叫びながらさらに深く平伏した。
「ほらほら、料理が冷めちゃいますから、席に着いてください。今日は僕が作った特製のローストビーフ(※災厄の魔獣の霊肉)がありますからね!」
アルドが料理を勧めると、王たちは恐る恐る口に運び……そのあまりの美味さと生命力の奔流に、次々と「美味ァァァッ!?」と絶叫して床を転げ回り始めた。
広間の隅で、そのカオスな光景を見守るクランの面々。
「……見ろ、アーキヴァル。世界を動かす各国のトップたちが、アルド殿の料理の前で赤子のように泣き喚いているぞ」
レイヴンが、ワイングラスを傾けながら呆れたように言った。
「ええ。記録完了です。『第三十種・世界会議(ただの引っ越し祝い)』。この日をもって、世界の覇権は名実ともに、この日だまり郷の『便利屋』の手に落ちました」
アーキヴァルは、手帳に新たな歴史の1ページを刻み込んだ。
「これで、アルド様の平穏を脅かす者は、この世界から完全に消滅しました。我々クランメンバーの勝利です」
「いや、防衛すべき外敵が全て『信者』になってしまったのだから、もはや防衛の意味すらないのではないか?」
エルミナが苦笑交じりに突っ込む。
「みんなー! ケーキも焼けたよ! 仲良く食べてね!」
アルドの明るい声が、黄金の城塞に響き渡る。
最強の便利屋の「ただの引っ越し祝い」は、結果として世界中の権力者を一つの食卓に強制召集し、彼らを完全に骨抜きにすることで、大宇宙に絶対的な平和(と狂信者のネットワーク)を確立してしまった。
辺境の村の小さな便利屋から始まった物語は、今や世界そのものを包み込む、巨大で、優しくて、圧倒的に理不尽な「日常」へと到達したのであった。
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