第109話:ただの高枝切りと、天空要塞の強制剪定(総合ライフサポート企業の庭手入れ・前編)
第109話:ただの高枝切りと、天空要塞の強制剪定(総合ライフサポート企業の庭手入れ・前編)
黄金の城塞『日だまり郷』の朝は、大宇宙の理すらも平伏す圧倒的な平穏と、前世の記憶を強烈に刺激する極上のスパイスの香り、そして油が弾ける軽快な音と共に幕を開ける。
今日のアルドは、朝からキッチンの巨大な揚げ鍋に向かい、見事な温度管理で『特製・幻獣鶏の極上フライドチキンと、世界樹の若葉のシャキシャキサラダ』を仕上げていた。
「よし! メインは、大精霊の加護を受けて育った幻獣鶏の骨付き肉だ。これを、神仙のミルクと数十種類の星屑スパイスをブレンドした特製ダレに一晩漬け込んで、極上の幻獣油で二度揚げする! 外はカリッカリ、中は肉汁が弾けるくらいジューシーに仕上がっているよ。そして、脂っこさを中和するために、今朝裏庭で摘んできたばかりの世界樹の若葉を使った特製サラダ! 星屑レモンのドレッシングをたっぷりかけて……完成だ!」
アルドがエプロン姿で、黄金色に輝き、香ばしい匂いを暴力的なまでに放つフライドチキンの山とサラダボウルをダイニングテーブルに運ぶと、神竜ポチとモフモフの星狼シロがテーブルの下でちぎれんばかりに尻尾を振って待機していた。リビングのソファでは、特大モチモチクッションへと強制リメイクされた元・大宇宙の邪神が、ポカポカと温かいヒーター機能を放ちながら、平和なインテリアとしての職務を微動だにせず全うしている。
このフライドチキン、一口食べれば幻獣鶏の極上のタンパク質と秘伝のスパイスが全身の魔力回路を限界突破させ、世界樹のサラダが血中のあらゆる疲労物質や呪いを瞬時にデトックスし、魂の底から尽きることのない多幸感と活力を湧き上がらせる『究極の超覚醒・スタミナジャンクフード』である。
「うむ……! この衣のサクサクとした神聖なる響きと、噛み締めた瞬間に口の中を満たす肉汁のビッグバン! そしてサラダの圧倒的な清涼感! 見るだけで我が魔界の闘争本能が、休日の昼下がりにビールを片手に寛ぐ父親のようにフニャフニャに溶かされそうになるわい!」
元・魔界大帝サタナスが、骨付き肉を両手で震わせながら握りしめ、あまりの美味さにワナワナと肩を震わせて感涙に咽いでいた。
そんな賑やかなダイニングの喧騒が一段落し、食後の極上ハーブティー(大精霊の朝露ブレンド)が振る舞われた後。
アルドは、防音・防諜の魔法結界が幾重にも張られたリビングの長テーブルの上座に座った。その周囲には、『出張解体アシスタント』のレイヴン、『特殊クリーニング部門責任者』のエルミナ、『総合防犯システム責任者』のシノン、そして『最高財務責任者(CFO)兼・広報担当』のアーキヴァルという、総合ライフサポート企業『黄昏の守護者』の頼もしき役員たちが顔を揃えている。
「さて、みんな。王都の地下水脈のリノベーション(古代兵器の無力化)は大成功だったね! お客様(王都の住民たち)も毎日お家で温泉に入れるようになって、すっごく喜んでくれているよ。これもみんなのチームワークのおかげだ。……それで、次なる『社会貢献』の案件は何か入っているかな?」
アルドがニコッと微笑みかけると、CFO兼広報担当のアーキヴァルが、優雅な所作で立ち上がり、分厚いバインダーを開いた。
「はい、社長。我が社の次なるCSR活動として、今回は大陸の中央部、天空を覆うように存在する『日照権の侵害』に関する、極めて深刻なご相談(極秘SOS)を受注いたしました」
アーキヴァルは、手元の書類を指先で弾きながら、冷徹かつ完璧なプレゼンテーションを開始する。
「大陸の中央上空に、長年放置されていた巨大な『古い大木のような浮島(天空の古代要塞)』があるのですが……実は最近、そこにタチの悪い『凶暴なカラスの群れ(※狂竜騎士団)』が巣を作って居座り、大量のフンやゴミ(※天候を操る雷撃と暴風)を地上に撒き散らしているのです。そのせいで太陽の光が遮られ、地上の国々は深刻な日照不足と農作物の被害に悩まされています」
アーキヴァルの言葉の裏にある「真実」を、大公レオハルトと元・大賢者ゾルタンは顔面を蒼白にしながら補完していた。
(天空の古代要塞を占拠した狂竜騎士団だと……!? あそこは天候そのものを操作する神話の時代の遺物。奴らはその力を使って人工的な大寒波や雷雨を引き起こし、地上の国々に莫大な貢物を要求しているのだ。本来なら全国家が同盟を結んで空中艦隊を派遣すべき、大陸規模の絶望的な事態だぞ……!)
しかし、アーキヴァルは一切表情を変えず、アルド向けに完璧に翻訳された依頼書を読み上げる。
「地上の国々からの要望は、この巨大な浮島の『伸びすぎた枝の剪定(要塞の兵器施設の無力化)』と『害鳥駆除(狂竜と騎士団の殲滅)』、そして『日照権の回復』です。このまま放置すれば、地上の畑は全て枯れ果て、深刻な食糧難に陥ってしまいます。我が社の社会貢献活動として、これほど迅速な対応が求められる案件はないかと」
「なるほど!」
アルドは、依頼書を見て真剣な表情でポンッと手を叩いた。
「大きな木を放っておいて枝が伸び放題になると、下にある畑に日光が当たらなくなっちゃうんだよね! おまけにカラスが巣を作ってゴミを落としてるなんて、ご近所迷惑もいいところだ。高いところの作業は危ないけど、そのままにしておくわけにはいかない。よーし、さっそく僕たちの『総合ライフサポート』の出番だ!」
アルドが立ち上がると、役職を得たクランメンバーたちも、一斉に気合い(殺意)に満ちた表情で立ち上がった。
「社長。空を飛び回る鬱陶しい巨大カラス(飛竜)の解体と撤去は、この『出張解体アシスタント』にお任せを。羽の一枚、骨の一本から綺麗にさばいてご覧に入れましょう」
レイヴンが、神具の斧を肩に担ぎながら不敵に笑う。
「ええ。カラスが撒き散らすガンコなゴミや悪臭(※致死の雷撃と暴風雨)は、『特殊クリーニング部門』の私が、特製の静電気防止スプレー(※大気操作の浄化魔法)で一瞬にして中和・漂白して差し上げますわ」
エルミナが、美しく銀髪を揺らしながら自信満々に頷く。
「……作業中、害鳥(※騎士団の残党)が地上へ逃げ出さないよう、『総合防犯システム責任者』として、空中に完璧な防鳥ネット(※絶対封殺の対空結界)を張り巡らせておきます」
シノンが、音もなく短剣を弄びながら冷たく宣言する。
「うんうん、みんな本当に頼もしいな! 高所作業は安全第一だから、しっかりネットを張ってくれると助かるよ!」
アルドは、メンバーたちの頼もしい言葉に満足げに頷き、自身の作業着(高空の強風や雷を完全に弾く特製オーバーオール)に着替え、手には安全帯をしっかり握りしめた。
「よーし! それじゃあ僕は、特製『事象切断の高枝切りバサミ』と『絶対捕獲の虫網』、それから『枝の切り口に塗る防腐剤』を持っていくよ! みんなの畑にしっかり太陽の光が当たるように、空の迷惑な木をピカピカに剪定してこよう!」
こうして、総合ライフサポート企業『黄昏の守護者』の社員一同は、空を飛ぶように改造された(アルドの魔力を受けて物理法則を無視して浮遊する)魔導軽トラに乗り込み、大陸上空に居座る『天空の古代要塞』へと向けて出勤したのである。
***
その頃、大陸の中央上空にぽっかりと浮かぶ巨大な岩塊、『天空の古代要塞』。
天候を操る『気象制御ジェネレーター』が鎮座するその要塞の中枢部では、ここを不法占拠した狂竜騎士団の団長が、眼下の雲海と地上の国々を見下ろしながら、傲慢な高笑いを上げていた。
「フハハハハ! 素晴らしいぞ! この要塞の気象制御装置さえあれば、地上の天候は我らの思いのままだ! 見よ、我らが呼び起こしたこの圧倒的な雷雲と暴風雨を!」
団長は、傍らに控える凶悪な飛竜の首を撫でながら、配下の騎士たちに号令をかけた。
「愚かな地上の王どもめ。我らに莫大な金銀財宝と食糧を捧げぬ限り、永遠に太陽の光を見ることはないと知れ! さあ、もっとだ! ジェネレーターの出力を上げ、さらに厚い雲で地上を覆い尽くせ!」
「ギャオオォォォッ!!」
要塞の周囲を飛び回る数百頭の凶悪な飛竜たちが、主の言葉に呼応して鼓膜を裂くような咆哮を上げる。
「我ら狂竜騎士団の空の支配は絶対だ! この圧倒的な高空まで攻め上ってこられる者など、この世界にはもはや存在し――」
――キキィィィィッ!! バタンッ!
団長が勝利の宣言を口にしようとしたその瞬間、要塞のメインデッキ(空中庭園)のど真ん中に、四つの車輪がついた奇妙な小型の鉄箱(魔導軽トラ)が、雲を切り裂いてフワリと着陸する音が響き渡った。
そして、軽トラのドアが「ガラッ」と無遠慮に開け放たれ、信じられないほど長い柄のついたハサミを持った青年の明るい声が、天空の静寂を完全に打ち破ったのである。
「ちわーっす! 総合ライフサポート企業『黄昏の守護者』です! 地下の方々からご依頼いただいたお庭の手入れと害鳥駆除に伺いましたー! ……うわぁ、こりゃひどいカラスの巣と、伸び放題の枝(兵器塔)だね!」
アルドは、首に巻いたタオルで汗を拭いながら、プロの庭師としてのダメ出しを開始した。
「な、何奴ッ!? 我が絶対空域に、地上の虫ケラが何の用だ!」
狂竜騎士団長が驚愕の声を上げる中、アルドの後ろから、レイヴン、エルミナ、シノン、そしてアーキヴァルが、それぞれの「清掃用具(兵器)」を手にして、圧倒的な威圧感を放ちながらメインデッキへと降り立ったのである。
「さあ、社長。まずはこの鬱陶しい黒カラス(飛竜と騎士)どもから、綺麗に『解体』して差し上げましょう」
レイヴンが神具の斧を構え、凶悪な笑みを浮かべる。
総合ライフサポート企業の次なる社会貢献(能動的な悪の粉砕)が、天空の要塞で今まさに始まろうとしていた。
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