第128話:ただの布団干しと、夢喰の夢魔神の強制安眠ベッド化(総合ライフサポート企業の寝具メンテナンス)
第128話:ただの布団干しと、夢喰の夢魔神の強制安眠ベッド化(総合ライフサポート企業の寝具メンテナンス)
黄金の城塞『日だまり郷』の朝は、大宇宙の理すらも平伏す圧倒的な平穏と、魂の奥底から野生を呼び覚ますような極上の豚骨スープの香り、そして香ばしく炙られた肉の暴力的な匂いと共に幕を開ける。
今日のアルドは、朝からキッチンの特大寸胴鍋と製麺機に向かい、見事な湯切りと盛り付けで『特製・幻獣豚の極上ドロドロ濃厚豚骨ラーメンと、天界豚の炙りトロチャーシュー、世界樹の煮卵添え』を仕上げていた。
「よし! メインは、大精霊の森で育った幻獣豚のゲンコツを、三日三晩休むことなく強火で炊き出し、骨の髄まで旨味を絞り尽くした超濃厚な豚骨スープだ。そこに、神仙小麦と星屑のかんすいで打った、極細のバリカタ自家製麺を合わせる! スープがネットリと麺に絡みつく絶妙なバランスだ。さらにトッピングには、秘伝の神仙醤油ダレでトロトロになるまで煮込み、仕上げにバーナーで香ばしく炙った天界豚の極厚チャーシューを丼の周りに花びらのように並べる! 中心には、黄身がルビーのように輝く世界樹の半熟煮卵と、シャキシャキの幻獣キクラゲ、そしてたっぷりの青ネギ! 最後に特製の黒マー油(焦がしニンニク油)をタラリと垂らして……熱々のうちに完成だ!」
アルドがエプロン姿で、湯気と共に圧倒的なニンニクと豚骨の香りを放つラーメン鉢をダイニングテーブルに運ぶと、神竜ポチとモフモフの星狼シロがテーブルの下でちぎれんばかりに尻尾を振って待機していた。リビングのソファでは、特大モチモチクッションへと強制リメイクされた元・大宇宙の邪神が、ポカポカと温かいヒーター機能を放ちながら、平和なインテリアとしての職務を微動だにせず全うしている。
この極上豚骨ラーメン、一口食べれば幻獣豚の極上のコラーゲンとアミノ酸が全身の魔力回路を限界突破させ、黒マー油の圧倒的な滋養強壮力が血中のあらゆる疲労物質や致死の精神汚染すらも瞬時にデトックスし、魂の底から尽きることのない闘争心と活力を湧き上がらせる『究極の超覚醒・スタミナフルコース』である。
「うむ……! この麺を啜った瞬間に鼻腔を突き抜ける豚骨のビッグバンと、舌の上で溶ける炙りチャーシューの圧倒的な破壊力! そして煮卵の濃厚なコク! 見るだけで我が魔界の闘争本能が、深夜の屋台で締めの一杯をすする酔っ払いのようにフニャフニャに溶かされそうになるわい!」
元・魔界大帝サタナスが、レンゲと箸を両手で震わせながら握りしめ、あまりの美味さにワナワナと肩を震わせて感涙に咽いでいた。
そんな賑やかなダイニングの喧騒が一段落し、食後の極上黒烏龍茶が振る舞われた後。
アルドは、防音・防諜の魔法結界が幾重にも張られたリビングの長テーブルの上座に座った。その周囲には、『出張解体アシスタント』のレイヴン、『特殊クリーニング部門責任者』のエルミナ、『総合防犯システム責任者』のシノン、そして『最高財務責任者(CFO)兼・広報担当』のアーキヴァルという、総合ライフサポート企業『黄昏の守護者』の頼もしき役員たちが顔を揃えている。
「さて、みんな。南の群島のハチの巣駆除(厄災の群女王の養蜂箱化)も終わって、世界中の医療と甘味料がすっかり安定したね。これもみんなのチームワークのおかげだよ。……それで、次なる『困り事』の案件は何か入っているかな?」
アルドがニコッと微笑みかけると、CFO兼広報担当のアーキヴァルが、優雅な所作で立ち上がり、分厚いバインダーを開いた。
「はい、社長。我が社の次なるCSR活動として、今回は大陸北方の『夢幻の深淵』における、極めて深刻な睡眠障害と悪夢の蔓延に関するご相談を受注いたしました」
アーキヴァルは、手元の書類を指先で弾きながら、冷徹かつ完璧なプレゼンテーションを開始する。
「世界の人々の無意識が交わる夢の世界に、長年封印されていた『夢喰の夢魔神・ナイトメア・イリュージョン』が目覚めまして。強靭な精神干渉で人々の安眠を食い荒らし、現実世界を巨大な悪夢の領域へと引きずり込もうとしております。さらにタチの悪いことに、その夢魔神が生み出す『睡魔のダニども(※精神を喰らう夢魔の群れ)』が人々の寝室に溢れ出し、終わらない金縛りと悪夢を見せ続けて、生命力を根こそぎ奪おうと暴れ回っているのです」
アーキヴァルの言葉の裏にある「真実」を、大公レオハルトと元・大賢者ゾルタンは顔面を蒼白にしながら補完していた。
(夢喰の夢魔神だと……!? あれは世界の生命の精神を全て悪夢の牢獄に閉じ込め、星を永遠の昏睡状態に陥れる神話級の精神魔獣。それが覚醒したとなれば、北方諸国はおろか、世界の全生命が二度と目を覚ますことなく、恐怖の中で死に絶える。本来なら全国家の精神感応術師と神官を総動員して命がけの超極大精神浄化結界を張るべき、世界終焉レベルの絶望事態だぞ……!)
しかし、アーキヴァルは一切表情を変えず、アルド向けに完璧に翻訳された依頼書を読み上げる。
「各国の医療機関からの要望は、この鬱陶しいダニやノミ(夢魔の群れ)の『徹底的な布団叩き(粉砕と浄化)』と『ダニの親玉(夢魔神)の天日干し』、そして『寝具の衛生管理と安眠環境の改善』です。このまま放置すれば、布団がジメジメしてカビが生え、睡眠不足で人々が倒れてしまいます。我が社の社会貢献活動として、これほど迅速な対応が求められる案件はないかと」
「なるほど!」
アルドは、依頼書を見て真剣な表情でポンッと手を叩いた。
「万年床みたいにずっと布団を敷きっぱなしにしてて、湿気が溜まってダニ(悪夢の原因)が大量発生してるんだね! 布団が干せてないと寝心地も最悪だし、アレルギーや寝不足の原因になるから大問題だ。健康的な生活の基本は『質の良い睡眠』だからね。寝具のメンテナンスはしっかりやらないと。よーし、さっそく僕たちの『総合ライフサポート』の出番だ!」
アルドが立ち上がると、役職を得たクランメンバーたちも、一斉に気合い(殺意)に満ちた表情で立ち上がった。
「社長。寝室に湧いた鬱陶しいダニども(夢魔の群れ)の解体と撤去は、この『出張解体アシスタント』にお任せを。悪夢の核の一つ残さず綺麗に叩き潰して、ただのホコリ以下の仕事にしてご覧に入れましょう」
レイヴンが、神具の斧を布団叩きのように構えながら不敵に笑う。
「ええ。ダニが撒き散らすガンコな湿気や嫌なニオイ(※致死の恐怖瘴気と精神汚染)は、『特殊クリーニング部門』の私が、特製のファブリーズ(※極大の太陽光浄化魔法)で一瞬にして除菌・消臭して差し上げますわ」
エルミナが、美しく銀髪を揺らしながら自信満々に頷く。
「……作業中、ダニの死骸やホコリ(※夢魔の残党)が周囲の部屋へ飛散しないよう、『総合防犯システム責任者』として、現場の周囲に完璧な防塵カバー(※絶対封殺の精神隔離結界)を張り巡らせておきます」
シノンが、音もなく短剣を弄びながら冷たく宣言する。
「うんうん、みんな本当に頼もしいな! 布団干しはホコリが舞うし、お日様の光をしっかり当てるのが大事だから、よろしく頼むよ!」
アルドは、メンバーたちの頼もしい言葉に満足げに頷き、自身の作業着(精神汚染と悪夢を完全に弾く特製リネンエプロンと防塵マスク)に着替え、手には巨大な布団叩きと、大きなスプレーボトルを握りしめた。
「よーし! それじゃあ僕は、特製『事象粉砕の神仙布団叩き』と『絶対乾燥の太陽光スプレー』を持っていくよ! 世界の人たちの快適な安眠を守るために、邪魔なダニを退治して、お布団をフカフカにリフォームしてこよう!」
こうして、総合ライフサポート企業『黄昏の守護者』の社員一同は、精神ダイブ仕様に改造された魔導軽トラに乗り込み、人々が永遠の眠りに落ちつつある夢幻の深淵へと向けて出勤したのである。
***
その頃、世界の人々の無意識が交わる『夢幻の深淵』の中心。
世界の安眠を食い破り、永遠の悪夢と恐怖を撒き散らす精神の悪夢『夢喰の夢魔神・ナイトメア・イリュージョン』が、ドス黒い霧を吐き出しながら、傲慢な絶叫を響かせていた。
「キキキキキ……! 素晴らしいぞ! この星の希望を全て恐怖に塗り替える我が悪夢さえあれば、地上の生命など一瞬で精神が崩壊し、絶望の中で干からびる! 見よ、我がもたらすこの圧倒的な永遠の夜を!」
夢魔神は、巨大な影の触手を広げ、無数の夢魔たちを人々の寝室(精神世界)へと放った。
「愚かな地上の生命どもめ。我が目覚めたからには、もはやこの星に安らぎの朝はないと知れ! さあ、もっとだ! 全ての意識を絡め取り、大陸全土を永遠の金縛りと恐怖の牢獄に沈めよ!」
「我ら夢魔の眷属の恐怖は絶対だ! この狂気の深淵まで踏み込める者など、この世界にはもはや存在し――」
――キキィィィィッ!! バタンッ!
夢魔神が勝利の宣言を口にしようとしたその瞬間、悪夢が渦巻く深淵のど真ん中に、四つの車輪がついた奇妙な小型の鉄箱(魔導軽トラ)が、神話級の精神崩壊をものともせずにドリフト着陸する音が響き渡った。
そして、軽トラのドアが「ガラッ」と無遠慮に開け放たれ、布団叩きとスプレーを持った青年の明るい声が、絶望の悲鳴を完全に打ち破ったのである。
「ちわーっす! 総合ライフサポート企業『黄昏の守護者』です! 各国の病院の方々からご依頼いただいた寝具のメンテナンスと布団干しに伺いましたー! ……うわぁ、こりゃひどい湿気と、布団の周りに湧いてるダニ(夢魔)の量だね! こりゃ徹底的に叩き出しがいがあるや!」
アルドは、防塵マスクを直しつつ、プロの清掃業者としてのダメ出しを開始した。
「ナ、何奴ッ!? 我ガ絶対悪夢ノ領域ニ、地上ノ虫ケラガ何ノ用ダ!」
夢魔神が驚愕のノイズを上げる中、アルドの後ろから、レイヴン、エルミナ、シノン、そしてアーキヴァルが、それぞれの「清掃用具(兵器)」を手にして、圧倒的な威圧感を放ちながら深淵へと降り立ったのである。
「さあ、社長。まずはこの鬱陶しい湧き出たダニ(夢魔)どもから、綺麗に『叩き潰して』差し上げましょう」
レイヴンが神具の斧を構え、凶悪な笑みを浮かべる。
総合ライフサポート企業の次なる社会貢献(能動的な悪の粉砕)が、夢幻の深淵で今まさに始まろうとしていた。
「ナ、ナンダ貴様ラハ!? 我ガ絶望ノ深淵ヲ『布団』ダト!? 舐メルナ地上ノウジ虫ドモッ! 我ガ夢魔ノ群レデ、貴様ラノ精神ヲ永遠ニ狂ワセテクレルワ!」
夢魔神の怒号と共に、深淵を覆うほどのドス黒い悪夢の群れが、一斉にアルドたちに向かって恐怖の幻影を見せながら襲い掛かった。
「うわっ、このダニ、すっごく大きくて変な幻覚みたいな粉を出してる! 吸い込んだら喘息になっちゃって危ないぞ!」
アルドは、迫り来る夢魔の群れを「湿気で異常繁殖し、アレルゲンを撒き散らすタチの悪い特大ダニ」と完全に誤認し、布団叩きの柄を強く握りしめた。
「社長、ここは我々『社員』にお任せを。ダニの死骸やホコリが外に漏れないよう、まずは私が防塵カバーを張ります」
シノンが音もなく跳躍し、深淵の周囲を囲むように、無数の札(神仙の精神隔離結界符)を空中に投げ放った。
――ピィィィィンッ!
瞬間、深淵全体を覆うように、透明で絶対的な強度を誇る『神仙の布団干し用養生結界』が展開された。これで、致死の恐怖や悪夢は一ミリたりとも外の精神世界へ漏れ出すことはない。
「完璧なカバーですわ、シノンさん。では、私はダニが撒き散らすガンコな湿気やカビ臭(致死の恐怖瘴気)を、特殊クリーニングで綺麗に除菌・消臭いたしますわ!」
エルミナが白銀の杖を天に掲げると、大宇宙の理を内包した『極大太陽光浄化魔法』が、超強力なファブリーズのように周囲の狂気の波動を包み込んだ。
「ギャアアアアッ!?」
万物を狂わせる恐怖瘴気は、その浄化の光の霧を浴びた瞬間、身に纏っていた魔力ごと完全に無力化され、ただのお日様の匂いがする無害な空気へと変わっていく。
「フンッ! 魔力を抜かれたただのダニなど、ただの布団叩きのマトだ! そして、邪魔なアレルゲンは私が綺麗に叩き落としてやろう!」
レイヴンが神具の斧を大上段に構え、無害化した夢魔の群れに向かって旋風のごとく突っ込む。
「害虫ダニ退治斬ィィィッ!!」
放たれた一撃は、夢魔の概念ボディの「核の隙間」を完璧に見切り、まるで布団の上のホコリをバシッと叩き飛ばすかのように、シャリィィィン!と見事な手際で細かく粉砕し、消滅させてしまった。
「ナ、何ィィィッ!? 我ガ無敵ノ悪夢ノ眷属ガ、タダノ『消臭スプレー』ト『布団叩き』ノ前ニ、一瞬デただのホコリニサレテイクゥゥッ!?」
夢魔神は、自らの絶望の眷属がものの数分で「ただのチリ」に変わり、恐怖の幻影が消え去った光景に、驚愕のあまり影の体を震わせた。
「よし、みんなのおかげで表面のダニは片付いたね! あとは、あの一番湿気とホコリを溜め込んでる『布団の親玉(夢魔神)』を布団干し竿に掛けて、思いっきり叩いて干すだけだ!」
アルドは、特製『事象粉砕の神仙布団叩き』を構え、夢魔神の巨大な影の本体へと向けて突撃した。
――当然ながら、その素材は常軌を逸している。布団叩きは天界の神木を加工した絶対浄化武具であり、大宇宙のいかなる精神の闇や神話級の恐怖すらも、物理的に『バンバンと叩く』だけで完璧に邪気を弾き飛ばす『究極の寝具メンテナンスツール』である。
「オノレェェェッ! 舐メルナ人間! 我ガ本気、世界ヲ昏睡ニ沈メる『終焉ノ永遠悪夢』デ、貴様ラゴト虚無ノ夢ニ閉ジ込メテクレルワ!」
夢魔神が残された魔力を暴走させ、周囲の空間ごと全ての意識を飲み込む超巨大な影の波を無数に放ってきた。
「うわっ! 布団の奥から、すっごくガンコな湿気とホコリが噴き出してきた! でも、この特製布団叩きの前には、どんなに溜まったダニも一発でパァンだ!」
アルドが夢魔神の巨大な影の体を物干し竿(事象固定の光の棒)にバサッと掛け、神仙布団叩きを振りかぶって容赦なくバァァァァンッ!と限界まで叩きつけた。
「バ、バカナァァァッ!? 我ガ最大奥義ノ超絶悪夢ガ、タダノ布団叩キデ弾キ飛バサレタダトォォォッ!?」
「よし、ガンコなホコリとダニは綺麗に飛んでいったぞ! 最後に、この『絶対乾燥の太陽光スプレー』をプシューッと吹きかけてお日様の匂いにして……あ、そうだ。この布団の親玉、綺麗に掃除して干したら凄くフカフカで気持ちいい弾力をしてるね。ちょっと形を整えれば、世界中の人に極上の安眠と楽しい夢を届けてくれる『超巨大な全自動ヒーリング・ベッド』にできそうだよ!」
アルドが夢魔神の影の体に太陽光スプレー(事象調律の浄化光)を吹きかけ、事象固定のシーツをピシッと被せて極上のマットレスへとリメイクすると、大宇宙の法則が完全にひれ伏した。
暴走していた夢魔神の禍々しい恐怖の魔力は、瞬く間に漂白・調律されていく。
『ア……ァァ……。我ノ、世界ヲ恐怖ニ沈メルハズノ力ガ、マルデ都合ノイイ【疲レタ体ヲ優シク包ミ込ム為ノ低反発クッション】ノヨウニ……!? イヤ、シーツヲ被セラレル度ニ、我ガ巨体ガ、異常ナマデニ心地ヨイ【絶対的ナ安眠導入ト、極上ノ明晰夢(VRエンタメ)ヲ提供スル超大型スマートベッド】ニ変換サレテイクゥゥゥッ! 私ノ存在ガ、世界ヲ絶望ニ沈メルノデハナク、コウシテ大陸ニ永遠ノ癒ヤシト極上ノ睡眠ヲ提供スル「極上ノ全自動・神仙睡眠インフラ」トシテ機能スルコトガ、コレホドマデニ満タサレルコトダッタトハ……!』
かつて世界を脅かした恐怖の化身は、アルドの「布団干しと布団叩き」によって完全に浄化され、書き換えられた。
万物を絶望の夢に引きずり込む禍々しい夢魔神は、気がつけば「深淵を美しく温かい寝室に変え、世界中の人々の無意識にアクセスしては、肩こりや疲労を完全回復させ、楽しくて幸せな明晰夢を24時間提供し続ける、超高性能な『永久・神仙睡眠ヒーリングシステム(見た目は巨大で雲のようにフワフワな極上ベッド)』」へと姿を変えていたのである。
「よしよし! 嫌なダニと湿気の被害は片付いて、すっごく立派でフカフカのベッドになったぞ! おまけに、これがあれば世界中の人たちがいつでもグッスリ眠れて、楽しい夢が見られるね。これで大陸の人たちも、毎日元気に起きて、健康に暮らせるよ!」
アルドが布団叩きを片付けて額の汗を拭うと、深淵を覆っていたドス黒い恐怖の霧は一瞬にして晴れ渡り、眼下には美しく温かい光を放つ奇跡の安眠空間が広がっていた。
***
数日後。大陸を統べる諸国の王室や医療ギルド本部。
各国の王たちは、国民の睡眠の質が劇的に向上し、病気が次々と治っていく報告書を見て震え上がっていた。
「ば、馬鹿な……。我が世界を永遠の悪夢に沈めるはずだった夢喰の夢魔神が、たった数時間で『完全な布団干し』をされ、あまつさえ夢魔神が『超巨大な安眠・VR夢インフラ』に転職して、国中の睡眠と精神の健康を完璧に管理しているだと……!?」
そこへ、冷徹な執事服に身を包んだアーキヴァルが、うやうやしく一礼して現れた。
「お初にお目にかかります、各国の代表諸君。総合ライフサポート企業『黄昏の守護者』の最高財務責任者、アーキヴァルでございます。この度は、我が社の『CSR活動(寝具メンテナンスと安眠インフラ整備業務)』をご利用いただき、誠にありがとうございます」
アーキヴァルは、分厚いバインダーから【完全なる精神修復・睡眠ヒーリング施設開発代金およびコンサルタント料の請求書】を取り出し、王たちの目の前にドンッと突きつけた。
「我が社の社長(アルド様)の理念により、今回は社会貢献として基本の布団干し料金はサービスさせていただいております。……が、夢魔神の完全浄化、精神セキュリティの再構築、そして『大陸全土に極上の安眠と楽しい夢を供給する巨大ベッドの永続的な運用費』は、正当なビジネスとして請求させていただきます。お支払いは、各国の年間医療・娯楽収益の九割と、睡眠・夢境ネットワークの独占プロバイダ権で手を打ちましょう」
アーキヴァルの冷たい宣告(合法的な超・搾取)と共に、王たちは完全に心をへし折られ、震える手で莫大な報酬の永続支払いにサインをするしかなかった。
***
日だまり郷の黄金の城塞。
静寂に包まれた書斎のデスクで、元・大賢者ゾルタンは、羽ペンをインク壺に浸し、新たな社史のページに文字を刻み込んでいた。
『〇月×日。夢幻の深淵における布団干し、およびダニ退治作業完了。世界を悪夢に沈める夢喰の夢魔神ナイトメア・イリュージョン(神話の厄災)を事象の布団叩きとスプレーで整備し、立派な特大安眠ベッドへと改修。精神の断絶と恐怖の修復を完了し、大陸全土の健康寿命・睡眠エンタメ経済の発展に多大な貢献を果たした。
……また、我が社のCFOの尽力により、世界各国からは莫大な賠償金と、睡眠インフラ・夢境事業の独占管理権を合法的に譲り受けることに成功。これで我が社は、地下水脈、気象、海上物流、クリーンエネルギー、次元基盤、自然環境、気候、時間、信仰、光、水回り、大気、交通・物流、情報・娯楽、資源循環、通信網、医療・甘味に続き、ついに「生命の休息と無意識(夢)」の覇権すらも完全に掌握したことになる。
社長の「社会貢献」という名の大掃除は、もはや世界のあらゆる概念すらも呑み込み、世界は究極の平穏(我が社による完全支配)へと向かっている。大賢者たるワシの知能をもってしても、神話の悪夢すら安眠ベッドに変える(物理的に布団叩きでシバき上げた)この恐るべき企業の快進撃を止める術は、大宇宙のどこにも存在しない。』
ゾルタンが深い溜息と共にペンを置くと、ドアの向こうから「今日のおやつは、朝の煮卵の漬けダレをちょっと使った、極上の特製焼きおにぎりだよー!」というアルドの無邪気な声が聞こえてきた。
ゾルタンは「神々の絶望を記録した直後の焼きおにぎりは、ことのほか醤油の焦げた香りが身に染みよう」とぼやきながらも、頬を緩ませて立ち上がった。
最強の便利屋の「ただの布団干し」は、世界悪夢の危機をただの寝具メンテナンスとして解決し、夢魔神の脅威を完全に終わらせただけでなく、世界に最高の睡眠ヒーリングインフラを誕生させてしまった。
企業として躍進するクラン『黄昏の守護者』は、これより正式に睡眠と無意識の覇権をも握り、いかなる邪悪も日常の家事手伝いとして葬り去る、究極の平穏なる企業伝説をまた一つ、分厚い社史のページに深く刻み込んだのであった。
ここまでお読みいただきありがとうございます!少しでも面白いと感じたら、画面下から【ブックマーク】と【☆☆☆☆☆】の評価をいただけると、執筆の大きなモチベーションになります!




