第29話:ただの店舗改装と、世界を呑み込む黄金の城塞
第29話:ただの店舗改装と、世界を呑み込む黄金の城塞
世界が「アルドの回覧板」によって強制的な平和に包まれてから数週間後。
日だまり郷の人口(居候)は、さらに増え続けていた。
「うーん……。最初は僕一人だった丸太小屋も、レイヴンたちやエルミナ、それに外にテントを張ってる武道家さんたちまで合わせると、さすがに手狭になってきたな」
アルドは、小屋の前に広がる庭を見渡しながら呟いた。
「それに、便利屋の仕事の相談に来るお客さん(※各国の諜報員や巡礼者)も増えたし、そろそろ店舗を大きく改装しようかな」
DIY精神に火がついたアルドは、手頃な木の枝を拾い、庭の地面にガリガリと「新しい家の間取り図」を描き始めた。
「ここは広いリビングにして……みんなでご飯が食べられる大きな食堂も作ろう。お風呂(露天風呂)も拡張して……よし、こんな感じかな」
アルドは、地面に描いた線の図面を見下ろして満足げに頷いた。
――しかし、彼が使った「木の枝」は、裏山に生えている『星天の神桜』の落ち枝であり、地面のキャンバスは彼自身の魔力で極限まで圧縮された『星の核の土壌』である。
アルドが「ここに家を建てる」という意思を持って図面を描いた瞬間、その図面はただの落書きではなく、大地の精霊と星の記憶を強制的に書き換える『創世の設計図』として作動してしまった。
ズズズズズズズッ……!!
「おや? 地震かな?」
アルドが首を傾げた直後。
彼が描いた図面の線に沿って、地面が眩い黄金の光を放ち始めた。
「えっ? わわっ!?」
アルドが後ずさりすると同時に、大地が割れ、中から途方もない質量の「建築物」が、まるでタケノコが伸びるかのような猛スピードで隆起してきたのだ。
それは、木材や石でできた家ではない。
神話の時代に神々が住まうとされた『絶対不壊の神造鉱石』と『黄金の魔宝石』によって構成された、城壁の高さ五十メートル、広さは王都の城を遥かに凌駕する、美しくも荘厳な【黄金の城塞都市】であった。
アルドが描いた「広いリビング」は、数万人が収容可能な大聖堂のような謁見の間に。
「大きな食堂」は、永遠に尽きることのない神仙の食糧庫に。
「拡張したお風呂」は、星の霊脈と直結した巨大な癒しの神殿へと、彼の無意識の神威によって限界まで拡大解釈されて具現化してしまったのだ。
ドゴォォォォォォンッ!!
最後に、城塞の頂上にアルドが書いた「便利屋アルド」の看板が輝く巨大な塔が突き立ち、地殻変動はピタリと収まった。
「…………え?」
アルドは、目の前にそびえ立つ、太陽の光を反射して輝く黄金の超巨大城塞を口を開けて見上げていた。
「ちょ、ちょっと立派すぎたかな……? いや、でも基礎工事が省けたのはラッキーだった。地面の中に、昔の遺跡でも埋まってて、僕の描いた図面に反応してせり上がってきたのかな?」
アルドのポジティブ思考は、もはや現実逃避の領域を超えて宇宙の真理をねじ曲げていた。
「まあいいや! とにかく、これでみんながゆったり住める広い家ができたぞ! DIY大成功だ!」
一方、その光景を城塞の外(元・看板防衛キャンプ)で見ていた武闘家たちや、クランの面々は、あまりの神の御業に全員が白目を剥いて地面に突っ伏していた。
「な、なんという……! アルド様は、ついに自らの『神殿』を、たった一本の木の枝で創造してしまわれた……!」
アーキヴァルは、震える手で手帳を取り出したが、あまりのスケールの大きさにペンを落とした。
「記録……不能。もはやこれは、一つの国家、いや『新世界』の誕生です……」
「……俺は、もう何も驚かんぞ」
レイヴンが、黄金に輝く城門を見上げながら、力なく笑った。
「アルド殿にとっての『店舗の改装』は、世界地図の書き換えと同義だったということだ。さあ、引っ越しの準備をするぞ」
最強の便利屋の「ただの店舗改装」は、一夜にして辺境の森に世界最大の黄金の城塞を出現させ、人類の建築史を文字通り黄金で塗り潰してしまったのである。
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