第27話:ただの迷子探しと、冥界の扉を閉じるお散歩
第27話:ただの迷子探しと、冥界の扉を閉じるお散歩
ある日の午後。
アルドは丸太小屋の庭で、少し心配そうに周囲を見回していた。
「ポチが帰ってこないな。いつもなら、おやつの時間にはちゃんと戻ってくるのに」
ポチ。それはアルドが「ちょっと大きな白いトカゲ」だと思い込んで飼っている、神話級の災厄『絶氷の神竜』である。
すっかりアルドの「お餅」と「かまくら」の虜になり、村の巨大なペットとして怠惰な日々を送っていた神竜だったが、今日は朝から森の方へ遊びに行ったきり姿を見せていなかった。
「迷子にでもなったのかな。ちょっと森まで探しに行ってこよう」
アルドは、作業小屋から土いじり用のスコップ(かつて氷の魔女の魔法を打ち砕いた概念排除の神宝具)を肩に担ぎ、鼻歌交じりに森の奥へと足を踏み入れた。
一方、その頃。
森の最深部では、恐るべき異常事態が発生していた。
空間がドロドロと溶け落ち、巨大な『冥界の扉』が口を開けていたのだ。その扉の向こうからは、死者の怨念と瘴気が渦巻き、骸骨の兵士たちが無数に行進を始めようとしていた。
『フハハハ! 地上のマナが異常に高まっている今こそ、我が冥界の軍勢を地上に解き放つ絶好の機会!』
扉の向こうで高笑いをしているのは、冥界を統べる王、ハデスである。
しかし、その扉のすぐ目の前で、巨大な白銀の竜――ポチが、唸り声を上げて立ち塞がっていた。
『グルルルォォォォッ!!(貴様ら、我が主の庭を汚すつもりか! ここから先は一歩も通さん!)』
『チィッ! なぜ絶氷の神竜がこんな辺境にいるのだ! だが、我が無尽蔵の死者の軍勢の前には、いかなる神竜とていずれ力尽きる運命よ! ゆけ、骸骨兵ども!』
ハデスの号令と共に、扉から死者の軍勢が溢れ出そうとした。神竜がブレスを放ってそれを押し返すが、扉が開いている限り、敵は無限に湧いてくる。
――そんな一触即発の、世界滅亡の危機的状況の中。
「おーい、ポチー! どこだー? おやつの時間だよー!」
のほほんとした声と共に、エプロン姿のアルドが藪をかき分けてひょっこりと姿を現した。
『! アルド様ッ!?(いけません、ここは危険です!)』
神竜が慌ててアルドを庇おうとするが、アルドの視線は神竜ではなく、その背後にある『冥界の扉』に釘付けになっていた。
「うわっ! なんだこの大きな穴は! すごく黒くて不気味な煙が出てるぞ!」
アルドは、次元を切り裂いて開かれた冥界の扉を、「森の中に突然できた危険な落とし穴」だと完全に勘違いした。
「危ないなぁ。ポチ、こんな穴の近くで遊んじゃダメだよ! 落ちたら怪我するじゃないか!」
『え? いや、アルド様、これは穴というより次元の裂け目で……』
「よし、誰かが落ちる前に、僕が埋めておいてあげるからね!」
アルドは、肩に担いでいたスコップを構え、足元の土(ただの腐葉土に見えるが、実はアルドの魔力で極限まで圧縮された星の核レベルの質量を持つ超・概念土)をザクッとすくい上げた。
「そぉいッ!」
バサァッ!!
アルドがスコップから放り投げた一握りの土が、冥界の扉に吸い込まれた瞬間。
その土が持つ「絶対的な事象の接着力」と「生命の重み」が、死の概念そのものである冥界の空間を物理的に圧迫し始めた。
『な、なんだこれは!? 土!? なぜたかが土くれで、次元の扉がミシミシと音を立てて閉まりかけているのだ!?』
扉の向こうのハデスが、目玉を飛び出させて驚愕した。
「おっと、まだまだ足りないな。よいしょ、よいしょ!」
アルドは、リズミカルにスコップを振るい、次々と「星の核レベルの土」を冥界の扉へと放り込んでいく。
『や、やめろォォォ! 扉が! 数千年かけてようやく開いた冥界の扉が、物理的に埋められていくゥゥゥッ!!』
骸骨兵たちは、アルドの放り込む圧倒的な質量の土砂(と生命力)に押し潰され、浄化されてボロボロと崩れ去っていく。
「ふう、こんなもんかな。よし、最後にしっかり踏み固めておこう!」
アルドは、完全に塞がりかけた扉(というより空間の歪み)の上にドスンドスンと飛び乗り、自分の体重でギュッ、ギュッと踏み固めた。
ピシャァァァァァァァンッ!!!!
アルドの足踏みによって、冥界と現世を繋ぐ次元の裂け目は、まるで接着剤でくっつけられたかのように完全に修復され、一本のヒビすら残さずに消滅してしまった。
『…………』
神竜は、己が命懸けで防ごうとしていた世界の危機が、主の「落とし穴埋め」によって三分で解決されたのを見て、ただ静かに尻尾を丸めた。
「よし、綺麗に埋まったぞ。ポチ、怪我はなかった? ほら、帰っておやつにしよう。今日は手作りのスイートポテトだよ」
『クゥゥ〜ン(一生ついていきます、アルド様)』
アルドは、巨大な神竜の鼻先を撫でながら、ご機嫌で村へと帰っていった。
一方、冥界ではハデスが「もう二度と地上には手を出さん……」と涙を流しながら、完全に塞がれた天井を眺めていたという。
最強の便利屋の「ただの迷子探しと穴埋め」は、冥界の侵略を文字通り「土に還して」しまったのであった。
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