第107話:ただの地下室清掃と、古代魔導迷宮の強制リノベーション(総合ライフサポート企業の配管工事・前編)
第107話:ただの地下室清掃と、古代魔導迷宮の強制リノベーション(総合ライフサポート企業の配管工事・前編)
黄金の城塞『日だまり郷』の朝は、大宇宙の理すらも平伏す圧倒的な平穏と、前世の記憶を優しくくすぐる極上の和の香り、そして胃袋の底から歓喜を呼び覚ますような出汁の匂いと共に幕を開ける。
今日のアルドは、朝からキッチンの巨大な圧力鍋に向かい、見事な火加減と調味料の黄金比で『特製・幻獣猪のトロトロ角煮と、世界樹の大根の染み煮』を仕上げていた。
「よし! メインは、大精霊の森で育った幻獣猪の極厚バラ肉を、特製の神仙醤油と星屑のザラメで三日三晩煮込んだ特大の角煮だ。箸でスッと切れるくらいトロトロになっているよ。そして、角煮の旨味を極限まで吸い込んだ世界樹の大根! これに、炊きたての幻獣コシヒカリと、ピリッと辛い神仙カラシを添えて……完成だ!」
アルドがエプロン姿で、琥珀色に輝く照りと圧倒的な湯気を放つ大皿をダイニングテーブルに運ぶと、その生命力と香ばしい醤油の匂いに引き寄せられ、神竜ポチとモフモフの星狼シロがテーブルの下でちぎれんばかりに尻尾を振って待機していた。リビングのソファでは、特大モチモチクッションへと強制リメイクされた元・大宇宙の邪神が、ポカポカと温かいヒーター機能を放ちながら、シロの下敷きになって完全に癒やしのインテリアとしての職務を全うしている。
この角煮定食、一口食べれば幻獣猪の極上のコラーゲンとアミノ酸が全身の魔力回路を限界突破させ、世界樹の大根が致死の猛毒や精神的疲労すらも完全にデトックスし、魂の底から尽きることのない活力を湧き上がらせる『究極の超覚醒・健康和食』である。
「うむ……! この角煮の黄金の照りと、箸を入れた瞬間に崩れる圧倒的な柔らかさ! そして大根からジュワッと溢れ出す神聖なる肉汁の海! 見るだけで我が魔界の闘争本能が、冬のこたつで丸くなる猫のようにフニャフニャに溶かされそうになるわい!」
元・魔界大帝サタナスが、お箸を震わせながら握りしめ、あまりの美味さにワナワナと肩を震わせて感涙に咽いでいた。
そんな賑やかなダイニングの喧騒が一段落し、食後の極上ほうじ茶が振る舞われた後。
アルドは、防音・防諜の魔法結界が幾重にも張られたリビングの長テーブルの上座に座った。その周囲には、『出張解体アシスタント』のレイヴン、『特殊クリーニング部門責任者』のエルミナ、『総合防犯システム責任者』のシノン、そして『最高財務責任者(CFO)兼・広報担当』のアーキヴァルという、総合ライフサポート企業『黄昏の守護者』の役員たちが顔を揃えている。
「さて、みんな。隣国のお化け屋敷のリフォームは大成功だったね! お客様(国王様)も喜んでくれたみたいだし、最高のスタートが切れたよ。……それで、次なる『社会貢献』の案件は何か入っているかな?」
アルドがニコッと微笑みかけると、CFO兼広報担当のアーキヴァルが、優雅な所作で立ち上がり、分厚いバインダーを開いた。
「はい、社長。我が社の次なるCSR活動として、今回は足元の『アステリア王国王都』から、非常に緊急性の高い依頼を受注いたしました」
アーキヴァルは、手元の書類を指先で弾きながら、冷徹かつ完璧なプレゼンテーションを開始する。
「王都の地下には、建国以前から存在する広大な『旧地下水脈(古代魔導迷宮)』が広がっているのですが……実は最近、そこでタチの悪い『配管の詰まり』と『巨大ネズミ(※古代文明の殺戮ゴーレム)』が大量発生しておりまして。放置すれば地盤沈下を引き起こし、王都全体が崩落する危険性が浮上しています」
アーキヴァルの言葉の裏にある「真実」を、大公レオハルトと元・大賢者ゾルタンは顔面を蒼白にしながら補完していた。
(古代魔導迷宮の暴走だと……!? あそこは数千年前の失われた文明が遺した『自動防衛兵器の巣窟』。何らかの原因でメインシステムが狂い、地上を更地にするために殺戮ゴーレムの軍団が起動したというのか。本来なら王都を即座に放棄し、国家総動員で防衛戦を敷くべき絶望的な事態だぞ……!)
しかし、アーキヴァルは一切表情を変えず、アルド向けに完璧に翻訳された依頼書を読み上げる。
「王室からの要望は、この巨大な地下空間の『大規模な配管工事(魔力回路の修復)』と『ネズミ駆除(ゴーレム殲滅)』、そして『古いボイラー(暴走魔導コア)の修理』です。このまま放置すれば、王都のインフラが完全に麻痺してしまいます。我が社の社会貢献活動として、これほど迅速な対応が求められる案件はないかと」
「なるほど!」
アルドは、依頼書を見て真剣な表情でポンッと手を叩いた。
「地下の配管が詰まってネズミが湧いてるなんて、衛生的に最悪だね! おまけに水漏れで地盤沈下なんて起きたら、王都のみんなの家が傾いちゃうよ。古いボイラーも、ちゃんとメンテナンスしないと爆発しちゃって危ない。よーし、さっそく僕たちの『総合ライフサポート』の出番だ!」
アルドが立ち上がると、新たに役職を得たクランメンバーたちも、一斉に気合い(殺意)に満ちた表情で立ち上がった。
「社長。配管を塞ぐ巨大な金属ゴミ(殺戮ゴーレム)の解体と撤去は、この『出張解体アシスタント』にお任せを。装甲の継ぎ目から、一つ残らず綺麗にスクラップにしてご覧に入れましょう」
レイヴンが、神具の斧を肩に担ぎながら不敵に笑う。
「ええ。地下に溜まったガンコな汚水(※古代の猛毒魔力溜まり)は、『特殊クリーニング部門』の私が、特製の熱処理(※極大の超高温プラズマ)で一瞬にして蒸発・漂白して差し上げますわ」
エルミナが、美しく銀髪を揺らしながら自信満々に頷く。
「……作業中、ネズミ(※ゴーレムの残党)が地上へ逃げ出さないよう、『総合防犯システム責任者』として、マンホールや地下道の入り口に完璧なネズミ返し(※絶対封殺の重力結界)を張り巡らせておきます」
シノンが、音もなく短剣を弄びながら冷たく宣言する。
「うんうん、みんな本当に頼もしいな! 地下の作業は暗くて危ないから、チームワークが大事だからね!」
アルドは、メンバーたちの頼もしい言葉に満足げに頷き、自身の作業着(超重圧やマグマの高熱すら完全に弾く特製オーバーオール)に着替え、頭にはヘルメット(ライト付き)を被った。
「よーし! それじゃあ僕は、特製『事象接合のパイプレンチ』と『絶対密閉の神仙パテ』、それから『配管洗浄用のワイヤー』を持っていくよ! 王都のみんなが安心してお水を使えるように、地下のインフラをピカピカにリノベーションしてこよう!」
こうして、総合ライフサポート企業『黄昏の守護者』の社員一同は、工具箱を抱えて魔導軽トラに乗り込み、アステリア王国王都の地下深くに眠る『古代魔導迷宮』へと向けて出勤したのである。
***
その頃、アステリア王都の地下数百メートルに広がる『古代魔導迷宮』。
数千年の時を経て暴走状態に陥った巨大な防衛システムの中枢では、古代の『暴走魔導コア』が赤黒い光を点滅させながら、無数の『殺戮ゴーレム(機械巨兵)』たちを次々と生産・起動させ、狂気に満ちた機械音を響かせていた。
『警告。警告。地上ニ未確認ノ生体反応多数アリ。我ガ文明ノ存続ノタメ、地上ノ障害物(王都)ヲ全テ排除・更地ニセヨ。全防衛システム、リミッター解除。殲滅プロトコル、起動』
「ガシュンッ! ガシュンッ! ガシュンッ!」
迷宮の通路を埋め尽くすほどの、鋼鉄の装甲と超高熱のプラズマ刃を備えた数万の殺戮ゴーレムたちが、主の命令に呼応して不気味な駆動音を上げ、地上への侵攻を開始しようとしていた。
『サア、行ケ。我ガ無敵ノ機械兵団ヨ。地盤ヲ破壊シ、愚カナ現生人類ヲ塵ニ還セ。我ラ古代文明ノ力ヲ止メラレル者ナド、コノ世界ニハモハヤ存在シ――』
――キキィィィィッ!! バタンッ!
魔導コアが電子音の号令をかけようとしたその瞬間、迷宮の最深部へと続く頑丈な隔壁の前に、四つの車輪がついた奇妙な小型の鉄箱(魔導軽トラ)が急停車する音が響き渡った。
そして、絶対に破壊不可能と言われていた古代のミスリル合金の隔壁が「ガラッ」と無遠慮に開け放たれ(※実際には事象解体のレンチでネジを外された)、巨大なパイプレンチを肩に担いだ青年の明るい声が、機械的な静寂を完全に打ち破ったのである。
「ちわーっす! 総合ライフサポート企業『黄昏の守護者』です! 王室からご依頼いただいた配管修理とネズミ駆除に伺いましたー! ……うわぁ、こりゃひどい水漏れと、鉄クズ(ゴーレム)の山だね!」
アルドは、ヘルメットのライトで地下空間を照らしながら、プロの配管工としてのダメ出しを開始した。
『ナ、何者ダッ!? 我ガ絶対防衛圏ニ、現生人類ガ何ノ用ダ!』
魔導コアが驚愕の電子音を上げる中、アルドの後ろから、レイヴン、エルミナ、シノン、そしてアーキヴァルが、それぞれの「清掃用具(兵器)」を手にして、圧倒的な威圧感を放ちながら足を踏み入れたのである。
「さあ、社長。まずはこの鬱陶しい鉄ネズミ(殺戮ゴーレム)どもから、綺麗に『スクラップ』にして差し上げましょう」
レイヴンが神具の斧を構え、凶悪な笑みを浮かべる。
総合ライフサポート企業の次なる社会貢献(能動的な悪の粉砕)が、王都の地下深くで今まさに始まろうとしていた。
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