第134話:ただのお風呂掃除と、灼熱の泥湯魔神の強制スーパー銭湯化(総合ライフサポート企業の浴室清掃業務)
第134話:ただのお風呂掃除と、灼熱の泥湯魔神の強制スーパー銭湯化(総合ライフサポート企業の浴室清掃業務)
黄金の城塞『日だまり郷』の朝は、大宇宙の理すらも平伏す圧倒的な平穏と、魂の奥底から郷愁を呼び覚ますような極上の出汁の香り、そして甘辛い醤油がふんわりと卵を包み込む優しい匂いと共に幕を開ける。
今日のアルドは、朝からキッチンの特注の親子鍋と巨大な羽釜に向かい、見事な火加減と手首のスナップで『特製・幻獣地鶏の極上ふわとろ親子丼と、世界樹の根菜たっぷりのけんちん汁』を仕上げていた。
「よし! メインは、大精霊の森を駆け回って育った幻獣地鶏のモモ肉だ。噛めば噛むほど溢れ出すこの圧倒的な旨味を持つ肉を、幻獣の昆布と天界鰹から三日三晩かけて抽出した黄金の出汁に、神仙醤油と星屑のザラメで作った特製の割り下でサッと煮込む! 肉に火が通った絶妙なタイミングで、天界鶏の産みたて黄金卵をたっぷりと回し入れる! 卵は二回に分けて入れるのがコツだ。一回目で旨味を閉じ込め、二回目で極上のトロトロ半熟状態を作り出す! 羽釜で炊き上げたばかりの神仙米の銀シャリの上に、この黄金の具材を滑らせるように乗せる。付け合わせには、世界樹のゴボウや大根などの根菜をごま油で香ばしく炒め、精霊の豆腐と一緒に煮込んだ熱々のけんちん汁! 仕上げに三つ葉を散らして……熱々のうちに完成だ!」
アルドがエプロン姿で、黄金色に輝き、湯気と共に圧倒的な出汁の香りを放つ特大の親子丼と、具沢山のけんちん汁をダイニングテーブルに運ぶと、神竜ポチとモフモフの星狼シロがテーブルの下でちぎれんばかりに尻尾を振って待機していた。リビングのソファでは、特大モチモチクッションへと強制リメイクされた元・大宇宙の邪神が、ポカポカと温かいヒーター機能を放ちながら、平和なインテリアとしての職務を微動だにせず全うしている。
この極上親子丼朝食、一口食べれば幻獣地鶏の極上のタンパク質と黄金卵のアミノ酸が全身の魔力回路を限界突破させ、けんちん汁の圧倒的な食物繊維とビタミンが血中のあらゆる疲労物質や致死の呪いすらも瞬時にデトックスし、魂の底から尽きることのない多幸感と絶対的な活力を湧き上がらせる『究極の超覚醒・和の心フルコース』である。
「うむ……! この鶏肉の弾け飛ぶような弾力と、半熟卵が織りなす圧倒的な旨味のビッグバン! そして出汁を限界まで吸い込んだご飯の包容力! 見るだけで我が魔界の闘争本能が、休日の昼下がりに老舗の蕎麦屋で特上親子丼を掻き込む粋な老人のようにフニャフニャに溶かされそうになるわい!」
元・魔界大帝サタナスが、どんぶりを両手で震わせながら握りしめ、あまりの美味さにワナワナと肩を震わせて感涙に咽いでいた。
そんな賑やかなダイニングの喧騒が一段落し、食後の極上玄米茶が振る舞われた後。
アルドは、防音・防諜の魔法結界が幾重にも張られたリビングの長テーブルの上座に座った。その周囲には、『出張解体アシスタント』のレイヴン、『特殊クリーニング部門責任者』のエルミナ、『総合防犯システム責任者』のシノン、そして『最高財務責任者(CFO)兼・広報担当』のアーキヴァルという、総合ライフサポート企業『黄昏の守護者』の頼もしき役員たちが顔を揃えている。
「さて、みんな。大陸南東部の雨漏り修理(豪雨竜の屋根瓦化)も終わって、世界中のお家がすっかり雨風から守られるようになったね。これもみんなのチームワークのおかげだよ。……それで、次なる『困り事』の案件は何か入っているかな?」
アルドがニコッと微笑みかけると、CFO兼広報担当のアーキヴァルが、優雅な所作で立ち上がり、分厚いバインダーを開いた。
「はい、社長。我が社の次なるCSR活動として、今回は大陸南西部の『灼熱の毒沼地帯』における、極めて深刻な地熱異常と猛毒ヘドロ被害に関するご相談を受注いたしました」
アーキヴァルは、手元の書類を指先で弾きながら、冷徹かつ完璧なプレゼンテーションを開始する。
「大陸南西部の広大な沼地に、長年封印されていた『灼熱の泥湯魔神・ボイリング・マッド』が目覚めまして。強烈な地熱で沼を沸騰させ、猛毒の硫黄ガスとドロドロのヘドロを周囲に撒き散らし、大地を死の泥海に変えようとしております。さらにタチの悪いことに、その泥湯魔神が生み出す『熱泥の腐獣ども(※触れるものを溶かし尽くす高温のスライム群)』が沼から溢れ出し、人々の街に雪崩れ込んでは、建物を溶かし、人々を熱と毒で呑み込もうと暴れ回っているのです」
アーキヴァルの言葉の裏にある「真実」を、大公レオハルトと元・大賢者ゾルタンは顔面を蒼白にしながら補完していた。
(灼熱の泥湯魔神だと……!? あれは世界の地下水脈を全て致死の沸騰毒泥に変え、星を生命が存在できない永遠の釜茹で地獄へと沈める神話級の泥魔。それが覚醒したとなれば、南西部はおろか、世界の全土が毒の泥に沈み、全ての生命が熱と毒でドロドロに溶けて死に絶える。本来なら全国家の水と氷の魔導士を総動員して命がけの超極大冷却・浄化結界を張るべき、世界終焉レベルの絶望事態だぞ……!)
しかし、アーキヴァルは一切表情を変えず、アルド向けに完璧に翻訳された依頼書を読み上げる。
「近隣の国々からの要望は、この鬱陶しいこびりついた湯垢やカビ(熱泥の魔獣群)の『徹底的な風呂掃除(粉砕と浄化)』と『熱湯を撒き散らすボイラーの親玉(泥湯魔神)の温度調整』、そして『浴槽のコーティングと換気設備の改善』です。このまま放置すれば、お風呂が熱すぎて入れないばかりか、カビと湯垢で不衛生になり、人々がゆっくりと疲れを癒やすことができなくなってしまいます。我が社の社会貢献活動として、これほど迅速な対応が求められる案件はないかと」
「なるほど!」
アルドは、依頼書を見て真剣な表情でポンッと手を叩いた。
「お風呂のボイラーが壊れて、温度設定が熱湯になっちゃってるんだね! おまけに浴槽にはガンコな湯垢がこびりついて、硫黄みたいな嫌な臭いのカビまで生えてるなんて、一日の疲れを癒やすどころか火傷しちゃうし大問題だ。清潔で適温のお風呂でリフレッシュするためにも、浴室の清掃とボイラーのメンテナンスはしっかりやらないと。よーし、さっそく僕たちの『総合ライフサポート』の出番だ!」
アルドが立ち上がると、役職を得たクランメンバーたちも、一斉に気合い(殺意)に満ちた表情で立ち上がった。
「社長。浴室にへばりつく鬱陶しい湯垢の塊(熱泥の腐獣ども)の解体と撤去は、この『出張解体アシスタント』にお任せを。こびりついた汚れを一つ残さず綺麗に削り落として、ただの汚水以下の仕事にしてご覧に入れましょう」
レイヴンが、神具の斧をデッキブラシのように構えながら不敵に笑う。
「ええ。湯垢が撒き散らすガンコなカビや嫌な臭い(※致死の猛毒瘴気)は、『特殊クリーニング部門』の私が、特製の浴室用カビ取りスプレー(※極大の聖水浄化魔法)で一瞬にして白く漂白し、除菌して差し上げますわ」
エルミナが、美しく銀髪を揺らしながら自信満々に頷く。
「……作業中、熱気やカビの胞子(※魔獣の残党)が周囲の部屋へ漏れ出さないよう、『総合防犯システム責任者』として、現場の周囲に完璧な浴室用密閉ドア(※絶対封殺の空間隔離結界)を張り巡らせておきます」
シノンが、音もなく短剣を弄びながら冷たく宣言する。
「うんうん、みんな本当に頼もしいな! お風呂掃除は換気をしつつも、カビ取り剤の臭いが他の部屋に行かないように密閉するのが大事だから、しっかりドアを閉めてくれると助かるよ!」
アルドは、メンバーたちの頼もしい言葉に満足げに頷き、自身の作業着(超高温と猛毒を完全に弾く特製防水エプロンと長靴、ゴム手袋)に着替え、手には巨大なバススポンジと、お風呂用洗剤を握りしめた。
「よーし! それじゃあ僕は、特製『事象研磨の神仙バススポンジ』と『絶対適温のお風呂クリーナー』を持っていくよ! 世界の人たちの癒やしの時間を守るために、邪魔な湯垢を落として、お風呂をピカピカにリフォームしてこよう!」
こうして、総合ライフサポート企業『黄昏の守護者』の社員一同は、耐熱・防水仕様に改造された魔導軽トラに乗り込み、大地が沸騰する毒の泥に覆われつつある大陸南西部の灼熱の毒沼地帯へと向けて出勤したのである。
***
その頃、大陸南西部の『灼熱の毒沼』の中心。
世界の地下水脈を猛毒の泥に変え、全ての生命を釜茹での地獄に沈める大地の悪夢『灼熱の泥湯魔神・ボイリング・マッド』が、ドーム状に膨らんだ巨大な泥の泡を破裂させながら、傲慢な沸騰音を響かせていた。
「ボコッ、ボコボコッ……! 素晴らしいぞ! この星の全てをドロドロに溶かす我が灼熱の泥さえあれば、地上の生命など一瞬で骨まで溶け去る! 見よ、我がもたらすこの圧倒的な死の泥海を!」
泥湯魔神は、巨大な泥の腕を振り上げ、無数の熱泥の腐獣たちを沼の外へと放った。
「愚かな地上の生命どもめ。我が目覚めたからには、もはやこの星に安らぎの地はないと知れ! さあ、もっとだ! 全てを煮溶かし、大陸全土を永遠の毒の釜茹でに沈めよ!」
「我ら泥魔の眷属の溶解力は絶対だ! この灼熱の領域まで踏み込める者など、この世界にはもはや存在し――」
――キキィィィィッ!! バタンッ!
泥湯魔神が勝利の宣言を口にしようとしたその瞬間、猛烈な熱気と毒ガスが立ち込める沼のど真ん中に、四つの車輪がついた奇妙な小型の鉄箱(魔導軽トラ)が、神話級の熱泥と猛毒瘴気をものともせずにドリフト着陸(泥上浮遊)する音が響き渡った。
そして、軽トラのドアが「ガラッ」と無遠慮に開け放たれ、バススポンジと洗剤を持った青年の明るい声が、沸騰のノイズを完全に打ち破ったのである。
「ちわーっす! 総合ライフサポート企業『黄昏の守護者』です! 近隣の国の方々からご依頼いただいたお風呂の清掃とボイラー修理に伺いましたー! ……うわぁ、こりゃひどい湯垢のこびりつきと、お湯に湧いたタチの悪いカビ(熱泥の魔獣)だね! こりゃ徹底的に磨き上げがいがあるや!」
アルドは、ゴム手袋をキュッとはめながら、プロの清掃業者としてのダメ出しを開始した。
「ナ、何奴ッ!? 我ガ絶対灼熱ノ領域ニ、地上ノ虫ケラガ何ノ用ダ!」
泥湯魔神が驚愕の泥しぶきを上げる中、アルドの後ろから、レイヴン、エルミナ、シノン、そしてアーキヴァルが、それぞれの「清掃用具(兵器)」を手にして、圧倒的な威圧感を放ちながら沼のほとりへと降り立ったのである。
「さあ、社長。まずはこの鬱陶しい床にへばりついた湯垢(熱泥の魔獣の群れ)どもから、綺麗に『こすり落として』差し上げましょう」
レイヴンが神具の斧を構え、凶悪な笑みを浮かべる。
総合ライフサポート企業の次なる社会貢献(能動的な悪の粉砕)が、死の毒沼で今まさに始まろうとしていた。
「ナ、ナンダ貴様ラハ!? 我ガ絶望ノ泥海ヲ『お風呂の湯垢』ダト!? 舐メルナ地上ノウジ虫ドモッ! 我ガ熱泥ノ魔獣デ、貴様ラノ血肉ヲ永遠ニ溶カシ尽クシテクレルワ!」
泥湯魔神の怒号と共に、沼を覆うほどのドス黒い熱泥の魔獣群が、一斉にアルドたちに向かって致死の熱波と毒を放ちながら襲い掛かった。
「うわっ、この湯垢、すっごく熱くて嫌な臭いがする! 放置してたら浴室がヌルヌルになって滑って転んじゃうぞ!」
アルドは、迫り来る魔獣の群れを「長年の放置でドロドロになったタチの悪い湯垢と黒カビの塊」と完全に誤認し、バススポンジを強く握りしめた。
「社長、ここは我々『社員』にお任せを。熱気やカビの臭いが外に漏れないよう、まずは私が浴室用密閉ドアを張ります」
シノンが音もなく跳躍し、毒沼の周囲を囲むように、無数の札(神仙の空間隔離結界符)を空中に投げ放った。
――ピィィィィンッ!
瞬間、沼全体をドーム状に覆うように、透明で絶対的な強度を誇る『神仙の浴室清掃用密閉結界』が展開された。これで、致死の灼熱や毒ガスは一ミリたりとも外の大地へ漏れ出すことはない。
「完璧な密閉ですわ、シノンさん。では、私は湯垢が撒き散らすガンコなカビや悪臭(致死の猛毒瘴気)を、特殊クリーニングで綺麗に漂白して除菌いたしますわ!」
エルミナが白銀の杖を天に掲げると、大宇宙の理を内包した『極大聖水浄化魔法』が、超強力なカビ取りスプレーの泡のように周囲の狂気の熱泥を包み込んだ。
「ギィヤアアアアッ!?」
万物を溶かす猛毒瘴気は、その浄化の光と水の泡を浴びた瞬間、身に纏っていた魔力ごと完全に無力化され、ただの無害で清らかな水蒸気と白い泡へと変わっていく。
「フンッ! 魔力を抜かれたただの汚水など、ただのデッキブラシのマトだ! そして、邪魔な湯垢は私が綺麗に削り落としてやろう!」
レイヴンが神具の斧を大上段に構え、泡に包まれた魔獣の群れに向かって旋風のごとく突っ込む。
「浴室湯垢削剥斬ィィィッ!!」
放たれた一撃は、魔獣の泥状ボディの「汚れの隙間」を完璧に見切り、まるでタイルの目地に詰まった黒カビをゴシゴシと削り落とすかのように、シャリィィィン!と見事な手際で綺麗に粉砕し、無害な水溜まりにしてしまった。
「ナ、何ィィィッ!? 我ガ無敵ノ熱泥ノ眷属ガ、タダノ『カビ取り剤』ト『ブラシがけ』ノ前ニ、一瞬デただの汚水ニサレテイクゥゥッ!?」
泥湯魔神は、自らの絶望の眷属がものの数分で「ただの泡と水」に変わり、猛毒の臭いが消え去った光景に、驚愕のあまり泥の巨体を震わせた。
「よし、みんなのおかげで床のガンコな汚れは片付いたね! あとは、あの一番熱湯を暴走させてる『ボイラーの親玉(泥湯魔神)』に洗剤をかけて、スポンジでピカピカに磨き上げるだけだ!」
アルドは、特製『事象研磨の神仙バススポンジ』を構え、泥湯魔神の巨大な泥の本体へと向けて突撃した。
――当然ながら、その素材は常軌を逸している。バススポンジは星の創世の浄化海綿を用いた絶対研磨武具であり、大宇宙のいかなる猛毒や神話級の超高温すらも、物理的に『洗剤をつけて擦る』だけで完璧に汚れを剥がし取る『究極の浴室メンテナンスツール』である。
「オノレェェェッ! 舐メルナ人間! 我ガ本気、世界ヲ釜茹デニ変エル『終焉ノ絶対熱泥』デ、貴様ラゴト泥ノ底ニ溶カシ尽クシテクレルワ!」
泥湯魔神が残された魔力を暴走させ、周囲の空間ごと全てを溶かす超巨大な泥の波を無数に放ってきた。
「うわっ! ボイラーの奥から、すっごくガンコなドロドロの汚れが溢れ出してきた! でも、この特製バススポンジの前には、どんなにこびりついた汚れも一発でキュッだ!」
アルドが泥湯魔神の巨大な本体に向けて洗剤をプシュッと吹きかけ、容赦なくキュッ、キュッ、キュゥゥゥゥッ!と限界まで綺麗に磨き上げた。
「バ、バカナァァァッ!? 我ガ最大奥義ノ超絶熱波ガ、タダノお風呂スポンジデ磨キ落トサレタダトォォォッ!?」
「よし、ガンコな汚れとカビは綺麗に落ちたぞ! 最後に、この『絶対適温の事象調律パネル』でボイラーの温度をちょうどいいお湯加減に設定して……あ、そうだ。このお風呂の親玉、綺麗に掃除して温度を下げたら、凄く広くて効能の良さそうな温泉になってるね。ちょっと周囲を岩風呂風に整えれば、世界中の人が疲れを癒やせる『超巨大な全自動・神仙スーパー銭湯(温泉リゾート)』にできそうだよ!」
アルドが泥湯魔神の本体に事象調律パネル(温度と水質を完璧に管理する制御盤)をカポッと嵌め込み、事象固定の岩を配置して立派な露天風呂へとリメイクすると、大宇宙の法則が完全にひれ伏した。
暴走していた泥湯魔神の禍々しい灼熱と猛毒の魔力は、瞬く間に漂白・調律されていく。
『ア……ァァ……。我ノ、世界ヲ毒泥ニ沈メルハズノ力ガ、マルデ都合ノイイ【疲労回復ト美肌効果ノアル極上ノ源泉】ノヨウニ……!? イヤ、温度ヲ調整サレル度ニ、我ガ巨体ガ、異常ナマデニ心地ヨイ【絶対的ナ適温ト、極上ノ癒ヤシヲ提供スル超大型温泉ボイラー】ニ変換サレテイクゥゥゥッ! 私ノ存在ガ、世界ヲ絶望ニ沈メルノデハナク、コウシテ大陸ニ永遠ノ健康ト安ラギヲ提供スル「極上ノ全自動・神仙スーパー銭湯」トシテ機能スルコトガ、コレホドマデニ満タサレルコトダッタトハ……!』
かつて世界を脅かした灼熱の化身は、アルドの「お風呂掃除と温度調整」によって完全に浄化され、書き換えられた。
万物を煮溶かす禍々しい泥湯魔神は、気がつけば「毒沼を美しく清潔な巨大温泉施設に変え、世界中のどんな疲労や病も、浸かるだけで完全に回復させる極上の温泉を24時間湧出させ続ける、超高性能な『永久・神仙全自動温泉リゾート(見た目は巨大で湯気立ち昇る最高級の露天風呂)』」へと姿を変えていたのである。
「よしよし! 嫌な湯垢と熱湯の被害は片付いて、すっごく綺麗で温度も完璧な大浴場になったぞ! おまけに、これがあれば世界中の人たちがいつでも足を伸ばしてゆっくりお風呂に入れて健康だね。これで大陸の人たちも、毎日一日の疲れをサッパリ洗い流せるよ!」
アルドがスポンジを片付けて額の汗を拭うと、沼を覆っていたドス黒い毒ガスは一瞬にして晴れ渡り、眼下には美しく澄み渡る奇跡の温泉と、心地よい湯けむりが広がっていた。
***
数日後。大陸南西部を統べる諸国の王室や公衆衛生ギルド本部。
各国の王たちは、毒沼が完全に浄化され、前代未聞の超巨大な温泉リゾートが誕生したという報告書を見て震え上がっていた。
「ば、馬鹿な……。我が世界を釜茹での地獄に沈めるはずだった灼熱の泥湯魔神が、たった数時間で『完全なお風呂掃除』をされ、あまつさえ泥湯魔神が『超巨大な温浴・観光インフラ』に転職して、国中の公衆衛生と温泉を完璧に管理しているだと……!?」
そこへ、冷徹な執事服に身を包んだアーキヴァルが、うやうやしく一礼して現れた。
「お初にお目にかかります、各国の代表諸君。総合ライフサポート企業『黄昏の守護者』の最高財務責任者、アーキヴァルでございます。この度は、我が社の『CSR活動(浴室清掃と温浴インフラ整備業務)』をご利用いただき、誠にありがとうございます」
アーキヴァルは、分厚いバインダーから【完全なる環境修復・温浴リゾート施設開発代金およびコンサルタント料の請求書】を取り出し、王たちの目の前にドンッと突きつけた。
「我が社の社長(アルド様)の理念により、今回は社会貢献として基本のお風呂掃除料金はサービスさせていただいております。……が、泥湯魔神の完全浄化、水質の再構築、そして『大陸全土に極上の癒やしと健康を供給する巨大温泉の永続的な運用費』は、正当なビジネスとして請求させていただきます。お支払いは、各国の年間観光・衛生収益の九割と、温浴リゾートの独占プロデュース権で手を打ちましょう」
アーキヴァルの冷たい宣告(合法的な超・搾取)と共に、王たちは完全に心をへし折られ、震える手で莫大な報酬の永続支払いにサインをするしかなかった。
***
日だまり郷の黄金の城塞。
静寂に包まれた書斎のデスクで、元・大賢者ゾルタンは、羽ペンをインク壺に浸し、新たな社史のページに文字を刻み込んでいた。
『〇月×日。大陸南西部の毒沼における浴室清掃、および温度調整作業完了。世界を釜茹でに沈める灼熱の泥湯魔神ボイリング・マッド(神話の厄災)を事象のバススポンジと洗剤で磨き上げ、立派な特大スーパー銭湯へと改修。猛毒と異常地熱の修復を完了し、大陸全土の公衆衛生と温浴・観光経済の発展に多大な貢献を果たした。
……また、我が社のCFOの尽力により、世界各国からは莫大な賠償金と、温浴リゾートインフラの独占管理権を合法的に譲り受けることに成功。これで我が社は、地下水脈、気象、海上物流、クリーンエネルギー、次元基盤、自然環境、気候、時間、信仰、光、水回り、大気、交通・物流、情報・娯楽、資源循環、通信網、医療・甘味、睡眠・無意識、清浄なる排気環境、生命の息吹(農業)、世界の視界と景観、食の鮮度(低温物流)、住環境と天候からの防壁に続き、ついに「生命の癒やしと公衆衛生(温泉)」の覇権すらも完全に掌握したことになる。
社長の「社会貢献」という名の大掃除は、もはや世界のあらゆる概念すらも呑み込み、世界は究極の平穏(我が社による完全支配)へと向かっている。大賢者たるワシの知能をもってしても、神話の灼熱地獄すら源泉掛け流し温泉に変える(物理的にスポンジでキュッキュと磨き上げた)この恐るべき企業の快進撃を止める術は、大宇宙のどこにも存在しない。』
ゾルタンが深い溜息と共にペンを置くと、ドアの向こうから「今日のおやつは、朝の親子丼の極上出汁をたっぷり使った、フワフワの特製だし巻き卵サンドだよー!」というアルドの無邪気な声が聞こえてきた。
ゾルタンは「神々の絶望を記録した直後のサンドイッチは、ことのほか出汁の優しさが身に染みよう」とぼやきながらも、頬を緩ませて立ち上がった。
最強の便利屋の「ただのお風呂掃除」は、世界釜茹での危機をただの浴室清掃として解決し、泥湯魔神の脅威を完全に終わらせただけでなく、世界に最高の温浴・公衆衛生インフラを誕生させてしまった。
企業として躍進するクラン『黄昏の守護者』は、これより正式に公衆衛生と癒やしの覇権をも握り、いかなる邪悪も日常の水回り清掃業務として葬り去る、究極の平穏なる企業伝説をまた一つ、分厚い社史のページに深く刻み込んだのであった。
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