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辺境暮らしの便利屋冒険者、伝説のクランのリーダーに祭り上げられる 〜本人曰く「ただの日常」らしいです〜  作者: 盆ちゃん


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第3話:ただのねずみ捕りと、知られざる殲滅戦

第3話:ただのねずみ捕りと、知られざる殲滅戦

 日だまり郷の昼下がり。木漏れ日が降り注ぐのどかな時間帯に、アルドは裏庭の小さな貯蔵庫の前で腕を組んで唸っていた。

「うーん……これは、少し困ったな」

 彼の視線の先には、木箱の中に積まれた見事なジャガイモがある。そのうちのいくつかの表面に、ほんの小さなひっかき傷のようなものがついていたのだ。

 アルドはそれを手に取り、まじまじと見つめる。

「ねずみが出たのかな。せっかく冬に向けて収穫した野菜が台無しになっては困る。よし、少し本格的な『ねずみ捕り』を仕掛けておこう」

 アルドはそう呟くと、作業小屋からガラクタを引っ張り出してきた。

 欠けた鉄の歯車、少し歪んだバネ、そして以前川遊びをした時に拾った、青くぼんやりと光る綺麗な石ころだ。アルドは手先の器用さを活かし、トンカンと軽快な音を立てて小さな罠を組み立てていく。

 わずか十数分で完成したそれは、板の上に石を配置し、踏み込むとバネが作動して石が軽く跳ねる、という簡素な作りのものだった。

「この光る石、ねずみが好きそうな匂いがするんだよね。これで驚いて逃げてくれればいいけど」

 アルドは満足げに頷き、貯蔵庫の周囲と、念のため村の入り口の茂みにその「ねずみ捕り」をいくつか設置した。

 そして、夕飯の仕込みをするために機嫌よく小屋へと戻っていった。

 ――だが、当然のことながら、それはただの「ねずみ捕り」ではなかった。

 彼がガラクタと呼んだ鉄屑は、かつて魔王軍の幹部が振るっていた『呪縛の魔鋼ミスリル・オルタナ』の欠片であり、川で拾った光る石は、純度100パーセントの『空間圧縮の魔魔石』である。

 それをアルドの神がかった無自覚な手先で組み上げた結果、それは踏み込んだ者の周囲の空間座標を強制的に固定し、絶対的な重力場に叩き落とす『局地型・事象封印陣』へと変貌を遂げていたのである。ジャガイモの傷も、ねずみではなく、アルドの魔力にあやかろうと集まってきた微小な大地の精霊たちが頬ずりした痕に過ぎなかった。

 そんな恐るべき兵器がポンと置かれているとも知らず、その夜、日だまり郷に黒い影が忍び寄っていた。

「……ここだな。前回の調査隊が消息を絶ち、隣国の『影歩き』すら戻らなかったという呪われた村は」

 月明かりを背に、三十人ほどの武装した男たちが村を囲んでいた。

 彼らは、強欲な貴族に大金で雇われた裏社会の精鋭『黒狼傭兵団』。金のためなら国境を越えて村一つを簡単に焼き払う、冷酷無比な戦闘のプロフェッショナルたちだった。

「どんな強者や魔物が潜んでいようが関係ない。我らの数と連携があれば、辺境の村一つ落とすなど造作もないこと。まずは火矢を放ち、混乱に乗じて一気に……ん?」

 傭兵団の団長が村へと踏み込もうとしたその時、彼の軍靴が茂みの中に置かれた小さな木の板を踏みつけた。

 カチッ。

 微かなバネの音が響いた。

 次の瞬間、団長をはじめとする三十人の傭兵たちの視界が、ぐにゃりと歪んだ。

「な……ッ!?」

 声を発する間もなかった。

 空から見えない巨大な隕石が落ちてきたかのような、圧倒的で絶対的な重力が彼らを襲った。

「あ、が……ッ! ぐ、あぁぁぁ……ッ!!」

 鋼の鎧がひしゃげ、自慢の武器が飴細工のように曲がり折れる。傭兵たちは全員、地面に這いつくばったまま、指一本、いや、眼球すら動かすことができなくなった。

 空間そのものが彼らを「絶対に逃がさない」とばかりに固定しているのだ。息を吸うことすら困難な、生き地獄の圧死空間。

「……見事なものですね」

 絶望に染まる傭兵たちの前に、月明かりの下、一人の男が静かに歩み出てきた。

 きっちりと整えられた夜会服に身を包み、片手には分厚い革張りの手帳を持った知的な青年。彼こそが、アルドのクランにおける記録係であり、頭脳を担う男――アーキヴァルである。

 アーキヴァルは、這いつくばりながら泡を吹く傭兵たちを一瞥し、手帳に羽ペンを走らせた。

「対象、約三十名。武装から推測するに『黒狼傭兵団』でしょうか。それが、アルド様の設置した『第一種・害獣駆除トラップ』に引っかかり、完全に制圧されました」

 アーキヴァルは恍惚としたため息を吐いた。

「素晴らしい……! ただの廃材と未加工の魔石を用いて、これほどまでに完璧な局地重力場を形成するとは。しかも、これだけの圧力をかけておきながら、周囲の草花には一切のダメージを与えていない。アルド様の魔力制御は、まさに神の領域。あぁ、この記録を後世に残せる私は、なんという幸せ者か……!」

 手帳を胸に抱きしめ、身悶えするアーキヴァルの背後から、レイヴンとシノンが姿を現した。

「おいアーキヴァル。記録も結構だが、さっさと片付けるぞ。アルド殿が物音で起きてしまわれたらどうする」

 レイヴンが呆れたようにため息をつきながら、ひしゃげた傭兵たちの首根っこを次々と掴んでいく。

「全くだ。アルド様は『ねずみ』が掛かったか明日確認するつもりだろう。この汚物どもは、森の奥の魔獣の餌場にでも放り込んでおく」

 シノンも冷酷な目で傭兵たちを見下ろした。

「おっと、そうでしたね。アルド様の平穏な日常を守るのが、我々『便利屋の裏方』の仕事でした」

 アーキヴァルは手帳をパタンと閉じ、上品にお辞儀をした。

「では皆様、快適な空の旅を。日だまり郷は、貴方方のような害獣を歓迎いたしませんので」

 ――翌朝。

「ふぁあ……よく寝た」

 目をこすりながら起きてきたアルドは、朝の冷たい空気の中で大きく伸びをした。

 そのまま、昨晩仕掛けた「ねずみ捕り」の確認に向かう。

「おや?」

 茂みに置いたはずの罠は、バネが弾け、青い石が粉々に砕け散っていた。そして、周囲の地面だけがなぜか不自然なほどツルツルに平らになっている。

「うーん……石が割れちゃったか。やっぱりガラクタで作ったから耐久性がなかったな。でも、ねずみの姿はないし、これに驚いて逃げてくれたみたいだ」

 アルドはホッと胸を撫で下ろした。

「よかったよかった。これで冬の保存食も安心だ。よし、朝ごはんにジャガイモをたっぷり使ったポタージュでも作ろう!」

 村を襲おうとした三十人の精鋭傭兵団が一夜にして壊滅したことなど露知らず。

 最強の便利屋アルドは、今日も鼻歌交じりで平和な朝の支度を始めるのだった。

ここまでお読みいただきありがとうございます!少しでも面白いと感じたら、画面下から【ブックマーク】と【☆☆☆☆☆】の評価をいただけると、執筆の大きなモチベーションになります!

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