第123話:ただの外壁塗装と、幻影の侵略魔神の強制巨大ディスプレイ化(総合ライフサポート企業の外壁メンテナンス)
第123話:ただの外壁塗装と、幻影の侵略魔神の強制巨大ディスプレイ化(総合ライフサポート企業の外壁メンテナンス)
黄金の城塞『日だまり郷』の朝は、大宇宙の理すらも平伏す圧倒的な平穏と、魂を根底から包み込むような極上のバターの香り、そして魚介の旨味が凝縮された濃厚な匂いと共に幕を開ける。
今日のアルドは、朝からキッチンの巨大なオーブンと特注のフライパンに向かい、見事な火加減で『特製・天界ホタテと幻獣キノコの極上マカロニグラタンと、世界樹のハーブ香るガーリックトースト』を仕上げていた。
「よし! メインは、大精霊の海で獲れた肉厚な天界ホタテと、森の旨味を吸い尽くした幻獣キノコをたっぷり使ったマカロニグラタンだ。神仙小麦と星屑のミルクで作った特製のベシャメルソースを絡め、幻獣チーズを山盛りに乗せてオーブンで一気に焼き上げる! 表面の焦げたチーズをスプーンで割ると、中から熱々のソースが溢れ出す寸法さ。そして、世界樹のバゲットに神仙ガーリックバターをたっぷり染み込ませてカリッと焼き上げたガーリックトースト! 仕上げにパセリを散らして……熱々のうちに完成だ!」
アルドがエプロン姿で、グツグツと音を立てる黄金色のグラタン皿と、香ばしい匂いを暴力的なまでに放つトーストの山をダイニングテーブルに運ぶと、神竜ポチとモフモフの星狼シロがテーブルの下でちぎれんばかりに尻尾を振って待機していた。リビングのソファでは、特大モチモチクッションへと強制リメイクされた元・大宇宙の邪神が、ポカポカと温かいヒーター機能を放ちながら、平和なインテリアとしての職務を微動だにせず全うしている。
この極上洋食朝食、一口食べれば天界ホタテの極上のタウリンとミネラルが全身の魔力回路を限界突破させ、特製ベシャメルソースの圧倒的な包容力が血中のあらゆる疲労物質や致死の呪いすらも瞬時にデトックスし、魂の底から尽きることのない多幸感と活力を湧き上がらせる『究極の超覚醒・至福のオーブンフルコース』である。
「うむ……! この焦げたチーズの香ばしい響きと、ホタテから溢れ出す海の旨味のビッグバン! そしてガーリックトーストの圧倒的な食欲増進力! 見るだけで我が魔界の闘争本能が、真冬のロッジで暖炉の火を見つめる詩人のようにフニャフニャに溶かされそうになるわい!」
元・魔界大帝サタナスが、スプーンを両手で震わせながら握りしめ、あまりの美味さにワナワナと肩を震わせて感涙に咽いでいた。
そんな賑やかなダイニングの喧騒が一段落し、食後の極上ストレートティーが振る舞われた後。
アルドは、防音・防諜の魔法結界が幾重にも張られたリビングの長テーブルの上座に座った。その周囲には、『出張解体アシスタント』のレイヴン、『特殊クリーニング部門責任者』のエルミナ、『総合防犯システム責任者』のシノン、そして『最高財務責任者(CFO)兼・広報担当』のアーキヴァルという、総合ライフサポート企業『黄昏の守護者』の頼もしき役員たちが顔を揃えている。
「さて、みんな。大陸北西部のハイウェイ化(震天の地竜神の道路舗装)も終わって、世界中の物流と交通がすっかり安定したね。これもみんなのチームワークのおかげだよ。……それで、次なる『困り事』の案件は何か入っているかな?」
アルドがニコッと微笑みかけると、CFO兼広報担当のアーキヴァルが、優雅な所作で立ち上がり、分厚いバインダーを開いた。
「はい、社長。我が社の次なるCSR活動として、今回は世界の果て、次元の境界線における『深刻な外壁の劣化と悪質な落書き被害』に関する、極めて重大なご相談を受注いたしました」
アーキヴァルは、手元の書類を指先で弾きながら、冷徹かつ完璧なプレゼンテーションを開始する。
「世界を覆う次元の壁の向こう側に、長年封印されていた『幻影の侵略魔神・ミラージュ・インベーダー』が目覚めまして。世界の境界線を溶かし、異界の不気味な景色を現実世界に上書きしようとしております。さらにタチの悪いことに、その魔神が生み出す『異界の幻影ども(※現実を侵食する概念魔獣群)』が壁のヒビから溢れ出し、人々の街の風景をめちゃくちゃに塗り替えようと暴れ回っているのです」
アーキヴァルの言葉の裏にある「真実」を、大公レオハルトと元・大賢者ゾルタンは顔面を蒼白にしながら補完していた。
(幻影の侵略魔神だと……!? あれは現実世界の物理法則を完全に書き換え、星を狂気と混沌の異界に染め上げる神話級の侵略者。それが覚醒したとなれば、境界線はおろか、世界中の風景と概念がドロドロに溶け合い、生命は発狂して死に絶える。本来なら全国家の魔導士を総動員して命がけの超極大次元固定結界を張るべき、世界終焉レベルの絶望事態だぞ……!)
しかし、アーキヴァルは一切表情を変えず、アルド向けに完璧に翻訳された依頼書を読み上げる。
「境界の国々からの要望は、この鬱陶しい落書き(幻影の魔獣群)の『徹底的な消去(粉砕と浄化)』と『壁を汚す親玉(侵略魔神)の洗浄』、そして『外壁のペンキ塗りと防汚コーティング』です。このまま放置すれば、壁がボロボロになって雨風が吹き込み、街の景観も最悪になってしまいます。我が社の社会貢献活動として、これほど迅速な対応が求められる案件はないかと」
「なるほど!」
アルドは、依頼書を見て真剣な表情でポンッと手を叩いた。
「家の外壁がヒビ割れてて、おまけにタチの悪いイタズラ小僧が変な落書きをいっぱいしてるんだね! 家の壁がボロボロだと隙間風が入って寒いし、景観が悪いとご近所迷惑になっちゃうから大問題だ。綺麗なお家で安心して暮らすためにも、外壁のメンテナンスはしっかりやらないと。よーし、さっそく僕たちの『総合ライフサポート』の出番だ!」
アルドが立ち上がると、役職を得たクランメンバーたちも、一斉に気合い(殺意)に満ちた表情で立ち上がった。
「社長。壁にへばりつく鬱陶しい落書き(幻影の魔獣ども)の解体と撤去は、この『出張解体アシスタント』にお任せを。幻の核の一つ残さず綺麗に削り落として、ただの絵の具以下の仕事にしてご覧に入れましょう」
レイヴンが、神具の斧を肩に担ぎながら不敵に笑う。
「ええ。イタズラ小僧が撒き散らすガンコなスプレー汚れや溶剤(※致死の概念侵食と狂気)は、『特殊クリーニング部門』の私が、特製のシンナー(※極大の聖光浄化魔法)で一瞬にして中和・洗浄して差し上げますわ」
エルミナが、美しく銀髪を揺らしながら自信満々に頷く。
「……作業中、汚水やペンキ(※魔獣の残党)が周囲の街へ飛び散らないよう、『総合防犯システム責任者』として、現場の周囲に完璧な塗装用養生シート(※絶対封殺の空間隔離結界)を張り巡らせておきます」
シノンが、音もなく短剣を弄びながら冷たく宣言する。
「うんうん、みんな本当に頼もしいな! ペンキ塗りは周りを汚さないことが大事だから、しっかり養生シートを張ってくれると助かるよ!」
アルドは、メンバーたちの頼もしい言葉に満足げに頷き、自身の作業着(概念の侵食と狂気を完全に無効化する特製防汚ツナギとゴーグル)に着替え、手には巨大な高圧洗浄機のノズルとペンキのローラーを握りしめた。
「よーし! それじゃあ僕は、特製『事象洗浄の魔導高圧洗浄機』と『絶対防壁の神仙ペンキ』を持っていくよ! 世界の人たちの綺麗な街並みを守るために、邪魔な落書きを消して、外壁をピカピカに塗り直してこよう!」
こうして、総合ライフサポート企業『黄昏の守護者』の社員一同は、高所作業仕様に改造された魔導軽トラ(クレーン付き)に乗り込み、景色が歪みつつある世界の果ての境界線へと向けて出勤したのである。
***
その頃、世界の果て、次元の境界線の中心。
現実を侵食し、世界を狂気の異界に塗り替える大地の悪夢『幻影の侵略魔神・ミラージュ・インベーダー』が、空間をドロドロに溶かしながら、傲慢なノイズのような音を響かせていた。
「ギュギュルルル……! 素晴らしいぞ! この星の物理法則を書き換える我が力さえあれば、地上の生命など一瞬で発狂して溶け去る! 見よ、我がもたらすこの圧倒的な混沌の景色を!」
侵略魔神は、巨大な幻影の腕を振り上げ、無数の概念魔獣たちを現実世界へと放った。
「愚かな地上の生命どもめ。我が目覚めたからには、もはやこの星に確固たる現実はないと知れ! さあ、もっとだ! 境界線を溶かし、大陸全土を永遠の狂気で塗り潰せ!」
「我ら幻影の眷属の侵食力は絶対だ! この混沌の領域まで踏み込める者など、この世界にはもはや存在し――」
――キキィィィィッ!! バタンッ!
侵略魔神が勝利の宣言を口にしようとしたその瞬間、景色がグニャグニャに歪む境界のど真ん中に、四つの車輪がついた奇妙な小型の鉄箱(魔導軽トラ)が、神話級の概念崩壊をものともせずにドリフト着陸する音が響き渡った。
そして、軽トラの荷台から「ガラッ」と無遠慮に降ろされた高圧洗浄機のコンプレッサーと、ゴーグルを被った青年の明るい声が、狂気のノイズを完全に打ち破ったのである。
「ちわーっす! 総合ライフサポート企業『黄昏の守護者』です! 近隣の国の方々からご依頼いただいた外壁の洗浄とペンキ塗りに伺いましたー! ……うわぁ、こりゃひどい壁のヒビ割れと、変な色の悪趣味な落書き(幻影)だね! こりゃ徹底的に洗い流しがいがあるや!」
アルドは、高圧洗浄機のホースを伸ばしながら、プロの塗装職人としてのダメ出しを開始した。
「ナ、何奴ッ!? 我ガ絶対混沌ノ領域ニ、地上ノ虫ケラガ何ノ用ダ!」
侵略魔神が驚愕のノイズを上げる中、アルドの後ろから、レイヴン、エルミナ、シノン、そしてアーキヴァルが、それぞれの「清掃用具(兵器)」を手にして、圧倒的な威圧感を放ちながら境界線へと降り立ったのである。
「さあ、社長。まずはこの鬱陶しい落書き(幻影の魔獣)どもから、綺麗に『削り落として』差し上げましょう」
レイヴンが神具の斧をスクレーパーのように構え、凶悪な笑みを浮かべる。
総合ライフサポート企業の次なる社会貢献(能動的な悪の粉砕)が、世界の果ての境界線で今まさに始まろうとしていた。
「ナ、ナンダ貴様ラハ!? 我ガ絶望ノ侵食ヲ『壁の落書き』ダト!? 舐メルナ地上ノウジ虫ドモッ! 我ガ幻影ノ魔獣デ、貴様ラノ精神ヲ永遠ニ溶カシ尽クシテクレルワ!」
侵略魔神の怒号と共に、境界を覆うほどのドス黒い幻影の群れが、一斉にアルドたちに向かって狂気の波動を放って襲い掛かった。
「うわっ、この落書き、すっごくチカチカしてて目が痛くなる! ずっと見てたら気分が悪くなっちゃうぞ!」
アルドは、迫り来る魔獣の群れを「派手な色使いで描かれたタチの悪いスプレーの落書き」と完全に誤認し、高圧洗浄機のエンジンをブルンッと吹かした。
「社長、ここは我々『社員』にお任せを。汚水や塗料が外に漏れないよう、まずは私が養生シートを張ります」
シノンが音もなく跳躍し、境界線の周囲を囲むように、無数の札(神仙の空間隔離結界符)を空中に投げ放った。
――ピィィィィンッ!
瞬間、境界全体を覆うように、透明で絶対的な強度を誇る『神仙の塗装用養生結界』が展開された。これで、致死の狂気や幻影は一ミリたりとも外へ漏れ出すことはない。
「完璧な養生ですわ、シノンさん。では、私は落書きが撒き散らすガンコな塗料の臭い(致死の概念侵食)を、特殊クリーニングで綺麗に中和いたしますわ!」
エルミナが白銀の杖を天に掲げると、大宇宙の理を内包した『極大聖光浄化魔法』が、超強力なシンナーのように周囲の狂気の波動を包み込んだ。
「ギャアアアアッ!?」
万物を溶かす概念侵食は、その浄化の光を浴びた瞬間、身に纏っていた魔力ごと完全に無力化され、ただの無害な薄いインクの染みへと変わっていく。
「フンッ! 魔力を抜かれたただの絵の具など、ただのスクレーパーのマトだ! そして、邪魔な落書きは私が綺麗に削り落としてやろう!」
レイヴンが神具の斧を大上段に構え、インクの染みと化した魔獣の群れに向かって旋風のごとく突っ込む。
「幻影削剥斬ィィィッ!!」
放たれた一撃は、魔獣の概念ボディの中にある「次元の核の隙間」を完璧に見切り、まるで壁の古いペンキを剥がすかのように、シャリィィィン!と見事な手際で綺麗な粉塵へと変え、床に落としてしまった。
「ナ、何ィィィッ!? 我ガ無敵ノ幻影ノ魔獣ガ、タダノ『シンナー』ト『ペンキ剥がし』ノ前ニ、一瞬デ削リカスニサレテイクゥゥッ!?」
侵略魔神は、自らの絶望の眷属がものの数分で「ただの削りカス」に変わり、景色が元に戻り始めた光景に、驚愕のあまりノイズを震わせた。
「よし、みんなのおかげで邪魔な落書きは薄くなったね! あとは、あの一番壁を汚してる『イタズラの親玉(侵略魔神)』を高圧洗浄機で一気に洗い流して、ペンキを塗るだけだ!」
アルドは、特製『事象洗浄の魔導高圧洗浄機』のノズルを構え、侵略魔神の巨大な混沌の顔面へと向けて突撃した。
――当然ながら、その素材は常軌を逸している。洗浄機のポンプは星の海流を凝縮した超高圧水流ジェネレーターであり、大宇宙のいかなる次元の歪みや神話級の狂気すらも、物理的に『水圧でぶっ飛ばす』だけで完璧に洗い流す『究極の壁面洗浄ツール』である。
「オノレェェェッ! 舐メルナ人間! 我ガ本気、世界ヲ虚無ニ塗リ替エル『終焉ノ狂気浸食』デ、貴様ラゴト異界ノ底ニ飲ミ込ンデクレルワ!」
侵略魔神が残された魔力を暴走させ、周囲の空間ごと全てを異界に引きずり込む超巨大な混沌の渦を巻き起こし始めた。
「うわっ! 壁の奥から、すっごくガンコな汚れが染み出してきそう! でも、この特製高圧洗浄機の前には、どんなこびりついた汚れも一発でピカピカだ!」
アルドが高圧洗浄機のトリガーを全開に引くと、ノズルから神仙の浄化水流が容赦なくズドォォォォンッ!と魔神の混沌の渦に叩きつけられた。
「バ、バカナァァァッ!? 我ガ最大奥義ノ超絶狂気ガ、タダノ高圧洗浄機デ洗イ流サレタダトォォォッ!?」
「よし、ガンコな汚れと落書きは綺麗に洗い流せたぞ! 最後に、この『絶対防壁の神仙ペンキ』をローラーでコロコロと塗って……あ、そうだ。このイタズラの親玉、綺麗に洗い流したら凄くツルツルで光を反射する壁になってるね。ちょっと光の当て方を工夫すれば、街のみんなが楽しめる『超巨大なプロジェクションマッピング(壁掛けディスプレイ)』にできそうだよ!」
アルドが真っ白な神仙ペンキ(事象を完璧に固定する滑らかな魔導塗料)を魔神の平らになった次元の壁にローラーで塗りたくり、事象調律の光を投影する機能を追加すると、大宇宙の法則が完全にひれ伏した。
暴走していた侵略魔神の禍々しい狂気の魔力は、瞬く間に漂白・調律されていく。
『ア……ァァ……。我ノ、世界ヲ狂気デ塗リ潰スハズノ力ガ、マルデ都合ノイイ【美シイ映像ヲ映シ出ス為ノ巨大スクリーン】ノヨウニ……!? イヤ、ペンキヲ塗ラレル度ニ、我ガ次元ノ壁ガ、異常ナマデニ心地ヨイ【絶対的ナ防壁機能ト、極上ノエンターテイメントヲ提供スル超大型ディスプレイ】ニ変換サレテイクゥゥゥッ! 私ノ存在ガ、世界ヲ絶望ニ沈メルノデハナク、コウシテ大陸ニ永遠ノ楽シミト情報ヲ提供スル「極上ノ全自動・神仙プロジェクションマッピング」トシテ機能スルコトガ、コレホドマデニ満タサレルコトダッタトハ……!』
かつて世界を脅かした幻影の化身は、アルドの「高圧洗浄機による壁洗いとペンキ塗り」によって完全に浄化され、書き換えられた。
万物を侵食する禍々しい侵略魔神は、気がつけば「境界線を美しく強固な防壁に変え、夜空に世界中の美しい景色や楽しい映像を24時間映し出し続ける、超高性能な『永久・神仙次元防壁兼・超巨大壁掛けディスプレイ(見た目は空一面に広がる極上の大画面)』」へと姿を変えていたのである。
「よしよし! 嫌な落書きとヒビ割れの被害は片付いて、すっごく立派で頑丈な壁になったぞ! おまけに、これがあれば世界中の綺麗な景色が映って、毎日がお祭りみたいで楽しいね。これで大陸の人たちも、毎日綺麗な壁を見て、安心して暮らせるよ!」
アルドが高圧洗浄機を片付けて額の汗を拭うと、境界を覆っていたドス黒い混沌のノイズは一瞬にして晴れ渡り、眼下には美しく輝く奇跡の巨大スクリーンが広がっていた。
***
数日後。大陸を統べる諸国の王室。
各国の王たちは、空に映し出される美しい映像と報告書を見て震え上がっていた。
「ば、馬鹿な……。我が世界を狂気の異界に沈めるはずだった幻影の侵略魔神が、たった数時間で『完全な外壁洗浄』をされ、あまつさえ魔神が『超巨大なエンタメ・通信インフラ』に転職して、国中の情報と娯楽を完璧に管理しているだと……!?」
そこへ、冷徹な執事服に身を包んだアーキヴァルが、うやうやしく一礼して現れた。
「お初にお目にかかります、各国の代表諸君。総合ライフサポート企業『黄昏の守護者』の最高財務責任者、アーキヴァルでございます。この度は、我が社の『CSR活動(外壁塗装と防壁メンテナンス業務)』をご利用いただき、誠にありがとうございます」
アーキヴァルは、分厚いバインダーから【完全なる次元修復・通信エンタメ施設開発代金およびコンサルタント料の請求書】を取り出し、王たちの目の前にドンッと突きつけた。
「我が社の社長(アルド様)の理念により、今回は社会貢献として基本の洗浄料金はサービスさせていただいております。……が、侵略魔神の完全浄化、次元防壁の再構築、そして『大陸全土に極上の娯楽と情報を供給する巨大ディスプレイの永続的な運用費』は、正当なビジネスとして請求させていただきます。お支払いは、各国の年間通信・娯楽収益の七割と、放送・広告枠の独占プロデュース権で手を打ちましょう」
アーキヴァルの冷たい宣告(合法的な超・搾取)と共に、王たちは完全に心をへし折られ、震える手で莫大な報酬の永続支払いにサインをするしかなかった。
***
日だまり郷の黄金の城塞。
静寂に包まれた書斎のデスクで、元・大賢者ゾルタンは、羽ペンをインク壺に浸し、新たな社史のページに文字を刻み込んでいた。
『〇月×日。世界の果ての境界線における外壁洗浄、およびペンキ塗り作業完了。世界を狂気に染める幻影の侵略魔神ミラージュ・インベーダー(神話の厄災)を事象の高圧洗浄機と神仙ペンキで洗浄し、立派な特大ディスプレイへと改修。次元の侵食の修復を完了し、大陸全土の通信・娯楽経済の発展に多大な貢献を果たした。
……また、我が社のCFOの尽力により、世界各国からは莫大な賠償金と、通信・エンタメインフラの独占管理権を合法的に譲り受けることに成功。これで我が社は、地下水脈、気象、海上物流、クリーンエネルギー、次元基盤、自然環境、気候、時間、信仰、光、水回り、大気、交通・物流に続き、ついに「情報と娯楽」の覇権すらも完全に掌握したことになる。
社長の「社会貢献」という名の大掃除は、もはや世界のあらゆる概念すらも呑み込み、世界は究極の平穏(我が社による完全支配)へと向かっている。大賢者たるワシの知能をもってしても、神話の狂気すらプロジェクションマッピングに変える(物理的にペンキで塗り潰した)この恐るべき企業の快進撃を止める術は、大宇宙のどこにも存在しない。』
ゾルタンが深い溜息と共にペンを置くと、ドアの向こうから「今日のおやつは、朝のグラタンのソースで作った、極上の特製クリームクロッケだよー!」というアルドの無邪気な声が聞こえてきた。
ゾルタンは「神々の絶望を記録した直後のコロッケは、ことのほか衣がサクサクであろう」とぼやきながらも、頬を緩ませて立ち上がった。
最強の便利屋の「ただの外壁塗装」は、世界侵食の危機をただのペンキ塗りとして解決し、侵略魔神の脅威を完全に終わらせただけでなく、世界に最高の通信・娯楽インフラを誕生させてしまった。
企業として躍進するクラン『黄昏の守護者』は、これより正式に情報・エンタメの覇権をも握り、いかなる邪悪も日常の外壁メンテナンスとして葬り去る、究極の平穏なる企業伝説をまた一つ、分厚い社史のページに深く刻み込んだのであった。
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