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辺境暮らしの便利屋冒険者、伝説のクランのリーダーに祭り上げられる 〜本人曰く「ただの日常」らしいです〜  作者: 盆ちゃん


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第126話:ただのお洗濯と、混沌の泥渦神の強制コインランドリー化(総合ライフサポート企業の洗濯槽クリーニング)

第126話:ただのお洗濯と、混沌の泥渦神の強制コインランドリー化(総合ライフサポート企業の洗濯槽クリーニング)

 黄金の城塞『日だまり郷』の朝は、大宇宙の理すらも平伏す圧倒的な平穏と、魂を根底から歓喜させるような極上の肉の旨味、そして酸味と甘みが絶妙に交差する芳醇なスープの香りと共に幕を開ける。

 今日のアルドは、朝からキッチンの巨大なオーブンと特注の大鍋に向かい、見事な温度管理で『特製・天界牛の極上ローストビーフサンドと、幻獣トマトの濃厚ミネストローネ』を仕上げていた。

「よし! メインは、大精霊の加護を受けた天界牛の特大ブロック肉だ。これに神仙ハーブと星屑の岩塩を擦り込み、表面を香ばしく焼き上げてから、低温オーブンでじっくりと火を通した極上のローストビーフ! 肉汁を限界まで閉じ込めたこのお肉を薄くスライスして、こんがり焼いた世界樹のバゲットに、幻獣の卵黄で作った特製マスタードソースと一緒にたっぷり挟み込む! そして付け合わせは、甘みが限界突破している幻獣トマトと、世界樹の根菜をトロトロになるまで煮込んだミネストローネ! 仕上げに星屑の粉チーズを散らして……熱々のうちに完成だ!」

 アルドがエプロン姿で、肉の赤身が宝石のように輝く巨大なサンドイッチの山と、湯気を立てる真っ赤なスープをダイニングテーブルに運ぶと、その暴力的なまでの食欲をそそる香りに引き寄せられ、神竜ポチとモフモフの星狼シロがテーブルの下でちぎれんばかりに尻尾を振って待機していた。リビングのソファでは、特大モチモチクッションへと強制リメイクされた元・大宇宙の邪神ゼロ・アポカリプスが、ポカポカと温かいヒーター機能を放ちながら、平和なインテリアとしての職務を微動だにせず全うしている。

 この極上サンド朝食、一口食べれば天界牛の極上の鉄分とアミノ酸が全身の魔力回路を限界突破させ、ミネストローネの圧倒的なリコピンとビタミンが血中のあらゆる疲労物質や致死の呪いすらも瞬時にデトックスし、魂の底から尽きることのない多幸感と活力を湧き上がらせる『究極の超覚醒・健康フルコース』である。

「うむ……! このローストビーフの舌の上でとろけるような柔らかさと、マスタードソースの酸味が織りなす宇宙的ビッグバン! そしてトマトの旨味が凝縮されたスープの圧倒的な包容力! 見るだけで我が魔界の闘争本能が、休日の朝にカフェのテラスで英字新聞を広げる紳士のようにフニャフニャに溶かされそうになるわい!」

 元・魔界大帝サタナスが、サンドイッチを両手で震わせながら握りしめ、あまりの美味さにワナワナと肩を震わせて感涙に咽いでいた。

 そんな賑やかなダイニングの喧騒が一段落し、食後の極上ハーブティーが振る舞われた後。

 アルドは、防音・防諜の魔法結界が幾重にも張られたリビングの長テーブルの上座に座った。その周囲には、『出張解体アシスタント』のレイヴン、『特殊クリーニング部門責任者』のエルミナ、『総合防犯システム責任者』のシノン、そして『最高財務責任者(CFO)兼・広報担当』のアーキヴァルという、総合ライフサポート企業『黄昏の守護者』の頼もしき役員たちが顔を揃えている。

「さて、みんな。東方列島の配線整理(絡繰蜘蛛のルーター化)も終わって、世界中の通信環境がすっかり安定したね。これもみんなのチームワークのおかげだよ。……それで、次なる『困り事』の案件は何か入っているかな?」

 アルドがニコッと微笑みかけると、CFO兼広報担当のアーキヴァルが、優雅な所作で立ち上がり、分厚いバインダーを開いた。

「はい、社長。我が社の次なるCSR活動として、今回は西方の大洋における『深刻な海流の混濁と悪臭被害』に関する、極めて重大なご相談を受注いたしました」

 アーキヴァルは、手元の書類を指先で弾きながら、冷徹かつ完璧なプレゼンテーションを開始する。

「西の果て、世界の海流が交わる海域に、長年封印されていた『混沌の泥渦神・カオス・ヴォルテックス』が目覚めまして。強烈な回転で世界の海をドロドロの泥水に掻き混ぜ、あらゆる物質を溶かして混ざり合わせております。さらにタチの悪いことに、その泥渦神が生み出す『混濁の泥塊ども(※触れるものを同化させる混沌のスライム群)』が海を越えて沿岸部へ押し寄せ、人々の街や船を片っ端から泥に染め上げて絡め取ろうと暴れ回っているのです」

 アーキヴァルの言葉の裏にある「真実」を、大公レオハルトと元・大賢者ゾルタンは顔面を蒼白にしながら補完していた。

(混沌の泥渦神だと……!? あれは世界の形あるものを全て原初の泥に還し、星を形骸の無い混沌のスープに混ぜ合わせる神話級の渦魔。それが覚醒したとなれば、海はおろか、大陸も空も全てがドロドロに混ざり合い、生命は個を失い消滅する。本来なら全国家の魔導士を総動員して命がけの超極大概念固定結界を張るべき、世界終焉レベルの絶望事態だぞ……!)

 しかし、アーキヴァルは一切表情を変えず、アルド向けに完璧に翻訳カスタマイズされた依頼書を読み上げる。

「沿岸諸国からの要望は、この鬱陶しい泥の塊たち(混沌のスライム群)の『徹底的な染み抜き(漂白と無力化)』と『ドロドロの渦を巻く親玉(泥渦神)の洗濯槽クリーニング』、そして『海流の洗浄と柔軟仕上げ』です。このまま放置すれば、船も港も泥だらけになり、生乾きの嫌なニオイで人々が生活できなくなってしまいます。我が社の社会貢献活動として、これほど迅速な対応が求められる案件はないかと」

「なるほど!」

 アルドは、依頼書を見て真剣な表情でポンッと手を叩いた。

「洗濯機の中の洗濯槽がカビと泥で汚れきってて、おまけに服が全部絡まってドロドロになってるんだね! 生乾きの嫌なニオイがする服を着るなんて、不衛生だし気分も最悪だ。毎日綺麗な服を着て気持ちよく過ごすためにも、お洗濯と洗濯槽のクリーニングはしっかりやらないと。よーし、さっそく僕たちの『総合ライフサポート』の出番だ!」

 アルドが立ち上がると、役職を得たクランメンバーたちも、一斉に気合い(殺意)に満ちた表情で立ち上がった。

「社長。絡まり合った鬱陶しい泥の塊(混沌のスライムども)の解体と撤去は、この『出張解体アシスタント』にお任せを。絡んだ泥を一つ残さず綺麗に切り離して、ただの糸くず以下の仕事にしてご覧に入れましょう」

 レイヴンが、神具の斧を肩に担ぎながら不敵に笑う。

「ええ。泥塊が撒き散らすガンコな染みや悪臭(※致死の混沌瘴気)は、『特殊クリーニング部門』の私が、特製の光学漂白剤(※極大の聖水浄化魔法)で一瞬にして真っ白に洗い上げて差し上げますわ」

 エルミナが、美しく銀髪を揺らしながら自信満々に頷く。

「……作業中、泥水やカビ(※スライムの残党)が周囲の海へ漏れ出さないよう、『総合防犯システム責任者』として、現場の周囲に完璧な特大洗濯ネット(※絶対封殺の空間隔離結界)を張り巡らせておきます」

 シノンが、音もなく短剣を弄びながら冷たく宣言する。

「うんうん、みんな本当に頼もしいな! お洗濯は色移りや型崩れを防ぐのが大事だから、しっかり洗濯ネットを張ってくれると助かるよ!」

 アルドは、メンバーたちの頼もしい言葉に満足げに頷き、自身の作業着(混沌の泥と生乾き臭を完全に弾く特製防水エプロンとゴム手袋)に着替え、手には巨大な洗剤のボトルを握りしめた。

「よーし! それじゃあ僕は、特製『事象洗浄の洗濯槽クリーナー』と『絶対柔軟の神仙柔軟剤』を持っていくよ! 世界の人たちの清潔な衣類を守るために、邪魔な泥を洗い流して、海をピカピカのコインランドリーにリフォームしてこよう!」

 こうして、総合ライフサポート企業『黄昏の守護者』の社員一同は、水陸両用仕様に改造された魔導軽トラ(ボート機能付き)に乗り込み、全てが混ざり合い泥と化しつつある西方の大洋へと向けて出勤したのである。

 ***

 その頃、西方の大洋の中心。

 世界の全てを原初の泥に還し、生命の個を奪い去る大地の悪夢『混沌の泥渦神・カオス・ヴォルテックス』が、巨大な泥の渦を巻き起こしながら、傲慢な轟音を響かせていた。

「ゴボゴボゴボォォォ……! 素晴らしいぞ! この星の全てを混ぜ合わせる我が渦さえあれば、地上の生命など一瞬で個を失い泥に溶ける! 見よ、我がもたらすこの圧倒的な混沌の洗濯機を!」

 泥渦神は、巨大な泥の波を打ち立て、無数の混沌のスライムたちを沿岸部へと放った。

「愚かな地上の生命どもめ。我が目覚めたからには、もはやこの星に確固たる姿形はないと知れ! さあ、もっとだ! 全てを巻き込み、大陸全土を永遠の泥スープに混ぜ合わせよ!」

「我ら混沌の眷属の同化力は絶対だ! この原初の領域まで踏み込める者など、この世界にはもはや存在し――」

 ――キキィィィィッ!! バタンッ!

 泥渦神が勝利の宣言を口にしようとしたその瞬間、猛烈な泥の渦が巻く海上のど真ん中に、四つの車輪がついた奇妙な小型の鉄箱(魔導軽トラ)が、神話級の混沌をものともせずにドリフト着水(海上浮遊)する音が響き渡った。

 そして、軽トラのドアが「ガラッ」と無遠慮に開け放たれ、洗剤ボトルと柔軟剤を持った青年の明るい声が、混沌のノイズを完全に打ち破ったのである。

「ちわーっす! 総合ライフサポート企業『黄昏の守護者』です! 沿岸の国の方々からご依頼いただいたお洗濯と洗濯槽クリーニングに伺いましたー! ……うわぁ、こりゃひどい泥汚れと、服が全部絡まっちゃってるね! おまけに生乾きの嫌なニオイがするぞ! こりゃ徹底的に洗い甲斐があるや!」

 アルドは、ゴム手袋をキュッとはめながら、プロのクリーニング業者としてのダメ出しを開始した。

「ナ、何奴ッ!? 我ガ絶対混沌ノ領域ニ、地上ノ虫ケラガ何ノ用ダ!」

 泥渦神が驚愕の泥しぶきを上げる中、アルドの後ろから、レイヴン、エルミナ、シノン、そしてアーキヴァルが、それぞれの「清掃用具(兵器)」を手にして、圧倒的な威圧感を放ちながら海上へと降り立ったのである。

「さあ、社長。まずはこの鬱陶しい絡まった泥の服(混沌のスライムども)から、綺麗に『解いて』差し上げましょう」

 レイヴンが神具の斧を構え、凶悪な笑みを浮かべる。

 総合ライフサポート企業の次なる社会貢献(能動的な悪の粉砕)が、混沌の海で今まさに始まろうとしていた。

「ナ、ナンダ貴様ラハ!? 我ガ絶望ノ混沌ヲ『泥汚れ』ダト!? 舐メルナ地上ノウジ虫ドモッ! 我ガ混沌ノスライムデ、貴様ラノ肉体ヲ永遠ニ泥ニ混ゼ合ワセテクレルワ!」

 泥渦神の怒号と共に、海を覆うほどのドス黒い泥のスライム群が、一斉にアルドたちに向かって同化の泥を放って襲い掛かった。

「うわっ、この泥汚れ、すっごくガンコでベタベタしてる! 他の服に色移りしたら大変だ!」

 アルドは、迫り来る魔獣の群れを「他の洗濯物に絡みついて色移りさせるタチの悪い泥だらけの服」と完全に誤認し、クリーナーのボトルの蓋をポンッと開けた。

「社長、ここは我々『社員』にお任せを。泥水やカビが外に漏れないよう、まずは私が特大洗濯ネットを張ります」

 シノンが音もなく跳躍し、巨大な泥の渦の周囲を囲むように、無数の札(神仙の空間隔離結界符)を空中に投げ放った。

 ――ピィィィィンッ!

 瞬間、泥渦全体をドーム状に覆うように、透明で絶対的な強度を誇る『神仙の特大洗濯ネット結界』が展開された。これで、致死の混沌や泥は一滴たりとも外へ漏れ出すことはない。

「完璧なネットですわ、シノンさん。では、私は泥が撒き散らすガンコな染みや悪臭(致死の混沌瘴気)を、特殊クリーニングで綺麗に漂白いたしますわ!」

 エルミナが白銀の杖を天に掲げると、大宇宙の理を内包した『極大聖水浄化魔法』が、超強力な光学漂白剤のように周囲の混沌の波動を包み込んだ。

「ギャアアアアッ!?」

 万物を同化させる混沌の泥は、その浄化の光の泡を浴びた瞬間、身に纏っていた魔力ごと完全に無力化され、ただの無害で真っ白な泡へと変わっていく。

「フンッ! 魔力を抜かれたただの泡など、ただのすすぎ洗いのマトだ! そして、絡まり合った泥の服は私が綺麗に切り離してやろう!」

 レイヴンが神具の斧を大上段に構え、泡と化した魔獣の群れに向かって旋風のごとく突っ込む。

「洗濯物分離斬ィィィッ!!」

 放たれた一撃は、魔獣の概念ボディの中にある「同化の核の隙間」を完璧に見切り、まるで絡まった袖と袖を綺麗にほどくかのように、シャリィィィン!と見事な手際で綺麗に切り離し、無害な糸くずに変えてしまった。

「ナ、何ィィィッ!? 我ガ無敵ノ混沌ノスライムガ、タダノ『漂白』ト『絡みほどき』ノ前ニ、一瞬デ糸クズニサレテイクゥゥッ!?」

 泥渦神は、自らの絶望の眷属がものの数分で「ただの真っ白な泡と糸くず」に変わり、生乾きのニオイが消え去った光景に、驚愕のあまり渦を震わせた。

「よし、みんなのおかげで絡まった服の泥汚れは落ちたね! あとは、あの一番ドロドロになってる『洗濯槽の親玉(泥渦神)』にクリーナーをドバッと入れて、一気に回すだけだ!」

 アルドは、特製『事象洗浄の洗濯槽クリーナー』の巨大ボトルを構え、泥渦神の中心へと向けて突撃した。

 ――当然ながら、その素材は常軌を逸している。クリーナー液は星の浄化の海から抽出された究極の洗浄酵素であり、大宇宙のいかなる次元の混濁や神話級の混沌すらも、物理的に『注いで回す』だけで完璧に洗い流す『究極の洗濯槽洗剤』である。

「オノレェェェッ! 舐メルナ人間! 我ガ本気、世界ヲ泥ニ還ス『終焉ノ絶対混濁アビス・ミキサー』デ、貴様ラゴト泥ノ底ニ飲ミ込ンデクレルワ!」

 泥渦神が残された魔力を暴走させ、周囲の空間ごと全てをミキサーのように掻き混ぜる超巨大な泥の渦を巻き起こし始めた。

「うわっ! 洗濯槽の奥から、すっごくガンコなカビと泥が浮いてきそう! でも、この特製クリーナーの前には、どんなこびりついた汚れも一発でピカピカだ!」

 アルドがボトルの口を傾け、神仙の洗浄液を容赦なくドボドボドボッ!と泥渦神の渦の中心に注ぎ込んだ。

「バ、バカナァァァッ!? 我ガ最大奥義ノ超絶混濁ガ、タダノ洗濯槽クリーナーデ分解サレタダトォォォッ!?」

「よし、ガンコな洗濯槽の汚れは綺麗に剥がれ落ちたぞ! 最後に、この『絶対柔軟の神仙柔軟剤』を仕上げに入れて……あ、そうだ。この洗濯槽の親玉、綺麗に掃除したら凄く滑らかに渦を巻いてるね。ちょっと魔力を調整すれば、世界中のお洋服をフワフワに洗い上げてくれる『超巨大な全自動コインランドリー』にできそうだよ!」

 アルドが真っ白な神仙柔軟剤(事象を完璧に調律するフローラルな魔導液)を渦に注ぎ込み、事象固定の巨大なドラム式カバーを被せると、大宇宙の法則が完全にひれ伏した。

 暴走していた泥渦神の禍々しい混沌の魔力は、瞬く間に漂白・調律されていく。

『ア……ァァ……。我ノ、世界ヲ泥ニ溶カスハズノ渦ガ、マルデ都合ノイイ【衣類ヲ優シク洗イ上ゲル為ノ水流】ノヨウニ……!? イヤ、柔軟剤ヲ入レラレル度ニ、我ガ渦ガ、異常ナマデニ心地ヨイ【絶対的ナ洗浄力ト、極上ノフワフワ感ヲ提供スル超大型ドラム式洗濯機】ニ変換サレテイクゥゥゥッ! 私ノ存在ガ、世界ヲ絶望ニ沈メルノデハナク、コウシテ大陸ニ永遠ノ清潔サト良イ香リヲ提供スル「極上ノ全自動・神仙コインランドリー」トシテ機能スルコトガ、コレホドマデニ満タサレルコトダッタトハ……!』

 かつて世界を脅かした混沌の化身は、アルドの「洗濯槽クリーニングと柔軟剤の投入」によって完全に浄化され、書き換えられた。

 万物を泥に還す禍々しい泥渦神は、気がつけば「大洋を美しく透き通る海に変え、どんなに汚れた服や資源も一瞬で真っ白のフワフワに洗い上げ、フローラルな香りを24時間漂わせる、超高性能な『永久・神仙海上コインランドリー(見た目は巨大でピカピカなドラム式洗濯機の海上施設)』」へと姿を変えていたのである。

「よしよし! 嫌な泥汚れと生乾きの被害は片付いて、すっごく立派で良い香りのするコインランドリーになったぞ! おまけに、これがあれば世界中の服がいつでもフワフワで清潔だね。これで大陸の人たちも、毎日綺麗なお洋服を着て、気持ちよくお出かけできるよ!」

 アルドが空になったボトルを片付けて額の汗を拭うと、海を覆っていたドス黒い泥の気化ガスは一瞬にして晴れ渡り、眼下には美しく青く澄み渡る奇跡の海と、フローラルな香りが広がっていた。

 ***

 数日後。大陸西方を統べる諸国の王室。

 各国の王たちは、透き通る海と純白に洗い上げられた帆船の報告書を見て震え上がっていた。

「ば、馬鹿な……。我が世界を泥のスープに沈めるはずだった混沌の泥渦神が、たった数時間で『完全な洗濯槽クリーニング』をされ、あまつさえ泥渦神が『超巨大な海上コインランドリー・インフラ』に転職して、国中の衛生とクリーニング事業を完璧に独占しているだと……!?」

 そこへ、冷徹な執事服に身を包んだアーキヴァルが、うやうやしく一礼して現れた。

「お初にお目にかかります、各国の代表諸君。総合ライフサポート企業『黄昏の守護者』の最高財務責任者、アーキヴァルでございます。この度は、我が社の『CSR活動(洗濯槽クリーニングとランドリー施設開発業務)』をご利用いただき、誠にありがとうございます」

 アーキヴァルは、分厚いバインダーから【完全なる海流修復・ランドリーインフラ施設開発代金およびコンサルタント料の請求書】を取り出し、王たちの目の前にドンッと突きつけた。

「我が社の社長(アルド様)の理念により、今回は社会貢献として基本の洗濯料金はサービスさせていただいております。……が、泥渦神の完全浄化、海流の再構築、そして『大陸全土に極上の清潔さと柔軟剤の香りを供給する巨大ランドリーの永続的な運用費』は、正当なビジネスとして請求させていただきます。お支払いは、各国の年間アパレル・衛生収益の八割と、クリーニング・洗濯インフラの独占プロデュース権で手を打ちましょう」

 アーキヴァルの冷たい宣告(合法的な超・搾取)と共に、王たちは完全に心をへし折られ、震える手で莫大な報酬の永続支払いにサインをするしかなかった。

 ***

 日だまり郷の黄金の城塞。

 静寂に包まれた書斎のデスクで、元・大賢者ゾルタンは、羽ペンをインク壺に浸し、新たな社史のページに文字を刻み込んでいた。

『〇月×日。西方の大洋におけるお洗濯、および洗濯槽のクリーニング作業完了。世界を泥に還す混沌の泥渦神カオス・ヴォルテックス(神話の厄災)を事象の洗濯槽クリーナーと柔軟剤で洗浄し、立派な特大海上コインランドリーへと改修。海流の混濁の修復を完了し、大陸全土の衛生管理・アパレル経済の発展に多大な貢献を果たした。

 ……また、我が社のCFOの尽力により、西方諸国からは莫大な賠償金と、クリーニング・衛生インフラの独占管理権を合法的に譲り受けることに成功。これで我が社は、地下水脈、気象、海上物流、クリーンエネルギー、次元基盤、自然環境、気候、時間、信仰、光、水回り、大気、交通・物流、情報・娯楽、資源循環、通信網に続き、ついに「清潔と被服の概念」の覇権すらも完全に掌握したことになる。

 社長の「社会貢献」という名の大掃除は、もはや世界のあらゆる概念すらも呑み込み、世界は究極の平穏(我が社による完全支配)へと向かっている。大賢者たるワシの知能をもってしても、神話の混沌すら柔軟剤でフワフワに変える(物理的にドラム式洗濯機に放り込んだ)この恐るべき企業の快進撃を止める術は、大宇宙のどこにも存在しない。』

 ゾルタンが深い溜息と共にペンを置くと、ドアの向こうから「今日のおやつは、朝のローストビーフの端っこを使った、極上の特製ミートパイだよー!」というアルドの無邪気な声が聞こえてきた。

 ゾルタンは「神々の絶望を記録した直後のミートパイは、ことのほかパイ生地がサクサクであろう」とぼやきながらも、頬を緩ませて立ち上がった。

 最強の便利屋の「ただのお洗濯」は、世界混濁の危機をただのコインランドリー化として解決し、泥渦神の脅威を完全に終わらせただけでなく、世界に最高のクリーニング・衛生インフラを誕生させてしまった。

 企業として躍進するクラン『黄昏の守護者』は、これより正式に衛生・被服の覇権をも握り、いかなる邪悪も日常の洗濯業務として葬り去る、究極の平穏なる企業伝説をまた一つ、分厚い社史のページに深く刻み込んだのであった。

ここまでお読みいただきありがとうございます!少しでも面白いと感じたら、画面下から【ブックマーク】と【☆☆☆☆☆】の評価をいただけると、執筆の大きなモチベーションになります!

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