第106話:ただの害虫駆除と、死霊王の強制キャスト化(総合ライフサポート企業の初仕事・後編)
第106話:ただの害虫駆除と、死霊王の強制キャスト化(総合ライフサポート企業の初仕事・後編)
「な、なんだ貴様らは!? 我が死の領域を『ハウスクリーニング』だと!? 舐めるな生者どもッ! やれ、我が軍勢よ! 奴らの肉を喰らい、骨を砕け!」
死霊王の怒号と共に、古城の玉座の間を埋め尽くしていた数万の骸骨兵や腐肉の騎士たちが、一斉にアルドたちに向かって襲い掛かった。
「うわっ、すごい数のシロアリとゴキブリだ! これは本格的に駆除しないとダメだね!」
アルドは、迫り来る不死の軍勢を「長年の放置で異常繁殖したタチの悪い害虫」と完全に誤認し、首に巻いたタオルを締め直した。
「社長、ここは我々『社員』にお任せを。害虫が敷地外に逃げないよう、まずは私が防虫ネットを張ります」
シノンが音もなく飛び退き、手にした数枚の札(神仙の結界符)を城の四方に投げ放った。
――ピィィィィンッ!
瞬間、古城全体を覆うように、透明で絶対的な強度を誇る『神仙の防虫結界』が展開された。これで、アンデッドは一匹たりとも城の外へ逃げ出すことはできない。
「見事なネットですわ、シノンさん。では、私は城に染み付いた悪臭とカビ(死の瘴気)を、特殊クリーニングで漂白いたしますわ!」
エルミナが白銀の杖を天に掲げると、大宇宙の浄化の理を内包した『聖なる極大浄化炎』が、洗剤の泡のように城内を満たし始めた。
「ギャアアアアッ!?」
アンデッドたちは、その炎(泡)に触れた瞬間、肉体や呪いを完全に漂白され、ただの無害な白い灰へと還っていく。
「フンッ! シロアリの親玉のようなデカブツ(骨の魔獣)は、私が出張解体してやろう!」
レイヴンが神具の斧を大上段に構え、迫り来る巨大なアンデッド・ドラゴンに向かって跳躍する。
「チェストォォォッ!!」
放たれた一撃は、魔獣の強靭な骨格を「関節の継ぎ目」から完璧に見切り、まるで高級な枝肉をさばくかのように、スパーン!と綺麗なブロック状へと解体してしまった。
「な、何ィィィッ!? 我が無敵の不死の軍勢が、ただの『掃除』と『解体』の前に、一瞬で塵にされていくゥゥッ!?」
死霊王は、自らの数万の軍勢が、ものの数分で「綺麗なフローリングの床」と「無害な白い灰」に変わってしまった光景に、驚愕のあまりカタカタと顎の骨を鳴らした。
「よし、みんなのおかげで大体の害虫は片付いたね! あとは、あの一番デカくて臭い『カビの親玉(死霊王)』を拭き取るだけだ!」
アルドは、手作りの特製『事象浄化のフローリングワイパー』を取り出し、先端にフワフワのウェットシートを取り付けた。
――当然ながら、その素材は常軌を逸している。ワイパーの柄は世界樹の枝で作られ、ウェットシートは天界の雲海に大精霊の浄化水を染み込ませた、大宇宙のいかなる概念的汚染や呪いすらも一拭きで完全に絡め取る『究極のお掃除道具』である。
「おのれェェェッ! 舐めるな人間! 我が究極の死の呪い『絶望の滅びの波動』で、魂ごと腐り果てるがいい!」
死霊王が、玉座から飛び上がり、杖の先端から全てを死滅させるドス黒い瘴気の塊を放った。
「うわっ! 親玉がすごい勢いで真っ黒なホコリ(呪い)を巻き散らしてきた! でも、このワイパーの立体吸着シートの前には、どんなホコリも逃さないぞ!」
アルドがワイパーを両手で構え、迫り来る死の呪いごと、床を「キュッ、キュッ!」とリズミカルに拭き掃除し始めた。
――スゥゥゥゥッ……!
星の命すらも刈り取るはずの死霊王の呪いは、アルドの「床のガンコなホコリを綺麗に拭き取りたい」という圧倒的で暴力的なまでの意思の前に、物理的に「スポンッ!」と情けない音を立てて、まるでただの綿埃のように、一瞬にしてワイパーのシートに絡め取られてしまったのである。
「バ、バカなァァァッ!? 我が最強の呪いが、ただのモップ掛けに吸い取られただとォォォッ!?」
「よし、ホコリは綺麗に拭き取れたぞ! 最後に、この『絶対除菌の神仙消臭スプレー』で、カビの親玉をしっかり除菌してあげる!」
アルドが、巨大なスプレーボトルのトリガーを死霊王に向けて「プシューッ!」と気前よく吹きかけた。
スプレーから放たれた『神仙のミスト』を浴びた死霊王の禍々しい存在概念は、瞬く間に漂白・調律されていく。
『ア……ァァ……。我ノ、大陸ヲ死ニ沈メルハズノ瘴気ガ、マルデ都合ノイイ【空気ヲ清浄ニスル為ノマイナスイオン】ノヨウニ……!? イヤ、ミストヲ浴ビル度ニ、我ガ骸骨ノ体ガ、異常ナマデニ心地ヨイ【絶対的ナ清潔感ヲ放ツ、骨格標本ノキャスト】ニ変換サレテイクゥゥゥッ! 私ノ存在ガ、世界ヲ滅ボスノデハナク、コウシテ古いお城ニ永遠ノエンターテイメントヲ提供スル「極上ノ全自動・お化け屋敷ノ案内人」トシテ機能スルコトガ、コレホドマデニ満タサレルコトダッタトハ……!』
かつて世界を恐怖に陥れた死霊王の意思は、アルドの「ハウスクリーニングと除菌」によって完全に浄化され、書き換えられた。
万物を死滅させる禍々しいアンデッドは、気がつけば「ピカピカに磨き上げられた純白の骨格を持ち、訪れた観光客にユーモアたっぷりに城の歴史を解説する、超高性能な『永久・神仙お化けキャスト(見た目は蝶ネクタイをつけた陽気な骸骨)』」へと姿を変えていたのである。
「よしよし! 嫌なカビの臭いは完全に消えて、お城全体が爽やかなフローラルの香りになったぞ! おまけに、あのカビの親玉がピカピカになって、お城の案内人みたいになってくれた。最後にこの『事象修復の壁紙クロス』をボロボロの壁に貼って……完成だ!」
アルドが壁紙を貼ると、城の崩れかけていた内装は一瞬にして豪華絢爛な宮殿の輝きを取り戻した。
「みんな、お疲れ様! これで幽霊屋敷も、ピカピカの優良物件にリフォーム完了だね!」
アルドがワイパーを片付けて額の汗を拭うと、古城を覆っていたドス黒い雲は一瞬にして晴れ渡り、眼下の城は太陽の光を反射して美しく輝く『奇跡の神仙テーマパーク(ホーンテッド・キャッスル)』へと進化を遂げていた。
***
数日後。隣国ファルネーゼの王城。
国王は、報告書を見て震え上がっていた。
「ば、馬鹿な……。我が国の軍隊が手も足も出なかった死霊王の軍勢が、たった数時間で『完全浄化』され、あまつさえ死霊王本人が『陽気な観光ガイド』に転職して、城が一大テーマパークになっているだと……!?」
そこへ、冷徹な執事服に身を包んだアーキヴァルが、うやうやしく一礼して現れた。
「お初にお目にかかります、ファルネーゼ国王陛下。私、総合ライフサポート企業『黄昏の守護者』の最高財務責任者、アーキヴァルと申します。この度は、我が社の『CSR活動』をご利用いただき、誠にありがとうございます」
アーキヴァルは、分厚いバインダーから【完全なる清掃・リフォーム代金およびコンサルタント料の請求書】を取り出し、国王の目の前にドンッと突きつけた。
「我が社の社長(アルド様)の理念により、今回は社会貢献として基本料金はサービスさせていただいております。……が、死霊王の浄化、結界の構築、城の完全リフォーム、そして『観光名所としてのプロデュース料』は、正当なビジネスとして請求させていただきます。お支払いは、国家予算の三割で手を打ちましょう」
アーキヴァルの冷たい宣告(合法的な搾取)と共に、国王は完全に心をへし折られ、震える手で莫大な報酬の支払いにサインをするしかなかった。
***
日だまり郷の黄金の城塞。
「……終わりましたね。隣国を滅ぼすはずだった死霊王が、アルド様の腕によって見事なテーマパークのキャストに成り下がりました。そして、我が社は隣国から莫大な『清掃代とコンサルタント料』を合法的に徴収し、確固たる実績と利益を上げました」
CFOのアーキヴァルが、莫大な金貨の山と感謝状を確認しながら、手帳に『第一回CSR活動:大成功(莫大な黒字)』と記した。
「アルド殿がリフォームしたあの古城、今では大陸中から観光客が押し寄せる極上のエンターテイメント施設になっているそうだな。死霊王の世界征服計画など、完全に『お化け屋敷の町おこし』の手伝いにされたというわけだ」
レイヴンが、暖炉の前でシロ(星狼)にブラッシングをしてやるアルドを眺めながら、不敵に笑う。
「ええ。これこそが、我が『総合ライフサポート企業』の真の力。世界のあらゆる悪意(汚れ)を、社会貢献という名目で完全に粉砕し、利益へと変換する。……社長の掲げた理念は、まさに完璧な世界支配の形です」
アーキヴァルの眼鏡の奥で、全てを計算し尽くした冷徹な光が煌めいた。
最強の便利屋の「ただのハウスクリーニング」は、隣国滅亡の危機をただのカビ取りとして解決し、死霊王の野望を完全に終わらせただけでなく、世界に最高の観光名所を誕生させてしまったのである。
企業として生まれ変わったクラン『黄昏の守護者』は、これより正式に「大宇宙規模のライフサポート(能動的な悪の粉砕)」を展開し、いかなる邪悪も日常の業務として葬り去る、究極の平穏なる企業伝説を紡ぎ始めたのであった。
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