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辺境暮らしの便利屋冒険者、伝説のクランのリーダーに祭り上げられる 〜本人曰く「ただの日常」らしいです〜  作者: 盆ちゃん


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第100話:便利屋の事業拡大と、薪割り剣士レイヴンの強制入社(第一回・方針会議と過去の清算)

第100話:便利屋の事業拡大と、薪割り剣士レイヴンの強制入社(第一回・方針会議と過去の清算)

 黄金の城塞『日だまり郷』の朝は、大宇宙の終焉を未然に防いだという壮大な偉業の余韻など微塵も感じさせない、圧倒的なまでの平穏と、魂を根底から歓喜させる極上の匂いと共に幕を開ける。

 今日のアルドは、朝からキッチンの巨大な土鍋とフライパンに向かい、見事な手際で『特製・天界サーモンの極厚ハーブ焼きと、世界樹の根菜たっぷり豚汁、そして黄金の炊き立て神仙米』を仕上げていた。

「よし! メインは、大精霊の清流で育った天界サーモンを、庭で採れた新鮮な幻獣ハーブと岩塩で皮までパリッと焼き上げた特大の切り身だ。そして、昨日仕込んでおいた世界樹の根菜と幻獣の豚肉を使った、出汁の効いた熱々の豚汁! 最後に、ツヤツヤに輝く炊き立ての神仙米をお茶碗に山盛りにして……完成だ!」

 アルドがエプロン姿で、湯気と共に圧倒的な生命力と香ばしい脂の匂いを放つ朝食セットをダイニングテーブルに運ぶと、神竜ポチとモフモフの星狼シロがテーブルの下でちぎれんばかりに尻尾を振って待機していた。さらに、リビングのソファでは、先日『特大モチモチクッション』へと強制リメイクされた元・大宇宙の邪神ゼロ・アポカリプスが、ポカポカと温かいヒーター機能を放ちながら、シロの下敷きになって完全に沈黙(癒やしの提供)を全うしていた。

 この和定食、一口食べれば天界サーモンの極上のDHAが全身の魔力回路と脳細胞を限界突破させ、豚汁の圧倒的な滋養強壮力が致死の呪いや疲労を完全に浄化し、魂の底から尽きることのない活力を湧き上がらせる『究極の超覚醒・健康食』である。

「うむ……! この皮のパリッとした食感から溢れ出すサーモンの濃厚な脂と、豚汁の圧倒的な包容力! 見るだけで我が魔界の闘争本能が、縁側で将棋を指す老人のようにフニャフニャに溶かされそうになるわい!」

 元・魔界大帝サタナスが、お箸を震わせながら握りしめ、あまりの美味さにワナワナと肩を震わせて感涙に咽いでいた。

 そんな賑やかなダイニングの喧騒が一段落し、食後の極上ハーブティーが振る舞われた後。

 アルドは、ふと真剣な表情になり、防音・防諜の魔法結界が幾重にも張られたリビングの長テーブルの上座に座った。その周囲には、レイヴン、エルミナ、シノン、そして記録係のアーキヴァルという、クラン『黄昏の守護者』の主要メンバーたちが顔を揃えている。

「みんな、今日は美味しいご飯の後に少し時間を取ってもらってごめんね。実は、最近うちの『便利屋』の仕事が、なんだかすごいことになってきてるじゃない?」

 アルドは、どこから取り出したのか、手書きの可愛らしい『便利屋・業務実績グラフ』をテーブルに広げた。

「ほら、最初は村の屋根の修理とか、畑の害虫駆除だったのに、最近は『王都の天窓拭き』とか『お城の煙突掃除』、果ては『空のテントのほころび修理(※次元の亀裂封鎖と邪神の解体)』まで依頼が来るようになった。おかげで大公様からのお礼もすごい額になってるし、信頼と実績が得られたのは嬉しいんだけど……ちょっと事業が拡大しすぎてる気がするんだ」

 アルドの言葉に、メンバーたちは息を呑んだ。

(つ、ついに主が、自分たちの行ってきた『世界救済』の異常性に気づかれたのか……!?)

 レイヴンの額に冷たい汗が伝う。

「だから今日は、みんなで『便利屋の今後の方針会議』をしたいと思うんだ。そのために、まずは初心に帰って、みんながどうして僕の便利屋に入社(加入)してくれたのか、一人ずつ振り返ってみようと思ってさ。……まずは、一番最初の従業員であるレイヴンからだね」

 アルドがニコッと微笑みかけると、レイヴンは居住まいを正し、緊張の面持ちで頷いた。

「ハッ。私が主の元へと参じたのは、今から約一年前……。私が己の剣の限界に絶望し、真の『最強』を求めて辺境の森を彷徨っていた時のことです」

 レイヴンが、厳かに語り始める。

 彼にとって、それは一生忘れられない衝撃の出会いであった。かつて『王国最強の剣鬼』と呼ばれ、近衛騎士団長すらも一太刀で沈めた若き天才剣士レイヴン。彼は自らの剣の道に行き詰まり、伝説の魔獣『暴風の神狼テンペスト・フェンリル』を単身で討伐するという無謀な修行に出た。

 しかし、神狼の圧倒的な力の前になす術なく敗れ、死を覚悟したその時。

 偶然、冬支度のための『薪拾い』に来ていたアルドが現れたのだ。

『あ、ちょうどいいところに手頃な丸太が。ちょっとそこのお兄さん、危ないから下がっててね』

 アルドは、ただの手斧(実際には事象を両断する神仙の斧)を軽く振り下ろした。

 その一撃は、魔獣の放つ絶対の防壁(竜巻の結界)ごと、伝説の神狼を文字通り『綺麗な薪のサイズ』へとスパーン!と完璧に両断してしまったのである。

 それを見たレイヴンは、己の剣が児戯であったことを悟り、その場で地面に額を擦りつけて懇願したのだ。

『ど、どうか私を弟子にしてください! その神の如き一太刀の極意、我が魂に刻み込みとうございます!』

 そしてアルドは、少し困ったように笑って答えた。

『弟子って言われても……僕、ただの便利屋だからね。でも、薪割りならたくさんあるから、手伝ってくれるならご飯くらいはご馳走するよ?』

「……あの時の主の『事象を両断する神仙の薪割り』を目の当たりにしたからこそ、私は過去のちっぽけな栄光を捨て、主の『薪割り係』として生涯を捧げる覚悟を決めたのです」

 レイヴンは、深く頭を下げた。

「あはは、そんな大袈裟な」

 アルドは照れくさそうに頭を掻いた。

「あの時のレイヴン、ボロボロの服で森の中で行き倒れかけてたからさ。ただの『木こり志望の家出青年』かと思ってたんだよ。でも、真面目に薪割りをしてくれるし、体つきも立派になったよね」

 アルドの驚異的な「日常フィルター」は、かつての王国最強の剣士との出会いを、「森で迷子になっていた体力自慢のフリーターを、バイトとして雇ってあげた」程度にしか記憶していなかった。

「だがな、アルドよ。レイヴンは今や、この城塞の防衛を一手に担う『黄昏の守護者』の要。彼ほどの武の才を持つ者が、ただの薪割りで終わるはずがないのだ」

 大公レオハルトが、わざとらしく、しかし真剣な口調でアルドに問いかける。

「最近の依頼でも、レイヴンは裏で相当な『護衛(敵の殲滅)』をこなしている。アルドも、彼の『真の姿』に薄々気づいているのではないか?」

 その言葉に、リビングの空気がピンと張り詰めた。

 ついに、アルドが『便利屋』という虚構のヴェールを剥ぎ取り、自分たちが世界を裏で操る伝説のクランであることを自覚するのか。アーキヴァルは手帳を構え、シノンは息を止めた。

「うん……実は僕も、最近少し気になってたんだ」

 アルドは、真っ直ぐな瞳でレイヴンを見つめた。

「レイヴンって、薪を割る時のフォームがすごく綺麗だし、重い荷物も平気で運ぶ。それに、たまに裏庭で木の枝を振って素振りみたいなことしてるよね。……もしかして、君」

 ゴクリ、とレイヴンの喉が鳴る。

(ついに、私が元・王国最強の近衛剣士であったことを見抜かれたか……! ならば、全てを打ち明け、真の主従として……!)

「もしかして、君……『元・有名なお肉屋さんの解体職人』だったりする?」

「…………へ?」

 レイヴンは、間の抜けた声を出した。

「だって、薪を割る時も『骨の関節を外すような正確さ』があるし、この前、僕が釣ってきた幻獣マグロをさばく時、すごく手際が良かったじゃない! きっと、王都の高級レストランにお肉を卸す、凄腕の職人さんだったんだよね。家出して辺境に来ちゃったけど、包丁さばきは体に染み付いてるんだ。だから最近、仕事の合間に『害虫(暗殺者)』が出た時も、お肉をさばくみたいに素早く追い払ってくれてたんでしょ?」

 アルドは、ポンッと手を叩いて満面の笑みを浮かべた。

「だから、今後の方針その一! レイヴンには薪割りだけじゃなくて、『便利屋の出張解体・調理アシスタント』としても活躍してもらうことにするよ! これからはもっとお給料も弾むからね!」

「あ……はい。お肉の解体、誠心誠意やらせていただきます……」

 レイヴンは、己の壮絶な過去と剣神の如き武勇が、全て『肉屋の解体スキル』という日常の枠組みの中に完璧に押し込まれたことに絶望と謎の安堵を覚えながら、深く、深く頭を下げるしかなかった。

「素晴らしいご慧眼です、アルド様。レイヴン殿の『解体スキル』は、我々クラン……いえ、便利屋にとって必要不可欠な戦力ですからね」

 アーキヴァルは、ピクピクと痙攣する頬を引きつらせながら、手帳に『方針決定:レイヴン=出張解体アシスタント(敵対組織の物理的解体を含む)』と記した。

 こうして、方針会議の第一の議題は、アルドの「完璧なまでの勘違いと日常フィルター」によって、世界の真理に触れることなく(見事にすれ違ったまま)円満に解決し、次なる議題へと進んでいくのであった。

ここまでお読みいただきありがとうございます!少しでも面白いと感じたら、画面下から【ブックマーク】と【☆☆☆☆☆】の評価をいただけると、執筆の大きなモチベーションになります!

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