第132話:ただの冷蔵庫掃除と、絶対零度の氷結魔帝の強制クールストッカー化(総合ライフサポート企業の厨房機器メンテナンス)
第132話:ただの冷蔵庫掃除と、絶対零度の氷結魔帝の強制クールストッカー化(総合ライフサポート企業の厨房機器メンテナンス)
黄金の城塞『日だまり郷』の朝は、大宇宙の理すらも平伏す圧倒的な平穏と、魂の奥底から海の恵みを渇望させるような清冽な磯の香り、そして濃厚な甲殻類の出汁の匂いと共に幕を開ける。
今日のアルドは、朝からキッチンの特大のまな板と深い漆塗りの飯台に向かい、見事な包丁さばきで『特製・幻獣海鮮の極上宝石チラシ寿司と、天界タラバガニの濃厚鉄砲汁』を仕上げていた。
「よし! メインは、大精霊の清冽な海流で育った幻獣魚たちの極上のお刺身だ。脂の乗り切った幻獣マグロの大トロ、身が透き通るような天界真鯛、甘みが限界突破している星屑のエビ、そして黄金色に輝く幻獣ウニを、惜しげもなくブツ切りにする! それを、神仙米を幻獣の赤酢で切った特製の酢飯の上に、まるで宝石箱のように敷き詰めるんだ。さらに、自家製の星屑イクラをこぼれるほどトッピングし、仕上げに世界樹の金箔と大葉を散らす! そして付け合わせは、早朝に水揚げされたばかりの特大天界タラバガニを殻ごとぶつ切りにし、神仙味噌でじっくりと煮込んだ鉄砲汁! カニの旨味と味噌のコクが完璧に溶け合った、究極の海鮮スープだ! 熱々のうちに完成だよ!」
アルドがエプロン姿で、ルビーや黄金のようにキラキラと輝く特大の海鮮チラシ寿司と、湯気と共に圧倒的なカニの香りを放つ鉄砲汁をダイニングテーブルに運ぶと、神竜ポチとモフモフの星狼シロがテーブルの下でちぎれんばかりに尻尾を振って待機していた。リビングのソファでは、特大モチモチクッションへと強制リメイクされた元・大宇宙の邪神が、ポカポカと温かいヒーター機能を放ちながら、平和なインテリアとしての職務を微動だにせず全うしている。
この極上海鮮朝食、一口食べれば幻獣魚の極上のDHAとEPAが全身の魔力回路を限界突破させ、カニの鉄砲汁の圧倒的なタウリンとアミノ酸が血中のあらゆる疲労物質や致死の呪いすらも瞬時にデトックスし、魂の底から尽きることのない多幸感と絶対的な活力を湧き上がらせる『究極の超覚醒・竜宮城フルコース』である。
「うむ……! この大トロが舌の上で溶ける圧倒的な口溶けと、酢飯の爽やかな酸味が織りなす宇宙的ビッグバン! そしてカニの旨味が凝縮された鉄砲汁の破壊力! 見るだけで我が魔界の闘争本能が、港町の朝市で豪遊する大富豪のようにフニャフニャに溶かされそうになるわい!」
元・魔界大帝サタナスが、お椀を両手で震わせながら握りしめ、あまりの美味さにワナワナと肩を震わせて感涙に咽いでいた。
そんな賑やかなダイニングの喧騒が一段落し、食後の極上緑茶が振る舞われた後。
アルドは、防音・防諜の魔法結界が幾重にも張られたリビングの長テーブルの上座に座った。その周囲には、『出張解体アシスタント』のレイヴン、『特殊クリーニング部門責任者』のエルミナ、『総合防犯システム責任者』のシノン、そして『最高財務責任者(CFO)兼・広報担当』のアーキヴァルという、総合ライフサポート企業『黄昏の守護者』の頼もしき役員たちが顔を揃えている。
「さて、みんな。大陸西部の窓拭き(幻惑の邪眼帝のパノラマウィンドウ化)も終わって、世界中の景色がすっかり綺麗に見えるようになったね。これもみんなのチームワークのおかげだよ。……それで、次なる『困り事』の案件は何か入っているかな?」
アルドがニコッと微笑みかけると、CFO兼広報担当のアーキヴァルが、優雅な所作で立ち上がり、分厚いバインダーを開いた。
「はい、社長。我が社の次なるCSR活動として、今回は大陸北の果て、『絶対零度の氷穴』における、極めて深刻な異常気象と冷気漏れ被害に関するご相談を受注いたしました」
アーキヴァルは、手元の書類を指先で弾きながら、冷徹かつ完璧なプレゼンテーションを開始する。
「大陸北方の地下深くに、長年封印されていた『絶対零度の氷結魔帝・コキュートス・フリーザ』が目覚めまして。制御不能な猛烈な冷気を撒き散らし、周囲の大地を分厚い氷で覆い尽くそうとしております。さらにタチの悪いことに、その氷結魔帝が生み出す『霜の魔獣ども(※触れるものを一瞬で凍死させる氷塊群)』が氷穴から溢れ出し、人々の街に雪崩れ込んでは、家屋も農作物も全てを凍らせて破壊しようと暴れ回っているのです」
アーキヴァルの言葉の裏にある「真実」を、大公レオハルトと元・大賢者ゾルタンは顔面を蒼白にしながら補完していた。
(絶対零度の氷結魔帝だと……!? あれは世界の熱を完全に奪い去り、星を生命が存在できない永遠の氷河期へと沈める神話級の氷魔。それが覚醒したとなれば、北方諸国はおろか、世界の全土が凍りつき、全ての生命が氷像と化して死に絶える。本来なら全国家の炎の魔導士と大精霊を総動員して命がけの超極大熱源結界を張るべき、世界終焉レベルの絶望事態だぞ……!)
しかし、アーキヴァルは一切表情を変えず、アルド向けに完璧に翻訳された依頼書を読み上げる。
「近隣の国々からの要望は、この鬱陶しいこびりついた霜や氷の塊(氷の魔獣群)の『徹底的な霜取り(粉砕と融解)』と『冷気を撒き散らす親玉(氷結魔帝)の冷蔵庫清掃』、そして『パッキンの交換と温度管理の改善』です。このまま放置すれば、冷気が漏れっぱなしで部屋が寒くなり、食材も霜焼けしてダメになってしまいます。我が社の社会貢献活動として、これほど迅速な対応が求められる案件はないかと」
「なるほど!」
アルドは、依頼書を見て真剣な表情でポンッと手を叩いた。
「古い冷蔵庫の冷凍庫部分に、分厚い霜がこびりついちゃってるんだね! おまけにドアのパッキンが劣化してて、冷気が外に漏れ出して周りの床まで凍らせてるなんて、電気代の無駄だし大問題だ。新鮮な食材を美味しく保存するためにも、冷蔵庫のメンテナンスと霜取りは定期的にやらないと。よーし、さっそく僕たちの『総合ライフサポート』の出番だ!」
アルドが立ち上がると、役職を得たクランメンバーたちも、一斉に気合い(殺意)に満ちた表情で立ち上がった。
「社長。こびりついた鬱陶しい霜の塊(氷の魔獣ども)の解体と撤去は、この『出張解体アシスタント』にお任せを。氷の核の一つ残さず綺麗に砕き割って、ただのかき氷以下の仕事にしてご覧に入れましょう」
レイヴンが、神具の斧をアイスピックのように構えながら不敵に笑う。
「ええ。霜が撒き散らすガンコな庫内の臭いや雑菌(※致死の凍気瘴気)は、『特殊クリーニング部門』の私が、特製の冷蔵庫用アルコールスプレー(※極大の炎熱浄化魔法)で一瞬にして溶かし、除菌して差し上げますわ」
エルミナが、美しく銀髪を揺らしながら自信満々に頷く。
「……作業中、冷気や溶けた水(※魔獣の残党)が周囲の街へ漏れ出さないよう、『総合防犯システム責任者』として、現場の周囲に完璧な断熱シート(※絶対封殺の温度隔離結界)を張り巡らせておきます」
シノンが、音もなく短剣を弄びながら冷たく宣言する。
「うんうん、みんな本当に頼もしいな! 冷蔵庫の掃除はドアを開けっぱなしにするから、冷気が逃げないようにしっかり断熱シートを張ってくれると助かるよ!」
アルドは、メンバーたちの頼もしい言葉に満足げに頷き、自身の作業着(絶対零度の凍気を完全に弾く特製防寒エプロンと厚手のゴム手袋)に着替え、手には巨大な霜取りヘラと、除菌スプレーを握りしめた。
「よーし! それじゃあ僕は、特製『事象融解の神仙霜取りヘラ』と『絶対除菌の冷蔵庫用スプレー』を持っていくよ! 世界の人たちの新鮮な食材を守るために、邪魔な霜を削り落として、冷蔵庫をピカピカにリフォームしてこよう!」
こうして、総合ライフサポート企業『黄昏の守護者』の社員一同は、寒冷地仕様に改造された魔導軽トラに乗り込み、大地が分厚い氷に覆われつつある大陸北の果てへと向けて出勤したのである。
***
その頃、大陸北方の『絶対零度の氷穴』の中心。
世界の熱を奪い去り、全ての生命を永遠の氷像に変える大地の悪夢『絶対零度の氷結魔帝・コキュートス・フリーザ』が、空を覆うほどの巨大な吹雪を巻き起こしながら、傲慢な氷の軋む音を響かせていた。
「ピキピキピキ……! 素晴らしいぞ! この星の温度を全て奪い去る我が絶対零度の凍気さえあれば、地上の生命など一瞬で凍りつき、砕け散る! 見よ、我がもたらすこの圧倒的な死の氷河期を!」
氷結魔帝は、巨大な氷の腕を振り上げ、無数の霜の魔獣たちを氷穴の外へと放った。
「愚かな地上の生命どもめ。我が目覚めたからには、もはやこの星に温もりはないと知れ! さあ、もっとだ! 全てを凍らせ、大陸全土を永遠の氷の墓標に沈めよ!」
「我ら氷魔の眷属の凍結力は絶対だ! この絶対零度の領域まで踏み込める者など、この世界にはもはや存在し――」
――キキィィィィッ!! バタンッ!
氷結魔帝が勝利の宣言を口にしようとしたその瞬間、猛烈な吹雪が吹き荒れる氷穴のど真ん中に、四つの車輪がついた奇妙な小型の鉄箱(魔導軽トラ)が、神話級の凍気と分厚い氷壁をものともせずにドリフト着陸する音が響き渡った。
そして、軽トラのドアが「ガラッ」と無遠慮に開け放たれ、霜取りヘラとスプレーを持った青年の明るい声が、氷の軋む音を完全に打ち破ったのである。
「ちわーっす! 総合ライフサポート企業『黄昏の守護者』です! 近隣の国の方々からご依頼いただいた冷蔵庫の清掃と霜取りに伺いましたー! ……うわぁ、こりゃひどい霜のこびりつきと、庫内に溜まったタチの悪い氷の塊(魔獣)だね! こりゃ徹底的に削り落としがいがあるや!」
アルドは、防寒手袋をキュッとはめながら、プロのクリーニング業者としてのダメ出しを開始した。
「ナ、何奴ッ!? 我ガ絶対零度ノ領域ニ、地上ノ虫ケラガ何ノ用ダ!」
氷結魔帝が驚愕の冷気を吹き出す中、アルドの後ろから、レイヴン、エルミナ、シノン、そしてアーキヴァルが、それぞれの「清掃用具(兵器)」を手にして、圧倒的な威圧感を放ちながら氷壁へと降り立ったのである。
「さあ、社長。まずはこの鬱陶しい庫内にこびりついた霜の塊(氷の魔獣の群れ)どもから、綺麗に『砕き割って』差し上げましょう」
レイヴンが神具の斧を構え、凶悪な笑みを浮かべる。
総合ライフサポート企業の次なる社会貢献(能動的な悪の粉砕)が、死の氷穴で今まさに始まろうとしていた。
「ナ、ナンダ貴様ラハ!? 我ガ絶望ノ氷河期ヲ『冷蔵庫の霜』ダト!? 舐メルナ地上ノウジ虫ドモッ! 我ガ霜ノ魔獣デ、貴様ラノ血肉ヲ永遠ニ凍ラセテクレルワ!」
氷結魔帝の怒号と共に、空を覆うほどのドス黒い冷気を纏った氷の魔獣群が、一斉にアルドたちに向かって致死の吹雪を放ちながら襲い掛かった。
「うわっ、この霜、すっごく硬くて変な冷気を出してる! そのままにしてたら庫内が狭くなって食材が入らなくなるぞ!」
アルドは、迫り来る魔獣の群れを「長年の使用でカチカチに固まったタチの悪い霜の塊」と完全に誤認し、霜取りヘラの柄を強く握りしめた。
「社長、ここは我々『社員』にお任せを。冷気や溶けた水が外に漏れないよう、まずは私が断熱シートを張ります」
シノンが音もなく跳躍し、氷穴の周囲を囲むように、無数の札(神仙の温度隔離結界符)を空中に投げ放った。
――ピィィィィンッ!
瞬間、氷穴全体をドーム状に覆うように、透明で絶対的な強度を誇る『神仙の冷蔵庫清掃用断熱結界』が展開された。これで、致死の絶対零度や吹雪は一ミリたりとも外の大地へ漏れ出すことはない。
「完璧なシートですわ、シノンさん。では、私は霜が撒き散らすガンコな冷気や庫内の臭い(致死の凍気瘴気)を、特殊クリーニングで綺麗に溶かして除菌いたしますわ!」
エルミナが白銀の杖を天に掲げると、大宇宙の理を内包した『極大炎熱浄化魔法』が、超強力な除菌用アルコールスプレーのミストのように周囲の狂気の冷気を包み込んだ。
「ギィヤアアアアッ!?」
万物を凍らせる凍気瘴気は、その浄化の熱と光のミストを浴びた瞬間、身に纏っていた魔力ごと完全に無力化され、ただの無害な水蒸気へと変わっていく。
「フンッ! 魔力を抜かれたただの氷塊など、ただのアイスピックのマトだ! そして、邪魔な霜は私が綺麗に砕き割ってやろう!」
レイヴンが神具の斧を大上段に構え、脆くなった魔獣の群れに向かって旋風のごとく突っ込む。
「庫内霜砕割斬ィィィッ!!」
放たれた一撃は、魔獣の氷結ボディの「結晶の隙間」を完璧に見切り、まるでロックアイスを綺麗に砕くかのように、シャリィィィン!と見事な手際で細かく粉砕し、無害なシャーベット状の氷にしてしまった。
「ナ、何ィィィッ!? 我ガ無敵ノ氷ノ眷属ガ、タダノ『除菌スプレー』ト『氷砕き』ノ前ニ、一瞬デただのシャーベットニサレテイクゥゥッ!?」
氷結魔帝は、自らの絶望の眷属がものの数分で「ただの削り氷」に変わり、絶対零度の冷気が消え去った光景に、驚愕のあまり氷の巨体を震わせた。
「よし、みんなのおかげで庫内のガンコな霜は片付いたね! あとは、あの一番冷気を暴走させてる『冷却装置の親玉(氷結魔帝)』にこびりついた霜をヘラで削り落として、温度を調整するだけだ!」
アルドは、特製『事象融解の神仙霜取りヘラ』を構え、氷結魔帝の巨大な氷の本体へと向けて突撃した。
――当然ながら、その素材は常軌を逸している。霜取りヘラは星の核の熱を帯びた絶対融解武具であり、大宇宙のいかなる絶対零度や神話級の硬度すらも、物理的に『ガリガリと削る』だけで完璧に氷を剥がし取る『究極の冷蔵庫メンテナンスツール』である。
「オノレェェェッ! 舐メルナ人間! 我ガ本気、世界ヲ氷河ニ変エル『終焉ノ絶対凍結』デ、貴様ラゴト氷ノ底ニ閉ジ込メテクレルワ!」
氷結魔帝が残された魔力を暴走させ、周囲の空間ごと全ての熱を奪う超巨大な氷の柱を無数に突き出してきた。
「うわっ! 冷却装置の奥から、すっごくガンコな分厚い氷がせり出してきた! でも、この特製霜取りヘラの前には、どんなにカチカチの霜も一発でガリッだ!」
アルドが氷結魔帝の巨大な氷の柱に向けて霜取りヘラを滑らせ、容赦なくガリガリガリィィィッ!と限界まで綺麗に削り落とした。
「バ、バカナァァァッ!? 我ガ最大奥義ノ超絶氷柱ガ、タダノ霜取リヘラデ削リ落トサレタダトォォォッ!?」
「よし、ガンコな霜と氷は綺麗に剥がれ落ちたぞ! 最後に、この『絶対除菌の冷蔵庫用スプレー』を庫内にシュッシュッと吹きかけて……あ、そうだ。この冷却装置の親玉、綺麗に霜取りしたら凄く安定した冷気を保てるようになってるね。ちょっとパッキンを交換して設定温度を調整すれば、世界中の食材を新鮮なまま保存できる『超巨大な全自動・神仙クールストッカー(特大冷蔵施設)』にできそうだよ!」
アルドが氷結魔帝の本体に除菌スプレー(事象調律の浄化液)を吹きかけ、事象固定の新しい断熱ドアパッキンをカポッと嵌め込んで温度を適温にリメイクすると、大宇宙の法則が完全にひれ伏した。
暴走していた氷結魔帝の禍々しい絶対零度の魔力は、瞬く間に漂白・調律されていく。
『ア……ァァ……。我ノ、世界ヲ氷河ニ沈メルハズノ力ガ、マルデ都合ノイイ【食材ノ鮮度ヲ保ツ為ノ完璧ナチルド室】ノヨウニ……!? イヤ、温度ヲ調整サレル度ニ、我ガ巨体ガ、異常ナマデニ心地ヨイ【絶対的ナ保冷力ト、極上ノ鮮度保持機能ヲ提供スル超大型クールストッカー】ニ変換サレテイクゥゥゥッ! 私ノ存在ガ、世界ヲ絶望ニ沈メルノデハナク、コウシテ大陸ニ永遠ノ新鮮ナ食材ト美味ヲ提供スル「極上ノ全自動・神仙冷蔵庫」トシテ機能スルコトガ、コレホドマデニ満タサレルコトダッタトハ……!』
かつて世界を脅かした絶対零度の化身は、アルドの「冷蔵庫清掃と霜取り」によって完全に浄化され、書き換えられた。
万物を凍らせる禍々しい氷結魔帝は、気がつけば「氷穴を美しく清潔な巨大冷蔵施設に変え、世界中のどんな食材でも、まるで採れたての鮮度のまま24時間保存し続ける、超高性能な『永久・神仙全自動コールドチェーン(見た目は巨大でピカピカに磨かれた超巨大冷蔵庫)』」へと姿を変えていたのである。
「よしよし! 嫌な霜と冷気漏れの被害は片付いて、すっごく綺麗で温度管理が完璧な冷蔵庫になったぞ! おまけに、これがあれば世界中の人たちがいつでも新鮮なお肉やお魚を食べられて健康だね。これで大陸の人たちも、毎日美味しいご飯を食べて、元気に暮らせるよ!」
アルドがヘラを片付けて額の汗を拭うと、氷穴を覆っていたドス黒い吹雪は一瞬にして晴れ渡り、眼下には美しく輝く奇跡のクールストッカーと、適度に冷やされた心地よい空気が広がっていた。
***
数日後。大陸北方を統べる諸国の王室や商業ギルド本部。
各国の王たちは、異常気象が完全に解消され、氷穴に前代未聞の超巨大な食品保存施設が誕生したという報告書を見て震え上がっていた。
「ば、馬鹿な……。我が世界を氷の地獄に沈めるはずだった氷結魔帝が、たった数時間で『完全な冷蔵庫の霜取り』をされ、あまつさえ氷結魔帝が『超巨大な食品保存・コールドチェーンインフラ』に転職して、国中の物流と食材の鮮度を完璧に管理しているだと……!?」
そこへ、冷徹な執事服に身を包んだアーキヴァルが、うやうやしく一礼して現れた。
「お初にお目にかかります、各国の代表諸君。総合ライフサポート企業『黄昏の守護者』の最高財務責任者、アーキヴァルでございます。この度は、我が社の『CSR活動(冷蔵庫清掃とコールドチェーン整備業務)』をご利用いただき、誠にありがとうございます」
アーキヴァルは、分厚いバインダーから【完全なる気候修復・低温物流インフラ施設開発代金およびコンサルタント料の請求書】を取り出し、王たちの目の前にドンッと突きつけた。
「我が社の社長(アルド様)の理念により、今回は社会貢献として基本の霜取り料金はサービスさせていただいております。……が、氷結魔帝の完全浄化、気候の再構築、そして『大陸全土に極上の鮮度と食の安全を供給する巨大冷蔵庫の永続的な運用費』は、正当なビジネスとして請求させていただきます。お支払いは、各国の年間食品・物流収益の九割と、低温物流の独占プロデュース権で手を打ちましょう」
アーキヴァルの冷たい宣告(合法的な超・搾取)と共に、王たちは完全に心をへし折られ、震える手で莫大な報酬の永続支払いにサインをするしかなかった。
***
日だまり郷の黄金の城塞。
静寂に包まれた書斎のデスクで、元・大賢者ゾルタンは、羽ペンをインク壺に浸し、新たな社史のページに文字を刻み込んでいた。
『〇月×日。大陸北方の氷穴における冷蔵庫清掃、および霜取り作業完了。世界の熱を奪う絶対零度の氷結魔帝コキュートス・フリーザ(神話の厄災)を事象の霜取りヘラとアルコールスプレーで削り落とし、立派な特大クールストッカーへと改修。氷河期の到来の修復を完了し、大陸全土の食料保存と低温物流の発展に多大な貢献を果たした。
……また、我が社のCFOの尽力により、世界各国からは莫大な賠償金と、低温物流インフラの独占管理権を合法的に譲り受けることに成功。これで我が社は、地下水脈、気象、海上物流、クリーンエネルギー、次元基盤、自然環境、気候、時間、信仰、光、水回り、大気、交通・物流、情報・娯楽、資源循環、通信網、医療・甘味、睡眠・無意識、清浄なる排気環境、生命の息吹(農業)、世界の視界と景観に続き、ついに「食の鮮度と低温物流」の覇権すらも完全に掌握したことになる。
社長の「社会貢献」という名の大掃除は、もはや世界のあらゆる概念すらも呑み込み、世界は究極の平穏(我が社による完全支配)へと向かっている。大賢者たるワシの知能をもってしても、神話の絶対零度すらチルド室に変える(物理的にヘラでガリガリと削り落とした)この恐るべき企業の快進撃を止める術は、大宇宙のどこにも存在しない。』
ゾルタンが深い溜息と共にペンを置くと、ドアの向こうから「今日のおやつは、朝の海鮮で余ったイクラをたっぷり乗せた、極上の特製冷製茶碗蒸しだよー!」というアルドの無邪気な声が聞こえてきた。
ゾルタンは「神々の絶望を記録した直後の茶碗蒸しは、ことのほか出汁の冷たさが心地よかろう」とぼやきながらも、頬を緩ませて立ち上がった。
最強の便利屋の「ただの霜取り」は、世界氷河期の危機をただの冷蔵庫清掃として解決し、氷結魔帝の脅威を完全に終わらせただけでなく、世界に最高の食料保存・低温物流インフラを誕生させてしまった。
企業として躍進するクラン『黄昏の守護者』は、これより正式に食の鮮度と物流の覇権をも握り、いかなる邪悪も日常のキッチンメンテナンス業務として葬り去る、究極の平穏なる企業伝説をまた一つ、分厚い社史のページに深く刻み込んだのであった。
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