切り捨てる順番
足音が、止まっている。
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廊下の奥。
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“そいつ”は、動かない。
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でも。
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逃げる気もない。
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隠す気もない。
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ただ、そこにいる。
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高坂の呼吸が浅い。
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神崎は、動かない。
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視線だけが、揺れている。
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その全部を見ながら。
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分岐が、並ぶ。
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逃走。
対話。
無視。
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どれもある。
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でも。
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どれも遅い。
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結論は、一つ。
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「——遅かったな」
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小さく呟く。
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「え?」
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高坂が反応する。
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でも。
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もう、説明してる時間はない。
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「来る」
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その一言で。
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“そいつ”が動いた。
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足音が、近づく。
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ゆっくりと。
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一定の速度で。
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迷いなく。
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こちらに。
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止まる。
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三人の前で。
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「確認」
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低い声。
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感情がない。
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「対象、三名」
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空気が凍る。
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神崎が、一歩下がる。
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高坂は、動けない。
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でも。
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思考は止まらない。
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分岐が、走る。
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全部見る。
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全部試す。
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全部捨てる。
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残るのは。
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“これだけ”。
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「——高坂」
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名前を呼ぶ。
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「え?」
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顔を向ける。
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状況を理解していない目。
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でも。
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時間はない。
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「三秒後、走れ」
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「……は?」
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「いいから」
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短く言う。
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神崎がこちらを見る。
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何かを言おうとして。
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やめる。
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理解している。
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全部じゃない。
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でも。
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十分。
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「対象、優先順位更新」
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“そいつ”が、こちらを見る。
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目が合う。
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冷たい。
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人間じゃないみたいに。
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でも。
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違う。
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“人間すぎる”。
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無駄がない。
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完全に。
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役割だけで動いている。
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「——今」
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呟く。
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高坂が、一瞬遅れて動く。
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走る。
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廊下の奥へ。
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「対象、逃走確認」
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視線が動く。
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追う。
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当然だ。
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優先順位。
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低い方を切る。
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高坂は。
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“切れる”。
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だから。
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走らせた。
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「対象、二名に更新」
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残ったのは。
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自分と、神崎。
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神崎が、こちらを見る。
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「お前……」
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言葉が出ない。
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理解したから。
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「最初から、決めてたのか」
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「いや」
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首を振る。
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「今決めた」
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それが最適だった。
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それだけ。
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神崎は、数秒黙る。
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それから。
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「最低だな」
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小さく言う。
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「そうかもな」
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否定しない。
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必要ない。
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「でも」
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神崎の目が、変わる。
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「正解だ」
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短く言う。
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その瞬間。
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“そいつ”が動く。
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今度は。
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こちらへ。
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「対象、確保開始」
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速い。
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人間の動きじゃない。
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でも。
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見える。
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全部。
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軌道。
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速度。
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結果。
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分岐。
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選ぶ。
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最短で。
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最小で。
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“生き残る”ルート。
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「——右」
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言う。
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神崎が動く。
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迷いなく。
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信じているわけじゃない。
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でも。
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分かっている。
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これが、一番マシだと。
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横にずれる。
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その瞬間。
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“そいつ”の手が、空を切る。
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ズレる。
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ほんの数センチ。
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でも。
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致命的。
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「……?」
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初めて。
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“そいつ”が、止まる。
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違和感。
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予測のズレ。
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その一瞬で。
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距離を取る。
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走る。
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階段へ。
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「対象、再計算」
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後ろから声。
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追ってくる。
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当然だ。
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でも。
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遅い。
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分岐がある限り。
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追いつかれない。
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階段を降りる。
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角を曲がる。
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人の少ないルート。
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全部、見えている。
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「……はは」
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神崎が笑う。
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走りながら。
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「マジで全部見えてんだな」
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「まあな」
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短く返す。
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余裕はない。
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でも。
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詰んではいない。
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まだ。
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外に出る。
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校門。
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人が多い。
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混ざる。
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紛れる。
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それが最適。
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そのはずだった。
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でも。
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そこで。
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止まる。
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分岐が。
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消えた。
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「……は?」
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初めて。
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言葉が漏れる。
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神崎が振り返る。
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「どうした」
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「……おかしい」
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見えない。
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先が。
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何も。
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分岐が、ない。
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初めての感覚。
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空白。
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何もない未来。
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その意味は。
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一つしかない。
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「——上書きされてる」
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呟く。
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その瞬間。
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背後で。
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声がした。
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「正解」
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振り返る。
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そこに。
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“別のやつ”が立っている。
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さっきのやつとは違う。
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でも。
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同じ。
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無駄がない。
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そして。
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分かる。
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こいつは。
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——“見ている側”だ。




