第130話:ただの草むしりと、狂乱の魔蔓樹の強制果樹園化(総合ライフサポート企業の造園・庭の手入れ業務)
第130話:ただの草むしりと、狂乱の魔蔓樹の強制果樹園化(総合ライフサポート企業の造園・庭の手入れ業務)
黄金の城塞『日だまり郷』の朝は、大宇宙の理すらも平伏す圧倒的な平穏と、魂の奥底から日本人のDNAを歓喜させるような極上の焼き魚の香ばしい匂い、そして出汁の染み込んだ醤油の芳醇な香りと共に幕を開ける。
今日のアルドは、朝からキッチンの特注の焼き台と巨大な土鍋に向かい、見事な火加減と団扇の扇ぎで『特製・幻獣鮭のふっくら塩釜焼きと、大精霊の恵みの五目炊き込みご飯、天界キノコと三つ葉のお吸い物』を仕上げていた。
「よし! メインは、大精霊の清冽な海を泳ぎ回って育った、極上に脂の乗った幻獣鮭の半身だ。これを、星屑の海塩と幻獣の卵白を混ぜ合わせた特製の塩釜で包み込み、炭火でじっくりと蒸し焼きにする! 塩釜を木槌でパカンと割れば、中から旨味が限界まで凝縮された、箸を入れるだけでホロホロと崩れるルビー色の鮭が現れる寸法さ。そして、神仙米に幻獣鶏の出汁、世界樹の根菜、天界キノコをたっぷりと混ぜ込み、土鍋でふっくらと炊き上げた極上の五目炊き込みご飯! おこげの香ばしさがたまらないね。付け合わせには、天界キノコから取った透き通るようなお出汁に、爽やかな三つ葉を散らしたお吸い物! 仕上げにカボスをキュッと絞って……熱々のうちに完成だ!」
アルドがエプロン姿で、湯気と共に圧倒的な磯の香りと出汁の香りを放つ和食の御膳をダイニングテーブルに運ぶと、神竜ポチとモフモフの星狼シロがテーブルの下でちぎれんばかりに尻尾を振って待機していた。リビングのソファでは、特大モチモチクッションへと強制リメイクされた元・大宇宙の邪神が、ポカポカと温かいヒーター機能を放ちながら、平和なインテリアとしての職務を微動だにせず全うしている。
この極上和朝食、一口食べれば幻獣鮭の極上のアスタキサンチンとDHAが全身の魔力回路を限界突破させ、炊き込みご飯の圧倒的な食物繊維とミネラルが血中のあらゆる疲労物質や致死の呪いすらも瞬時にデトックスし、魂の底から尽きることのない多幸感と絶対的な活力を湧き上がらせる『究極の超覚醒・和の心フルコース』である。
「うむ……! この塩釜焼きの鮭のホロホロとした食感と、脂の甘みが織りなす宇宙的ビッグバン! そして出汁を限界まで吸い込んだ炊き込みご飯の圧倒的な包容力! 見るだけで我が魔界の闘争本能が、秋の京都で紅葉を眺めながら舌鼓を打つ老文化人のようにフニャフニャに溶かされそうになるわい!」
元・魔界大帝サタナスが、箸を両手で震わせながら握りしめ、あまりの美味さにワナワナと肩を震わせて感涙に咽いでいた。
そんな賑やかなダイニングの喧騒が一段落し、食後の極上ほうじ茶が振る舞われた後。
アルドは、防音・防諜の魔法結界が幾重にも張られたリビングの長テーブルの上座に座った。その周囲には、『出張解体アシスタント』のレイヴン、『特殊クリーニング部門責任者』のエルミナ、『総合防犯システム責任者』のシノン、そして『最高財務責任者(CFO)兼・広報担当』のアーキヴァルという、総合ライフサポート企業『黄昏の守護者』の頼もしき役員たちが顔を揃えている。
「さて、みんな。大陸中央部の換気扇清掃(猛毒の煙魔神の排気システム化)も終わって、世界中の空気がすっかり綺麗になったね。これもみんなのチームワークのおかげだよ。……それで、次なる『困り事』の案件は何か入っているかな?」
アルドがニコッと微笑みかけると、CFO兼広報担当のアーキヴァルが、優雅な所作で立ち上がり、分厚いバインダーを開いた。
「はい、社長。我が社の次なるCSR活動として、今回は大陸東部の『豊穣の森』における、極めて深刻な雑草の異常繁殖と景観悪化に関するご相談を受注いたしました」
アーキヴァルは、手元の書類を指先で弾きながら、冷徹かつ完璧なプレゼンテーションを開始する。
「東部の広大な森の奥深くに、長年封印されていた『狂乱の魔蔓樹』が目覚めまして。強靭で有毒な蔓を無数に伸ばし、周囲の森や街を片っ端から飲み込み、ドス黒い緑の牢獄に変えようとしております。さらにタチの悪いことに、その魔樹が生み出す『暴食の動植物ども(※触れるものを養分として吸い尽くす魔草群)』が大地を這い回り、人々の家屋を破壊し、家畜や人々を肥料にしようと暴れ回っているのです」
アーキヴァルの言葉の裏にある「真実」を、大公レオハルトと元・大賢者ゾルタンは顔面を蒼白にしながら補完していた。
(狂乱の魔蔓樹だと……!? あれは世界の生態系を全て有毒の植物で上書きし、星を永遠に続く魔の樹海へと変貌させる神話級の植物魔獣。それが覚醒したとなれば、東部諸国はおろか、世界の全生命が蔓に巻かれて養分にされ、緑の地獄の中で死に絶える。本来なら全国家の魔導士と騎士団を総動員して命がけの超極大焦土結界を張り、全てを焼き払うべき、世界終焉レベルの絶望事態だぞ……!)
しかし、アーキヴァルは一切表情を変えず、アルド向けに完璧に翻訳された依頼書を読み上げる。
「近隣の国々からの要望は、この鬱陶しい雑草やツタ(魔草群)の『徹底的な草むしり(粉砕と除草)』と『雑草の親玉(魔蔓樹)の剪定』、そして『お庭のガーデニングと景観の改善』です。このまま放置すれば、お庭が草だらけになって虫が湧き、家の中にまでツタが伸びてきて生活できなくなってしまいます。我が社の社会貢献活動として、これほど迅速な対応が求められる案件はないかと」
「なるほど!」
アルドは、依頼書を見て真剣な表情でポンッと手を叩いた。
「お庭の雑草が伸び放題で、ご近所迷惑になっちゃってるんだね! おまけに壁にツタが絡まって家を傷めてるなんて、建物の寿命も縮むし大問題だ。綺麗で風通しの良いお庭を保つためにも、造園と庭のお手入れはしっかりやらないと。よーし、さっそく僕たちの『総合ライフサポート』の出番だ!」
アルドが立ち上がると、役職を得たクランメンバーたちも、一斉に気合い(殺意)に満ちた表情で立ち上がった。
「社長。庭に蔓延る鬱陶しい雑草(魔草の群れ)の解体と撤去は、この『出張解体アシスタント』にお任せを。根っこを一本残さず綺麗に引き抜き、ただの腐葉土以下の仕事にしてご覧に入れましょう」
レイヴンが、神具の斧を草刈り鎌のように構えながら不敵に笑う。
「ええ。雑草が撒き散らすガンコな毒花粉や悪臭(※致死の猛毒瘴気と腐敗液)は、『特殊クリーニング部門』の私が、特製の除草剤(※極大の聖水浄化魔法)で一瞬にして枯らし、浄化して差し上げますわ」
エルミナが、美しく銀髪を揺らしながら自信満々に頷く。
「……作業中、雑草の種や毒のツタ(※魔獣の残党)が周囲の街へ飛散しないよう、『総合防犯システム責任者』として、現場の周囲に完璧な防草シート(※絶対封殺の空間隔離結界)を張り巡らせておきます」
シノンが、音もなく短剣を弄びながら冷たく宣言する。
「うんうん、みんな本当に頼もしいな! 草むしりは根っこから抜くのが大事だし、他の場所に種が飛んじゃわないように防草シートを張ってくれると助かるよ!」
アルドは、メンバーたちの頼もしい言葉に満足げに頷き、自身の作業着(猛毒と吸血蔓を完全に弾く特製ガーデニングエプロンと長靴、軍手)に着替え、手には巨大な草刈り鎌と、大きなじょうろを握りしめた。
「よーし! それじゃあ僕は、特製『事象刈り取りの神仙草刈り鎌』と『絶対開花の事象調律じょうろ』を持っていくよ! 世界の人たちの綺麗なお庭を守るために、邪魔な雑草をむしって、お庭をピカピカにガーデニングしてこよう!」
こうして、総合ライフサポート企業『黄昏の守護者』の社員一同は、農業・造園仕様に改造された魔導軽トラに乗り込み、大地がドス黒いツタに覆われつつある大陸東部の豊穣の森へと向けて出勤したのである。
***
その頃、大陸東部『豊穣の森』の中心。
世界の生態系を有毒な緑で塗り潰し、全ての生命を養分として啜り尽くす大地の悪夢『狂乱の魔蔓樹・カオス・アイビー』が、空を覆うほどの巨大な蔓を蠢かせながら、傲慢な葉擦れの音を響かせていた。
「サワサワサワ……! 素晴らしいぞ! この星の大地を全て喰らい尽くす我が根と蔓さえあれば、地上の生命など一瞬で養分として吸い尽くされる! 見よ、我がもたらすこの圧倒的な死の樹海を!」
魔蔓樹は、巨大な吸血の蔓を振り上げ、無数の魔草たちを森の外へと放った。
「愚かな地上の生命どもめ。我が目覚めたからには、もはやこの星に安全な大地はないと知れ! さあ、もっとだ! 全てを縛り上げ、大陸全土を永遠の緑の牢獄に沈めよ!」
「我ら魔樹の眷属の拘束力は絶対だ! この猛毒と棘の領域まで踏み込める者など、この世界にはもはや存在し――」
――キキィィィィッ!! バタンッ!
魔蔓樹が勝利の宣言を口にしようとしたその瞬間、猛毒のツタが絡み合う森のど真ん中に、四つの車輪がついた奇妙な小型の鉄箱(魔導軽トラ)が、神話級の猛毒瘴気と物理障壁をものともせずにドリフト着陸する音が響き渡った。
そして、軽トラのドアが「ガラッ」と無遠慮に開け放たれ、草刈り鎌とじょうろを持った青年の明るい声が、狂気の葉擦れ音を完全に打ち破ったのである。
「ちわーっす! 総合ライフサポート企業『黄昏の守護者』です! 近隣の国の方々からご依頼いただいたお庭の草むしりとガーデニングに伺いましたー! ……うわぁ、こりゃひどい雑草の伸びっぷりと、壁に絡みついたタチの悪いツタ(魔草)だね! こりゃ徹底的に引っこ抜きがいがあるや!」
アルドは、軍手をキュッとはめながら、プロの造園業者としてのダメ出しを開始した。
「ナ、何奴ッ!? 我ガ絶対捕食ノ領域ニ、地上ノ虫ケラガ何ノ用ダ!」
魔蔓樹が驚愕のざわめきを上げる中、アルドの後ろから、レイヴン、エルミナ、シノン、そしてアーキヴァルが、それぞれの「清掃用具(兵器)」を手にして、圧倒的な威圧感を放ちながら森へと降り立ったのである。
「さあ、社長。まずはこの鬱陶しい伸び放題の雑草(魔草の群れ)どもから、綺麗に『草むしり』して差し上げましょう」
レイヴンが神具の斧を構え、凶悪な笑みを浮かべる。
総合ライフサポート企業の次なる社会貢献(能動的な悪の粉砕)が、死の樹海で今まさに始まろうとしていた。
「ナ、ナンダ貴様ラハ!? 我ガ絶望ノ樹海ヲ『お庭の雑草』ダト!? 舐メルナ地上ノウジ虫ドモッ! 我ガ魔草ノ蔓デ、貴様ラノ血肉ヲ永遠ニ吸イ尽クシテクレルワ!」
魔蔓樹の怒号と共に、森を覆うほどのドス黒い吸血の蔓が、一斉にアルドたちに向かって猛毒の棘を剥き出して襲い掛かった。
「うわっ、この雑草、すっごくトゲトゲしてて変な色の汁を出してる! 肌に触れたらかぶれちゃって危ないぞ!」
アルドは、迫り来る魔獣の群れを「異常繁殖したタチの悪いトゲトゲの有毒植物」と完全に誤認し、草刈り鎌の柄を強く握りしめた。
「社長、ここは我々『社員』にお任せを。雑草の種や毒が外に漏れないよう、まずは私が防草シートを張ります」
シノンが音もなく跳躍し、森の周囲を囲むように、無数の札(神仙の空間隔離結界符)を空中に投げ放った。
――ピィィィィンッ!
瞬間、森全体をドーム状に覆うように、透明で絶対的な強度を誇る『神仙のガーデニング用防草結界』が展開された。これで、致死の有毒花粉や種子は一粒たりとも外の大地へ漏れ出すことはない。
「完璧なシートですわ、シノンさん。では、私は雑草が撒き散らすガンコな毒素や悪臭(致死の猛毒瘴気)を、特殊クリーニングで綺麗に枯らして除草いたしますわ!」
エルミナが白銀の杖を天に掲げると、大宇宙の理を内包した『極大聖水浄化魔法』が、超強力な除草剤のミストのように周囲の狂気のツタを包み込んだ。
「ギィヤアアアアッ!?」
万物を溶かす猛毒植物は、その浄化のミストを浴びた瞬間、身に纏っていた魔力ごと完全に無力化され、ただの水分が抜けた無害な枯れ草へと変わっていく。
「フンッ! 魔力を抜かれたただの枯れ草など、ただの草刈りのマトだ! そして、邪魔なツタは私が根こそぎ刈り取ってやろう!」
レイヴンが神具の斧を大上段に構え、枯れ草に変わった魔獣の群れに向かって旋風のごとく突っ込む。
「雑草根絶刈ィィィッ!!」
放たれた一撃は、魔草の概念ボディの「根元の隙間」を完璧に見切り、まるで伸びた芝生を綺麗に刈り揃えるかのように、シャリィィィン!と見事な手際で細かく粉砕し、無害な腐葉土にしてしまった。
「ナ、何ィィィッ!? 我ガ無敵ノ魔草ノ眷属ガ、タダノ『除草剤』ト『草刈り』ノ前ニ、一瞬デただの腐葉土ニサレテイクゥゥッ!?」
魔蔓樹は、自らの絶望の眷属がものの数分で「ただの肥料」に変わり、有毒瘴気が消え去った光景に、驚愕のあまり幹を震わせた。
「よし、みんなのおかげで邪魔な雑草は片付いたね! あとは、あの一番伸び放題になってる『お庭の親玉(魔蔓樹)』を草刈り鎌で綺麗に剪定して、じょうろで栄養のお水をあげるだけだ!」
アルドは、特製『事象刈り取りの神仙草刈り鎌』を構え、魔蔓樹の巨大な幹と暴れる蔓へと向けて突撃した。
――当然ながら、その素材は常軌を逸している。草刈り鎌の刃は星の断層を切り出した絶対切断武具であり、大宇宙のいかなる概念的防御や神話級の硬度すらも、物理的に『ザクッと刈る』だけで完璧に切り落とす『究極の造園ツール』である。
「オノレェェェッ! 舐メルナ人間! 我ガ本気、世界ヲ養分ニ変エル『終焉ノ絶対捕食根』デ、貴様ラゴト大地ノ底ニ引キズリ込ンデクレルワ!」
魔蔓樹が残された魔力を暴走させ、周囲の大地ごと全てを串刺しにする超巨大な根の槍を無数に放ってきた。
「うわっ! 地面の下から、すっごくガンコな木の根っこが飛び出してきた! でも、この特製草刈り鎌の前には、どんなに太い枝も根っこも一発でスパーンだ!」
アルドが魔蔓樹の巨大な根と蔓に向けて草刈り鎌を大上段から振り下ろし、容赦なくザクゥゥゥゥッ!と限界まで綺麗に刈り揃えた。
「バ、バカナァァァッ!? 我ガ最大奥義ノ超絶捕食根ガ、タダノ草刈リ鎌デ剪定サレタダトォォォッ!?」
「よし、ガンコな枝と根っこは綺麗に形が整ったぞ! 最後に、この『絶対開花の事象調律じょうろ』でお水をたっぷりあげて……あ、そうだ。このお庭の親玉、綺麗に剪定したら凄く立派で生命力のある果樹の形をしてるね。ちょっと栄養を与えてあげれば、世界中の人に美味しくて甘い果物をたくさん届けてくれる『超巨大な全自動・神仙フルーツガーデン』にできそうだよ!」
アルドが魔蔓樹の根元に事象調律じょうろ(星の生命力を凝縮した奇跡の神水)からたっぷりと水を注ぎ、事象固定の肥料をパラパラと撒いてガーデニングを施すと、大宇宙の法則が完全にひれ伏した。
暴走していた魔蔓樹の禍々しい狂乱の魔力は、瞬く間に漂白・調律されていく。
『ア……ァァ……。我ノ、世界ヲ死ノ森ニ沈メルハズノ力ガ、マルデ都合ノイイ【甘イ果実ヲ実ラセル為ノ極上ノ生命力】ノヨウニ……!? イヤ、水ヲ与エラレル度ニ、我ガ巨体ガ、異常ナマデニ心地ヨイ【絶対的ナ豊穣力ト、極上ノマイナスイオンヲ放出スル超大型果樹園】ニ変換サレテイクゥゥゥッ! 私ノ存在ガ、世界ヲ絶望ニ沈メルノデハナク、コウシテ大陸ニ永遠ノ恵ミト美味シイ果物ヲ提供スル「極上ノ全自動・神仙フルーツガーデン」トシテ機能スルコトガ、コレホドマデニ満タサレルコトダッタトハ……!』
かつて世界を脅かした狂乱の化身は、アルドの「草むしりとガーデニング」によって完全に浄化され、書き換えられた。
万物を養分として吸い尽くす禍々しい魔蔓樹は、気がつけば「死の樹海を美しく豊かな果樹園に変え、どんな季節でも不老長寿の極上の果実をたわわに実らせ、癒やしの空気を24時間放出し続ける、超高性能な『永久・神仙全自動フルーツパーク(見た目は巨大で美しく、甘い香りを放つ世界樹)』」へと姿を変えていたのである。
「よしよし! 嫌な雑草と毒のツタの被害は片付いて、すっごく綺麗で美味しい果物がいっぱいのお庭になったぞ! おまけに、これがあれば世界中の人たちがいつでも新鮮なフルーツを食べられて健康だね。これで大陸の人たちも、毎日綺麗なお庭をお散歩して、楽しく暮らせるよ!」
アルドがじょうろを片付けて額の汗を拭うと、森を覆っていたドス黒い瘴気の雲は一瞬にして晴れ渡り、眼下には美しく輝く奇跡の果樹園と、甘い果実の香りが広がっていた。
***
数日後。大陸東部を統べる諸国の王室や農業ギルド本部。
各国の王たちは、無限に収穫される奇跡の果実と、毒の森が消滅した報告書を見て震え上がっていた。
「ば、馬鹿な……。我が世界を緑の地獄に沈めるはずだった狂乱の魔蔓樹が、たった数時間で『完全な草むしり』をされ、あまつさえ魔蔓樹が『超巨大な豊穣・農業インフラ』に転職して、国中の食料事情と景観を完璧に管理しているだと……!?」
そこへ、冷徹な執事服に身を包んだアーキヴァルが、うやうやしく一礼して現れた。
「お初にお目にかかります、各国の代表諸君。総合ライフサポート企業『黄昏の守護者』の最高財務責任者、アーキヴァルでございます。この度は、我が社の『CSR活動(庭のお手入れと造園業務)』をご利用いただき、誠にありがとうございます」
アーキヴァルは、分厚いバインダーから【完全なる生態系修復・農業インフラ施設開発代金およびコンサルタント料の請求書】を取り出し、王たちの目の前にドンッと突きつけた。
「我が社の社長(アルド様)の理念により、今回は社会貢献として基本の草むしり料金はサービスさせていただいております。……が、魔蔓樹の完全浄化、生態系の再構築、そして『大陸全土に極上の果実と癒やしを供給する巨大果樹園の永続的な運用費』は、正当なビジネスとして請求させていただきます。お支払いは、各国の年間農業・林業収益の九割と、造園・食品インフラの独占プロデュース権で手を打ちましょう」
アーキヴァルの冷たい宣告(合法的な超・搾取)と共に、王たちは完全に心をへし折られ、震える手で莫大な報酬の永続支払いにサインをするしかなかった。
***
日だまり郷の黄金の城塞。
静寂に包まれた書斎のデスクで、元・大賢者ゾルタンは、羽ペンをインク壺に浸し、新たな社史のページに文字を刻み込んでいた。
『〇月×日。大陸東部の豊穣の森における草むしり、およびガーデニング作業完了。世界を緑の地獄に沈める狂乱の魔蔓樹カオス・アイビー(神話の厄災)を事象の草刈り鎌とじょうろで剪定し、立派な特大フルーツガーデンへと改修。生態系の暴走の修復を完了し、大陸全土の農業・食品経済の発展に多大な貢献を果たした。
……また、我が社のCFOの尽力により、世界各国からは莫大な賠償金と、農業・造園インフラの独占管理権を合法的に譲り受けることに成功。これで我が社は、地下水脈、気象、海上物流、クリーンエネルギー、次元基盤、自然環境、気候、時間、信仰、光、水回り、大気、交通・物流、情報・娯楽、資源循環、通信網、医療・甘味、睡眠・無意識、清浄なる排気環境に続き、ついに「生命の息吹と農業(食料生産)」の覇権すらも完全に掌握したことになる。
社長の「社会貢献」という名の大掃除は、もはや世界のあらゆる概念すらも呑み込み、世界は究極の平穏(我が社による完全支配)へと向かっている。大賢者たるワシの知能をもってしても、神話の食人植物すら果樹園に変える(物理的に草刈り鎌で刈り揃えた)この恐るべき企業の快進撃を止める術は、大宇宙のどこにも存在しない。』
ゾルタンが深い溜息と共にペンを置くと、ドアの向こうから「今日のおやつは、新しく採れた奇跡のフルーツをたっぷり使った、極上の特製フルーツタルトだよー!」というアルドの無邪気な声が聞こえてきた。
ゾルタンは「神々の絶望を記録した直後のタルトは、ことのほか果実の甘みが身に染みよう」とぼやきながらも、頬を緩ませて立ち上がった。
最強の便利屋の「ただの草むしり」は、世界樹海化の危機をただのガーデニングとして解決し、魔蔓樹の脅威を完全に終わらせただけでなく、世界に最高の農業・造園インフラを誕生させてしまった。
企業として躍進するクラン『黄昏の守護者』は、これより正式に食料生産と景観の覇権をも握り、いかなる邪悪も日常の庭の手入れとして葬り去る、究極の平穏なる企業伝説をまた一つ、分厚い社史のページに深く刻み込んだのであった。
ここまでお読みいただきありがとうございます!少しでも面白いと感じたら、画面下から【ブックマーク】と【☆☆☆☆☆】の評価をいただけると、執筆の大きなモチベーションになります!




