第121話:ただのエアコン清掃と、暴風の魔帝の強制空気清浄機化(総合ライフサポート企業の空調メンテナンス)
第121話:ただのエアコン清掃と、暴風の魔帝の強制空気清浄機化(総合ライフサポート企業の空調メンテナンス)
黄金の城塞『日だまり郷』の朝は、大宇宙の理すらも平伏す圧倒的な平穏と、魂の底から幸福感を呼び覚ますような甘い卵液の香り、そして肉の焼ける暴力的な匂いと共に幕を開ける。
今日のアルドは、朝からキッチンの特大フライパンと特注のミキサーに向かい、見事な火加減で『特製・神仙小麦の極厚フレンチトーストと、天界豚の厚切りベーコンエッグ、世界樹の果実の極上スムージー』を仕上げていた。
「よし! メインは、大精霊の清冽な水で練り上げた神仙小麦の食パンを、通常の五倍の厚さにスライスしたものだ。これを、幻獣の卵と星屑のミルク、そして世界樹の蜂蜜を混ぜ合わせた特製アパレイユに丸一日じっくりと漬け込み、神仙バターをたっぷり溶かしたフライパンで外はカリッと、中はプリンのようにトロトロに焼き上げる! そして付け合わせは、天界豚の極上バラ肉を桜の薪で燻製にした厚切りベーコンと、幻獣卵の半熟目玉焼き! さらに、今朝採れたての世界樹の果実と星屑ベリーを氷ごとミキサーにかけた、ビタミンたっぷりの濃厚スムージー! 仕上げに粉砂糖を振って……熱々のうちに完成だ!」
アルドがエプロン姿で、黄金色に輝くフレンチトーストと肉汁滴るベーコンの乗った大皿、そして冷たく美しい紫色のスムージーをダイニングテーブルに運ぶと、その暴力的なまでの甘じょっぱい香りに引き寄せられ、神竜ポチとモフモフの星狼シロがテーブルの下でちぎれんばかりに尻尾を振って待機していた。リビングのソファでは、特大モチモチクッションへと強制リメイクされた元・大宇宙の邪神が、ポカポカと温かいヒーター機能を放ちながら、平和なインテリアとしての職務を微動だにせず全うしている。
この極上モーニング、一口食べれば神仙小麦と幻獣卵の極上のアミノ酸が全身の魔力回路を限界突破させ、果実スムージーの圧倒的な抗酸化作用が血中のあらゆる疲労物質や致死の呪いすらも瞬時にデトックスし、魂の底から尽きることのない多幸感と活力を湧き上がらせる『究極の超覚醒・至福のフルコース』である。
「うむ……! このフレンチトーストの圧倒的なトロトロ感と、ベーコンの塩気が織りなす無限のループ! そしてスムージーの細胞の隅々まで染み渡る清涼感! 見るだけで我が魔界の闘争本能が、南欧のテラスで優雅な朝食を楽しむ貴婦人のようにフニャフニャに溶かされそうになるわい!」
元・魔界大帝サタナスが、ナイフとフォークを両手で震わせながら握りしめ、あまりの美味さにワナワナと肩を震わせて感涙に咽いでいた。
そんな賑やかなダイニングの喧騒が一段落し、食後の極上ダージリンティーが振る舞われた後。
アルドは、防音・防諜の魔法結界が幾重にも張られたリビングの長テーブルの上座に座った。その周囲には、『出張解体アシスタント』のレイヴン、『特殊クリーニング部門責任者』のエルミナ、『総合防犯システム責任者』のシノン、そして『最高財務責任者(CFO)兼・広報担当』のアーキヴァルという、総合ライフサポート企業『黄昏の守護者』の頼もしき役員たちが顔を揃えている。
「さて、みんな。大陸南西部の毒沼の浄化(腐死の猛毒王の入浴剤化)も終わって、世界中の水質と公衆衛生がすっかり安定したね。これもみんなのチームワークのおかげだよ。……それで、次なる『困り事』の案件は何か入っているかな?」
アルドがニコッと微笑みかけると、CFO兼広報担当のアーキヴァルが、優雅な所作で立ち上がり、分厚いバインダーを開いた。
「はい、社長。我が社の次なるCSR活動として、今回は大陸南東部の『淀みの魔境』における、極めて深刻な大気汚染と暴風被害に関するご相談を受注いたしました」
アーキヴァルは、手元の書類を指先で弾きながら、冷徹かつ完璧なプレゼンテーションを開始する。
「大陸南東部の巨大な渓谷に、長年封印されていた『暴風の魔帝・テンペスト・ロード』が目覚めまして。猛毒の瘴気を孕んだ暴風を常に吹き荒らし、周囲の空気をドス黒く淀ませております。さらにタチの悪いことに、その魔帝が生み出す『瘴気の風刃ども(※触れるものを腐らせる暴風の魔獣群)』が渓谷から溢れ出し、人々の街にカビや病魔を撒き散らそうと暴れ回っているのです」
アーキヴァルの言葉の裏にある「真実」を、大公レオハルトと元・大賢者ゾルタンは顔面を蒼白にしながら補完していた。
(暴風の魔帝だと……!? あれは世界の空気を致死の瘴気に変え、星の裏側まで腐敗の嵐で覆い尽くす神話級の風魔。それが覚醒したとなれば、南東部はおろか、大陸中の生命が息絶え絶えになり肺から腐っていく。本来なら全国家の魔導士を総動員して命がけの超極大真空結界を張るべき、世界終焉レベルの絶望事態だぞ……!)
しかし、アーキヴァルは一切表情を変えず、アルド向けに完璧に翻訳された依頼書を読み上げる。
「近隣の国々からの要望は、この鬱陶しいカビの風(瘴気の魔獣群)の『徹底的なお掃除(粉砕と浄化)』と『古い空調の親玉(魔帝)の内部洗浄』、そして『空調設備のフィルター交換と環境改善』です。このまま放置すれば、人々の家がカビだらけになり、嫌なニオイで体調を崩してしまいます。我が社の社会貢献活動として、これほど迅速な対応が求められる案件はないかと」
「なるほど!」
アルドは、依頼書を見て真剣な表情でポンッと手を叩いた。
「古いエアコンの内部にカビやホコリが溜まってて、そこから嫌なニオイのする風が吹き出してるんだね! おまけにカビの胞子が部屋中に飛んでるなんて、アレルギーの原因になるし衛生的に大問題だ。気持ちよく深呼吸するためにも、空調の清掃はしっかりやらないと。よーし、さっそく僕たちの『総合ライフサポート』の出番だ!」
アルドが立ち上がると、役職を得たクランメンバーたちも、一斉に気合い(殺意)に満ちた表情で立ち上がった。
「社長。吹き出してくる鬱陶しいカビの塊(瘴気の魔獣ども)の解体と撤去は、この『出張解体アシスタント』にお任せを。風の核の一つ残さず綺麗にバラバラにして、ただの微風以下の仕事にしてご覧に入れましょう」
レイヴンが、神具の斧を肩に担ぎながら不敵に笑う。
「ええ。エアコンが撒き散らすガンコな悪臭やカビ胞子(※致死の瘴気と腐敗風)は、『特殊クリーニング部門』の私が、特製の除菌消臭スプレー(※極大の聖光浄化魔法)で一瞬にして中和・洗浄して差し上げますわ」
エルミナが、美しく銀髪を揺らしながら自信満々に頷く。
「……作業中、汚水やカビ(※魔獣の残党)が周囲の街へ漏れ出さないよう、『総合防犯システム責任者』として、現場の周囲に完璧なエアコン洗浄用養生カバー(※絶対封殺の空間密閉結界)を張り巡らせておきます」
シノンが、音もなく短剣を弄びながら冷たく宣言する。
「うんうん、みんな本当に頼もしいな! エアコン清掃は汚水が飛び散るから、しっかり養生カバーを張ってくれると助かるよ!」
アルドは、メンバーたちの頼もしい言葉に満足げに頷き、自身の作業着(瘴気と暴風を完全に無効化する特製防護服とマスク)に着替え、手には巨大なスプレー缶と真っ白なフィルターを握りしめた。
「よーし! それじゃあ僕は、特製『事象洗浄のエアコンクリーナー』と『絶対防カビの神仙フィルター』を持っていくよ! 世界の人たちの爽やかな空気を守るために、邪魔なカビを洗い流して、空調をピカピカにリフォームしてこよう!」
こうして、総合ライフサポート企業『黄昏の守護者』の社員一同は、防風仕様に改造された魔導軽トラに乗り込み、空気が淀み果てつつある南東部の魔境へと向けて出勤したのである。
***
その頃、大陸南東部の淀みの魔境の中心。
清らかな大気を致死の瘴気に変え、大地を腐らせる空の悪夢『暴風の魔帝テンペスト・ロード』が、漆黒の竜巻を纏いながら、傲慢な轟音を響かせていた。
「ゴオォォォォ……! 素晴らしいぞ! この星の空気を全て腐らせる瘴気の嵐さえあれば、地上の生命など一瞬で肺から溶け落ちる! 見よ、我がもたらすこの圧倒的な死の暴風を!」
魔帝は、巨大な風の腕を振り上げ、無数の瘴気の魔獣たちを周囲の街へと放った。
「愚かな地上の生命どもめ。我が目覚めたからには、もはやこの星に清らかな空気はないと知れ! さあ、もっとだ! 全てを吹き飛ばし、大陸全土を永遠の淀みに沈めよ!」
「我ら暴風の眷属の風力は絶対だ! この死の嵐の領域まで踏み込める者など、この世界にはもはや存在し――」
――キキィィィィッ!! バタンッ!
魔帝が勝利の宣言を口にしようとしたその瞬間、猛烈な暴風が吹き荒れる渓谷のど真ん中に、四つの車輪がついた奇妙な小型の鉄箱(魔導軽トラ)が、神話級の竜巻をものともせずにドリフト着陸する音が響き渡った。
そして、軽トラのドアが「ガラッ」と無遠慮に開け放たれ、スプレー缶とフィルターを持った青年の明るい声が、暴風の轟音を完全に打ち破ったのである。
「ちわーっす! 総合ライフサポート企業『黄昏の守護者』です! 近隣の国の方々からご依頼いただいた空調の清掃とフィルター交換に伺いましたー! ……うわぁ、こりゃひどいカビのニオイと、むせ返るようなホコリの風だね! こりゃ徹底的に洗浄しがいがあるや!」
アルドは、マスク越しにプロの清掃業者としてのダメ出しを開始した。
「ナ、何奴ッ!? 我ガ絶対暴風ノ領域ニ、地上ノ虫ケラガ何ノ用ダ!」
魔帝が驚愕の風切り音を上げる中、アルドの後ろから、レイヴン、エルミナ、シノン、そしてアーキヴァルが、それぞれの「清掃用具(兵器)」を手にして、圧倒的な威圧感を放ちながら荒野へと降り立ったのである。
「さあ、社長。まずはこの鬱陶しいカビの塊(瘴気の魔獣)どもから、綺麗に『バラして』差し上げましょう」
レイヴンが神具の斧を構え、凶悪な笑みを浮かべる。
総合ライフサポート企業の次なる社会貢献(能動的な悪の粉砕)が、死の魔境で今まさに始まろうとしていた。
「ナ、ナンダ貴様ラハ!? 我ガ絶望ノ暴風ヲ『エアコンの風』ダト!? 舐メルナ地上ノウジ虫ドモッ! 我ガ瘴気ノ魔獣デ、貴様ラノ肉体ヲ永遠ニ腐ラセテクレルワ!」
魔帝の怒号と共に、渓谷を覆うほどのドス黒い風の魔獣の群れが、一斉にアルドたちに向かって腐敗の風刃を飛ばして襲い掛かった。
「うわっ、このエアコンの風、すっごくカビ臭くてホコリっぽい! 吸い込んだら喉を痛めちゃって危ないぞ!」
アルドは、迫り来る魔獣の群れを「長年の汚れで意志を持ったタチの悪いカビとホコリの塊」と完全に誤認し、クリーナーのトリガーに指をかけた。
「社長、ここは我々『社員』にお任せを。汚水やカビの胞子が外に漏れないよう、まずは私が養生カバーを被せます」
シノンが音もなく跳躍し、魔境の周囲を囲むように、無数の札(神仙の空間密閉結界符)を空中に投げ放った。
――ピィィィィンッ!
瞬間、渓谷全体をドーム状に覆うように、透明で絶対的な強度を誇る『神仙のエアコン洗浄用養生結界』が展開された。これで、猛毒のガスやカビは一ミリたりとも外へ漏れ出すことはない。
「完璧な養生ですわ、シノンさん。では、私はエアコンが撒き散らすガンコな悪臭やカビ胞子(致死の瘴気)を、特殊クリーニングで綺麗に中和いたしますわ!」
エルミナが白銀の杖を天に掲げると、大宇宙の理を内包した『極大聖光浄化魔法』が、超強力な消臭スプレーのように周囲の瘴気を包み込んだ。
「ギャアアアアッ!?」
万物を腐らせる瘴気は、その浄化の光の霧を浴びた瞬間、身に纏っていた毒の魔力ごと完全に無力化され、ただの爽やかなミントの香りがする無害なそよ風へと変わっていく。
「フンッ! 毒を抜かれたただの風など、ただの解体のマトだ! そして、邪魔なホコリは私が綺麗に斬り刻んでやろう!」
レイヴンが神具の斧を大上段に構え、風の魔獣の群れに向かって旋風のごとく突っ込む。
「空調解体斬ィィィッ!!」
放たれた一撃は、魔獣の流体ボディの中にある「風の核の隙間」を完璧に見切り、まるで換気扇の羽を拭き上げるかのように、シャリィィィン!と見事な手際で微塵切りにして消し去ってしまった。
「ナ、何ィィィッ!? 我ガ無敵ノ瘴気ノ魔獣ガ、タダノ『消臭』ト『微塵切り』ノ前ニ、一瞬デ無力化サレテイクゥゥッ!?」
魔帝は、自らの絶望の眷属がものの数分で「ただのそよ風」に変わり、悪臭が消え去った光景に、驚愕のあまり巨体を震わせた。
「よし、みんなのおかげで邪魔なカビと悪臭は片付いたね! あとは、あの一番ドロドロになってる『エアコンの本体(魔帝)』の奥深くにクリーナーを吹きかけて、汚れを洗い流すだけだ!」
アルドは、特製『事象洗浄のエアコンクリーナー』のボトルを構え、魔帝の巨大な竜巻の中心(核)へと向けて突撃した。
――当然ながら、その素材は常軌を逸している。クリーナー液は星の創世の清風から抽出された究極の浄化酵素であり、大宇宙のいかなる猛毒や呪いの瘴気すらも、物理的に『吹きかけて洗い流す』だけで完璧に分解する『究極の空調用洗剤』である。
「オノレェェェッ! 舐メルナ人間! 我ガ本気、全テノ命ヲ腐ラセル『終焉ノ絶対腐敗風』デ、貴様ラゴト塵ニ変エテクレルワ!」
魔帝が残された魔力を暴走させ、周囲の空間ごと全てを吹き飛ばす超巨大な瘴気の竜巻を巻き起こし始めた。
「うわっ! エアコンの奥から、すっごくガンコな汚れの風が逆流してきそう! でも、この特製クリーナーの前には、どんな汚れも一発でスッキリだ!」
アルドがボトルのノズルを向け、力強く本体のトリガーを押すと、神仙の洗浄液が容赦なくプシューッ!と瘴気の竜巻と魔帝の本体に浴びせかけられた。
「バ、バカナァァァッ!? 我ガ最大奥義ノ超絶瘴気ガ、タダノエアコン用洗剤デ中和サレタダトォォォッ!?」
「よし、ガンコな汚れは綺麗に流れ落ちたぞ! 最後に、この『絶対防カビの神仙フィルター』を吹き出し口にカチッと取り付けて……あ、そうだ。このエアコンの親玉、綺麗に洗浄したら凄く静かで滑らかな風を出してるね。ちょっと外装を整えれば、空気を綺麗にして、お部屋を快適な温度にしてくれる『巨大な空気清浄機付きエアコン』にできそうだよ!」
アルドが真っ白な神仙フィルター(事象を完璧に濾過する光の網)を魔帝の竜巻の周囲にスッポリ被せ、事象調律の抗菌コートを施すと、大宇宙の法則が完全にひれ伏した。
暴走していた魔帝の禍々しい腐敗の魔力は、瞬く間に漂白・調律されていく。
『ア……ァァ……。我ノ、世界ヲ死ノ嵐ニ沈メルハズノ瘴気ガ、マルデ都合ノイイ【お部屋ノ空気ヲ優シク循環サセル為ノプラズマクラスター】ノヨウニ……!? イヤ、フィルターヲ取リ付ケラレル度ニ、我ガ巨体ガ、異常ナマデニ心地ヨイ【絶対的ナ空気清浄機能ト極上ノ温度管理効果ヲ誇ル、超巨大エアコン】ニ変換サレテイクゥゥゥッ! 私ノ存在ガ、世界ヲ絶望ニ沈メルノデハナク、コウシテ大陸ニ永遠ノ清潔サト快適ナ風ヲ提供スル「極上ノ全自動・神仙空調設備」トシテ機能スルコトガ、コレホドマデニ満タサレルコトダッタトハ……!』
かつて世界を脅かした暴風の化身は、アルドの「エアコン洗浄とフィルター交換」によって完全に浄化され、書き換えられた。
万物を腐らせる禍々しい風魔は、気がつけば「淀みの魔境を澄み切ったクリスタルブルーの空に変え、風脈を通じて世界中の空気を浄化し、極上のマイナスイオンと適温の風を24時間放ち続ける、超高性能な『永久・神仙特大空気清浄機兼エアコン(見た目は巨大で美しい純白の送風塔)』」へと姿を変えていたのである。
「よしよし! 嫌なカビと悪臭の被害は片付いて、すっごく立派で良い香りのするエアコンになったぞ! おまけに、これがあれば世界中の空気が綺麗になって、夏も冬も快適だね。これで大陸の人たちも、毎日安心して美味しい空気を吸って、気持ちよく眠れるよ!」
アルドがクリーナーの空き缶を片付けて額の汗を拭うと、渓谷を覆っていたドス黒い瘴気の霧は一瞬にして晴れ渡り、眼下には美しく澄み渡る奇跡の青空が広がっていた。
***
数日後。大陸南東部を統べる諸国の王室。
各国の王たちは、クリスタルのように澄み切った空気と報告書を見て震え上がっていた。
「ば、馬鹿な……。我が世界を死の嵐に沈めるはずだった暴風の魔帝が、たった数時間で『完全なエアコン清掃』をされ、あまつさえ魔帝が『超巨大な空気清浄・空調インフラ』に転職して、国中の空気質と温度環境を完璧に管理しているだと……!?」
そこへ、冷徹な執事服に身を包んだアーキヴァルが、うやうやしく一礼して現れた。
「お初にお目にかかります、各国の代表諸君。総合ライフサポート企業『黄昏の守護者』の最高財務責任者、アーキヴァルでございます。この度は、我が社の『CSR活動(空調機器清掃とフィルター交換業務)』をご利用いただき、誠にありがとうございます」
アーキヴァルは、分厚いバインダーから【完全なる大気修復・空調インフラ施設開発代金およびコンサルタント料の請求書】を取り出し、王たちの目の前にドンッと突きつけた。
「我が社の社長(アルド様)の理念により、今回は社会貢献として基本の清掃料金はサービスさせていただいております。……が、魔帝の完全浄化、大気防壁の再構築、そして『大陸全土に極上の空気と適温を供給する巨大空調の永続的な運用費』は、正当なビジネスとして請求させていただきます。お支払いは、各国の年間環境・医療税の六割と、空調・健康経済の独占プロデュース権で手を打ちましょう」
アーキヴァルの冷たい宣告(合法的な超・搾取)と共に、王たちは完全に心をへし折られ、震える手で莫大な報酬の永続支払いにサインをするしかなかった。
***
日だまり郷の黄金の城塞。
静寂に包まれた書斎のデスクで、元・大賢者ゾルタンは、羽ペンをインク壺に浸し、新たな社史のページに文字を刻み込んでいた。
『〇月×日。南東部の淀みの魔境における空調機器清掃、およびフィルター交換作業完了。世界を腐敗させる暴風の魔帝テンペスト・ロード(神話の厄災)を事象のエアコンクリーナーと防カビフィルターで清掃し、立派な特大空気清浄機兼エアコンへと改修。大気の汚染の修復を完了し、大陸全土の公衆衛生と空調経済の発展に多大な貢献を果たした。
……また、我が社のCFOの尽力により、南東部諸国からは莫大な賠償金と、大気資源・空調インフラの独占管理権を合法的に譲り受けることに成功。これで我が社は、地下水脈、気象、海上物流、クリーンエネルギー、次元基盤、自然環境、気候、時間、信仰、光、水回りに続き、ついに「生命の呼吸を司る大気と空調」の覇権すらも完全に掌握したことになる。
社長の「社会貢献」という名の大掃除は、もはや世界のあらゆる概念すらも呑み込み、世界は究極の平穏(我が社による完全支配)へと向かっている。大賢者たるワシの知能をもってしても、神話の瘴気すらマイナスイオンに変える(物理的にフィルターを被せた)この恐るべき企業の快進撃を止める術は、大宇宙のどこにも存在しない。』
ゾルタンが深い溜息と共にペンを置くと、ドアの向こうから「今日のおやつは天界リンゴと蜂蜜で作った、極上の特製アップルティーだよー!」というアルドの無邪気な声が聞こえてきた。
ゾルタンは「神々の絶望を記録した直後のアップルティーは、ことのほか香りが良かろう」とぼやきながらも、頬を緩ませて立ち上がった。
最強の便利屋の「ただのエアコン清掃」は、世界腐敗の危機をただの空調メンテナンスとして解決し、魔帝の脅威を完全に終わらせただけでなく、世界に最高の空気清浄と空調インフラを誕生させてしまった。
企業として躍進するクラン『黄昏の守護者』は、これより正式に大気の覇権をも握り、いかなる邪悪も日常の家事手伝いとして葬り去る、究極の平穏なる企業伝説をまた一つ、分厚い社史のページに深く刻み込んだのであった。
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