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辺境暮らしの便利屋冒険者、伝説のクランのリーダーに祭り上げられる 〜本人曰く「ただの日常」らしいです〜  作者: 盆ちゃん


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第102話:害虫駆除の専門家と、暗殺者シノンの強制入社(第三回・方針会議と影の清算)

第102話:害虫駆除の専門家と、暗殺者シノンの強制入社(第三回・方針会議と影の清算)

 黄金の城塞『日だまり郷』のリビングは、大宇宙の理すらも平伏す圧倒的な平穏に包まれていた。

 アルドが主催する『便利屋の今後の方針会議』は、レイヴンが「出張解体アシスタント」、エルミナが「特殊クリーニング部門責任者」に任命されるという、世界の真理を華麗にスルーした斜め上の決着を見せ、会議は中盤のティータイムへと差し掛かっていた。

「みんな、難しい話ばかりで頭が疲れちゃったよね。ここで少し休憩にしよう! 今日のおやつは『特製・幻獣果実のマカロンと、世界樹の琥珀紅茶』だよ」

 アルドがエプロン姿で、パステルカラーに輝く宝石のようなマカロンの山と、湯気を立てるティーポットをテーブルに運んでくる。

「よし! このマカロンは、大精霊の加護を受けた幻獣アーモンドの粉を限界まで細かく挽いて、サクッとした食感の後にフワッと溶けるように焼き上げたんだ。間に挟んであるのは、星屑イチゴと神仙レモンを煮詰めた特製ガナッシュ! 琥珀紅茶の芳醇な香りにもピッタリ合うはずだよ」

 アルドが優雅に紅茶を注ぎ分けると、その圧倒的な生命力と甘い香りに引き寄せられ、神竜ポチとモフモフの星狼シロがテーブルの下でちぎれんばかりに尻尾を振って待機していた。

 このマカロン、一口食べれば幻獣アーモンドの極上の栄養素が全身の魔力回路を限界突破させ、ガナッシュの圧倒的な浄化力が脳内の疲労物質や致死の精神呪縛すらも完全に消し去り、魂の底から尽きることのない幸福感を湧き上がらせる『究極の超回復・お茶菓子』である。

「うむ……! このマカロンを噛み砕いた瞬間に広がる宇宙の如き甘味と、琥珀紅茶の神聖なる渋みのハーモニー! 見るだけで我が魔界の闘争本能が、春のお茶会に招かれた乙女のようにフニャフニャに溶かされそうになるわい!」

 元・魔界大帝サタナスが、小さなマカロンを両手で震わせながら持ち、あまりの美味さにワナワナと肩を震わせて感涙に咽いでいた。

 極上のスイーツによってメンバーたちの緊張が(物理的かつ概念的に)強制的に解きほぐされた後、アルドは再び手作りの『便利屋・業務実績グラフ』を広げ、真剣な表情に戻った。

「さて、美味しいお茶で頭もスッキリしたところで、会議の続きを始めようか。レイヴン、エルミナの経歴と適性はバッチリ確認できた。……次は、シノンの番だね」

 アルドが視線を向けると、常に影のように静かに控えている黒装束の美少女、シノンは、音もなく立ち上がり、深々と頭を下げた。

「はっ……。私の経歴など、主の御前に晒すのもおぞましい、血塗られた影の歴史に過ぎません」

「そんなことないよ。シノンはうちの便利屋の大切な『害虫駆除&セキュリティ担当』じゃないか。彼女が来てから、村の畑を荒らすイノシシも、夜中に飛び回る迷惑な羽虫も、いっさい寄り付かなくなったんだからね」

 アルドはニコニコと笑いながら、シノンの働きを大絶賛した。

「そういえば、シノンが最初にうちに来た時のこと、覚えてる?」

 シノンは、その漆黒の瞳を伏せ、微かに肩を震わせた。

「……忘れるはずがありません。私が主の絶対的な御力の前に敗北し、その足元にひれ伏したのは、今から約半年前……。私が裏社会を牛耳る暗殺ギルド『黒き月』の最高傑作、通称『幻影の刃』として、主の命を奪うためにこの日だまり郷へと潜入した夜のことです」

 シノンが、かつての壮絶な暗殺行を語り始める。

 彼女はかつて、気配、音、魔力、さらには『存在の概念』すらも完全に消し去る究極の暗殺術【虚無の影歩み】を極めた、大陸最強の暗殺者であった。いかなる防壁もすり抜け、王族ですら彼女の刃から逃れることはできなかった。そして彼女は、不穏な動きを見せる「辺境の謎の存在アルド」を抹殺するべく、完璧なステルス状態でアルドの寝室へと侵入したのだ。

 しかし、その夜。

 アルドは寝室の窓際で、最近悩まされていた『夜な夜な飛び回る巨大な蚊(※実際は暗殺ギルドが放った偵察用の使い魔)』を退治するために、手作りの『ハエ取り紙』を設置していた。

『もう、最近虫が多くて嫌になっちゃうな。これなら、どんなにすばしっこい虫でも一発でくっつくはずだぞ』

 アルドが設置したそれは、ただの粘着シートではなかった。大宇宙のいかなる次元の歪みや、概念的な隠蔽状態であろうとも、物理的に『絶対に捕獲して逃がさない』という事象拘束の魔導が編み込まれた『究極の神仙トラップ』であった。

 シノンが【虚無の影歩み】で窓から侵入し、アルドの背後に音もなく忍び寄ろうとした瞬間。

 彼女の絶対的なステルス状態は、アルドの張った『ハエ取り紙(の糸)』に触れた途端に強制的に解除され、そのまま「ベチャッ!」という情けない音と共に、天井から吊るされた粘着シートに全身を絡め取られ、ミノムシのように宙吊りにされてしまったのである。

 自らの究極の暗殺術が、ただの『虫除けの罠』にいとも容易く破られ、魔力すらも完全に封じられたシノンは、己の技術が児戯であったことを悟り、粘着シートに張り付いたまま絶望の涙を流した。

『ど、どうか私を殺してください……! この究極の拘束陣、もはや私の命など、主の御手の中にあるも同然……!』

 しかしアルドは、宙吊りになった黒装束の少女を見て、驚いたように笑って答えたのだ。

『うわっ、ごめんごめん! 変なところにネズミ捕り(ハエ取り紙)を仕掛けたせいで、同業者さんを巻き込んじゃったみたいだね。怪我はない? 虫駆除を手伝ってくれるなら、うちでご飯食べていく?』

「……あの時の主の『事象を捕縛する究極のトラップ技術』と、底知れぬ慈悲を目の当たりにしたからこそ、私は過去の血塗られた刃を捨て、主の『番犬セキュリティ』として生涯を捧げる覚悟を決めたのです」

 シノンは、深く、絶対の忠誠を誓うように床に膝をついた。

「あはは、だからみんな大袈裟だってば」

 アルドは照れくさそうに紅茶をすすった。

「あの時のシノン、黒い全身タイツみたいな服(暗殺用の隠密装束)を着て、窓から入ってきたでしょ? 夜中にコソコソしてるから、てっきり『他の村から出稼ぎに来た、すごく熱心な害虫駆除の業者さん』かと思ったんだよ。暗い中で作業するから、僕の仕掛けたネズミ捕りにうっかり引っかかっちゃったんだよね」

 アルドの驚異的な「日常フィルター」は、かつての大陸最強の暗殺者による命がけの襲撃を、「夜間作業中にドジを踏んで自爆した、ライバルの駆除業者を助けてあげた」程度にしか記憶していなかった。

「だがな、アルドよ。シノンの気配を断つ技術と、罠を仕掛ける手際の良さは、ただの害虫駆除の域を遥かに超えているぞ」

 大公レオハルトが、ニヤリと笑いながらアルドに問いかける。

「最近の『道路舗装(帝国陸上戦艦の撃退)』の際にも、シノンは裏で帝国の斥候部隊を誰一人逃さず、無音のまま完全に無力化(捕縛)するという離れ業をやってのけた。アルドも、彼女の『真の恐ろしさ』に薄々気づいているのではないか?」

 その言葉に、再びリビングの空気がピンと張り詰めた。

 ついに、アルドがシノンの真の実力(最強の暗殺者としての正体)を暴き、彼女をクランの『処刑人』として正式に遇するのか。アーキヴァルは手帳のページをめくり、シノンは緊張で呼吸を止めた。

「うん……実は僕も、シノンの身のこなし、ずっとすごいなって思ってたんだ」

 アルドは、真っ直ぐな瞳でシノンを見つめた。

「シノンって、歩く時に全く足音がしないし、僕が気づかないうちに部屋の隅に防虫剤(※実際は対魔族用の致死の毒霧トラップ)を完璧に配置してくれてるよね。おまけに、たまにナイフを手入れしてる時の目が、すごく真剣だ。……もしかして、君」

 ゴクリ、とシノンの喉が鳴る。

(つ、ついに、私が裏社会の頂点に君臨していた死神であることを見抜かれたのですね……! ならば、全てを打ち明け、真の懐刀として……!)

「もしかして、君……『王都の超一流からくり屋敷で働いてた、伝説の罠職人』だったりする?」

「…………は?」

 シノンは、感情の起伏に乏しい美貌を、かつてないほど呆然と歪ませた。

「だって、どんなすばしっこいネズミも、シノンが罠を仕掛けると絶対に逃げられないじゃない! しかも、刃物の扱いがプロ級だ。きっと、貴族のお屋敷をネズミや泥棒から守るための、凄腕のセキュリティ職人さんだったんだよね。ブラックな職場から逃げ出して辺境に来ちゃったけど、罠を張る技術は超一流だ。だから最近、仕事の合間に『変な不審者(暗殺部隊)』が出た時も、一瞬で縛り上げてくれてたんでしょ?」

 アルドは、ウンウンと頷きながら満面の笑みを浮かべた。

「だから、今後の方針その三! シノンにはただの害虫駆除だけじゃなくて、『便利屋の総合セキュリティ&防犯システムの責任者』として活躍してもらうことにするよ! これからは、うちの事務所(城塞)の警備プランも全部任せるからね!」

「あ……はい。総合セキュリティと不審者(国家の敵)の排除、命に代えても完遂いたします……」

 シノンは、己の壮絶な暗殺術と数多の命を奪ってきた歴史が、全て『からくり屋敷のネズミ捕りスキル』という日常の枠組みの中に完璧に押し込まれ、平和的に無害化されたことに絶望と謎の救済を覚えながら、深く、深く頭を下げるしかなかった。

「素晴らしい防犯プランです、アルド様。シノン殿の『セキュリティ技術』は、我々が裏で処理する対象を確実に逃がさないために必要不可欠ですからね」

 アーキヴァルは、ピクピクと痙攣する頬を引きつらせながら、手帳に『方針決定:シノン=総合防犯システム責任者(暗殺・捕縛部門)』と優雅な筆記体で記した。

 こうして、方針会議の第三の議題もまた、アルドの「完璧なまでの勘違いと日常フィルター」によって、世界の真理を華麗にすり抜け、次なるアーキヴァルの議題へと進んでいくのであった。

ここまでお読みいただきありがとうございます!少しでも面白いと感じたら、画面下から【ブックマーク】と【☆☆☆☆☆】の評価をいただけると、執筆の大きなモチベーションになります!

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