第125話:ただの配線整理と、呪縛の絡繰蜘蛛の強制ルーター化(総合ライフサポート企業の通信インフラ整備)
第125話:ただの配線整理と、呪縛の絡繰蜘蛛の強制ルーター化(総合ライフサポート企業の通信インフラ整備)
黄金の城塞『日だまり郷』の朝は、大宇宙の理すらも平伏す圧倒的な平穏と、魂を根底から燃え上がらせるような極上のスパイスの香り、そしてじっくりと煮込まれた肉の暴力的な匂いと共に幕を開ける。
今日のアルドは、朝からキッチンの特大の寸胴鍋に向かい、見事な火加減で『特製・幻獣牛の極上とろとろ朝カレーと、世界樹の春野菜のピクルス、神仙米の炊きたてターメリックライス』を仕上げていた。
「よし! メインは、大精霊の牧草を食べて育った幻獣牛の極厚スジ肉とバラ肉を、星屑の赤ワインでホロホロになるまで三日三晩煮込んだ特製カレーだ。そこに、数十種類の神仙スパイスを独自の黄金比でブレンドし、幻獣のバターと世界樹のリンゴのすりおろしを加えて、極限までのコクと爽やかな辛さを引き出した! お皿に神仙米のターメリックライスを山盛りにし、この漆黒に近い濃厚なルウをたっぷりと掛ける。付け合わせには、世界樹の春野菜を幻獣のビネガーで漬け込んだ、色鮮やかで酸味の効いたピクルス! 仕上げに特製のスパイスオイルをタラリと垂らして……熱々のうちに完成だ!」
アルドがエプロン姿で、黄金色のご飯と漆黒のルウが美しいコントラストを描く巨大なカレー皿をダイニングテーブルに運ぶと、その暴力的なまでの食欲をそそる香りに引き寄せられ、神竜ポチとモフモフの星狼シロがテーブルの下でちぎれんばかりに尻尾を振って待機していた。リビングのソファでは、特大モチモチクッションへと強制リメイクされた元・大宇宙の邪神が、ポカポカと温かいヒーター機能を放ちながら、平和なインテリアとしての職務を微動だにせず全うしている。
この極上朝カレー、一口食べれば幻獣牛の極上のコラーゲンと神仙スパイスが全身の魔力回路を限界突破させ、ピクルスの圧倒的なクエン酸が血中のあらゆる疲労物質や致死の精神汚染すらも瞬時にデトックスし、魂の底から尽きることのない闘志と活力を湧き上がらせる『究極の超覚醒・エナジーフルコース』である。
「うむ……! このスパイスの複雑怪奇にして完璧な神聖なる響きと、舌の上で溶ける牛肉のビッグバン! そしてピクルスの圧倒的な爽快感! 見るだけで我が魔界の闘争本能が、休日の朝にカフェで優雅にブランチを楽しむインテリ層のようにフニャフニャに溶かされそうになるわい!」
元・魔界大帝サタナスが、スプーンを両手で震わせながら握りしめ、あまりの美味さにワナワナと肩を震わせて感涙に咽いでいた。
そんな賑やかなダイニングの喧騒が一段落し、食後の極上ラッシー(幻獣ミルクと星屑レモン仕立て)が振る舞われた後。
アルドは、防音・防諜の魔法結界が幾重にも張られたリビングの長テーブルの上座に座った。その周囲には、『出張解体アシスタント』のレイヴン、『特殊クリーニング部門責任者』のエルミナ、『総合防犯システム責任者』のシノン、そして『最高財務責任者(CFO)兼・広報担当』のアーキヴァルという、総合ライフサポート企業『黄昏の守護者』の頼もしき役員たちが顔を揃えている。
「さて、みんな。大陸南部のクレーターのリサイクルプラント化(貪喰の暴食獣のゴミ回収)も終わって、世界中の資源循環がすっかり安定したね。これもみんなのチームワークのおかげだよ。……それで、次なる『困り事』の案件は何か入っているかな?」
アルドがニコッと微笑みかけると、CFO兼広報担当のアーキヴァルが、優雅な所作で立ち上がり、分厚いバインダーを開いた。
「はい、社長。我が社の次なるCSR活動として、今回は大陸全土の『深刻な通信障害と幻聴被害』に関する、極めて重大なご相談を受注いたしました」
アーキヴァルは、手元の書類を指先で弾きながら、冷徹かつ完璧なプレゼンテーションを開始する。
「世界の大地を巡る魔力通信網の交差点、通称『断絶の峡谷』に、長年封印されていた『呪縛の絡繰蜘蛛・アラクネ・ネメシス』が目覚めまして。強靭な呪いの糸で世界の魔力通信網をめちゃくちゃに絡め取り、大陸間の通信を完全に遮断しております。さらにタチの悪いことに、その化け物が生み出す『絶望のノイズ(※精神を破壊する呪詛の波動)』が通信網を通じて人々の脳内に直接流れ込み、不眠や発狂を引き起こそうと暴れ回っているのです」
アーキヴァルの言葉の裏にある「真実」を、大公レオハルトと元・大賢者ゾルタンは顔面を蒼白にしながら補完していた。
(呪縛の絡繰蜘蛛だと……!? あれは世界の概念的な繋がりを全て断ち切り、星の生命を絶対的な孤独と狂気の中に縛り付ける神話級の呪魔。それが覚醒したとなれば、通信が途絶えるおろか、世界の全生命が疑心暗鬼に陥り自滅する。本来なら全国家の精神感応術師を総動員して命がけの超極大精神防壁を張るべき、世界終焉レベルの絶望事態だぞ……!)
しかし、アーキヴァルは一切表情を変えず、アルド向けに完璧に翻訳された依頼書を読み上げる。
「各国の通信ギルドからの要望は、この鬱陶しい呪いの糸(通信障害の原因)の『徹底的な配線整理(切断と再接続)』と『糸を吐き出す親玉(絡繰蜘蛛)のルーター再起動』、そして『通信ノイズの除去とネット環境の改善』です。このまま放置すれば、遠くの家族と連絡も取れず、変な電波で頭が痛くなってしまいます。我が社の社会貢献活動として、これほど迅速な対応が求められる案件はないかと」
「なるほど!」
アルドは、依頼書を見て真剣な表情でポンッと手を叩いた。
「テレビの裏やルーターの周りのLANケーブルがぐちゃぐちゃに絡まってて、おまけに端子にホコリが溜まって接触不良(通信エラー)を起こしてるんだね! 配線がごちゃごちゃだと掃除もできないし、Wi-Fiの電波が悪くて変なノイズが入るなんて、現代の生活では大問題だ。サクサクで快適なネット環境を守るためにも、配線整理はしっかりやらないと。よーし、さっそく僕たちの『総合ライフサポート』の出番だ!」
アルドが立ち上がると、役職を得たクランメンバーたちも、一斉に気合い(殺意)に満ちた表情で立ち上がった。
「社長。絡まり合った鬱陶しい不良ケーブル(呪いの糸と眷属ども)の解体と撤去は、この『出張解体アシスタント』にお任せを。不要な回線を一本残さず綺麗に断ち切って、ただの紐以下の仕事にしてご覧に入れましょう」
レイヴンが、神具の斧をニッパーのように構えながら不敵に笑う。
「ええ。端子にこびりついたガンコなノイズやホコリ(※致死の呪詛と精神汚染)は、『特殊クリーニング部門』の私が、特製の接点復活スプレー(※極大の聖水浄化魔法)で一瞬にして中和・洗浄して差し上げますわ」
エルミナが、美しく銀髪を揺らしながら自信満々に頷く。
「……作業中、変な電波(※呪詛の残党)が周囲のデバイスへ漏れ出さないよう、『総合防犯システム責任者』として、現場の周囲に完璧なファイアウォール(※絶対封殺の精神遮断結界)を張り巡らせておきます」
シノンが、音もなく短剣を弄びながら冷たく宣言する。
「うんうん、みんな本当に頼もしいな! 配線作業は埃が舞うし、セキュリティも大事だから、しっかりファイアウォールを張ってくれると助かるよ!」
アルドは、メンバーたちの頼もしい言葉に満足げに頷き、自身の作業着(呪詛と精神汚染を完全に弾く特製静電気防止ツナギと絶縁手袋)に着替え、手には大量の結束バンドとエアダスターを握りしめた。
「よーし! それじゃあ僕は、特製『事象結束の神仙バンド』と『絶対接続の魔導エアダスター』を持っていくよ! 世界の人たちの快適な通信環境を守るために、邪魔な配線を束ねて、ルーターをピカピカにリフォームしてこよう!」
こうして、総合ライフサポート企業『黄昏の守護者』の社員一同は、電磁波シールド仕様に改造された魔導軽トラに乗り込み、通信が途絶しつつある断絶の峡谷へと向けて出勤したのである。
***
その頃、世界の大地を巡る魔力通信網の交差点『断絶の峡谷』の中心。
世界の繋がりを断ち切り、孤独と狂気を撒き散らす大地の悪夢『呪縛の絡繰蜘蛛・アラクネ・ネメシス』が、無数の呪いの糸を吐き出しながら、傲慢なノイズを響かせていた。
「ギギギギギ……! 素晴らしいぞ! この星の繋がりを全て絡め取る我が糸さえあれば、地上の生命など一瞬で疑心暗鬼に陥り自滅する! 見よ、我がもたらすこの圧倒的な断絶の結界を!」
アラクネは、巨大な絡繰の脚を蠢かせ、無数の呪詛の波動をレイラインを通じて世界中へと放った。
「愚かな地上の生命どもめ。我が目覚めたからには、もはやこの星に信じ合える繋がりはないと知れ! さあ、もっとだ! 全てを絡め取り、大陸全土を永遠の孤独と狂乱に塗り潰せ!」
「我ら呪縛の眷属の断絶力は絶対だ! この狂気の領域まで踏み込める者など、この世界にはもはや存在し――」
――キキィィィィッ!! バタンッ!
アラクネが勝利の宣言を口にしようとしたその瞬間、呪いの糸が張り巡らされた峡谷のど真ん中に、四つの車輪がついた奇妙な小型の鉄箱(魔導軽トラ)が、神話級の精神汚染をものともせずにドリフト着陸する音が響き渡った。
そして、軽トラのドアが「ガラッ」と無遠慮に開け放たれ、大量の結束バンドとエアダスターを持った青年の明るい声が、狂気のノイズを完全に打ち破ったのである。
「ちわーっす! 総合ライフサポート企業『黄昏の守護者』です! 各国の通信ギルドの方々からご依頼いただいた配線整理とルーターの再起動に伺いましたー! ……うわぁ、こりゃひどいケーブルの絡まりっぷりと、端子に溜まった嫌なホコリ(呪詛)だね! こりゃ徹底的に配線整理しがいがあるや!」
アルドは、絶縁手袋をキュッとはめながら、プロの通信インフラエンジニアとしてのダメ出しを開始した。
「ナ、何奴ッ!? 我ガ絶対断絶ノ領域ニ、地上ノ虫ケラガ何ノ用ダ!」
アラクネが驚愕の金属音を上げる中、アルドの後ろから、レイヴン、エルミナ、シノン、そしてアーキヴァルが、それぞれの「清掃用具(兵器)」を手にして、圧倒的な威圧感を放ちながら峡谷へと降り立ったのである。
「さあ、社長。まずはこの鬱陶しい絡まった不良ケーブル(呪いの糸と眷属ども)から、綺麗に『切断』して差し上げましょう」
レイヴンが神具の斧を構え、凶悪な笑みを浮かべる。
総合ライフサポート企業の次なる社会貢献(能動的な悪の粉砕)が、断絶の峡谷で今まさに始まろうとしていた。
「ナ、ナンダ貴様ラハ!? 我ガ絶望ノ呪縛ヲ『配線整理』ダト!? 舐メルナ地上ノウジ虫ドモッ! 我ガ呪イノ糸デ、貴様ラノ精神ヲ永遠ニ絡メ取ッテクレルワ!」
アラクネの怒号と共に、峡谷を覆うほどのドス黒い呪詛の糸が、一斉にアルドたちに向かって狂気の波動を放って襲い掛かった。
「うわっ、このケーブル、すっごくベタベタしてて変な電波が出てる! 放置してたら通信エラーで大変なことになるぞ!」
アルドは、迫り来る呪いの糸を「長年の放置で劣化し、ノイズを発しているタチの悪いLANケーブル」と完全に誤認し、結束バンドの束を強く握りしめた。
「社長、ここは我々『社員』にお任せを。変なノイズやウイルスが外に漏れないよう、まずは私がファイアウォールを張ります」
シノンが音もなく跳躍し、峡谷の周囲を囲むように、無数の札(神仙の精神遮断結界符)を空中に投げ放った。
――ピィィィィンッ!
瞬間、峡谷全体を覆うように、透明で絶対的な強度を誇る『神仙のハードウェア・ファイアウォール結界』が展開された。これで、致死の狂気やノイズは一ミリたりとも外へ漏れ出すことはない。
「完璧なセキュリティですわ、シノンさん。では、私は端子にこびりついたガンコなノイズやホコリ(致死の呪詛)を、特殊クリーニングで綺麗に接点復活いたしますわ!」
エルミナが白銀の杖を天に掲げると、大宇宙の理を内包した『極大聖光浄化魔法』が、超強力な接点復活スプレーのように周囲の狂気の波動を包み込んだ。
「ギャアアアアッ!?」
万物を狂わせる呪詛は、その浄化の光を浴びた瞬間、身に纏っていた魔力ごと完全に無力化され、ただの無害で綺麗な通信信号へと変わっていく。
「フンッ! 魔力を抜かれたただの紐など、ただのニッパーのマトだ! そして、邪魔な不良回線は私が綺麗に断ち切ってやろう!」
レイヴンが神具の斧を大上段に構え、無害化した糸の群れに向かって旋風のごとく突っ込む。
「不良回線切断斬ィィィッ!!」
放たれた一撃は、絡み合った糸の「結び目の隙間」を完璧に見切り、まるで不要なケーブルをパチンと切るかのように、シャリィィィン!と見事な手際で細かく切断し、ゴミの山にしてしまった。
「ナ、何ィィィッ!? 我ガ無敵ノ呪縛ノ糸ガ、タダノ『接点復活』ト『ケーブル切断』ノ前ニ、一瞬デただのゴミ紐ニサレテイクゥゥッ!?」
アラクネは、自らの絶望の眷属がものの数分で「ただの切れたLANケーブル」に変わり、ノイズが消え去った光景に、驚愕のあまり巨体を震わせた。
「よし、みんなのおかげで邪魔な不良ケーブルは片付いたね! あとは、あの一番配線をぐちゃぐちゃにしてる『古いルーターの親玉』のケーブルを結束バンドでまとめて、エアダスターでホコリを飛ばすだけだ!」
アルドは、特製『事象結束の神仙バンド』を構え、アラクネの巨大な絡繰の脚へと向けて突撃した。
――当然ながら、その素材は常軌を逸している。結束バンドは星の引力を細長く凝縮した絶対拘束具であり、大宇宙のいかなる次元の歪みや神話級の狂気すらも、物理的に『束ねてカチッと締める』だけで完璧に固定し束ねる『究極の配線整理ツール』である。
「オノレェェェッ! 舐メルナ人間! 我ガ本気、世界ヲ孤独ニ沈メる『終焉ノ絶対断絶』デ、貴様ラゴト虚無ノ底ニ切リ離シテクレルワ!」
アラクネが残された魔力を暴走させ、周囲の空間ごと全ての繋がりを破壊する超巨大な断絶の刃を無数に放ってきた。
「うわっ! ルーターの裏側から、すっごくガンコなケーブルが暴れ出してる! でも、この特製結束バンドの前には、どんなに絡まったケーブルも一発でキュッだ!」
アルドがアラクネの巨大な八本の脚を両手でガバッとまとめ上げ、神仙バンドを巻き付けて容赦なくカチカチカチッ!と限界まで締め上げた。
「バ、バカナァァァッ!? 我ガ最大奥義ノ超絶断絶ガ、タダノ結束バンドデ縛リ上ゲラレタダトォォォッ!?」
「よし、ガンコなケーブルは綺麗に束ねられたぞ! 最後に、この『絶対接続の魔導エアダスター』で端子のホコリをプシューッと吹き飛ばして……あ、そうだ。このルーターの親玉、綺麗に掃除して配線を整理したら凄く電波の飛びが良さそうなアンテナ(脚)をしてるね。ちょっと設定を見直せば、世界中に超高速で安全な魔力通信を届けてくれる『超巨大な次世代Wi-Fiルーター(通信塔)』にできそうだよ!」
アルドがアラクネの端子部分にエアダスター(事象調律の浄化風)を吹きかけ、事象固定のLANケーブルをカチッとレイラインのハブに接続すると、大宇宙の法則が完全にひれ伏した。
暴走していたアラクネの禍々しい断絶の魔力は、瞬く間に漂白・調律されていく。
『ア……ァァ……。我ノ、世界ヲ孤独ニ沈メルハズノ力ガ、マルデ都合ノイイ【電波ヲ遠クママデ飛バス為ノ超高性能アンテナ】ノヨウニ……!? イヤ、ケーブルヲ接続サレル度ニ、我ガ巨体ガ、異常ナマデニ心地ヨイ【絶対的ナ通信速度ト、極上ノセキュリティヲ提供スル超大型Wi-Fiルーター】ニ変換サレテイクゥゥゥッ! 私ノ存在ガ、世界ヲ絶望ニ沈メルノデハナク、コウシテ大陸ニ永遠ノ繋ガリト爆速ネット環境ヲ提供スル「極上ノ全自動・神仙通信塔」トシテ機能スルコトガ、コレホドマデニ満タサレルコトダッタトハ……!』
かつて世界を脅かした呪縛の化身は、アルドの「配線整理とエアダスター清掃」によって完全に浄化され、書き換えられた。
万物を断絶する禍々しい絡繰蜘蛛は、気がつけば「峡谷を美しく強固な通信ハブに変え、世界中にノイズ一つない超高画質・超低遅延の魔力通信を24時間提供し続ける、超高性能な『永久・神仙次世代通信ルーター兼・電波塔(見た目は巨大でスタイリッシュな発光体)』」へと姿を変えていたのである。
「よしよし! 嫌なノイズと通信エラーの被害は片付いて、すっごく立派で爆速のルーターになったぞ! おまけに、これがあれば世界中の人たちがいつでも顔を見てお話できるし、動画もサクサクだね。これで大陸の人たちも、毎日安心して連絡を取り合って、楽しく暮らせるよ!」
アルドが結束バンドの余りをハサミで切り落とし、額の汗を拭うと、峡谷を覆っていたドス黒い狂気のノイズは一瞬にして晴れ渡り、眼下には美しく青い光を点滅させる奇跡の通信塔が稼働していた。
***
数日後。大陸を統べる諸国の王室や通信ギルド本部。
各国の王たちは、途切れることのない超高画質の通信映像と報告書を見て震え上がっていた。
「ば、馬鹿な……。我が世界を孤独と狂気に沈めるはずだった呪縛の絡繰蜘蛛が、たった数時間で『完全な配線整理』をされ、あまつさえ絡繰蜘蛛が『超巨大な次世代通信インフラ』に転職して、国中の情報網とネット環境を完璧に管理しているだと……!?」
そこへ、冷徹な執事服に身を包んだアーキヴァルが、うやうやしく一礼して現れた(超高画質のホログラム通信で)。
「お初にお目にかかります、各国の代表諸君。総合ライフサポート企業『黄昏の守護者』の最高財務責任者、アーキヴァルでございます。この度は、我が社の『CSR活動(配線整理と通信インフラ整備業務)』をご利用いただき、誠にありがとうございます」
アーキヴァルは、手元のタブレット端末から【完全なる通信網修復・次世代通信施設開発代金およびコンサルタント料の電子請求書】を送信し、王たちの目の前のモニターにドンッと表示させた。
「我が社の社長(アルド様)の理念により、今回は社会貢献として基本の配線整理料金はサービスさせていただいております。……が、絡繰蜘蛛の完全浄化、通信セキュリティの再構築、そして『大陸全土に極上の爆速ネット環境を供給する巨大ルーターの永続的な運用費』は、正当なビジネスとして請求させていただきます。お支払いは、各国の年間通信・情報収益の八割と、次世代ネットワークの独占プロバイダ権で手を打ちましょう」
アーキヴァルの冷たい宣告(合法的な超・搾取)と共に、王たちは完全に心をへし折られ、震える手で莫大な報酬の永続支払いに電子署名をするしかなかった。
***
日だまり郷の黄金の城塞。
静寂に包まれた書斎のデスクで、元・大賢者ゾルタンは、羽ペンをインク壺に浸し、新たな社史のページに文字を刻み込んでいた。
『〇月×日。断絶の峡谷における配線整理、およびルーターの再起動作業完了。世界を孤独に沈める呪縛の絡繰蜘蛛アラクネ・ネメシス(神話の厄災)を事象の結束バンドとエアダスターで整備し、立派な特大次世代ルーターへと改修。通信網の断絶の修復を完了し、大陸全土の情報通信・ネットワーク経済の発展に多大な貢献を果たした。
……また、我が社のCFOの尽力により、世界各国からは莫大な賠償金と、通信インフラ・プロバイダ事業の独占管理権を合法的に譲り受けることに成功。これで我が社は、地下水脈、気象、海上物流、クリーンエネルギー、次元基盤、自然環境、気候、時間、信仰、光、水回り、大気、交通・物流、情報・娯楽、資源循環に続き、ついに「世界を繋ぐ通信網とネットワーク」の覇権すらも完全に掌握したことになる。
社長の「社会貢献」という名の大掃除は、もはや世界のあらゆる概念すらも呑み込み、世界は究極の平穏(我が社による完全支配)へと向かっている。大賢者たるワシの知能をもってしても、神話の呪縛すらWi-Fiルーターに変える(物理的に結束バンドで縛り上げた)この恐るべき企業の快進撃を止める術は、大宇宙のどこにも存在しない。』
ゾルタンが深い溜息と共にペンを置くと、ドアの向こうから「今日のおやつは、朝のカレーのルウをたっぷり詰めた、極上の特製揚げたてカレーパンだよー!」というアルドの無邪気な声が聞こえてきた。
ゾルタンは「神々の絶望を記録した直後のカレーパンは、ことのほかスパイスが五臓六腑に染み渡ろう」とぼやきながらも、頬を緩ませて立ち上がった。
最強の便利屋の「ただの配線整理」は、世界断絶の危機をただのケーブル整理として解決し、絡繰蜘蛛の脅威を完全に終わらせただけでなく、世界に最高の通信ネットワークインフラを誕生させてしまった。
企業として躍進するクラン『黄昏の守護者』は、これより正式に通信インフラの覇権をも握り、いかなる邪悪も日常のITサポート業務として葬り去る、究極の平穏なる企業伝説をまた一つ、分厚い社史のページに深く刻み込んだのであった。
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