第105話:ただのハウスクリーニングと、アンデッドの巣窟の強制リフォーム(総合ライフサポート企業の初仕事・前編)
第105話:ただのハウスクリーニングと、アンデッドの巣窟の強制リフォーム(総合ライフサポート企業の初仕事・前編)
黄金の城塞『日だまり郷』の朝は、大宇宙の終焉を未然に防ぎ、さらには新たな「企業理念」を掲げたという壮大な偉業の余韻など微塵も感じさせない、圧倒的なまでの平穏と、魂を根底から歓喜させる極上の匂いと共に幕を開ける。
今日のアルドは、朝からキッチンの巨大な土鍋と特注の親子鍋に向かい、見事な手際で『特製・天界鶏の極上親子丼と、世界樹のキノコたっぷりお吸い物』を仕上げていた。
「よし! メインは、大精霊の加護を受けて育った天界鶏のプリプリのモモ肉を、幻獣の卵でトロットロに閉じた特製親子丼だ。出汁には幻獣昆布と天界鰹を贅沢に使って、甘辛い割り下が神仙米の奥まで染み込むようにしてあるよ。そして、森で採れた世界樹のキノコ(松茸のような芳醇な香りの神仙食材)をふんだんに使った、柚子の香るお吸い物! 三つ葉を散らして……完成だ!」
アルドがエプロン姿で、湯気と共に圧倒的な生命力と出汁の香りを放つ朝食セットをダイニングテーブルに運ぶと、神竜ポチとモフモフの星狼シロがテーブルの下でちぎれんばかりに尻尾を振って待機していた。リビングのソファでは、先日『特大モチモチクッション』へと強制リメイクされた元・大宇宙の邪神が、ポカポカと温かいヒーター機能を放ちながら、シロの下敷きになって完全に癒やしのインテリアとしての職務を全うしている。
この親子丼、一口食べれば天界鶏の極上のタンパク質と幻獣卵のアミノ酸が全身の魔力回路を限界突破させ、世界樹のキノコのお吸い物が致死の呪いや疲労を完全に浄化し、魂の底から尽きることのない活力を湧き上がらせる『究極の超覚醒・健康和食』である。
「うむ……! この卵のトロトロ具合と、鶏肉の弾力から溢れ出す極上の旨味! そしてお吸い物の圧倒的な包容力! 見るだけで我が魔界の闘争本能が、休日の朝に二度寝をむさぼる子供のようにフニャフニャに溶かされそうになるわい!」
元・魔界大帝サタナスが、お箸を震わせながら握りしめ、あまりの美味さにワナワナと肩を震わせて感涙に咽いでいた。
そんな賑やかなダイニングの喧騒が一段落し、食後の極上緑茶(大精霊の朝露ブレンド)が振る舞われた後。
アルドは、防音・防諜の魔法結界が幾重にも張られたリビングの長テーブルの上座に座った。その周囲には、『出張解体アシスタント』のレイヴン、『特殊クリーニング部門責任者』のエルミナ、『総合防犯システム責任者』のシノン、そして『最高財務責任者(CFO)兼・広報担当』のアーキヴァルという、総合ライフサポート企業『黄昏の守護者』の役員たちが顔を揃えている。
「さて、みんな。僕たちが『総合ライフサポート企業』として新しくスタートを切ってから、初めての企画会議だね」
アルドがニコッと微笑みかけると、CFO兼広報担当のアーキヴァルが、優雅な所作で立ち上がり、分厚いバインダーを開いた。
「はい、社長(アルド様)。我が社の記念すべき『グローバルな社会貢献(CSR活動)』の第一弾として、隣国ファルネーゼから、非常にやり甲斐のある依頼(極秘SOS)を受注いたしました」
アーキヴァルは、手元の書類を指先で弾きながら、冷徹かつ完璧なプレゼンテーションを開始する。
「隣国ファルネーゼの国境付近にある、長年放置されていた古いお城……通称『幽冥の古城』。実は最近、そこでタチの悪い『害虫や害獣(※数万のアンデッド軍団)』が大量発生しておりまして。近隣住民に酷い悪臭や騒音(※死の瘴気と怨嗟の声)の被害をもたらしているのです」
アーキヴァルの言葉の裏にある「真実」を、大公レオハルトと元・大賢者ゾルタンは冷や汗を流しながら補完していた。
(幽冥の古城といえば、数百年前に封印されたはずの『死霊王』の居城……! 奴が復活し、死者の軍勢を率いて隣国を滅ぼそうとしているというのか。本来なら大陸中の聖騎士団を動員しても足りない国家存亡の危機だぞ……!)
しかし、アーキヴァルは一切表情を変えず、アルド向けに完璧に翻訳された依頼書を読み上げる。
「依頼主(隣国の国王)からの要望は、この空き家の『大規模なハウスクリーニング』と『害虫駆除』、そして『建物のリフォーム』です。このまま放置すれば、カビとシロアリ(※瘴気と骸骨兵)が国中に広がってしまいます。我が社の社会貢献活動として、これほど相応しい案件はないかと」
「なるほど!」
アルドは、依頼書を見て真剣な表情でポンッと手を叩いた。
「古い空き家をそのままにしておくのは、景観も悪いし防犯上もよくないよね。おまけにカビやシロアリが近所の人に迷惑をかけてるなんて、放っておけないよ! さっそく僕たちの『総合ライフサポート』の出番だ!」
アルドが立ち上がると、新たに役職を得たクランメンバーたちも、一斉に気合いに満ちた表情で立ち上がった。
「社長。腐った建材(※巨大な骨の魔獣やアンデッドナイト)の解体と撤去は、この『出張解体アシスタント』である私にお任せください。一つ残らず綺麗に粉砕してみせましょう」
レイヴンが、神具の斧を肩に担ぎながら不敵に笑う。
「ええ。城に染み付いたガンコなカビや悪臭(※死の瘴気)は、『特殊クリーニング部門』の私が、特製の洗浄液(※極大の聖なる浄化炎)で塵一つ残さず漂白して差し上げますわ」
エルミナが、美しく銀髪を揺らしながら自信満々に頷く。
「……作業中、害虫(※アンデッドの逃亡者)が敷地外に逃げ出さないよう、『総合防犯システム責任者』として、城の周囲に完璧な防虫ネット(※絶対封殺の神仙結界)を張り巡らせておきます」
シノンが、音もなく短剣を弄びながら冷たく宣言する。
「うんうん、みんな頼もしいな! 適材適所ってやつだね!」
アルドは、メンバーたちの頼もしい(殺意に満ちた)言葉に満足げに頷き、自身の作業着(汚れや呪いを完全に弾く特製ツナギ)に着替えた。
「よーし! それじゃあ僕は、特製『事象浄化のフローリングワイパー』と『絶対除菌の神仙消臭スプレー』、それから『事象修復の壁紙クロス』を持っていくよ! 隣国の人たちが安心して暮らせるように、幽霊屋敷をピカピカの優良物件にリフォームしてこよう!」
こうして、総合ライフサポート企業『黄昏の守護者』の社員一同は、無限の積載量を誇る『魔導軽トラ』に乗り込み、意気揚々と隣国ファルネーゼの国境へと向けて出発したのである。
***
その頃、隣国ファルネーゼの国境にそびえ立つ『幽冥の古城』。
分厚い黒雲と死の瘴気に覆われたその城の玉座の間では、数百年ぶりに復活を遂げた死霊王が、自らの眼下に並ぶ数万のアンデッド軍団を見下ろし、狂気に満ちた高笑いを上げていた。
「クックック……! 素晴らしい。我が魔力によって、かつての戦死者たちが全て不死の軍勢として蘇った! 見よ、この圧倒的な死の軍勢を!」
死霊王は、骸骨の顔に青白い鬼火を揺らめかせながら、傲慢に笏を振り上げた。
「愚かな生者どもよ、我が封印を解いたことを後悔するがいい! このファルネーゼ王国を手始めに、大陸全土を死の瘴気で覆い尽くし、永遠の静寂が支配する『死者の帝国』を築き上げてくれるわ!」
「オオオォォォ……!」
玉座の間にひしめく骸骨兵や腐肉の騎士たちが、主の言葉に呼応して不気味な唸り声を上げる。
「さあ、行け! 我が愛しき死の眷属どもよ! 国境の砦を蹂躙し、生者の血肉を喰らい尽くせ! 我らアンデッド軍団の進撃を止められる者など、この世界にはもはや存在しな――」
――キキィィィィッ!! バタンッ!
死霊王が号令をかけようとしたその瞬間、古城の正門の前に、四つの車輪がついた奇妙な小型の鉄箱(魔導軽トラ)が急停車する音が響き渡った。
そして、城の重厚な扉が「ガラッ」と無遠慮に開け放たれ、バケツとフローリングワイパーを持った青年の明るい声が、死の静寂を完全に打ち破ったのである。
「ちわーっす! 総合ライフサポート企業『黄昏の守護者』です! ご依頼いただいたハウスクリーニングと害虫駆除に伺いましたー! ……うわぁ、こりゃひどいカビの臭いだね!」
アルドは、鼻をつまみながら、プロの清掃業者としてのダメ出しを開始した。
「な、何奴ッ!? 我が死の領域に、生者が何の用だ!」
死霊王が驚愕の声を上げる中、アルドの後ろから、レイヴン、エルミナ、シノン、そしてアーキヴァルが、それぞれの「清掃用具(武器)」を手にして、圧倒的な威圧感を放ちながら足を踏み入れたのである。
「さあ、社長。まずはこの鬱陶しいシロアリ(骸骨兵)どもから、綺麗に『解体』して差し上げましょう」
レイヴンが神具の斧を構え、凶悪な笑みを浮かべる。
総合ライフサポート企業の記念すべき初仕事(能動的な悪の粉砕)が、今まさに始まろうとしていた。
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