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辺境暮らしの便利屋冒険者、伝説のクランのリーダーに祭り上げられる 〜本人曰く「ただの日常」らしいです〜  作者: 盆ちゃん


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第212話:閑話〜神仙社史編纂室の優雅な午後と、大宇宙最強の『ただの便利屋』が歩んだインフラ整備(神話)の軌跡〜

第212話:閑話〜神仙社史編纂室の優雅な午後と、大宇宙最強の『ただの便利屋』が歩んだインフラ整備(神話)の軌跡〜

 黄金の城塞『日だまり郷』の奥深く。幾重にも張り巡らされた絶対防音と事象遮断の結界に守られた静寂の空間に、広大な書斎が存在する。

 そこは、【最高情報・歴史管理責任者(CIO)兼・神仙社史編纂室長】たる元・大賢者ゾルタンに与えられた専用の執務室である。壁一面を埋め尽くす天井まで届くマホガニーの書棚には、世界最古の魔導書や天界の預言書などという生温いものではなく、『日だまり郷・町内会報』『害虫駆除・施工完了報告書』『悪質クレーマー(神々)対応履歴』といった、大宇宙の真理を根底から書き換えた神話級の奇跡の数々が、ただの「業務記録」として年代順・カテゴリ別に整然とファイリングされていた。

 巨大なアンティークデスクに向かうゾルタンは、羽ペンをインク壺に浸し、「ふぅ」と深いため息を吐いた。

 その目の前では、【最高財務責任者(CFO)兼・グローバル戦略最高責任者】のアーキヴァルが、うやうやしく分厚いバインダーを差し出している。

「室長。これまでの我が社『黄昏の守護者』の業務記録の総括、および、現在進行中の魔界方面からの『不法投棄・汚染被害(侵攻)』に対する外構・水回りインフラ改修実績のデータベース化が完了いたしました。第一期から現在までの総決算となります。ご確認をお願いします」

「……うむ。ご苦労じゃ、アーキヴァルよ。しかし、こうして改めてアルド様……いや、社長の歩んできた軌跡を文字に書き起こし、時系列で整理してみると、我々の認識と世界の真理が、いかに見事なまでに『日常の業務』として上書きされ、蹂躙されてきたかがよく分かるわい」

 ゾルタンは、アーキヴァルがまとめた分厚い『総合ライフサポート企業・黄昏の守護者 社史(神話録)』の目次を開き、これまでの波乱万丈すぎる、しかしアルド本人にとっては「ただの日常」でしかなかった恐るべき軌跡を振り返り始めた。

 第一章:『辺境の便利屋と、無自覚な神業の始まり』

 すべては、アステリア王国の辺境にある小さな村『日だまり郷』から始まった。ただ美味しいご飯を食べ、快適に眠るためだけに生きる青年アルド。彼が行う「ただの畑仕事」は荒廃した大地を蘇らせる太古の豊穣の儀式であり、「ただの屋根の修理」は古代竜のブレスすら弾く絶対防壁の構築であった。

「思えば、ワシらが彼の『神の如き一手』に震え上がり、訳ありの凄腕剣士レイヴンや失踪した魔導士エルミナ暗殺者シノン、そして大貴族の次期当主アーキヴァルが集結して、半ば強引にクランを結成した頃が、一番平和じゃったかもしれん……。あの頃はまだ、アルド様も『村のちょっと器用な便利屋』の範疇にギリギリ収まっておったからな」

「ええ。当時の我々は、社長の無自覚な神業をどうにか世間から隠し、彼に平穏な日常を提供するために必死で裏工作をしておりました。しかし、社長の『日常を脅かす者への徹底的な排除(お掃除)』のスケールは、あっという間に我々の想像と世界地図の枠を遥かに超えていきましたね」

 第二章:『魔王軍の飛来と、ただの害獣駆除・ゴミ出し業務』

 世界を恐怖に陥れた魔王軍の幹部や、伝説の古代竜、果ては厄災の魔獣たちが日だまり郷に迫った時期。しかしアルドはそれらを一切「脅威」と認識せず、「畑を荒らすタチの悪いイノシシ(魔将)」や「生ゴミに群がるデカいカラス(古代竜)」として処理した。

「あの頃からじゃな、社長の持つ『認識の強制書き換え』が世界規模に及んできたのは。大宇宙の理すらも、アルド様が『これはゴミだ』と言えば不燃ゴミとして処理されるようになった。そして、彼を害獣から守るための『裏の顔』を持っていたワシらも、いつしか本格的に『便利屋の社員』として、事象の解体や環境浄化を能動的に担うようになっていったのじゃ」

 第三章:『天界の干渉と創造神の襲来、そして大家さんとの賃貸契約』

 アルドの規格外の力に危機感を抱いた天界の神々、そして大宇宙を創り出した創造神までもが、彼を排除(あるいは取り込み)に動いた激動の時代。しかし、幾多のすれ違いの果てに完全覚醒を果たし、「大宇宙の根源たる神仙」としての自覚を持ったアルドは、あえて「ただの便利屋」である自分の日常を鋼鉄の意志で世界に固定した。

「神々の理不尽な攻撃を『悪質なクレーマーの嫌がらせ』や『押し売り訪問販売』として退け、最終的には宇宙の理である創造神すらも『家賃(お供え物)を払って居候する、気のいい大家さん』として日だまり郷に定住させてしまった……。今やあの恐るべき創造神様が、朝早くから『今日は町内会の草むしりだな』と軍手をして手伝ってくださるのじゃからな。神話の崩壊も極まれりじゃわい」

「その結果、我がクランは『総合ライフサポート企業』へと完全移行し、各々が最高責任者(CXO)の役職を拝命いたしました。社長の絶対的な『日常のルール』のもと、我々もまた大宇宙の法則を管理する側に立ったのです。まさに神仙のインフラ企業ですね」

 アーキヴァルが眼鏡を光らせて誇らしげに頷く。そして、話題は現在進行中の「第四章」へと移った。

 第四章:『魔界の侵攻と、終わらないハウスクリーニング(強制インフラ化)』

 神々との和解(居候化)を経て、今度は次元の底・奈落の魔界から、アルドの平穏を脅かす挑戦状が届き始めた。魔界は絶対的な爵位制度で統率されており、最下層の男爵から順に、子爵、伯爵、侯爵、公爵、大公爵、そして魔王へと、実力伯仲の悪魔たちが絶え間なく世界を汚染しようと襲い掛かってきている。

「男爵の『庭の雑草抜き』から始まり、子爵の『トイレの水漏れ修理』……そして伯爵級からは同格の実力者が増え、エアコンの高圧洗浄、洗濯機の黒カビ除去へとエスカレートした。侯爵級では外壁のクラック補修と屋根の防水工事。公爵級では換気扇の油汚れと排水管のヘドロ抜き。大公爵級では床下のシロアリ駆除と屋根裏の害獣追い出し。そして先日は、魔界の頂点たる魔王の一角すらも『雨樋の落ち葉詰まりと網戸の張り替え』や『お風呂場のカビ取り』として処理したばかりじゃ……」

 ゾルタンは、ずらりと並んだ「施工完了報告書」の山を眺め、頭を抱えた。

「しかも社長は、ただ汚れを落とすだけでなく、その魔界の大貴族や魔王どもを事象ごと『強制全自動クリーンインフラ』へとリフォームしてしまわれる。今やこの世界は、魔界の最高戦力たちが文字通り『24時間自動で快適な空調や水回りを提供するピカピカの巨大設備』として機能しておる。魔界の威厳など、もう一ミリも残っておらんぞ……」

「素晴らしい社会貢献活動です」

 アーキヴァルは胸を張った。

「社長のおかげで、我が社のインフラ事業は留まることを知りません。どんな強大な魔界の王が現れようとも、社長の手にかかれば『季節ごとの大掃除のオプションメニュー』に過ぎないのです。我々社員も、下地処理や養生作業のスキルが神の領域に達しつつありますからね」

 その時。

 コンコン、と書斎の扉がノックされ、「お疲れ様ー! 休憩にしよう!」という、大宇宙で最も尊く、最も無邪気な青年の声が響いた。

 扉が開き、エプロン姿のアルドが、信じられないほど芳醇なバターと紅茶の香りを漂わせる三段のケーキスタンドと、銀のティーポットを乗せた特注のティーワゴンを押して入ってきた。背後には、元・魔界大帝のサタナスが、毒見役として涎を拭いながら付き従っている。

「ゾルタン、アーキヴァル。昔の記録の整理、ご苦労様! ずっと机に向かってると頭が疲れちゃうし、目もシパシパするでしょ? だから、極上の『3時のおやつ(アフタヌーンティー)』を持ってきたよ。今日は、大精霊の茶葉を神仙の天然水で淹れた最高級ダージリンのロイヤルミルクティーと、手作りのスイーツ盛り合わせだ!」

 アルドがワゴンから下ろしたケーキスタンドには、暴力的なまでの美味を約束する宝石のようなスイーツが整然と並んでいた。

「下段は、数百年熟成の幻獣バターを限界まで折り込んで焼き上げた、外はサクッと中はモッチリの『極上焼きたてクロワッサン・サンド〜天界スモークサーモンとクリームチーズ〜』。中段は、天界の特濃生クリームと幻獣イチゴをたっぷり挟んだ、フワッフワの『究極のストロベリー・ショートケーキ』。そして上段には、星屑のチョコレートをテンパリングして、中にトロトロのキャラメルソースを閉じ込めた『特製ボンボン・ショコラ』だよ! さあ、冷めないうちに食べてね!」

 その神々しい輝きと、脳髄を直接刺激する甘い香りに、ゾルタンとアーキヴァルは思わず息を呑んだ。

 一口クロワッサンを齧れば、暴力的なバターのコクが弾け、サーモンの塩気とクリームチーズの酸味が絶妙に絡み合う。ショートケーキのクリームは雪のように舌で溶け、イチゴの甘酸っぱさが全身の魔力を活性化させる。そしてボンボン・ショコラの甘苦さが、脳の疲労を瞬時に消し飛ばす。大宇宙の理すらもひれ伏す「究極の超覚醒・至高のスイーツタイム」である。

「うむ……! このクロワッサンの圧倒的なサクサク感と、ショートケーキのスポンジの軽さ! そしてショコラから溢れ出すキャラメルの甘美な暴力! 記録係の疲れなど、一口で銀河の彼方へ吹き飛んでしまうわい!」

 ゾルタンは、熱いミルクティーで喉を潤しながら、感涙に咽いだ。

「社長のお心遣い、痛み入ります。この糖分と脂質の絶妙なバランス……まさに完璧な『福利厚生』です」

 アーキヴァルもまた、眼鏡を曇らせながらショートケーキを堪能している。

「えへへ、喜んでもらえてよかった。……過去の記録を見返すと、本当に色んなトラブルがあったよね。屋根が壊れたり、害獣が出たり、家の中が汚れたり。でも、みんなが手伝ってくれたおかげで、今の快適な『日だまり郷』があるんだ。これからも、家のメンテナンスはしっかりやって、みんなで美味しいご飯を食べようね!」

 アルドは、本当に「ただの日常の苦労」を振り返るように、屈託のない笑顔で言った。

 彼にとって、魔王との死闘も神々との対立も、すべては「家の掃除や修繕」と同じ地平にあるのだ。だからこそ、その日常は決して揺るがない。

「そういえば、魔界から来てる『ガンコな汚れの親玉(魔王)』たち、まだあと数人残ってるみたいだね。今度はどこが汚れるか分からないから、洗剤のストックと養生テープの補充をしておかないと!」

 アルドがやる気満々でガッツポーズをすると、サタナスが「魔界の魔王どもも、もはやただの清掃ノルマ扱いか……哀れな奴らめ」と呟きながら、ボンボン・ショコラを口に放り込んだ。

 アルドが満足げにリビングへと戻っていくのを見送りながら、ゾルタンは静かに羽ペンを執った。

 真新しい革張りのノートの表紙に、金色のインクでこう記す。

『総合ライフサポート企業【黄昏の守護者】社史(神話) 〜ただの便利屋による、終わらない日常の軌跡〜』

「魔界にはまだ、残りの魔王たちが控えておるようじゃが……まあ、年末の大掃除のリストが少し増えるだけのことじゃろうて」

 ゾルタンはふっと笑みをこぼし、極上のミルクティーを一口飲んでから、誇り高き「神仙社史編纂室長」としての業務(ただの記録)を再開した。

『〇月×日。これまでの業務軌跡を総括。辺境の便利屋から始まった当クランは、魔王軍、天界、創造神を経て、現在魔界の爵位侵攻ハウスクリーニングに対応中。魔界のトップたる魔王級も順次、全自動クリーンインフラへと改修済。社長の淹れるミルクティーとケーキは本日も絶品なり。大宇宙の平穏に、異常なし。以上。』

 非常に簡潔にまとめられたその数行の記録は、いずれ大宇宙の正史として未来永劫語り継がれることになる。

 大宇宙最強の便利屋が守る平穏な日常は、今日も完璧に、そして最高に美味しく回り続けているのである。

ここまでお読みいただきありがとうございます!少しでも面白いと感じたら、画面下から【ブックマーク】と【☆☆☆☆☆】の評価をいただけると、執筆の大きなモチベーションになります!

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