第129話:ただの換気扇掃除と、猛毒の煙魔神の強制換気システム化(総合ライフサポート企業のキッチン清掃)
第129話:ただの換気扇掃除と、猛毒の煙魔神の強制換気システム化(総合ライフサポート企業のキッチン清掃)
黄金の城塞『日だまり郷』の朝は、大宇宙の理すらも平伏す圧倒的な平穏と、魂の奥底から多幸感を呼び覚ますような極上のバターの香り、そしてふんわりと卵が焼ける優しい匂いと共に幕を開ける。
今日のアルドは、朝からキッチンの特注の厚底フライパンと大鍋に向かい、見事な火加減と手首のスナップで『特製・天界鶏の極上トロトロオムライスと、幻獣牛の濃厚デミグラスソース、世界樹の彩り温野菜サラダ』を仕上げていた。
「よし! メインは、大精霊の清冽な水で炊き上げた神仙米を、天界鶏の細切れ肉と幻獣の玉ねぎと一緒に、特製の星屑ケチャップで香ばしく炒めたチキンライスだ。これを、幻獣のミルクと神仙バターをたっぷり混ぜ合わせた天界鶏の産みたて黄金卵三つで包み込む! フライパンの上で卵を絶妙な半熟状態に仕上げ、チキンライスの上にスライドさせて乗せる。ナイフで中央に切れ目を入れれば、中からトロットロの黄金の卵が花開く寸法さ。そこに、幻獣牛のすじ肉と星屑の赤ワインを三日三晩煮込んで作った、漆黒に近い濃厚なデミグラスソースをたっぷりと回しかける! 付け合わせには、世界樹の森で採れた色鮮やかな温野菜のサラダ! 仕上げにパセリを散らして……熱々のうちに完成だ!」
アルドがエプロン姿で、黄金色に輝く卵と漆黒のソースが美しいコントラストを描く巨大なオムライスをダイニングテーブルに運ぶと、その暴力的なまでの芳醇な香りに引き寄せられ、神竜ポチとモフモフの星狼シロがテーブルの下でちぎれんばかりに尻尾を振って待機していた。リビングのソファでは、特大モチモチクッションへと強制リメイクされた元・大宇宙の邪神が、ポカポカと温かいヒーター機能を放ちながら、平和なインテリアとしての職務を微動だにせず全うしている。
この極上オムライス朝食、一口食べれば天界鶏の極上のタンパク質と黄金卵のアミノ酸が全身の魔力回路を限界突破させ、デミグラスソースの圧倒的な鉄分とコクが血中のあらゆる疲労物質や致死の呪いすらも瞬時にデトックスし、魂の底から尽きることのない活力を湧き上がらせる『究極の超覚醒・洋食フルコース』である。
「うむ……! この卵の圧倒的なトロトロ感と、デミグラスソースの深いコクが織りなす無限の宇宙! そしてチキンライスの完璧なパラパラ具合! 見るだけで我が魔界の闘争本能が、休日の昼下がりに老舗の洋食屋でランチを楽しむ老紳士のようにフニャフニャに溶かされそうになるわい!」
元・魔界大帝サタナスが、スプーンを両手で震わせながら握りしめ、あまりの美味さにワナワナと肩を震わせて感涙に咽いでいた。
そんな賑やかなダイニングの喧騒が一段落し、食後の極上ストレートティーが振る舞われた後。
アルドは、防音・防諜の魔法結界が幾重にも張られたリビングの長テーブルの上座に座った。その周囲には、『出張解体アシスタント』のレイヴン、『特殊クリーニング部門責任者』のエルミナ、『総合防犯システム責任者』のシノン、そして『最高財務責任者(CFO)兼・広報担当』のアーキヴァルという、総合ライフサポート企業『黄昏の守護者』の頼もしき役員たちが顔を揃えている。
「さて、みんな。北方の夢幻の深淵の布団干し(夢喰の夢魔神のベッド化)も終わって、世界中の安眠環境がすっかり安定したね。これもみんなのチームワークのおかげだよ。……それで、次なる『困り事』の案件は何か入っているかな?」
アルドがニコッと微笑みかけると、CFO兼広報担当のアーキヴァルが、優雅な所作で立ち上がり、分厚いバインダーを開いた。
「はい、社長。我が社の次なるCSR活動として、今回は大陸中央部の『黒煙の火山地帯』における、極めて深刻な大気汚染と有毒ガス被害に関するご相談を受注いたしました」
アーキヴァルは、手元の書類を指先で弾きながら、冷徹かつ完璧なプレゼンテーションを開始する。
「大陸中央の巨大な活火山に、長年封印されていた『猛毒の煙魔神・アッシュ・ベリアル』が目覚めまして。強烈な有毒の黒煙で空を覆い尽くし、太陽の光を遮って周囲をドス黒い灰の世界に変えようとしております。さらにタチの悪いことに、その煙魔神が生み出す『煤煙の魔獣ども(※触れるものを焼き尽くし肺を腐らせる灰の悪魔群)』が火山口から溢れ出し、人々の街に致死の灰を降らせて息の根を止めようと暴れ回っているのです」
アーキヴァルの言葉の裏にある「真実」を、大公レオハルトと元・大賢者ゾルタンは顔面を蒼白にしながら補完していた。
(猛毒の煙魔神だと……!? あれは世界の空気を有毒の灰に変え、星を永遠の呼吸困難と灼熱の地獄に沈める神話級の煙魔。それが覚醒したとなれば、中央部はおろか、世界の全生命が肺を焼かれ、灰に埋もれて死に絶える。本来なら全国家の魔導士と精霊使いを総動員して命がけの超極大浄化・防風結界を張るべき、世界終焉レベルの絶望事態だぞ……!)
しかし、アーキヴァルは一切表情を変えず、アルド向けに完璧に翻訳された依頼書を読み上げる。
「近隣の国々からの要望は、この鬱陶しい煤や油汚れ(灰の悪魔群)の『徹底的な拭き取り(粉砕と浄化)』と『黒煙を吐き出す親玉(煙魔神)の換気扇洗浄』、そして『排気設備のフィルター交換と空気環境の改善』です。このまま放置すれば、空気が汚れて咳が止まらなくなり、家の中も煤で真っ黒になってしまいます。我が社の社会貢献活動として、これほど迅速な対応が求められる案件はないかと」
「なるほど!」
アルドは、依頼書を見て真剣な表情でポンッと手を叩いた。
「キッチンの換気扇が長年の油汚れとホコリでギトギトになってて、煙を吸い込むどころか逆に逆流させてるんだね! おまけに焦げ臭い煙が部屋中に充満してるなんて、料理もできないし火事の原因になるから大問題だ。綺麗な空気の中で美味しいご飯を作るためにも、換気扇のクリーニングはしっかりやらないと。よーし、さっそく僕たちの『総合ライフサポート』の出番だ!」
アルドが立ち上がると、役職を得たクランメンバーたちも、一斉に気合い(殺意)に満ちた表情で立ち上がった。
「社長。こびりついた鬱陶しい油汚れ(灰の悪魔ども)の解体と撤去は、この『出張解体アシスタント』にお任せを。煤の核の一つ残さず綺麗に削り落として、ただのチリ以下の仕事にしてご覧に入れましょう」
レイヴンが、神具の斧をスクレーパーのように構えながら不敵に笑う。
「ええ。油汚れが撒き散らすガンコな悪臭や有毒ガス(※致死の黒煙と猛毒瘴気)は、『特殊クリーニング部門』の私が、特製のマジック・クリーナー(※極大の聖水浄化魔法)で一瞬にして油分を分解・洗浄して差し上げますわ」
エルミナが、美しく銀髪を揺らしながら自信満々に頷く。
「……作業中、煤や汚水(※悪魔の残党)が周囲の街へ飛散しないよう、『総合防犯システム責任者』として、現場の周囲に完璧な換気扇用養生カバー(※絶対封殺の空間密閉結界)を張り巡らせておきます」
シノンが、音もなく短剣を弄びながら冷たく宣言する。
「うんうん、みんな本当に頼もしいな! 換気扇の掃除は油が垂れてくるし、周りを汚さないようにしっかり養生カバーを張ってくれると助かるよ!」
アルドは、メンバーたちの頼もしい言葉に満足げに頷き、自身の作業着(猛毒ガスと超高温を完全に弾く特製防油エプロンとゴム手袋)に着替え、手には巨大な洗剤のスプレーと、真っ白な交換用フィルターを握りしめた。
「よーし! それじゃあ僕は、特製『事象分解の換気扇クリーナー』と『絶対吸気の神仙フィルター』を持っていくよ! 世界の人たちの綺麗な空気を守るために、邪魔な油汚れを溶かして、排気設備をピカピカにリフォームしてこよう!」
こうして、総合ライフサポート企業『黄昏の守護者』の社員一同は、耐熱・空気浄化仕様に改造された魔導軽トラに乗り込み、空がドス黒い灰に覆われつつある大陸中央部の火山地帯へと向けて出勤したのである。
***
その頃、大陸中央部の黒煙の活火山の中心。
世界の空気を致死の毒煙で汚染し、永遠の灰の冬を撒き散らす大地の悪夢『猛毒の煙魔神・アッシュ・ベリアル』が、火口からドス黒い煙柱を吐き出しながら、傲慢な轟音を響かせていた。
「ゴホォォォォ……! 素晴らしいぞ! この星の青空を全て黒に塗り潰す我が毒煙さえあれば、地上の生命など一瞬で肺を焼かれて窒息する! 見よ、我がもたらすこの圧倒的な死の煤煙を!」
煙魔神は、巨大な煙の腕を振り上げ、無数の灰の悪魔たちを火口から街へと放った。
「愚かな地上の生命どもめ。我が目覚めたからには、もはやこの星に清らかな呼吸はないと知れ! さあ、もっとだ! 全てを燻り出し、大陸全土を永遠の煤だらけの牢獄に沈めよ!」
「我ら煙魔の眷属の毒性は絶対だ! この灼熱と有毒の領域まで踏み込める者など、この世界にはもはや存在し――」
――キキィィィィッ!! バタンッ!
煙魔神が勝利の宣言を口にしようとしたその瞬間、猛毒の灰が降り注ぐ火山のど真ん中に、四つの車輪がついた奇妙な小型の鉄箱(魔導軽トラ)が、神話級の猛毒瘴気と超高温をものともせずにドリフト着陸する音が響き渡った。
そして、軽トラのドアが「ガラッ」と無遠慮に開け放たれ、洗剤スプレーとフィルターを持った青年の明るい声が、噴火の轟音を完全に打ち破ったのである。
「ちわーっす! 総合ライフサポート企業『黄昏の守護者』です! 近隣の国の方々からご依頼いただいた換気扇の油汚れ洗浄とフィルター交換に伺いましたー! ……うわぁ、こりゃひどい煤と、ギトギトの油汚れ(灰の悪魔)だね! こりゃ徹底的に洗い流しがいがあるや!」
アルドは、ゴム手袋をキュッとはめながら、プロの清掃業者としてのダメ出しを開始した。
「ナ、何奴ッ!? 我ガ絶対有毒ノ領域ニ、地上ノ虫ケラガ何ノ用ダ!」
煙魔神が驚愕の噴煙を上げる中、アルドの後ろから、レイヴン、エルミナ、シノン、そしてアーキヴァルが、それぞれの「清掃用具(兵器)」を手にして、圧倒的な威圧感を放ちながら火口へと降り立ったのである。
「さあ、社長。まずはこの鬱陶しいこびりついた煤(灰の悪魔)どもから、綺麗に『削り落として』差し上げましょう」
レイヴンが神具の斧を構え、凶悪な笑みを浮かべる。
総合ライフサポート企業の次なる社会貢献(能動的な悪の粉砕)が、死の火山地帯で今まさに始まろうとしていた。
「ナ、ナンダ貴様ラハ!? 我ガ絶望ノ噴煙ヲ『換気扇の汚れ』ダト!? 舐メルナ地上ノウジ虫ドモッ! 我ガ灰ノ悪魔デ、貴様ラノ肺ヲ永遠ニ焼キ尽クシテクレルワ!」
煙魔神の怒号と共に、空を覆うほどのドス黒い灰の群れが、一斉にアルドたちに向かって猛毒の煙を放って襲い掛かった。
「うわっ、この油汚れ、すっごく焦げ臭くて目に染みる! 放置してたら火が燃え移って大惨事になるぞ!」
アルドは、迫り来る魔獣の群れを「長年の使用で焦げ付いたタチの悪い油汚れと煤の塊」と完全に誤認し、スプレーのトリガーに指をかけた。
「社長、ここは我々『社員』にお任せを。汚れた油や洗浄液が外に漏れないよう、まずは私が養生カバーを張ります」
シノンが音もなく跳躍し、火山の周囲を囲むように、無数の札(神仙の空間密閉結界符)を空中に投げ放った。
――ピィィィィンッ!
瞬間、火山全体をドーム状に覆うように、透明で絶対的な強度を誇る『神仙の換気扇清掃用養生結界』が展開された。これで、致死の有毒ガスや灰は一ミリたりとも外の大気へ漏れ出すことはない。
「完璧なカバーですわ、シノンさん。では、私は油汚れが撒き散らすガンコな焦げ臭さや有毒ガス(致死の猛毒瘴気)を、特殊クリーニングで綺麗に分解いたしますわ!」
エルミナが白銀の杖を天に掲げると、大宇宙の理を内包した『極大聖水浄化魔法』が、超強力な油汚れ専用マジックリンのように周囲の狂気の黒煙を包み込んだ。
「ギャアアアアッ!?」
万物を焼き尽くす有毒ガスは、その浄化の泡を浴びた瞬間、身に纏っていた魔力ごと完全に無力化され、ただの無害で爽やかなオレンジの香りがする白い泡へと変わっていく。
「フンッ! 魔力を抜かれたただの煤など、ただのスクレーパーのマトだ! そして、邪魔な油汚れは私が綺麗に削り落としてやろう!」
レイヴンが神具の斧を大上段に構え、泡に包まれた魔獣の群れに向かって旋風のごとく突っ込む。
「油汚れ削剥斬ィィィッ!!」
放たれた一撃は、魔獣の概念ボディの「煤の隙間」を完璧に見切り、まるで換気扇のファンにこびりついた油をゴリッと削るかのように、シャリィィィン!と見事な手際で細かく粉砕し、無害なチリにしてしまった。
「ナ、何ィィィッ!? 我ガ無敵ノ灰ノ眷属ガ、タダノ『洗剤』ト『削り落とし』ノ前ニ、一瞬デただのチリニサレテイクゥゥッ!?」
煙魔神は、自らの絶望の眷属がものの数分で「ただの油カス」に変わり、有毒ガスが消え去った光景に、驚愕のあまり煙の体を震わせた。
「よし、みんなのおかげで表面のギトギト汚れは片付いたね! あとは、あの一番煙を逆流させてる『換気扇のファン(煙魔神)』に強力なクリーナーを吹きかけて、汚れを溶かして洗い流すだけだ!」
アルドは、特製『事象分解の換気扇クリーナー』を構え、煙魔神の巨大な煙の本体へと向けて突撃した。
――当然ながら、その素材は常軌を逸している。換気扇クリーナーは星の創世の清風を液化した絶対浄化溶剤であり、大宇宙のいかなる猛毒の煙や神話級の熱源すらも、物理的に『吹きかけて溶かす』だけで完璧に分解する『究極の排気設備洗浄ツール』である。
「オノレェェェッ! 舐メルナ人間! 我ガ本気、世界ヲ灰燼ニ帰ス『終焉ノ絶対黒煙』デ、貴様ラゴト窒息ノ底ニ沈メテクレルワ!」
煙魔神が残された魔力を暴走させ、周囲の空間ごと全ての酸素を奪う超巨大な黒煙の渦を無数に放ってきた。
「うわっ! ファンの奥から、すっごくガンコな真っ黒な油が噴き出してきた! でも、この特製クリーナーの前には、どんなにこびりついた汚れも一発でジュワッだ!」
アルドが煙魔神の巨大な煙の体に向けてスプレーのノズルを向け、容赦なくプシュゥゥゥゥッ!と限界まで洗浄液を吹き付けた。
「バ、バカナァァァッ!? 我ガ最大奥義ノ超絶毒煙ガ、タダノ換気扇用洗剤デ分解サレタダトォォォッ!?」
「よし、ガンコな油と煤は綺麗に溶けて流れ落ちたぞ! 最後に、この『絶対吸気の神仙フィルター』をファンの前にピタッと貼り付けて……あ、そうだ。この換気扇の親玉、綺麗に掃除したら凄く強力に空気を吸い込む力があるね。ちょっと空気の流れを調整すれば、世界中の汚れた空気を一瞬で綺麗にしてくれる『超巨大な全自動・換気システム兼空気清浄機』にできそうだよ!」
アルドが煙魔神の火口に真っ白な神仙フィルター(事象を完璧に濾過する光の網)を被せ、事象調律の排気ダクトを設置すると、大宇宙の法則が完全にひれ伏した。
暴走していた煙魔神の禍々しい猛毒の魔力は、瞬く間に漂白・調律されていく。
『ア……ァァ……。我ノ、世界ヲ窒息ニ沈メルハズノ力ガ、マルデ都合ノイイ【汚レタ空気ヲ強力的ニ吸イ込ム為ノシロッコファン】ノヨウニ……!? イヤ、フィルターヲ被セラレル度ニ、我ガ巨体ガ、異常ナマデニ心地ヨイ【絶対的ナ排気能力ト、極上ノマイナスイオンヲ放出スル超大型換気システム】ニ変換サレテイクゥゥゥッ! 私ノ存在ガ、世界ヲ絶望ニ沈メルノデハナク、コウシテ大陸ニ永遠ノ清浄ナル空気ト安全ヲ提供スル「極上ノ全自動・神仙レンジフード」トシテ機能スルコトガ、コレホドマデニ満タサレルコトダッタトハ……!』
かつて世界を脅かした猛毒の化身は、アルドの「換気扇掃除とフィルター交換」によって完全に浄化され、書き換えられた。
万物を有毒な灰に沈める禍々しい煙魔神は、気がつけば「火山地帯を美しく安全な地熱リゾートに変え、世界中の大気の汚れを火口から吸い込んでは、森林浴レベルのマイナスイオンの風を24時間放出し続ける、超高性能な『永久・神仙排気・空気清浄システム(見た目は巨大でピカピカのシルバーに輝くレンジフード)』」へと姿を変えていたのである。
「よしよし! 嫌な油汚れと煤の被害は片付いて、すっごく立派でピカピカの換気扇になったぞ! おまけに、これがあれば世界中の空気がいつでも綺麗になって、深呼吸が気持ちいいね。これで大陸の人たちも、毎日綺麗な空気の中で、美味しいご飯を作れるよ!」
アルドがスプレーを片付けて額の汗を拭うと、火山を覆っていたドス黒い毒煙の雲は一瞬にして晴れ渡り、眼下には美しく澄み渡る奇跡の青空が広がっていた。
***
数日後。大陸を統べる諸国の王室や環境保護ギルド本部。
各国の王たちは、大気汚染レベルがゼロになり、肺の病気が次々と治っていく報告書を見て震え上がっていた。
「ば、馬鹿な……。我が世界を死の灰に沈めるはずだった猛毒の煙魔神が、たった数時間で『完全な換気扇清掃』をされ、あまつさえ煙魔神が『超巨大な空気清浄・排気インフラ』に転職して、国中の大気環境と換気を完璧に管理しているだと……!?」
そこへ、冷徹な執事服に身を包んだアーキヴァルが、うやうやしく一礼して現れた。
「お初にお目にかかります、各国の代表諸君。総合ライフサポート企業『黄昏の守護者』の最高財務責任者、アーキヴァルでございます。この度は、我が社の『CSR活動(換気扇清掃と空気清浄インフラ整備業務)』をご利用いただき、誠にありがとうございます」
アーキヴァルは、分厚いバインダーから【完全なる大気修復・排気システム施設開発代金およびコンサルタント料の請求書】を取り出し、王たちの目の前にドンッと突きつけた。
「我が社の社長(アルド様)の理念により、今回は社会貢献として基本の清掃料金はサービスさせていただいております。……が、煙魔神の完全浄化、大気セキュリティの再構築、そして『大陸全土に極上の清浄な空気を供給する巨大換気システムの永続的な運用費』は、正当なビジネスとして請求させていただきます。お支払いは、各国の年間環境・医療収益の九割と、大気浄化インフラの独占管理権で手を打ちましょう」
アーキヴァルの冷たい宣告(合法的な超・搾取)と共に、王たちは完全に心をへし折られ、震える手で莫大な報酬の永続支払いにサインをするしかなかった。
***
日だまり郷の黄金の城塞。
静寂に包まれた書斎のデスクで、元・大賢者ゾルタンは、羽ペンをインク壺に浸し、新たな社史のページに文字を刻み込んでいた。
『〇月×日。大陸中央部の黒煙火山における換気扇清掃、およびフィルター交換作業完了。世界を灰燼に帰す猛毒の煙魔神アッシュ・ベリアル(神話の厄災)を事象の洗剤とフィルターで洗浄し、立派な特大排気・空気清浄システムへと改修。大気汚染の修復を完了し、大陸全土の公衆衛生・環境保護経済の発展に多大な貢献を果たした。
……また、我が社のCFOの尽力により、世界各国からは莫大な賠償金と、大気浄化インフラの独占管理権を合法的に譲り受けることに成功。これで我が社は、地下水脈、気象、海上物流、クリーンエネルギー、次元基盤、自然環境、気候、時間、信仰、光、水回り、大気、交通・物流、情報・娯楽、資源循環、通信網、医療・甘味、睡眠・無意識に続き、ついに「清浄なる排気と呼吸環境」の覇権すらも完全に掌握したことになる。
社長の「社会貢献」という名の大掃除は、もはや世界のあらゆる概念すらも呑み込み、世界は究極の平穏(我が社による完全支配)へと向かっている。大賢者たるワシの知能をもってしても、神話の猛毒ガスすらマイナスイオンに変える(物理的にレンジフードのフィルターを被せた)この恐るべき企業の快進撃を止める術は、大宇宙のどこにも存在しない。』
ゾルタンが深い溜息と共にペンを置くと、ドアの向こうから「今日のおやつは、朝のオムライスのデミグラスソースをたっぷり使った、極上の特製ハッシュドビーフパイだよー!」というアルドの無邪気な声が聞こえてきた。
ゾルタンは「神々の絶望を記録した直後のパイは、ことのほかソースのコクが身に染みよう」とぼやきながらも、頬を緩ませて立ち上がった。
最強の便利屋の「ただの換気扇清掃」は、世界汚染の危機をただのキッチン清掃として解決し、煙魔神の脅威を完全に終わらせただけでなく、世界に最高の空気清浄・排気インフラを誕生させてしまった。
企業として躍進するクラン『黄昏の守護者』は、これより正式に排気と環境保護の覇権をも握り、いかなる邪悪も日常の大掃除として葬り去る、究極の平穏なる企業伝説をまた一つ、分厚い社史のページに深く刻み込んだのであった。
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