第120話:ただのお風呂掃除と、腐死の猛毒王の強制入浴剤化(総合ライフサポート企業の水回り清掃)
第120話:ただのお風呂掃除と、腐死の猛毒王の強制入浴剤化(総合ライフサポート企業の水回り清掃)
黄金の城塞『日だまり郷』の朝は、大宇宙の理すらも平伏す圧倒的な平穏と、魂の奥底から食欲を呼び覚ますような極上の出汁の香り、そして油が弾ける小気味良い音と共に幕を開ける。
今日のアルドは、朝からキッチンの巨大な打ち台と大鍋に向かい、見事な手際で『特製・神仙小麦の極上手打ちうどんと、天界エビと世界樹の野菜のサクサク天ぷら』を仕上げていた。
「よし! メインは、大精霊の清冽な湧き水と神仙小麦を力強く練り上げ、一晩寝かせてから足で踏み、極限までのコシを引き出した特製手打ちうどんだ。大鍋で茹で上げ、氷水で一気に締めた麺は、真珠のように輝いてエッジが立っているよ。そこに、幻獣の昆布と星屑の鰹節からとった、琥珀色に澄み切った極上の熱々お出汁をたっぷりと注ぐ! そして付け合わせは、朝一番で獲れた天界エビと、世界樹の根菜の天ぷら! 神仙油でカラッと揚げてあるから、衣はサックサクで中はフワフワだ。仕上げに柚子の皮を散らして……熱々のうちに完成だ!」
アルドがエプロン姿で、湯気を立てる大鉢のうどんと、黄金色に輝く天ぷらの盛り合わせをダイニングテーブルに運ぶと、その暴力的なまでの出汁の香りに引き寄せられ、神竜ポチとモフモフの星狼シロがテーブルの下でちぎれんばかりに尻尾を振って待機していた。リビングのソファでは、特大モチモチクッションへと強制リメイクされた元・大宇宙の邪神が、ポカポカと温かいヒーター機能を放ちながら、平和なインテリアとしての職務を微動だにせず全うしている。
この極上和食朝食、一口食べれば神仙小麦の極上の炭水化物が全身の魔力回路を限界突破させ、天界エビの圧倒的なタウリンと世界樹のミネラルが血中のあらゆる疲労物質や致死の呪いすらも瞬時にデトックスし、魂の底から尽きることのない多幸感と活力を湧き上がらせる『究極の超覚醒・健康フルコース』である。
「うむ……! この麺の圧倒的な弾力と、噛み締めた瞬間に口の中を満たす小麦の甘み! そして天ぷらを浸した出汁から溢れ出す旨味のビッグバン! 見るだけで我が魔界の闘争本能が、温泉旅館で朝風呂の後にくつろぐ老紳士のようにフニャフニャに溶かされそうになるわい!」
元・魔界大帝サタナスが、箸を両手で震わせながら握りしめ、あまりの美味さにワナワナと肩を震わせて感涙に咽いでいた。
そんな賑やかなダイニングの喧騒が一段落し、食後の極上ほうじ茶が振る舞われた後。
アルドは、防音・防諜の魔法結界が幾重にも張られたリビングの長テーブルの上座に座った。その周囲には、『出張解体アシスタント』のレイヴン、『特殊クリーニング部門責任者』のエルミナ、『総合防犯システム責任者』のシノン、そして『最高財務責任者(CFO)兼・広報担当』のアーキヴァルという、総合ライフサポート企業『黄昏の守護者』の頼もしき役員たちが顔を揃えている。
「さて、みんな。世界中の照明交換(蝕星の暗黒獣のLED化)も終わって、夜の防犯もすっかり安定したね。これもみんなのチームワークのおかげだよ。……それで、次なる『困り事』の案件は何か入っているかな?」
アルドがニコッと微笑みかけると、CFO兼広報担当のアーキヴァルが、優雅な所作で立ち上がり、分厚いバインダーを開いた。
「はい、社長。我が社の次なるCSR活動として、今回は大陸南西部に広がる『深刻な水質汚染と悪臭被害』に関する、極めて重大なご相談を受注いたしました」
アーキヴァルは、手元の書類を指先で弾きながら、冷徹かつ完璧なプレゼンテーションを開始する。
「大陸南西部の巨大な湖に、長年封印されていた『巨大なヘドロの化け物(腐死の猛毒王・ベノム・ロード)』が目覚めまして。強酸性の毒液で湖をドロドロの毒沼に変え、猛烈な悪臭を周囲に撒き散らしております。さらにタチの悪いことに、その化け物が生み出す『毒の分身体ども(※触れるものを溶かすアシッド・スライム群)』が陸地へ這い上がり、人々の家屋や畑を溶かし尽くそうと暴れ回っているのです」
アーキヴァルの言葉の裏にある「真実」を、大公レオハルトと元・大賢者ゾルタンは顔面を蒼白にしながら補完していた。
(腐死の猛毒王だと……!? あれは世界の清らかな水を全て致死の猛毒に変え、星をドロドロの死の海に還す神話級の汚染魔獣。それが覚醒したとなれば、南西部はおろか、世界の地下水脈を通じてあらゆる生命が溶けて死に絶える。本来なら全国家の魔導士を総動員して命がけの超極大浄化結界を張るべき、世界終焉レベルの絶望事態だぞ……!)
しかし、アーキヴァルは一切表情を変えず、アルド向けに完璧に翻訳された依頼書を読み上げる。
「近隣の国々からの要望は、この鬱陶しいヘドロの塊たち(毒スライム群)の『徹底的なお掃除(粉砕と浄化)』と『巨大な親玉(猛毒王)の排水溝清掃』、そして『水回りの悪臭対策と環境改善』です。このまま放置すれば、人々の飲み水が汚れ、お風呂にも入れなくなってしまいます。我が社の社会貢献活動として、これほど迅速な対応が求められる案件はないかと」
「なるほど!」
アルドは、依頼書を見て真剣な表情でポンッと手を叩いた。
「お風呂場の排水溝が髪の毛やヘドロで詰まって、変なヌメリや悪臭が発生してるんだね! おまけに汚水が逆流して周りを汚してるなんて、衛生的に大問題だ。気持ちよくお風呂に入るためにも、水回りの清掃はしっかりやらないと。よーし、さっそく僕たちの『総合ライフサポート』の出番だ!」
アルドが立ち上がると、役職を得たクランメンバーたちも、一斉に気合い(殺意)に満ちた表情で立ち上がった。
「社長。陸地へ這い上がってくる鬱陶しいヌメリ(毒スライムども)の解体と撤去は、この『出張解体アシスタント』にお任せを。核の一つ残さず綺麗にバラバラにして、ただの汚水以下の仕事にしてご覧に入れましょう」
レイヴンが、神具の斧を肩に担ぎながら不敵に笑う。
「ええ。ヘドロが撒き散らすガンコな悪臭や毒素(※致死の猛毒ガスと腐敗液)は、『特殊クリーニング部門』の私が、特製の消臭除菌スプレー(※極大の聖水浄化魔法)で一瞬にして中和・洗浄して差し上げますわ」
エルミナが、美しく銀髪を揺らしながら自信満々に頷く。
「……作業中、悪臭や汚水(※スライムの残党)が他の国へ漏れ出さないよう、『総合防犯システム責任者』として、現場の周囲に完璧な防水・防臭シート(※絶対封殺の空間密閉結界)を張り巡らせておきます」
シノンが、音もなく短剣を弄びながら冷たく宣言する。
「うんうん、みんな本当に頼もしいな! 水回りの清掃は汚れが飛び散りやすいから、しっかり養生シートを張ってくれると助かるよ!」
アルドは、メンバーたちの頼もしい言葉に満足げに頷き、自身の作業着(強酸と毒ガスを完全に無効化する特製ゴム手袋と長靴、防水エプロン)に着替え、手には長い柄のお風呂用ブラシと、強力なパイプクリーナーを握りしめた。
「よーし! それじゃあ僕は、特製『事象研磨のお風呂ブラシ』と『絶対溶解の神仙パイプクリーナー』を持っていくよ! 世界の人たちの清潔な生活を守るために、邪魔なヘドロを溶かして、お風呂場をピカピカにリフォームしてこよう!」
こうして、総合ライフサポート企業『黄昏の守護者』の社員一同は、水陸両用・対毒仕様に改造された魔導軽トラに乗り込み、水が腐り果てつつある南西部の巨大毒沼へと向けて出勤したのである。
***
その頃、大陸南西部の毒沼の中心。
清らかな湖をドロドロの酸の海に変え、大地を溶かす大地の悪夢『腐死の猛毒王ベノム・ロード』が、毒の気泡を弾けさせながら、傲慢な溶解音を響かせていた。
「ボコボコボコ……! 素晴らしいぞ! この星の水を全て腐らせる毒液さえあれば、地上の生命など一瞬で骨も残らず溶け去る! 見よ、我がもたらすこの圧倒的な死の泥濘を!」
猛毒王は、巨大なヘドロの触手を広げ、無数のアシッド・スライムたちを陸地へと放った。
「愚かな地上の生命どもめ。我が目覚めたからには、もはやこの星に清らかな水はないと知れ! さあ、もっとだ! 全てを溶かし、大陸全土を永遠の毒の海に沈めよ!」
「我ら腐死の眷属の溶解力は絶対だ! この猛毒の領域まで踏み込める者など、この世界にはもはや存在し――」
――キキィィィィッ!! バタンッ!
猛毒王が勝利の宣言を口にしようとしたその瞬間、悪臭放つ毒沼の岸辺に、四つの車輪がついた奇妙な小型の鉄箱(魔導軽トラ)が、強酸の泥濘をものともせずにドリフト着陸する音が響き渡った。
そして、軽トラのドアが「ガラッ」と無遠慮に開け放たれ、お風呂ブラシと洗剤ボトルを持った青年の明るい声が、腐敗の静寂を完全に打ち破ったのである。
「ちわーっす! 総合ライフサポート企業『黄昏の守護者』です! 近隣の国の方々からご依頼いただいた水回りの清掃と排水溝の詰まり抜きに伺いましたー! ……うわぁ、こりゃひどいヘドロと、目に染みるようなカビの臭いだね! こりゃ大掃除しがいがあるや!」
アルドは、ゴム手袋をキュッとはめながら、プロの清掃業者としてのダメ出しを開始した。
「ナ、何奴ッ!? 我ガ絶対腐敗ノ領域ニ、地上ノ虫ケラガ何ノ用ダ!」
猛毒王が驚愕の気泡を上げる中、アルドの後ろから、レイヴン、エルミナ、シノン、そしてアーキヴァルが、それぞれの「清掃用具(兵器)」を手にして、圧倒的な威圧感を放ちながら岸辺へと降り立ったのである。
「さあ、社長。まずはこの鬱陶しいヌメリ(毒スライム)どもから、綺麗に『バラして』差し上げましょう」
レイヴンが神具の斧を構え、凶悪な笑みを浮かべる。
総合ライフサポート企業の次なる社会貢献(能動的な悪の粉砕)が、死の毒沼で今まさに始まろうとしていた。
「ナ、ナンダ貴様ラハ!? 我ガ絶望ノ毒海ヲ『排水溝』ダト!? 舐メルナ地上ノウジ虫ドモッ! 我ガアシッド・スライムデ、貴様ラノ肉体ヲ永遠ニ溶カシ尽クシテクレルワ!」
猛毒王の怒号と共に、岸を覆うほどのドス黒いスライムの群れが、一斉にアルドたちに向かって溶解液を飛ばして襲い掛かった。
「うわっ、このヘドロ、すっごくベタベタしてて酸っぱい臭いがする! 服についたら色落ちして危ないぞ!」
アルドは、迫り来るアシッド・スライムを「長年の汚れで意志を持ったタチの悪いヘドロの塊」と完全に誤認し、お風呂ブラシの柄を強く握りしめた。
「社長、ここは我々『社員』にお任せを。汚水や悪臭が外に漏れないよう、まずは私が防水シートを広げます」
シノンが音もなく跳躍し、巨大毒沼の周囲を囲むように、無数の札(神仙の空間密閉結界符)を空中に投げ放った。
――ピィィィィンッ!
瞬間、毒沼全体をドーム状に覆うように、透明で絶対的な強度を誇る『神仙の防水・防臭結界』が展開された。これで、猛毒のガスは一ミリたりとも外へ漏れ出すことはない。
「完璧な養生ですわ、シノンさん。では、私はヘドロが撒き散らすガンコな悪臭や毒素(致死の猛毒ガス)を、特殊クリーニングで綺麗に中和いたしますわ!」
エルミナが白銀の杖を天に掲げると、大宇宙の理を内包した『極大聖水浄化魔法』が、超強力な消臭スプレーのように周囲の毒気を包み込んだ。
「ギャアアアアッ!?」
万物を溶かす猛毒ガスは、その浄化の光の霧を浴びた瞬間、身に纏っていた毒の魔力ごと完全に無力化され、ただの爽やかな石鹸の香りがする無害なミストへと変わっていく。
「フンッ! 毒を抜かれたゼリーなど、ただの解体のマトだ! そして、邪魔なヌメリは私が綺麗に斬り刻んでやろう!」
レイヴンが神具の斧を大上段に構え、スライムの群れに向かって旋風のごとく突っ込む。
「汚物解体斬ィィィッ!!」
放たれた一撃は、スライムの流体ボディの中にある「魔力核の隙間」を完璧に見切り、まるでゼリーを細かく刻むかのように、シャリィィィン!と見事な手際で微塵切りにしてしまった。
「ナ、何ィィィッ!? 我ガ無敵ノ猛毒スライムガ、タダノ『消臭』ト『微塵切り』ノ前ニ、一瞬デ無力化サレテイクゥゥッ!?」
猛毒王は、自らの絶望の眷属がものの数分で「ただの細切れゼリー」に変わり、悪臭が消え去った光景に、驚愕のあまり巨体を震わせた。
「よし、みんなのおかげで邪魔なヌメリと悪臭は片付いたね! あとは、あの一番ドロドロになってる『排水溝の親玉(猛毒王)』にパイプクリーナーを流し込んで、ブラシで磨くだけだ!」
アルドは、特製『絶対溶解の神仙パイプクリーナー』のボトルを構え、猛毒王の巨大な顔面(核)へと向けて突撃した。
――当然ながら、その素材は常軌を逸している。クリーナー液は星の創世の海から抽出された究極の浄化酵素であり、大宇宙のいかなる猛毒や呪いのヘドロすらも、物理的に『かけて放置する』だけで完璧に分解する『究極の排水溝用洗剤』である。
「オノレェェェッ! 舐メルナ人間! 我ガ本気、全テノ命ヲ腐ラセル『終焉ノ絶対腐敗』デ、貴様ラゴト泥ニ変エテクレルワ!」
猛毒王が残された魔力を暴走させ、周囲の空間ごと全てを溶かす超巨大な酸の津波を巻き起こし始めた。
「うわっ! 排水溝の奥から、すっごくガンコな汚れが逆流してきそう! でも、この特製クリーナーの前には、どんな汚れも一発でスッキリだ!」
アルドがボトルのノズルを向け、力強く本体を押すと、神仙のジェルが容赦なくドピュッ!と酸の津波と猛毒王の本体に浴びせかけられた。
「バ、バカナァァァッ!? 我ガ最大奥義ノ超酸津波ガ、タダノ排水溝用洗剤デ中和サレタダトォォォッ!?」
「よし、ガンコな汚れは綺麗に分解されたぞ! 最後に、この『事象研磨のお風呂ブラシ』でゴシゴシ磨いて……あ、そうだ。このヘドロの親玉、綺麗に磨いたら凄く透明でプルプルしてるね。ちょっと成分を調整すれば、お風呂のお湯を綺麗にして、お肌もツルツルにしてくれる『巨大な入浴剤兼・浄水フィルター』にできそうだよ!」
アルドがお風呂ブラシで猛毒王の本体をピカピカになるまでゴシゴシと磨き上げ、事象調律のリンス剤を揉み込むと、大宇宙の法則が完全にひれ伏した。
暴走していた猛毒王の禍々しい腐敗の魔力は、瞬く間に漂白・調律されていく。
『ア……ァァ……。我ノ、世界ヲ死ノ海ニ沈メルハズノ猛毒ガ、マルデ都合ノイイ【お肌ノ角質ヲ優シク落トス為ノ美容成分】ノヨウニ……!? イヤ、ブラシデ磨カレル度ニ、我ガ巨体ガ、異常ナマデニ心地ヨイ【絶対的ナ浄水機能ト極上ノアロマ効果ヲ誇ル、超巨大入浴剤フィルター】ニ変換サレテイクゥゥゥッ! 私ノ存在ガ、世界ヲ絶望ニ沈メルノデハナク、コウシテ大陸ニ永遠ノ清潔サト美肌ヲ提供スル「極上ノ全自動・神仙バスボール」トシテ機能スルコトガ、コレホドマデニ満タサレルコトダッタトハ……!』
かつて世界を脅かした猛毒の化身は、アルドの「パイプ洗浄とブラシ磨き」によって完全に浄化され、書き換えられた。
万物を溶かす禍々しいヘドロ獣は、気がつけば「毒沼を澄み切ったクリスタルブルーの湖に変え、水脈を通じて世界中の水を浄化し、極上の温泉成分を24時間放ち続ける、超高性能な『永久・神仙特大浄水フィルター兼入浴剤(見た目は巨大で美しいプルプルの水球)』」へと姿を変えていたのである。
「よしよし! 嫌なヘドロと悪臭の被害は片付いて、すっごく立派で良い香りのする入浴剤になったぞ! おまけに、これがあれば世界中のお水が綺麗になってお肌もツルツルだね。これで大陸の人たちも、毎日安心して美味しいお水を飲んで、気持ちいいお風呂に入れるよ!」
アルドがお風呂ブラシを片付けて額の汗を拭うと、湖を覆っていたドス黒い毒の霧は一瞬にして晴れ渡り、眼下には美しく輝く奇跡の湖面が広がっていた。
***
数日後。大陸南西部を統べる諸国の王室。
各国の王たちは、クリスタルのように輝く湖と報告書を見て震え上がっていた。
「ば、馬鹿な……。我が世界を毒の海に沈めるはずだった腐死の猛毒王が、たった数時間で『完全な排水溝清掃』をされ、あまつさえ猛毒王が『超巨大な浄水・温泉インフラ』に転職して、国中の水質と公衆衛生を完璧に管理しているだと……!?」
そこへ、冷徹な執事服に身を包んだアーキヴァルが、うやうやしく一礼して現れた。
「お初にお目にかかります、各国の代表諸君。総合ライフサポート企業『黄昏の守護者』の最高財務責任者、アーキヴァルでございます。この度は、我が社の『CSR活動(水回り清掃と浄水フィルター設置業務)』をご利用いただき、誠にありがとうございます」
アーキヴァルは、分厚いバインダーから【完全なる水質修復・公衆衛生インフラ施設開発代金およびコンサルタント料の請求書】を取り出し、王たちの目の前にドンッと突きつけた。
「我が社の社長(アルド様)の理念により、今回は社会貢献として基本の清掃料金はサービスさせていただいております。……が、猛毒王の完全浄化、水質防壁の再構築、そして『大陸全土に極上の水と美容成分を供給する巨大フィルターの永続的な運用費』は、正当なビジネスとして請求させていただきます。お支払いは、各国の年間水道・医療税の六割と、美容・温泉経済の独占プロデュース権で手を打ちましょう」
アーキヴァルの冷たい宣告(合法的な超・搾取)と共に、王たちは完全に心をへし折られ、震える手で莫大な報酬の永続支払いにサインをするしかなかった。
***
日だまり郷の黄金の城塞。
静寂に包まれた書斎のデスクで、元・大賢者ゾルタンは、羽ペンをインク壺に浸し、新たな社史のページに文字を刻み込んでいた。
『〇月×日。南西部の毒沼における水回り清掃、および排水溝の詰まり抜き作業完了。世界を腐敗させる腐死の猛毒王ベノム・ロード(神話の厄災)を事象のパイプクリーナーとブラシで清掃し、立派な特大浄水フィルター兼入浴剤へと改修。水質の汚染の修復を完了し、大陸全土の公衆衛生と美容経済の発展に多大な貢献を果たした。
……また、我が社のCFOの尽力により、南西部諸国からは莫大な賠償金と、水資源・温泉インフラの独占管理権を合法的に譲り受けることに成功。これで我が社は、地下水脈、気象、海上物流、クリーンエネルギー、次元基盤、自然環境、気候、時間、信仰、光に続き、ついに「生命の源たる水と衛生」の覇権すらも完全に掌握したことになる。
社長の「社会貢献」という名の大掃除は、もはや世界のあらゆる概念すらも呑み込み、世界は究極の平穏(我が社による完全支配)へと向かっている。大賢者たるワシの知能をもってしても、神話の猛毒すら美容成分に変える(物理的にブラシで磨き上げた)この恐るべき企業の快進撃を止める術は、大宇宙のどこにも存在しない。』
ゾルタンが深い溜息と共にペンを置くと、ドアの向こうから「今日のおやつは天界エビの天ぷらを乗せた、特製冷やしぶっかけうどんだよー!」というアルドの無邪気な声が聞こえてきた。
ゾルタンは「神々の絶望を記録した直後の冷やしうどんは、ことのほか喉越しが良かろう」とぼやきながらも、頬を緩ませて立ち上がった。
最強の便利屋の「ただのお風呂掃除」は、世界腐敗の危機をただの水回り清掃として解決し、猛毒王の脅威を完全に終わらせただけでなく、世界に最高の浄水と美容インフラを誕生させてしまった。
企業として躍進するクラン『黄昏の守護者』は、これより正式に水資源の覇権をも握り、いかなる邪悪も日常の家事手伝いとして葬り去る、究極の平穏なる企業伝説をまた一つ、分厚い社史のページに深く刻み込んだのであった。
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