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均された世界の優等生  作者: ニィギンヤ


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8/8

均される側

白い廊下。



 音がない。



 足音だけが、やけに響く。



 神崎は、何も言わない。



 後ろにいる。



 ついてきている。



 それだけで、十分だった。



 前。



 開けた空間。



 広い。



 天井が高い。



 中央に、椅子が一つ。



 その周りに。



 “見る側”がいる。



 数人。



 全員、同じ顔。



 同じ目。



 無駄がない。



「被検体C、着席」



 声。



 従う。



 座る。



 抵抗する理由はない。



 今は。



「観測開始」



 光が、少し強くなる。



 視界が白くなる。



 でも。



 見える。



 分岐が。



 戻っている。



 ここでは。



 見える。



 全部。



 過去も。



 今も。



 少し先も。



 全部。



「……そういうことか」



 小さく呟く。



「何が分かった」



 正面の男が聞く。



 あの男じゃない。



 でも。



 同じ側。



「ここは“外”じゃない」



 視線を上げる。



「“外に見せてるだけの中”だ」



 沈黙。



 数秒。



 そして。



「続けろ」



 否定しない。



 それが答え。



「分岐が見えない場所があった」



「うん」



「でもここでは見える」



「うん」



「つまり」



 少しだけ、笑う。



「“見せていい範囲”を変えてるだけだ」



 空気が、少しだけ動く。



 反応。



 正解。



「お前たちは」



 ゆっくり言う。



「世界を均してるんじゃない」



 視線を一人一人に向ける。



「“均されてるように見せてる”」



 沈黙。



 誰も否定しない。



 それで十分。



「天才が消えるんじゃない」



 続ける。



「“消えたように見せてる”」



 神崎が、後ろで小さく息を吐く。



 理解した。



 全部。



「で」



 男が言う。



「それが分かって、どうする」



 単純な問い。



 でも。



 答えは、もう決まっている。



「何もしない」



 静かに言う。



 神崎が顔を上げる。



 でも。



 何も言わない。



「ほう」



 男が、わずかに興味を示す。



「理由は」



「無理だから」



 即答。



 感情はない。



 事実だけ。



「この構造は壊せない」



 分岐を見ている。



 全部。



 壊そうとした未来。



 全部。



 同じ結末。



 排除。



 失敗。



 消去。



 繰り返し。



 例外はない。



「……なるほど」



 男が小さく頷く。



「理解しているな」



「してる」



 短く返す。



 それだけでいい。



 その時。



 分岐が、一つだけ揺れる。



 微かに。



 ほとんど見えない。



 でも。



 確かにある。



 他と違う。



 完全じゃない。



 でも。



 ゼロじゃない。



「……一つだけあるな」



 小さく呟く。



 男の視線が変わる。



「何だ」



 答える。



 迷いなく。



「“中に入る”」



 沈黙。



 数秒。



 それから。



「どういう意味だ」



「そのまま」



 視線を合わせる。



「外から壊せないなら」



 一拍。



「内側になる」



 静かな声。



 でも。



 確実に。



 届く。



 空気が変わる。



 全員の視線が、集まる。



 評価。



 計算。



 選別。



 全部。



 その中で。



 待つ。



 結果を。



「……いいだろう」



 男が言う。



「条件付きで、採用する」



 決まった。



 それでいい。



 それが。



 唯一の分岐。



「ただし」



 男が続ける。



「お前はもう、“外”には戻れない」



「知ってる」



 即答。



 問題ない。



 最初から。



 そのつもりだ。



「記録を開始する」



 声。



 光が、少し強くなる。



 視界が白くなる。



 でも。



 最後に。



 一つだけ。



 見る。



 神崎。



 目が合う。



 何も言わない。



 でも。



 分かる。



 こいつは。



 ついてくる。



 理由なんてない。



 でも。



 それでいい。



 その瞬間。



 分岐が、完全に消えた。



 何も見えない。



 未来が、ない。



 でも。



 不思議と。



 不安はなかった。



 初めて。



 “選んだ”から。



 全部、自分で。



「——観測開始」



 その声で。



 全てが、白に塗りつぶされる。



 そして。



 何も分からなくなる。



 ただ一つ。



 分かることがある。



 自分はもう。



 “均される側”じゃない。



 “均す側”に入った。



 それだけ。



 それだけで。



 十分だった。


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