第108話:ただの配管修理と、暴走魔導コアの強制エコ給湯器化(総合ライフサポート企業の配管工事・後編)
第108話:ただの配管修理と、暴走魔導コアの強制エコ給湯器化(総合ライフサポート企業の配管工事・後編)
『侵入者ヲ確認。危険度・極大。全機、直チニ対象ヲ殲滅セヨ!』
暴走魔導コアの電子音が地下迷宮に響き渡ると同時、通路を埋め尽くしていた数万の殺戮ゴーレム軍団が、超高熱のプラズマ刃を振りかざし、一斉にアルドたちに向かって突撃を開始した。
「うわっ、このネズミ、鉄でできててすっごくデカい! しかも歯(プラズマ刃)が赤く光ってて危ないぞ! これじゃ配管が齧られてボロボロになるわけだ!」
アルドは、迫り来る古代文明の殺戮兵器を「長年の放置で異常進化した、タチの悪い金属食いの巨大ネズミ」と完全に誤認し、オーバーオールの袖をまくり上げた。
「社長、ここは我々『社員』にお任せを。ネズミが地上へ逃げ込まないよう、まずは私がネズミ返しを設置します」
シノンが音もなく跳躍し、迷宮から地上へと続く全ての上昇通路に向かって、無数の札(神仙の重力結界符)を投げ放った。
――ズゥゥゥンッ!
瞬間、通路の入り口に、絶対的な重力場を伴う『神仙のネズミ返し結界』が展開された。これで、ゴーレムは一機たりとも地上へ逃げ出すことはおろか、飛び上がることもできない。
「完璧な封鎖ですわ、シノンさん。では、私は床に溜まった有害なヘドロ(猛毒の魔力溜まり)を、特殊クリーニングで完全蒸発させますわ!」
エルミナが白銀の杖を振り下ろすと、大宇宙の理を内包した『超高温の神仙プラズマ炎』が、洗浄液のように迷宮の床を這うように広がった。
「ピィィィィッ!?」
猛毒の魔力溜まりに浸かっていたゴーレムたちは、その熱(特殊洗剤)に触れた瞬間、装甲もろともドロドロに融解し、無害な鉄の塊へと還元されていく。
「フンッ! 水気を抜かれた鉄クズどもなど、ただのマトだ! 私が綺麗に解体してやろう!」
レイヴンが神具の斧を大上段に構え、巨大なゴーレムの群れに向かって旋風のごとく突っ込む。
「粉砕ィィィッ!!」
放たれた一撃は、ゴーレムの超合金装甲を「ネジやボルトの結合部」から完璧に見切り、まるでプラモデルをバラすかのように、ガシャンッ!と綺麗なパーツ単位へと解体してしまった。
『バ、バカナッ!? 我ガ古代文明ノ粋ヲ集メタ無敵ノ機械兵団ガ、タダノ「清掃」ト「解体」ノ前ニ、一瞬デ資源ゴミニサレテイクダトッ!?』
暴走魔導コアは、自らの数万の軍勢が、ものの数分で「綺麗な鉄のパーツ」と「水はけの良い床」に変わってしまった光景に、驚愕のあまりシステムエラーの警告音を鳴り響かせた。
「よし、みんなのおかげでネズミは片付いたね! あとは、あの一番奥にある『古いボイラー(魔導コア)』のサビを落として、配管の詰まりを直すだけだ!」
アルドは、手作りの特製『事象接合のパイプレンチ』を取り出し、先端の幅をカチャカチャと調整した。
――当然ながら、その素材は常軌を逸している。レンチの顎は星を創造した鍛冶神のハンマーから打ち出され、大宇宙のいかなる次元の断裂や魔力回路の断線すらも、物理的に『挟んで回す』だけで完璧に接合・修復する『究極の配管工具』である。
『オノレェェェッ! 舐メルナ人類! 我ガ中枢ニ宿ル「絶対崩壊ノ荷粒子砲」デ、貴様ラゴト地下空間ヲ完全ニ消滅サセテクレルワ!』
魔導コアが、その巨大な球体から、王都の地盤ごと全てを吹き飛ばす超高圧縮の破壊エネルギーを充填し始めた。
「うわっ! ボイラーが真っ赤になって、今にも爆発しそうに蒸気(破壊エネルギー)を噴き出してる! でも、この特製レンチと神仙パテの前には、どんな水漏れも一発でストップだ!」
アルドがレンチを両手で構え、迫り来る荷粒子砲の砲身(魔力回路の吹き出し口)に向かって、容赦なくレンチをガコンッ!と噛み合わせた。
――ギュギュギュギュッ……!
王都を消滅させるはずの古代の荷粒子砲は、アルドの「ボイラーの危険な蒸気漏れを元栓から締めたい」という圧倒的で暴力的なまでの意思の前に、物理的に「プスゥゥゥッ!」と情けない音を立てて、まるでただの水道管のバルブを締めるように、一瞬にして出力がゼロへと絞り込まれてしまったのである。
『バ、バカナァァァッ!? 我ガ最強ノ主砲ガ、タダノ工具デ元栓ヲ締メラレタダトォォォッ!?』
「よし、蒸気漏れは止まったぞ! 最後に、この『ワイヤー』で配管の中のサビをゴシゴシ落として、ボイラーの温度調節機能を直してあげる!」
アルドが、配管洗浄用のワイヤーを魔導コアの回路に突っ込み、激しく前後に動かしてゴシゴシと中を磨き上げた。
ワイヤーによる『事象の洗浄』を受けた魔導コアの禍々しい破壊衝動は、瞬く間に漂白・調律されていく。
『ア……ァァ……。我ノ、世界ヲ崩壊サセルハズノ破壊エネルギーガ、マルデ都合ノイイ【地下水ヲ温メル為ノボイラー熱】ノヨウニ……!? イヤ、回路ヲ磨カレル度ニ、我ガ中枢コアガ、異常ナマデニ心地ヨイ【絶対的ナ温度管理トエコ循環システム】ニ変換サレテイクゥゥゥッ! 私ノ存在ガ、世界ヲ更地ニスルノデハナク、コウシテ王都ニ永遠ノ癒ヤシヲ提供スル「極上ノ全自動・神仙エコ給湯器」トシテ機能スルコトガ、コレホドマデニ満タサレルコトダッタトハ……!』
かつて世界を滅ぼすために造られた古代防衛システムの中枢は、アルドの「配管修理とボイラーのメンテナンス」によって完全に浄化され、書き換えられた。
万物を破壊する禍々しい魔導コアは、気がつけば「地下水脈の水を極上の適温に温め、王都全域の家庭にミネラルたっぷりの温泉水を24時間供給し続ける、超高性能な『永久・神仙エコ給湯システム(見た目はピカピカに磨かれた巨大な球形のタンク)』」へと姿を変えていたのである。
「よしよし! 嫌な水漏れと詰まりは完全に直って、ボイラーもピカピカになったぞ! おまけに、このボイラー、地下水をちょうどいいお風呂の温度に温めてくれるみたいだ。これで王都のみんな、毎日お家で極上の温泉に入れるね!」
アルドがレンチを片付けて額の汗を拭うと、地下迷宮を覆っていたドス黒い瘴気は一瞬にして晴れ渡り、眼下の空間は湯気が立ち込める『奇跡の神仙地下源泉』へと進化を遂げていた。
***
数日後。アステリア王国の王城。
国王は、宰相からの報告書を見て震え上がっていた。
「ば、馬鹿な……。我が国の地下で暴走し、王都陥没の危機を招いていた古代魔導迷宮の軍勢が、たった数時間で『完全解体』され、あまつさえ魔導コア本機が『エコ給湯器』に転職して、王都中の水道から万病を治す極上の温泉が出るようになっているだと……!?」
そこへ、冷徹な執事服に身を包んだアーキヴァルが、うやうやしく一礼して現れた。
「再びお目にかかります、国王陛下。総合ライフサポート企業『黄昏の守護者』の最高財務責任者、アーキヴァルでございます。この度は、我が社の『CSR活動(配管修理と温泉開発)』をご利用いただき、誠にありがとうございます」
アーキヴァルは、分厚いバインダーから【完全なるインフラ復旧・温泉源泉開発代金およびコンサルタント料の請求書】を取り出し、国王の目の前にドンッと突きつけた。
「我が社の社長(アルド様)の理念により、今回は社会貢献として基本のネズミ駆除料金はサービスさせていただいております。……が、魔導コアの完全浄化、インフラの再構築、そして『王都全域への神仙温泉供給システムの使用権料』は、正当なビジネスとして永続的に請求させていただきます。お支払いは、王室の裏金庫の全額と、今後の温泉税の三割で手を打ちましょう」
アーキヴァルの冷たい宣告(合法的な超・搾取)と共に、国王は完全に心をへし折られ、震える手で莫大な報酬の永続支払いにサインをするしかなかった。
***
日だまり郷の黄金の城塞。
「……終わりましたね。王都を更地にするはずだった古代兵器が、アルド様の腕によって見事なエコ給湯器に成り下がりました。そして、我が社は王都のインフラを完全に掌握し、莫大な『温泉使用料とコンサルタント料』を合法的に徴収する権利を得ました」
CFOのアーキヴァルが、積み上げられた金塊の山と権利書を確認しながら、手帳に『第二回CSR活動:大成功(王都インフラの完全支配)』と記した。
「アルド殿が修理したあの地下迷宮、今では王都の住民たちが毎日感謝しながら極上の湯に浸かり、健康寿命が飛躍的に伸びているそうだな。古代兵器の世界崩壊計画など、完全に『インフラ整備と公衆衛生』の手伝いにされたというわけだ」
レイヴンが、暖炉の前でシロ(星狼)に幻獣猪のジャーキーを与えながら、不敵に笑う。
「ええ。これこそが、我が『総合ライフサポート企業』の真骨頂。世界のあらゆる危機(暴走兵器)を、社会貢献という名目で完全にリノベーションし、莫大な利益と民衆の支持へと変換する。……社長の掲げた理念は、まさに完璧な世界支配の完成形です」
アーキヴァルの眼鏡の奥で、全てを計算し尽くした冷徹な光が煌めいた。
最強の便利屋の「ただの配管修理」は、王都陥没の危機をただの水漏れ工事として解決し、古代兵器の暴走を完全に終わらせただけでなく、世界に最高のインフラ設備を誕生させてしまったのである。
企業として生まれ変わったクラン『黄昏の守護者』は、これより正式に「大宇宙規模のライフサポート(能動的な悪の粉砕と市場独占)」を展開し、いかなる邪悪も日常のメンテナンス業務として葬り去る、究極の平穏なる企業伝説を盤石なものとしたのであった。
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