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均された世界の優等生  作者: ニィギンヤ


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管理下の例外

 移動は、あっけなかった。



 車。



 窓は見えない。



 音も、ほとんどない。



 時間の感覚だけが、曖昧になる。



 神崎は何も言わない。



 こっちも、何も言わない。



 無駄だから。



 やがて。



 止まる。



「降りろ」



 短い指示。



 従う。



 扉の向こう。



 白い。



 壁も、床も、天井も。



 全部。



 無駄がない。



 人も少ない。



 でも。



 “いるやつ”は、全員同じ目をしている。



 観測する側の目。



「ここが管理区画だ」



 あの男が言う。



「お前たちはここで管理される」



 神崎が小さく笑う。



「言い方もうちょいなかったのか」



「事実だ」



 取り繕わない。



 それでいい。



 分かりやすい。



 歩く。



 奥へ。



 扉が並んでいる。



 番号だけが振られている。



 名前はない。



 必要ないから。



「ここだ」



 止まる。



 開く。



 中。



 広くはない。



 でも、狭くもない。



 最低限。



 生活できるだけの空間。



「しばらくはここで待機しろ」



「しばらくってどれくらいだ」



 神崎が聞く。



「未定だ」



 即答。



 信用はできない。



 でも。



 どうでもいい。



 今は。



「観測は常時行われる」



 視線が、天井に向く。



 カメラ。



 隠していない。



「行動は記録される」



「逃げたら?」



「排除」



 変わらない。



 当然だ。



 男は、それだけ言って出ていく。



 扉が閉まる。



 音が、少し重い。



 鍵。



 物理じゃない。



 でも。



 開けられない。



「……はあ」



 神崎がベッドに座る。



「マジで来たな、ここまで」



「そうだな」



 短く返す。



 でも。



 視線は、止まらない。



 見る。



 全部。



 配置。



 死角。



 音。



 気配。



 そして。



 分岐。



 ——まだ、見える。



 さっきよりは少ない。



 でも。



 完全じゃない。



「なあ」



 神崎が言う。



「ここ、どう思う」



「穴がある」



 即答。



「だろうな」



 笑う。



 同じ認識。



「じゃあ、どうする」



 聞く。



 でも。



 その時。



 音がした。



 隣。



 壁の向こう。



 何かが落ちる音。



 小さい。



 でも。



 確かに。



 視線が合う。



 神崎も気づいている。



「……行くか」



「行く」



 迷いはない。



 壁に近づく。



 叩く。



 返事はない。



 でも。



 気配がある。



 確実に。



「……誰かいるな」



 神崎が言う。



「いる」



 断言する。



 その時。



 壁の向こうから。



 小さな声。



「……だれ」



 かすれている。



 弱い。



 でも。



 聞き覚えがある。



「高坂か」



 一瞬。



 静寂。



 それから。



「……なんで」



 震えた声。



 確定。



 生きている。



「無事か」



 聞く。



「……わかんない」



 正直な答え。



 呼吸が荒い。



 状態は良くない。



「怪我は」



「ない……たぶん」



 曖昧。



 でも。



 動けてはいる。



 なら。



 問題ない。



「ここ、どこか分かるか」



「……白い部屋」



 同じだ。



 区画が分かれているだけ。



「何された」



 神崎が割り込む。



 高坂が少し黙る。



 それから。



「見られてる」



 小さく言う。



「ずっと」



 当然だ。



 でも。



 それだけじゃない。



「それだけか」



 聞く。



 少しの間。



 そして。



「……試されてる」



 その一言で。



 構造が見える。



 観測。



 記録。



 評価。



 そして。



 選別。



「……なるほど」



 小さく呟く。



 神崎がこっちを見る。



「何が分かった」



「ここは飼う場所じゃない」



 視線を上げる。



 カメラを見る。



「選ぶ場所だ」



「何を」



「使うか、消すか」



 沈黙。



 神崎が息を吐く。



「やっぱ最悪だな」



「同意する」



 その時。



 天井のスピーカーが、鳴る。



「被検体A、移動」



 無機質な声。



 どこかで。



 扉が開く音。



 そして。



 閉まる音。



 高坂の呼吸が、止まる。



「……今の」



「隣じゃない」



 即答する。



 でも。



 時間の問題だ。



 分岐が、見える。



 次。



 その次。



 順番。



 並んでいる。



 そして。



 気づく。



 その順番。



 ——自分たちが、最後だ。



「……遅いな」



 小さく呟く。



「何が」



 神崎が聞く。



「まだ準備段階だ」



 視線を細める。



「本番は、これから来る」



 その瞬間。



 分岐が、大きく揺れた。



 さっきまで見えていた流れが。



 崩れる。



 書き換えられる。



「……来たか」



 低く言う。



「何が」



 神崎が聞く。



 答える前に。



 スピーカーが鳴る。



「被検体C、準備」



 沈黙。



 理解する。



 自分だ。



 高坂の声が震える。



「……やめた方がいい」



 神崎が笑う。



「それ言うの遅いだろ」



 でも。



 目は笑ってない。



 こっちを見る。



「どうする」



 また、同じ問い。



 でも。



 今回は違う。



 分岐はある。



 でも。



 “普通の最適解”はない。



 だから。



 選ぶ。



 “壊す側”の選択。



「……乗る」



 小さく言う。



「その代わり」



 カメラを見る。



「全部、見る」



 沈黙。



 数秒。



 そして。



 スピーカーが、もう一度鳴る。



「許可」



 短い。



 でも。



 十分。



 神崎が笑う。



「はは、やっぱお前イカれてるな」



「そうかもな」



 否定しない。



 扉が、開く。



 白い廊下。



 その先。



 “外側”に繋がる場所。



 歩き出す。



 もう。



 戻るつもりはない。


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